Force Detonater   作:世嗣

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喪失の代償

 

 

 

 

 

「なの、は…………?」

 

 なのははいつもみたいに微笑んでいた。

 ただ労わるように、優しく、柔らかく。

 

 槍から手が離れなのはが解放されるとセルジオの手の中に小さな身体が倒れ込んでくる。

 夢でも幻でもない。本物の、セルジオの世界でたった一人の相棒だ。

 

 いつもは白いバリアジャケットからは、目を背けたくなるような紅色が流れ出て、じわりじわりと白を染めている。

 

 彼女はぼんやりとした瞳でセルジオを見上げると、その存在を確かめるように頬に手を触れる。

 

「よかった、いつもの、せるじおくんだ……」

 

 弱々しくか細い声でなのはが呟く。

 

「さっきまでの、せるじおくん、なんかこわかったから……」

 

 なのはの瞳から光が消えていく。

 

「あ、あ、おれの、せいなの、か……」

 

「もう、せるじおくんは、ほんとうに、しかたないなぁ」

 

「ごめん、なのは、おれが、おれが」

 

「いいんだ、わたしは、せるじおくんがしんぱいだった、だけだから……」

 

 震える手でなのはがセルジオの頭を軽く撫でる。まるで幼子にそうするように、宥めるように慈しむように。

 

「もう話さなくていい。すぐ病院に連れていくから。俺を許さなくてもいい。だから、だから……」

 

「ねえ、せるじおくん」

 

 なのはが薄く目を開けて、ふっと微笑みを浮かべる。

 

 その微笑みはまるで触れたら溶ける雪の結晶のように儚く、死にたくなるほど美しい。

 

 

「なかせちゃって、ごめんね」

 

 

 なのはがゆっくりと目を閉じた。

 

「なのは、なのは? おい、なんとか、言ってくれよ」

 

 腕の中の少女はなにも言わない。

 

 ふらり、とセルジオがなのはを抱いて立ち上がり、トーレ達へと背を向けた。

 

「待てセルジオ・アウディ、何処へ行くつもりだ」

 

「病院へ行くんだよ。なのはを、助けるんだ」

 

「捨て置け、その少女はもう助からん」

 

「行くんだよ、行かなきゃ、いけないんだ」

 

 譫言のように同じ言葉を繰り返すセルジオに、トーレは静かに刃を構える。

 

「私がそう易々とお前をここから返すと思うか」

 

「邪魔するな。急いでるんだ」

 

「聞けぬ相談だ。私はお前と戦うためにここにいる」

 

 ぼう、とセルジオが生気のない瞳でトーレを見つめる。

 

「じゃあ、死ぬか」

 

 セルジオの体を陽炎のような紅いエネルギーが包んで、翠の瞳が一瞬で紅く染まり────

 

 

 

「嗚呼、駄目だよ、セルジオ君。この舞台はまだ終わらない」

 

 

 何かが、セルジオの背中を刺さった。

 

 それはぱしゅん、と気抜けするような軽い音を立ててセルジオの中に何かを流し込んだ。

 途端、陽炎が跡形もなく消え去り、セルジオの体を占拠していた物がこぞって動きを止めた。

 

「な、に……」

 

 突然がくん、と膝から力が抜け落ちて、なのはの身体が地面に投げ出してしまう。仲間達の血で濡れた床になのはが転がっていき、セルジオは何故か痺れたように動かない体を叱咤する。

 

 救わなければならない。大切な人なんだ。せめて彼女だけでも。

 

「何処へ行こうというのだ」

 

 だが伸ばした手は虚しく空を切り、背中に足を叩きつけられ、そのまま動きを止められる。

 

「──トーレッ!」

 

「動かない方がいい。今貴様に撃ち込んだのはEC抑制剤、先程までの回復力があると思わん事だ」

 

「く、そ、がァァァッ!」

 

「……憐れな、一度は私を破った男が、最早エクリプスの補助なしでは動けぬ程に侵食を受けているとはな」

 

 嚇怒の意志でトーレを睨もうとして、足音が聞こえる。

 

 一定のリズムで、足を進めた『ソレ』は、トーレに縫い付けられたセルジオの前で足を止めてしゃがみ込んだ。

 

「やあ、久しぶり、セルジオ君」

 

 親しげに、まるで街中で出会った友人に声をかけるかのように、その人はセルジオに声をかけた。

 

「教、授…………?」

 

 セルジオに名を呼ばれて、彼は青い髪をかきあげながら、金色の目を細めた。

 

「なんで、どうしてとでも言いたげな顔だ。実に痛快だ」

 

「だまして、たのか……! 管理局を、俺たちを、ずっと!」

 

()()()()()

 

 彼はいつもの白衣をはためかせながら、くつくつと笑って、パチン、と指を鳴らした。

 

「私は君に『ゼファー』を渡し、トーレを使って君を弄び、ティーダ・ランスターを殺し、君を誘き寄せた。全部、全部私がやったことだ」

 

 教授にざあっとノイズが走り、姿が変わっていく。

 

 短く切り揃えられた青い髪は濃さを増して濃い紫へと変わり、肩口まで伸びていく。金色の瞳はそのままに、今までの中年の男性から若々しい男へと、幻が剥がれ本当の姿へと戻っていく。

 

「では、改めて()()()()()、セルジオ・アウディ君」

 

 痩躯の男が白衣を翻し、表情を歪めた。

 

「私の名は『ジェイル・スカリエッティ』、またの名を『無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)』。君の敵の名前だ」

 

「ジェイル・スカリエッティ……」

 

「ははは、そう固くならず気軽に、Dr.スカリエッティとでも呼んでくれたまえ、君と私の仲じゃないか?」

 

 嘲るように、ジェイルが言う。

 

「…………んで…………た」

 

「ん?」

 

「なんでこんな事をしたっ!? なにが一体目的で、こんな事を……!」

 

「ふむ、それは少し難しい質問だが、敢えて答えを出すならは……」

 

 スカリエッティは腕を組んで、しばらく考え込むと、やがて一つの答えを出した。

 

()()()()()()()()()()()()

 

「は…………?」

 

 まるで何を言っているかわからない。同じ言葉を話しているはずなのに、異界の言語を聞いたかのように、理解できなかった。

 

「ん? 言葉が足りなかったかな?」

 

 ジェイルが僅かに眉を寄せる。

 

「私の欲望が満たせそうだったからやったんだ。三課を殺したのも、ティーダ・ランスターを殺したのも、君にエクリプスウイルスを渡したのも全部、そうした方が()()()()()()()()()()

 

 ジェイルはなんて事ないように、まるで明日の天気を教えるかのように、子どもたちが好きな野球チームを教えるかのような気軽さで、そんな、理解し難い事を言ってのけた。

 

 セルジオがトーレに組み敷かれたまま、ジェイルに襲い掛からんとする勢いで吼える。

 

「そんな、そんなことで殺したのかッ!?」

 

「ああそうだとも」

 

「──ッ、てめえ、()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 セルジオの言葉を聞いた途端、ジェイルが一瞬ぽかんと目を開き、数瞬後には、狂ったように高笑いをし始めた。

 

「これは痛快だ! 命! 命と来たか! よりにもよって、『君』が! 命と!」

 

「何が可笑しいッ!?」

 

「ん、まさか君、わかってないのかね、自分が『何』であるかを」

 

 そしてジェイルは愉しげに、セルジオの根幹を揺るがす言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

「だって君、『人間』じゃないじゃないか」

 

 

 

 

 

 歯車が、噛み合う音がした。

 

 

 

 

 

 

 『プロジェクトF』。それは高町なのはの親友、フェイト・テスタロッサの母、プレシアが行なっていた研究の一つ。

 それは簡単に言えば遺伝子から同じ身体を作り出し、最後に記憶を転写することで死者蘇生を行おうとする技術だ。

 しかしその研究は上手くいくことがなく、プレシアは『アルハザード』への道を追い求めることになる。

 

 死者蘇生。

 

 それは遍く者の夢。

 

 大切な人と会いたい。もっと一緒にいたい。伝えられなかったことを伝えたい。

 そんな事を考えたことがない人間など、この世界にどれほどいるだろうか。

 

 けれどそんな事はどうでもいい人たちもいました。

 

 プロジェクトFの遺伝子から身体を作り出す、という面にだけ目を向けた科学者たちが。

 

 彼らは優秀な魔導師から細胞を取り出し、それを培養する事で、無限に優秀な手駒を作り出そうとしたのです。

 

 しかし、プロジェクトFの第一人者であるプレシア・テスタロッサでも上手くいかなかった、元となる人間の再現。

 

 ただデータを盗み見た凡庸な科学者たちで上手くいくはずもなく、出来上がったのはヒトのカタチをしたただのモノでした。

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、科学者たちは実験を行いましたが、出来上がるのはヒトのなり損ないのようなものばかり。

 

 そうして科学者たちは研究を繰り返すうちに、ついに管理局にその所業がバレて逮捕されました。

 

 そして、その研究所にやってきた局員────セピア・アウディは出会いました、自分と同じ色の髪をしたモノ。

 

 ソレは、感情が芽生えなかったモノでした。

 

 ソレは、魔力量がオリジナルから大きく劣ったモノでした。

 

 ソレは、オリジナルの身体の再現すら出来なかったモノでした。

 

 ソレは、おおよそ人に必要なモノが欠けたモノでした。味覚、視覚、触覚、そのどれもが通常の人と比べて大きく劣っていました。

 

 だから『失敗作』と断じられ、塵のように捨てられていたモノでした。

 

 ソレはこの研究所ではいくらでも転がっているそのほか大勢の塵となんら違いがありませんでした。

 

 けれど、その失敗作に何か特別なところがあったとすれば、『セピア・アウディ』をオリジナルにして作られたモノで、まだ生きていたという事が挙げられるでしょう。

 

 ソレは、セピアの前で、惨めに、無様に、それでも、小さく、とても小さく息をして、殆ど何も見えないであろう目を開いた。

 

 澄んだ翠の瞳がセピアを見つめた時、彼女は思わずその出来損ないに手を伸ばしていました。

 

 ソレは、後々『セルジオ・アウディ』と名付けられました。

 

 

 

 

 何かが胸の奥にすとんと落ちてきて、でも、それでも信じられなくて首を振る。

 それをみてジェイルはやれやれと肩を竦めて、いいかね、とセルジオに言葉を投げかけていく。

 

「君は生まれてから、風邪なんて一度も引いた事なかったろう? それに、普通なら制御できない数のマルチタスクを使えただろう?」

 

 ──俺生まれてから一度も風邪引いた事ないんだけどな。

 ──なんか不思議とマルチタスクは人より多く制御できてさ。

 

 いつか自分の言葉を思い出す。

 不思議だと思っていたこれも、本当は自分が戦闘用にチューンされた存在である事の名残なのだとしたら?

 

「悲しくて泣いた事なんかないだろう?」

 

 セピアが死んでも、ティーダが死んでもセルジオは泣かなかった、否、()()()()()()。どうして周りの人が泣いているのか、なんで泣けるのかがわからなかった。

 

「やたら人の真似をするのが上手くなかったか?」

 

 ──ああ、見て覚えたので大丈夫です。

 

 箸の使い方だってなのはたちが使っているのを見ればすぐに覚えられた。

 採用されることのなかったゼファーの『模倣』機能を()()()一人だけ使いこなせた。

 

「食べ物の好みもなければ、人に嫌われても何とも思わない。君は誰が何と言われようと、他人に怒ることなんて無かった。それは人間の形として正常なんだろうか」

 

 食べ物の味なんてわからなかった。だからみんなに合わせて「美味しい」と言っていた。だから一人の時は栄養だけを取るためにサプリをよく飲んでいた。

 

 人に嫌われても何とも思わなかった。そういうものだと受け入れるものだと思っていたから。

 だって『人に怒るのはいけないことだ』とセピアが言っていたから。

 

「思い出してもみたまえよ、よく言われてたんじゃないのかい君は、本当に人間か、と」

 

 いつも、色んな人に冗談交じりに言われてた。

 

 ()()()()()()()()()()、と

 

 

 一つ一つの問いかけが過去と、かけられてきた言葉によって、肯定されて、『セルジオ・アウディ』を構成していたものが解かれていく。

 

「何より────」

 

 セルジオの瞳から光が失われていく。そして、ジェイルは、最後にセルジオを砕く、決定的な撃鉄を下ろした。

 

「君がやってるのは母親の『真似』で、そこに君の意思なんて一つもないじゃないか」

 

 

 ──人を、救え。

 

 そう、言われた過去(きのう)があった。

 

 その日からセルジオは愚直に、その言葉に背かないようにだけ生きてきた。それは彼が決意したからではなく、そう心に刻まれたから。

 

「君には『自分』がない。ただ言われた通りに真似をするしかできない。まるで、出来のいいロボットのようにね」

 

 『自分』がないから自分を幾らだって犠牲にできた。お金だっていらなかったし、休みだって、なんなら友人だって、家族だっていらなかった。

 

 だって、セルジオ・アウディは、ヒトのカタチをしているだけのものだから。

 

 

「────そっか、俺は、本当に、『偽物』だったのか」

 

 

 疑念は抱かなかった。どれも、身に覚えがあることだったから。

 

 

 セルジオの瞳から、光が消えた。

 

 

 それを確認して、ジェイルが愉しげに表情を歪めて嗤った。

 

「嗚呼、良いね、()()()()()()()()()

 

 まるで幼子がオモチャを見つけたように、ただただ嬉しそうに笑うジェイルは、光が消えて瞳でぼんやりと虚空を見つめるセルジオと目を合わせた。

 

 そして、セルジオに向けて手を差し出した。

 

「なあセルジオ君、私の欲望に力を貸してみる気は無いかね?」

 

「なに、を……?」

 

「私は君の欲望を高く評価している。人に生み出され、人ならざるものとして生きる、君は言ってみれば()()()()()。私なら君を導いていける。世界で私だけが君の気持ちに心の底から共感できる」

 

「…………そんなのできるわけ」

 

 なんで、出来ないんだ。

 

 守るべき人たちはみんな死んで、なによりも大切な人は自分で傷つけた。

 自分の持っていた夢もただの虚飾だと突きつけられて、それでも頑張る理由がどこにあるんだ。

 

 ──もういいだろう?

 

 誰かの声が聞こえる。

 

 ああそうだ、もう、セルジオ・アウディなんかが、誰かの為に生きる資格はない。

 ならもう、この手を取って堕ちてもいいんじゃないのか。

 

 虚ろな瞳でセルジオがジェイルへと手を伸ばして────

 

 

 

 

繋がらぬ拳(アンチェインナックル)ゥゥゥッ!」

 

 

「行きなさい、フォードッ!」

 

 

 

 ──青い疾風がその間に割り込み、紫紺の光が一筋の迅雷を飛ばした。

 

 

 

 疾風は途中にいたチンクを吹き飛ばし、荒い息のままジェイルとセルジオとの間に立ち塞り、紫紺が命じた黒電はセルジオの上にいたトーレを吹き飛ばした。

 

 呆然と、セルジオがその疾風(かぜ)の名を、紫電(ひかり)の名を呼んだ。

 

 

「…………くいんと、さん」

 

「ハーイ、セルジオ君、また会えて嬉しいわよ」

 

「…………めがーぬさん」

 

「また無茶しちゃって、君は」

 

 いつもの快活な笑顔のクイント。しかしその顔は赤く染まり、左目から肩口まで大きな裂傷が刻まれてい、脇腹は吹き飛んだように大きくえぐれている。

 

 その隣には召喚獣であるフォードに支えられながら、ふらつく足で微笑むメガーヌ。彼女に至っては既に左腕は無く、長く美しかった髪も無残に根元からちぎれている。

 召喚獣であるフォードも甲殻は砕け、内部から体液を漏らして、片羽を頼りなさげに揺らしていた。

 

 みんな満身創痍だ。

 

 例えそれが蝋燭が燃え尽きる寸前の、儚い輝きなのだとしても、二人の命が消えるのは目の前なのだとしても。

 

 しかし、それでも、二人はまだ生きていた。

 

 

 セルジオの瞳に少しだけ光が戻る。

 

 

「この死に損ない供めが」

 

「なーによ、私たちに、トドメ……刺し損ねたのは、貴方でしょ、お嬢ちゃん」

 

 チンクの言葉に皮肉げに言い返すクイント。

 

 そして二人は互いの獲物を持って火花を散らした。

 

 フォードもそれに続いて吹き飛ばされながはも殆どダメージらしいダメージを受けていないトーレに食らいついて行く。

 

「虫風情が調子に乗るなよッ!」

 

「ーーーーー!」

 

 加速するトーレと腕の刃を振るいながら、壁を蹴り、床を足場にそれに対応するフォード。

 

 その間にメガーヌは荒い息のまま、デバイスを構えて近くにいたなのはとセルジオを魔方陣の中心に配置し、術式を起動する。

 

「めがーぬさん、なにを、してるん、です……」

 

「転移魔法、使ってるの。あなたと、こほっ、こほっ、なのはちゃんだけでも、ここから、逃すわ……」

 

「そんなこと、だめです、あなたたちも、にげなくちゃ」

 

「無理よ。このAMFじゃ私でも二人飛ばすのが精一杯。それに、敵もきっと逃がしてくれないわ」

 

 メガーヌが術式を構築するとふらつきながらデバイスを構えて、AMF下でバラつく魔力を丁寧に、丁寧に魔法としての形を与えていく。

 

「ねえ、セルジオ君、最後にお願いがあるの」

 

 メガーヌが、途切れ途切れになりながらも、必死に声を絞り出す。

 

「ルーテシアのこと、お願いね。あの子、あなたのこと、本当のお兄ちゃんみたいに、思ってるから……」

 

「いや、です、るーてしあちゃん、には、あなたが──」

 

「分かってる。でも、それでも、あなたに、頼みたいの……」

 

 ついに自分の体重すらも支えきれなくなったのか、メガーヌが膝をついた。けれど、それでも魔法の展開は止めない。

 

「セルジオ君! 私も、ちょっと言っておきたいことがあるの!」

 

 クイントが拳を振るいながら、ニッと笑う。

 

「あなたを初めてセピアさんに紹介された時は、無愛想で、なに考えてるかわかんなくて、正直可愛くないって思ってた!」

 

「──くいんと、さん」

 

「でもさ、その分私はセルジオ君が変わっていくのをずっと見てた! クロノ君と出会って、なのはちゃんと出会って、だんだん変わっていくのを!」

 

 クイントがチンクの刃の爆発を受けて、大きく後ずさる。

 

「はあはあ、ほんとにさ、貴方はクソ真面目で! 頭が固くて! 融通が利かなくて! でもいざという時には頼りになって! それで、それで────」

 

 クイントが拳を握り、全力で振るう。いつか、セルジオに教えてくれたストライクアーツ。

 

「──きっと誰よりも優しい」

 

「くいんと、さん…………!」

 

 体を動かす。けれどジェイルに打ち込まれた薬のせいか、体が思うように動かない。

 

 それでも、諦めたく無くて、必死に二人に手を伸ばす。

 

 クイントが優しく微笑みかけ、メガーヌがセルジオの頭を労わるように撫でた。

 

「頑張る姿を本当に誇りに思ってた」

 

「家族と同じくらい大好きだった」

 

「本当の、弟みたいに思ってたわよ」

 

「家族をよろしくね」

 

 魔法陣の淡い光が濃さを増していく。

 

「まっ────」

 

 セルジオがメガーヌに手を伸ばして、優しく振り払われた。

 

()()()()()、セルジオ君」

 

 

 そして、セルジオとなのはの姿がそこから掻き消えた。

 

 

 

 後に残されたのは、力が抜けたように崩れ落ちたクイントとメガーヌ、トーレに斬り伏せられた召喚獣のフォードの死体。トーレとチンク、そして今までその様子を静観していたジェイル・スカリエッティ。

 

「嗚呼、面白いものを見せてもらった。誰かの為に自分の命を使う、か。なんとも愚かしく素敵な歌劇だった」

 

 ぱちぱち、とジェイルは手を打って、ふっと表情を消して、振り返るとその場から立ち去っていく。

 

「トーレ、チンク、後は頼んだよ」

 

「了解しました、ドクター」

 

 トーレが腕の刃を光らせて加速する。

 

 その様子を背中を合わせて互いに支え合う二人がぼんやりと見つめ、どちらからとも無く口を開いた。

 

 それは、ずっと二人で戦ってきた彼女たちの、最期の会話。

 

 

 

 

 ──ねえ、メガーヌ。

 

 

 ──なに、クイント。

 

 

 ──…………私、メガーヌとコンビを組めて、本当に良かったわ。

 

 

 ──私もよ、クイント。貴方と二人でやってこれて、良かったわ。

 

 

 ──そっか。それなら良かった。

 

 

 ──ほんとうに、よかった。

 

 

 

 

 

 そうして二つの紅い花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、航空魔導隊三課は違法研究所の調査中に、十六名の隊員の内十四名を失い、一人は重症でミッドの病院へと緊急搬送された。

 

 地獄のような惨劇の中、ほとんど無傷だったのはたった一人。

 

 

 

 セルジオ・アウディだけだった。

 

 

 

 




 

星は、見えない。

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