Force Detonater   作:世嗣

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そして三課

「皆さんご迷惑おかけしました。今日からセルジオ・アウディ三等空尉現場復帰します」

 

 そう言ってセルジオが深く頭を下げた。すると、三課の男連中が雪崩れるようにセルジオの元へと駆け寄っていく。

 

「おかえりー。休んでた分バリバリ働かせっからなー」

 

「ねえねえ、今回の傷のサイズはどんくらいなのー」

 

「がっはっは、というか今さらなんじゃいなんじゃい! お前だいたいいつでも怪我しとるわ!」

 

「そうそう、この前なんて火事の中突っ込んでいってさ! 流石にありゃ死んだと思ってたぞ!」

 

「いっそ死んだら俺の役職がスライドで上がるし、ここはもうちょい休んどこ? な?」

 

「お前の階級じゃセルジオがいなくなってもなんも変わんねーよ」

 

「あ、暑苦しい! いい年した男が絡んでこないでください! せっかくの復帰なんですから清々しい気持ちで迎えさせてくださいよ!」

 

「んだとー、俺たちの愛になんてこと言いやがる。野郎ども囲めー!」

 

 わちゃわちゃと揉みくちゃにされながら何だかんだ胴上げされ始めたセルジオ。

 

「「「わーっしょい! わーっしょい! わーっしょい!」」」

 

「怖い怖い! 高くて怖い! 天井! 天井に当たる!」

 

「「「わーっしょい! わーっしょい! わーっしょい!」」」

 

「や、やめてって言ってるでしょうっ!」

 

 

「「「そして死ねぇ!」」」

 

「何という管理局員にあるまじき言葉遣いっ?!」

 

 最後は天井に叩きつけられそうになったセルジオは直前で飛行魔法を使ってギリギリで静止する。

 

「危なくもう一回病院送りですよ! あんたら蛮族すぎるぞ!」

 

「はっはっはっはっ」

 

「笑い事じゃねー!」

 

 これは三課職員のしばらく休んでいた事を気に病まない為にいつもよりはっちゃけた行動でくだらない事は吹き飛ばしてしまえ、という気遣いなのだがセルジオがそれに気づくことはないだろう。

 全体的にあまりに蛮族すぎる。

 

「やれやれ酷い目にあった」

 

 ため息とともにセルジオが自分のデスク、現在のコンビであるところのなのはの隣に座った。

 

「よう高町。書類任せて悪かったな」

 

「い、いえいえ。ア、アウディさんこそ退院おめでとうございます」

 

「ん、本当は起きたらすぐに退院したかったんだけどな、主治医がなかなか離してくれなくてさ」

 

「あ、当たり前だよっ。あんな怪我してたんだからちゃんと休まないと!」

 

「でも病院暇なんだよなぁ。メシも味付け薄いし。ピザとか体に悪いもんが食いたかった」

 

「セルジオくんは自分の体のことに無頓着すぎるよ……」

 

 げんなりとしたようにいうなのはの言葉にセルジオが少し目を開く。

 

()()()()()()ね」

 

「あ、ごごめんなさいっ! つ、つい崩れた口調に」

 

「いや別にいいよ。あん時も敬語崩れてたしね」

 

 あの時、というのがいつのことを指すのか察したなのはの顔が茹で上がったように一気に赤くなる。どうやら病院での事はまだかなり恥ずかしいらしかった。

 

 そんななのはの頭をセルジオが軽く撫でる。

 

「な、なに?」

 

「俺が倒れた後、急いで三課に連絡いれてくれたんだろ? 高町のおかげだ。ありがとう」

 

「べ、別に、コンビ、ですし」

 

 恥ずかしそうに唇を尖らせながら発した言葉に、リボンで結んだ二房の髪がぴょこぴよこ揺れる。

 

「かーわいい、奴だな、高町は」

 

「ちょ、髪! 髪が乱れちゃうから〜!」

 

 そんな小さな相棒の頭をセルジオがわしゃわしゃと荒っぽく撫でると、なのはがきゃあきゃあ言いながら逃げていく。

 

 そんななのはを見てセルジオはひとしきり笑うと胸ポケットから銀色のカード、友人に改造してもらったという『S2U・カスタム』を取り出すと卓上のコンピュータに接続した。

 

 そして、データを選択すると書式ファイルを開いてモニタに写ったそれを確認し始める。

 

「それなんなの?」

 

 なのはが乱れた髪を結びなおしながらセルジオのデスクを覗き込んだ。

 

「んー、入院中に纏めた捜査資料。次引き受ける案件とかに使おうかなー、と思って」

 

「もう次のお仕事決めてるの?」

 

「おう、暇な入院中にデスクワークしながらな」

 

「セルジオくん病室で安静にしときなさいって言われてなかった?」

 

「だから安静にデスクワークしてた」

 

「頭いいぶん言葉尻を捕まえて都合のいい解釈してる……」

 

 じとっと睨むなのはの視線などどこ吹く風で資料を整理していくセルジオ。その手は淀みなく、なのはがしていたように悩んだり、モニタを睨んで唸ったりなどしない。

 

(そう言えばメガーヌさんがセルジオくんは最初から優秀だったって言ってたなぁ)

 

 メガーヌ曰く、セルジオが三課に配属されたのは五年前、十一歳の時。

 メガーヌはデスクワークでの教育担当だったらしいのだが、少し説明を受けただけで割とさくっと理解したセルジオはそれ以後特に手を煩わせる事はなかったという。

 

「セルジオさんって優秀なんですね。羨ましいです」

 

 ぷく、となのはが頬っぺたを膨らませる。

 

「俺が? 面白い事を言うな、高町は」

 

 ハッとセルジオが鼻で笑う。

 

「俺は魔力が低かったからな。代わりに頭を使うしか無かっただけだよ。学生の頃からちまちまマルチタスクの練習をして、ゼストさんに槍の稽古つけてもらったりしてなんとかここまで来たんだよ」

 

 そもそもセルジオの魔法適性自体があまり戦闘に向いているものではなかったりする。

 人並み程度の身体強化、多用できない加速魔法、人より脆い魔力刃、射撃はできずシールドもはれない。比較的適性に恵まれた砲撃も、自前ではすぐに魔力不足になりかねない。

 

 解析と短距離転移。そしてマルチタスク。

 

 それだけが学生の頃のセルジオの頼みの綱で、鍛え上げて来た魔法であった。

 

「だから、俺としては高町の魔力の多さはかなり羨ましかったりするんだぞ?」

 

「で、でも、セルジオくんの方がなんか凄いんだもん!」

 

「じゃあ互いに補っていく形で行こうぜ、な?」

 

「むぅー」

 

 未だ不満そうななのはの頭をまた軽く撫でてなだめるとまた資料に目をやった。

 

(……ない、か。まあ、AMFの研究所なんてそうそうあるもんでもないよな)

 

 一応ゼストと話し合って裏で捜査は継続しよう、ということにはなったものの目に見える範囲でそれっぽい案件はなさそうだった。

 

「まあ今考えても仕方ないか」

 

「え?」

 

「何でもない。独り言だ」

 

 セルジオは大きく伸びをするとデバイスとの接続をきって胸ポケットへとしまう。そして、今度はいつも持ち歩いている古びた懐中時計をだして時間を確認する。

 

(約束の時間まで一時間……、軽く外回りしてたら潰れるか)

 

 ついでになのはのコネクションづくりの顔周りでもしようと思い立つ。

 

「高町、午後の予定は?」

 

「クイントさんから近接戦の指導を受ける予定だけど……なんで?」

 

「この後俺のデバイスを受け取りに行くんだが、そのついでに俺の知り合いに顔見せでもしようかとな」

 

「じゃあ今日はそれについていけばいいの?」

 

「ああ。多分午前いっぱいで終わるからクイントさんの件は問題ないだろうよ」

 

「わかった。準備しておくね」

 

「準備できたら俺のバイクが置いてある車庫に……」

 

 そこまで言ってセルジオの動きがピタリと止まる。

 

「なあ高町、俺を回収しに来たのって誰だっけ」

 

「クイントさんと救急隊の人だけど?」

 

「だよなぁ……」

 

 なのはの答えを聴いてセルジオが顔をさーっと一気に青くしながらダラダラと汗を流し始める。

 

「どうしたの?」

 

 なのはがこてん、と首をかしげる。

 

「いや、俺のバイクってもしかして置きっぱじゃね?」

 

「あ…………」

 

「だよなぁ……」

 

 泣きそうな顔でセルジオが先ほどと同じセリフを繰り返した。

 

「悪い高町俺は現場に急行しなければ無くなった」

 

「わ、私も行くよ!」

 

「これはゼストさんに飛行申請許可を出させるのも辞さない……!」

 

「そ、それは流石に無理じゃないかなぁ」

 

 三十分後、研究所の近くにあったバイクが奇跡的にまだ結界に守られているのを見て安心したように崩れ落ちるセルジオの姿があったとか無かったとか。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「センセイ、お客様ですよ」

 

 クラナガンの研究区画の一室になのはとセルジオは訪れていた。

 

 入るときに一通りチェックを受けた後、スタッフさんに研究室の一つに通される。

 薄暗いそこはなのはには理解できそうもない無数の機械類が無造作並んでおり、足の不見所があるかも怪しい。

 

 そんな研究室で楽しげに動き回る、髪を軽く切りそろえている痩躯の男が一人。

 

 セルジオが、またやってるなぁ、と頭をかいた。

 

「お久しぶりです、ベゼル教授」

 

「おお、これはこれは君はバルクス君じゃないか!」

 

「セルジオですよ」

 

「うむ、確かそんな名前だった! まあすきなところにかけたまえ!」

 

 教授は愉快そうに笑うと弄っていた機械類を退けて、棚の中をごそごそことあさり始める。

 

「(セルジオくんセルジオくん、座るってこれどこに座るの?)」

 

「(座らない)」

 

「(え? でも座れって……)」

 

「(因みに高町の斜め後ろにある機械、魔力を自動的に吸い出して電気へ変換するモンだ。触ったら魔力欠乏になってぶっ倒れるぞ)」

 

「(え)」

 

「(そして俺の右手側にあるUSBみたいなのは触ったやつに自動的に戦闘技能をインストールするものだが……容量が多すぎて脳味噌がパンクする。無事で帰るには発明品を触れないことだ)」

 

「(何でこんなとこ連れて来たのぉっ!)」

 

「(前俺のデバイス見たいって言ってたし)」

 

「(こんなとこなら三課で見せてくれても良かったよ……)」

 

 ふんふんと鼻歌を歌いながら未だ棚を漁っている教授の背中を見て、なのはが小さくため息。

 

「(そういえばセルジオくん発明品の詳細どうやってわかったの?)」

 

「(解析魔法)」

 

 こういう時にもセルジオの解析は役立ってくれる。

 

「おー! あったぞーバーゼルくん!」

 

「連絡していたんですからもうちょっとすっと出してくれると嬉しいですね、ベゼル教授。あと俺の名前はセルジオです」

 

「あっはっは、そうだったな」

 

 楽しそうに笑いながら教授が、セルジオへ銀色のガントレットを投げて渡した。それを他の発明品に触らないように慎重に受け取ると、セルジオが眉をしかめる。

 

「これは……」

 

「私の発明品、デバイスタイプZー3X、通称『ゼファー』。気に入ってくれたかネ」

 

「いや、デカくないですか。前のゼファーはブレスレットだったじゃないですか」

 

「色々詰め込んでたらデカくなっちゃったネ。一応制服の下に仕込めるんじゃないかナ?」

 

「適当ですね……」

 

「イヤイヤ、その分性能は上がってるから。優秀なキミなら使いこなせるサ」

 

 それとも、とセルジオの瞳を見つめて痩躯の男は、頰を吊り上げて薄い笑みを浮かべる。

 

「機械兵に遅れをとったバックスくんの手には余る代物かナ?」

 

 意図せぬ言葉にセルジオが言葉に詰まる。

 

「知ってたんですか」

 

「まあ、ネ。あれの解析が私の方まで回って来たんだヨ。その時、チラッとね」

 

「そうでしたか……」

 

 目の前の教授は少し人格的にはおかしいが極めて優秀であるしそういうこともあるだろう。現に、適当に転がしてある発明品の中には管理局のデバイスシステムに採用されたことがあるものも混ざっていたりする。

 

「どうだネ? 『ゼファー』使うのやめとく?」

 

「いえ、そこまで言われたら立つ瀬が有りませんからね。あなたの『ゼファー』、大切に使わせていただきます」

 

「キミならそういうだろうと思っていたヨ」

 

 満足そうに笑う教授の前でセルジオが前腕部を半ば程まで覆う『ゼファー』をどうしようか決めあぐねて、仕方なく制服の上から装着する。

 

 と、ここで教授がじっと自分を見ている存在をみつめかえした。というか今の今までその存在に気付きもしていなかったのだが、セルジオから気がそれた瞬間に目にはいったのだった。

 

「君は……へぇ、面白いネ。魔力の量が桁違いダ」

 

 興味深そうにそういうと、教授がなのはの目を覗き込む。なのはは、その深い洞のような瞳から目をそらすことができない。

 

 教授は頰を半月状にして一歩近寄ろうとして、視線を遮るようにセルジオが踏み出した。

 

 そうすることでまだ小さいなのはの体はすっぽりとセルジオの陰に隠れてしまう。

 

「ダメですよ教授。高町はもうC・W(カレド・ヴルフ)社と契約してますから。下手なことすると怒られますよ」

 

「ム? 『フォートレス』と『カノン』の所カ。ならば仕方あるまい」

 

 興味が失せたとばかりに大きくため息をつくと、教授は先程まで座っていた席に戻り、つまらなそうに手を振った。

 

「さて用事は終わったねベゼルくん。さっさと自慢のバイクで帰りたまえ」

 

「俺の名前はセルジオ……って、ベゼルはあなたの名前ですよ!」

 

「そうだったかもネ。また定期メンテの頃に会いましょウ」

 

 もうこちらをみることなく、ばいばい、と手を振る姿にセルジオが仕方ないなぁとでも言いたげに笑みをこぼして研究室を出た。

 

 帰り際、出口近くまで見送ってくれたスタッフに軽く手を振りながら、二人はバイクを停めた駐車場まで歩き始める。

 

「んー、『ゼファー』デカくなったなぁ」

 

 自身の色素薄めの金髪を触りながら左腕のガントレットに視線を送る。『陸』の地味な茶色の制服とはミスマッチ甚だしかった。

 

 セルジオの視線がガントレットから滑るように、自身の左側の無言でとことこ歩くなのはへと移る。

 

 その肩を励ますように軽く叩く。

 

「今回は高町も災難だったな。けど、教授も悪い人じゃないから誤解しないでやってほしい」

 

 セルジオの知る限り教授が自分も含めて他人に興味を持つのは初めてであるように見えた。

 

(もしかして女だから、いやねえな。クイントさんと来た時は見向きもしてなかったし)

 

 もしかすれば教授がロリコンという線も残っていたが、その可能性はあえて無視するセルジオ。というか無視したかった。

 

「ねえ、セルジオくんとあの人とはどうやって知り合ったの?」

 

「俺と教授?」

 

 突然無口だったなのはから声がかかる。その意図しない質問にセルジオがしばらくなんと答えたものか、と考え込み、そして、言葉を選びながら説明を始めた。

 

「ええと、教授は管理局と契約した研究者なんだ。それで、デバイスのテスターを欲しがってたんだけど、俺より上の人間には適任者がいなくて、俺に白羽の矢がたったんだ。

 挨拶に行ったのが去年の夏だから、そろそろ一年くらいか?」

 

「そっ、か……」

 

 実を言うとテスターの条件というのが『なるべく演算能力の高い人間』というもので、しかも変わり者で知られた教授からのものという事もあって誰も引き受けたがらなかっただけだったのだが。

 

 まあ、セルジオはそこまで話す必要はないだろうと判断する。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、その……なんとなくあの人は苦手だなぁ、と思って」

 

「ははは、あの人とあったらみんな同じこと言うな」

 

 少し言いにくそうななのはをセルジオが笑い飛ばす。だが、まだなのはの表情は暗いままだった。

 どうやら、人の事を苦手と思ってしまった自分に暗い感情を抱いているらしかった。

 

 ふむ、と腕を組む。

 

 セルジオが懐から懐中時計を取り出して今の時間を確認すると、頭の中で目的地までの道筋と待ち時間諸々合わせて計算をする。

 

「なんとか間に合うか」

 

 結果、昼休みの終わりにはギリギリ、と言う所だった。

 

「なあ高町、甘いものは好きか?」

 

「え、うん、好きだけど……」

 

「君に選択肢をあげよう!」

 

 ぴっとセルジオが指を一本たてる。

 

「ひとつ、このまままっすぐ三課に帰る」

 

 びしっとさらにひとつ指を増やす。

 

「ふたつ、昼休みギリギリになるが、俺のオススメのカフェで飯を食って帰るか」

 

 そして、にひ、と笑う。

 

 なのはが一瞬ぽかんとしたようにセルジオを見つめた。

 

 やがて何を言わんとしているか理解すると、なのはが悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 

「それはセルジオくんがご馳走してくれるってこと?」

 

「ん、まあな。初任務の事の労いだとでも思ってくれ」

 

「えへへ、じゃあいっぱい食べちゃおー」

 

「お、俺の財布が死なない程度程度に頼むぞ……」

 

 少し雰囲気を楽しげななのはの顔を見てセルジオがゆるく笑って、ふと研究所の方を振り向いた。

 

(教授って、なんの研究してるんだっけ……)

 

 少し考えて見たが思い出せそうにない。

 

「セルジオくん?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 不思議そうに見ているなのはの頭を軽く撫でて気をそらして歩き出すと、セルジオはなんとなくガントレットを触った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






比較的ほのぼのかいですよね。
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