Force Detonater   作:世嗣

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空を見上げて

 

 今でも昨日のように思い出せる。

 

 君と俺が出会った日のことを。

 

 

 

「新人が配属されてくるらしいぞ」

 

「新人」

 

「まあでもそういう名目の武装隊の叩き上げだそうだ」

 

「叩き上げ」

 

「しばらくはお前とコンビを組むことになるとのことだ。ふん、足を引っ張らないと良いがな」

 

 となりの気難しい顔をした青年がふん、と鼻を鳴らした。

 

「その新人に何かあるのか、レジアス」

 

「何もない。ただ貴様と組むに値する者かわかるまで認められんだけだ」

 

「そうか」

 

 しばらくして隣の青年──レジアスと別れて訓練場に向かうと、そこには一人の女性が魔導用の杖を持って待ち構えていた。

 

「お、きたきた。ほんとに朝イチから訓練してるんだな」

 

 女性が白いバリアジャケットから陸の茶色の制服へと姿を戻すと、軽い敬礼を見せた。

 見慣れない相手だったものの、取り敢えず同じように敬礼を返しておく。

 

「あたしはセピア・アウディ。今日からここに配属されました」

 

 淡い金髪に翠の瞳。自分の肩ほどしかない上背。レジアスに聞いていた限り、年は奇遇にも同じで、階級は一つ下らしい。

 

 花が咲くように浮かべられた笑顔を添えて差し出された手。しかしそれを無遠慮に自分が握り返していいのかわからず思わず眉を寄せた。

 

「なんだよまだるっこしいな、ほれ」

 

 彼女の方からぎゅっと出しあぐねていた俺の右手を掴むと乱暴に握手をさせられる。ぶんぶんとセピアが手を振ると、動きに合わせるように横にくくったポニーテールがふわふわと跳ねた。

 

「んじゃあしばらくよろしく」

 

「……よろしく頼む、アウディ二尉」

 

「あー、やめてよそういう堅っ苦しいの。あたしはセピア、気軽にそう呼んでほしいわ」

 

「しかしお前は女性で、俺たちはファーストネームを呼び合うほどの仲ではない」

 

「あたしが良いっていってんだから良いのよ。その代わりあたしも貴方のこと名前で呼ぶから、それで対等。オーケー?」

 

「……了解した、セピア」

 

「うん、それで行こう、()()()

 

 それがそれから長い付き合いになる『セピア・アウディ』という女性との出会いだった。

 

 セピアはまごう事なき『天才』に分類される魔導師だった。

 魔力量AA、魔導師ランクAAA。若干20という若さでいて二等空尉。しかも士官学校卒業などではなく現場からの叩き上げでその地位を獲得していた。

 けれど、その事を決して驕ることはなく、仕事に責任を持ち、それでいて自己への努力を怠らなかった。

 

 何よりその心は『管理局員』としての鑑そのものだった。

 自身の手柄ではなく人々の笑顔を。市民の生活を守るために戦い続けていた。

 

「おいアウディ! 貴様また命令無視しやがったな!」

 

「げ、レジアス」

 

「人を救うのは良い! しかしいつもあんなに無茶苦茶されたら俺の立場がないだろう!」

 

「まあまあ事件は解決したんだし結果オーライでしょ?」

 

「何開き直ってやがる!」

 

「きゃーゼストー、レジアスが虐める〜」

 

「む」

 

「こら貴様ゼストの後ろに隠れるな!」

 

「いやほらあたしたち相棒だし」

 

「ゼストも眉を寄せて唸ってないで早くそこの阿保になんとかいってやれ! 貴様ら相棒だろうが!」

 

「レジアスそう怒るな、市民は無事だったんだ」

 

「あー貴様らは本当に……!」

 

 若い日のレジアスが文句を言いにやってきて、セピアがそれに気まずそうに応じて、自身はそんな二人を側からそれを見守っていた。

 

 そんなことが一体何度あったのだろう。

 

 出会って一年が経ち、二年が経ち、三人の職場が離れてからも三人の関係が変わることはなかった。

 

「じゃー、レジアス婚約おめでとー! かんぱーい!」

 

「乾杯」

 

「……ふん、儂の事などよりもお前らは自分のことを心配すべきだな」

 

「あっはっは、レジアス儂とかいってじじくさー」

 

「セピアァ!」

 

「きゃー」

 

「……ったく、貴様もそろそろ良い年だろうが。いい加減身を固めるなりなんなりしたらどうなのだ」

 

「あー、それ上司にも最近言われててさぁ。とんだセクハラだよねぇ」

 

「それは結婚して少しは安定感を持てと暗に言われているのだ。お前は危なかっしすぎる」

 

「うーん、そうかなぁ?」

 

「……セピアほどなら引く手も数多だろう」

 

「へ?」

 

「見目もいいし、高級取りで、公務員。気たてもいい。これで相手が現れないことはないだろう」

 

「お、おう、結構ストレートにいうじゃん」

 

 照れたようにセピアが頬をかく。

 

「あーあ、いっそのことゼストがあたしのこと貰ってくれると楽なんだけどねぇ。そしたらいい感じに無茶できるし」

 

「む?」

 

「どう、今なら可愛いお嫁さんがゲットできる権利も付いてくるけど買っとく?」

 

「…………セピア」

 

「なんて冗談! だからそう緊張した顔しなさんな!」

 

「……そうか」

 

 花のように笑うセピアが愛おしかった。なによりも大切だとすら思えた。彼女の微笑みを見ているだけで幸せだった。

 自分のような偏屈な男では彼女は幸せにできないだろう。故に言葉にすることはない。

 

 今は、この関係でいられることが心地よかった。

 

 けれど、そんな関係が大きく変わる日が訪れた。

 

「よ、ゼスト、待った?」

 

 セピアが一人の少年を連れてきた。彼女の腰ほどまでしかない身長。ふわふわとした頼りない雰囲気。淡い金髪から覗く瞳は、セピアと同じ透き通るような翠色。

 

「その子は?」

 

「あたしの息子」

 

「なん……だと……?」

 

「え、なんてそんなにショックそう?」

 

「いや、大したことではない。ああそうだ、お前も女性の幸せを得ることに憧れかないはずがないものな……」

 

「あ! 違うって! この子は養子! あたしまだ哀しき独身貴族だから!」

 

 そんな問答をしているとセピアの隣の少年がぼうっとしばらくゼストを見上げているのに気づいた。

 少年は左手でセピアの服の裾を掴んだままぺちぺちとゼストの手を触って何かを確認すると小さく頷いた。

 

「とうさん?」

 

「いや違うが」

 

「……そっか」

 

 虚ろな瞳で「ちがった」と呟くと少年は虚空に目をやったまま黙り込んでしまった。

 

「セピア、この子の名前は?」

 

「あー、それが、ちょっと事情がある子でね……彼自身の名前はないんだ」

 

「む」

 

「だから私がつけてあげました」

 

「ほう」

 

 えへん、とセピアが胸を張った。

 

 

「『セルジオ』。セルジオ・アウディ」

 

 

 

 

 セルジオと出会ってからも彼女と彼の関係は大きくは変わらなかった。けれど、それでも変化が全くなかったわけではなかった。

 

「ゼストー、そこの棚からお皿出しといてよ、三人分」

 

「皿。これでいいのか」

 

「ゼストさん、そっちよりも隣の白いやつのほうがいいと思います」

 

 まず、セピアの自宅に行くことが増えた。どうやらセルジオはゼストの事を気に入ったらしく、度々会いたいとせっつかれたのだ。

 それでゼストが週末にアウディ宅を訪れるのは珍しくないことなった。

 

 そして、セピアが何かを言いかけることが多くなった。

 

「……あのさ、ゼスト」

 

「なんだ」

 

「今の関係どう思ってる?」

 

「急にどうした」

 

「あたしは、正直今の三人でご飯食べるの嫌いじゃないんだよね。むしろ結構好きかも」

 

「……そうか」

 

 でも、とセピアが言葉を繋ぐ。

 

「このままじゃいけないよね」

 

「……そうだな。いつまでも、このままではいけないかもしれないな」

 

 しばらくゼストが黙り込み、そして意を決したようにセピアに向き直る。

 

「今度の戦技披露会が終わったら、お前に言いたいことがある」

 

「うん、私も実は言いたいことがあるんだ」

 

「ならばその時は」

 

「うん、一緒に」

 

 そして、運命の戦技披露会がやってきた。

 

 一生忘れられない、その日が。

 

 紅蓮に包まれる会場。響く悲鳴と怒号。肌を焼くような熱気。

 そして、鮮血にまみれたセピアを抱いたセルジオ。

 

 見てすぐに理解する。もう二度とセピアが目を開くことはないのだということ、死んでしまった理由はセルジオを探していたからだということ、そして自身の気持ちを伝える相手がこの世から消え失せたということ。

 

 ゼストの気配に気づいたのか、セルジオが名を呼んだ。その瞳は初めてあった時と同じ暗い(うろ)のようだった。

 

「ゼスト、さん」

 

「…………セルジオ」

 

「なんで、かあさんは、しんだんですか」

 

「ーーーーー」

 

「誰よりも人の為に戦ってきた人だったんです。優しい人だったんです。悪いことなんて何もしてなかった……!」

 

 セルジオが叫ぶ。その目に()()()()()()()()()

 

「どうして、何にも役に立たない僕が生きてて、誰かのために戦ってきた母さんが死ななきゃならないんですかッ!」

 

 紅蓮に照らされながら静かにゼストが言葉を紡いだ。

 

「運が悪かったんだ、セルジオ」

 

「は?」

 

「セピアは運が悪かった。だから……」

 

 一瞬、心が軋んだ。だが、その音を無視して言葉を続けた。いつものように、変わらない表情を保って。

 

「人は運が悪くて死ぬんだ。誰かが、悪いわけではない。決して、お前のせいなんかじゃない」

 

「違う! 僕が、俺がもっと力があれば、もっと強ければ救えたんだ! 全部俺が、俺が…………」

 

 少年が泣きそうな顔でゼストの胸へと摑みかかり、そしてズルズルと崩れ落ちていく。

 

「……行こう、セルジオ。ここもじきに火の手が回る。セピアを、連れて帰らなければ」

 

 口にしたかった言葉があった。

 

 伝えたい想いがあった。

 

 二人で交わしていた約束があった。

 

 けれどそれも今は全て闇に消えた。死人と言葉を交わすことはできない。

 どれだけ焦がれようと、信じたくなかろうと、それがこの世界の真理だ。

 

 セピア・アウディは死んだ。それが、現実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーテシアちゃん誕生日おめでとう!」

 

 パーンと鳴ったクラッカーの小気味のいい音でゼストが追憶から帰還する。

 ふっと目を上げればナカジマ一家にアルピーノ夫妻、セルジオとなのは達がルーテシアにプレゼントを渡しているところだった。

 

 半身を起こすと肩からずるりと毛布が滑り落ちていき、今までソファに寝かされていたということを理解する。

 

(……失敗したな)

 

 勧められるまま珍しく酒など飲んでしまったせいだろうか。

 

「はい、これプレゼント。リボンです。良かったらつけてね」

 

「わあ、なのはちゃん、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 ルーテシアがなのはから渡されたプレゼントをぎゅっと抱きしめるとくしゃりと嬉しそうに笑う。

 

「ほら、セルジオくんも」

 

「あ、ああ」

 

 なのはに促されてセルジオが紙袋から可愛らしくラッピングされたプレゼントを取り出すと、大人達の俄かに騒めいた。

 

「セルジオ君が、プレゼント……嘘、そんな人間みたいなことを……」

 

「うう、おねーさん、セルジオ君が成長してて涙が出そうよ……私の娘の時もプレゼント買ってあげてね……」

 

「お母さん!」

 

「セの字、お前も大人になってたんだなぁ」

 

「俺の事を一体何だと思ってんすか」

 

 げんなりした様子でセルジオが嘆息を一つ。そして屈んでルーテシアと目線を揃えると先日なのはと選んだプレゼントを手渡した。

 

「誕生日おめでとう、ルーテシアちゃん」

 

「くまさん!」

 

「気に入ったんなら良かったよ」

 

 包装をあけて溢れんばかりの笑顔を浮かべたルーテシアは、なのはに貰った服と纏めてくまのぬいぐるみを抱きしめる。

 そして、ルーテシアはしばらくプレゼントを抱きしめていたがやがて意を決したように、まん丸の頬を真っ赤に染めてセルジオを見上げた。

 

「あの、せるじお、くんと、なのはちゃん」

 

「ん?」

 

「なあに?」

 

「ルーの、おにいちゃんとおねえちゃんになってくれませんか!」

 

「いや無理だろう。俺もなのはも血縁関係上ルーテシアちゃんの兄姉になることはできない」

 

「ふぇ……」

 

「え? あ、ごめ、ちょ、泣かないで。ええと、なんというか……」

 

「セルジオくん……」

 

「ええ、これ悪いの俺か?」

 

「当たり前です!」

 

 セルジオにばっさりとぶった切られたルーテシアの水晶のような透き通った瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。

 じとっとなのはに睨まれ、セルジオが焦ったように『家族』の定義をルーテシアに説明を始めていると、呆れた顔のメガーヌが横合いから口を挟んだ。

 

「この子一人っ子でしょ? だから『お姉ちゃん』とか『お兄ちゃん』に憧れてるらしいの。それで、あなた達をお兄ちゃんとお姉ちゃんって呼びたいって聞かなくて」

 

「ああ、そういう」

 

 ハンカチでルーテシアの涙を拭いてやりながら視線を流して、くすりと笑んでみせる。

 

「もし良かったら、なってあげてくれないかしら? 少しの間でも構わないから」

 

「そういうことなら────ルーちゃん」

 

「なあに」

 

「私もルーちゃんのお姉ちゃんになりたいんだけど、いいかな?」

 

「いいの?」

 

「もちろん! だから私のことはお姉ちゃんって呼んで欲しいな」

 

「おねーちゃん?」

 

 花が咲くような微笑みを添えてなのはが頷くと、ルーテシアも嬉しそうにぱあっと笑顔を見せた。

 それを隣で見ていたセルジオはしばらく気まずそうに頭をかいていたが、恐る恐ると言った様子でルーテシアの頭に手を伸ばす。

 

「俺も、その、お兄ちゃんでよろしく。ルーテシアちゃん」

 

「うん! おにーちゃん!」

 

 嬉しそうにルーテシアが笑う。すると、セルジオの表情が安心したかのような柔らかいものへと変わり、軽く『妹』の髪を撫でた。

 

「嗚呼、そういう表情がまた……」

 

 ぽつり、とゼストが呟くと誰にも悟られぬように起き上がると、一人でリビングからベランダに出て庭へと降りた。

 

 びゅう、と服の中に潜り込んできた夜の風が火照った体に心地いい。

 

 ゼストは賑やかなリビングを背にして一人で星屑が散らばった夜空を見上げて目を細める。

 

「…………セピア」

 

 彼女と別れて一体何度その名前を呼んだだろう。

 彼女が今の自分を見たら何というだろうか。未練がましい男だと笑うだろうか、今も想ってくれて嬉しいと言ってくれるだろうか。

 

「考えても仕方のないことだな」

 

 自嘲気味に鼻を鳴らすと胸のポケットからタバコを取り出す。箱から取り出したタバコを軽く指で叩いて葉を詰めると咥えて火をつけた。

 夜闇の中に仄かな赤色が現れて消える。

 ふう、と紫煙を吐き出すとネクタイを緩めた。

 

「ゼストさん」

 

 ふと、背中に聞き慣れた声がかかった。

 

「セルジオか、何か用か?」

 

「用も何もさっきまで眠ってた人が急にいなくなったら驚きますって」

 

「そうか、心配かけたな」

 

「いえいえ」

 

 ちらり、と横目でセルジオがゼストの方を伺う。

 

「それ、一本貰っていいですか」

 

「煙草をか? お前は……」

 

「もう十八です。年齢的には問題ありませんよ」

 

「そうか、そうだったな」

 

 ゼストがライターとタバコのケースを差し出すとセルジオがゼストに言われるままに咥えて、火を点ける。

 

「──ん、げほっ、んぇあ……あ、むり、くるし」

 

「ふ、誰しも初めての時はそうなるものだ」

 

「よくこんなの吸えますね、カッコいいから憧れてましたけど、俺にはちょっとむりそうです」

 

「憧れてた? 煙草にか?」

 

「いえ、煙草を吸うゼストさんに、です」

 

「────」

 

「俺にとっては、ゼストさんはずっと憧れですから」

 

 二人で空を見上げ、今度はゼストがセルジオの横顔を盗み見る。

 初めて出会った日の少年はいつのまにか自分と変わらないほどまでに身長を伸ばし、ついに煙草を吸えるまでになってしまった。

 

 だからだろうか、感傷的な気分になって、余計なことまで口走ってしまう。

 

「なあセルジオ、お前は俺の息子で良かったか?」

 

 言ってしまってから後悔する。そんなの聞くまでもないだろう。

 自分はセルジオが母親を失って初めて会った人で、よりにもよって『運が悪かった』と言い放ったのだ。

 それに引き取ってからも槍の稽古をつけたくらいで、『親子』として関わった事などなきに等しい。

 

 そんな自分の『息子』で良かったかなんて、答えは一つしかないだろうに。

 

 軽く頭を抑えたゼストがタバコの火を消した。

 

「悪い、忘れて──」

 

「あの、ゼストさん、これ」

 

 ゼストの言葉を遮るように、セルジオがジャケットのポケットから一つの細長い箱を取り出して差し出した。

 手に押し付けられたものを促されるままに開いて、ゼストが呆気にとられたようにぼうっとそれに視線を落とす。

 

「ネク、タイ……。どうして俺に……?」

 

「あー、なんというか、言いづらいんですが、先日俺なのはと出かけまして。その時に、母さんのこととか、ゼストさんの話をしたんです」

 

「セピアの……」

 

「まあそのあと、なのはの地元では父の日ってやつが近いらしくて、ルーの買い物ついでにそちらの方のプレゼントも選んだんです。

 それで、なのはがゼストさんに買ったらいいって勧めてくれて……」

 

 だから、とセルジオが言葉を繋げると、意を決したようにゼストを見つめた。

 今までのように見上げるのではなく、対等に、正面から目と目を合わせて。

 

「これが俺の気持ちです。俺は今の『セルジオ・アウディ』だった事を、恨んだことなんかありません。出会った全てが今の俺を作ってくれています」

 

 セルジオに見つめられる。大切な、大切だった彼女と同じ瞳の色をした『息子』に。

 

(嗚呼、本当に…………大人になった)

 

 ふっと、ゼストが笑みを浮かべた。

 

「なあ、セルジオ」

 

「はい?」

 

「ひとつ、話を聞いてくれないか? 三課の今後についてだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空の下で一人佇むセルジオの背中を見つける。ぼんやりと空を見つめる姿が放って置けなくて、サンダルを借りたなのはがセルジオの隣まで駆けていく。

 

「どうしたの?」

 

「ああ、なのはか」

 

 今気づいたようにセルジオがなのはの名前を呼んだ。気配感知に秀でた彼が知り合いの接近に気づかないなんてこと殆どないはずなのに。

 

「ゼスト隊長と何話してたの?」

 

「異動の話だ、教導隊への」

 

「もしかしてゼスト隊長が打診されてるっていう?」

 

「知ってたのか?」

 

「うん、噂で少し、くらいだけど」

 

「そうか、なら話が早くていい。なんても教導隊の方で人手が足りないらしくて、即戦力級のエースを求めてるらしいんだ。それで…………」

 

「それで?」

 

「ゼストさんから、代わりに俺が教導隊に行く事を提案された」

 

「えぇっ?!」

 

「まあ驚くよな……」

 

 俺も驚いた、とセルジオが軽く笑う。

 

 

 ──教導隊と言えば管理局の花形だ。戦時のエースも多く在籍するそこでなら、三課にいるよりも濃い経験が詰めるだろう。

 

 ──俺にも異動の命は出ているが、今すぐという訳でもない。

 

 ──だからセルジオ、教導隊に行って経験を積んで、そして。

 

 

「いつか、三課の隊長としてゼストさんの跡を継いでくれって、そういう言われた」

 

 なのはが目を丸くして、そしてがしっとセルジオの手を握った。

 

「凄い! 凄いよセルジオくん! 教導隊で、しかもいつか部隊長を任せるって、おめでとう!」

 

「あはは、さんきゅ、なのは」

 

 すごいすごい、と連呼するなのはだったが、セルジオが暫く黙り込んでしまって、こてん、と首をかしげる。

 

「セルジオくん?」

 

 なのはが名前を呼ぶ。すると、セルジオはなのはの手をやんわりと振り払うと、空を見上げた。

 

「そう言えばさ、なのはの三課の在籍の期限、そろそろ切れるよな」

 

「え、そうだっけ」

 

「ああ、もともと期限付きの出向、って形だったし、まあ望めば延長はできるんだが……」

 

「そうなんだ……」

 

 なのはが小さく息を吐く。

 

「それで話は戻るんだけどな、なんか教導隊の方いくつか空きがあるらしくてさ、頼めばあと1人くらいは補佐を連れて行けるらしいんだ」

 

 すう、と小さく息を呑む音が聞こえた。

 

 

 

「もし俺がなのはについてきて欲しいって言ったら、どうする?」

 




 

『お兄ちゃん』と言ってくれる子が出来たのでこれでめでたくセルジオもシスコンになる権利を得ました。
いやー、めでたいですね。
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