Force Detonater   作:世嗣

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奪われたモノ

 

 

 

 人気のない早朝の修練場に人影が一つ。

 

「ゼファー、セットアップ」

 

 腕のブレスレットに声をかけると一瞬でセルジオの姿がバリアジャケットへと変わる。

 

 赤と黒のガントレット、以前とは異なる黒のコート。ゼファーがメカニカルな部分を残した槍へと変わり左手に握られる。

 

「────並列思考(マルチタスク)、起動」

 

 最大十個使えるマルチタスクのうち三個をECの制御に回して、残りを戦闘に使用できるように解放する。

 セルジオの翠の瞳に僅かに赤みが差したが、それだけで破壊衝動が漏れ出すこともない。

 

「身体強化発動──異常無し」

 

 魔力を流して身体に異常がないことを確認すると、そのまま解析、槍への魔力付与、その他基本的な魔法も問題ないか確認する。

 

「じゃあ、後は砲撃と短距離転移だな」

 

 すう、とセルジオが息を吐くと、いつものようにマルチタスクに負荷をかける無茶な魔法構築ではなく、丁寧に魔法を組み上げて行く。

 

「演算式駆動開始──短距離転移(ショートシフト)待機」

 

 目視の範囲で座標を取得、構築された魔法式に座標を打ち込み、魔導師の心臓とも言えるリンカーコアから魔力を組み上げる。

 

「座標代入、演算完了──短距離転移(ショートシフト)──ッ、ぐ」

 

 そして最後に魔力を流しこもうとして、びきり、と胸の奥が鋭い痛みに襲われて、魔法式共々魔力が霧散した。

 

「はあ、はあ、く、そ……」

 

 痛みに表情を歪めたセルジオが膝をついて荒い息を漏らす。

 

 一年前、ジェイルの元から生還してからずっとリンカーコアの調子がおかしい。

 解析や強化、加速などの適性があるか瞬間的な魔力の必要量が少ない魔法は使えても、そうではないもの、砲撃や転移などの魔法を使おうとするとリンカーコアが魔力を引き出すのを拒否するのだ。

 

 理由はわからない。ただおそらくエクリプス関連だと察しはついてはいるものの、まるで()()()使()()()()()()()()()()ようなちぐはぐさが付き纏う。

 

「病院にでも、かかれりゃ、楽、なんだろうけどな……」

 

 胸を抑えてボヤく。

 

 以前は『教授』がいた。体の変調があれば彼の元を尋ねて検査してもらい、薬を処方して貰うことができた。

 

 けれど『教授』は仮の姿であり、その正体が『ジェイル・スカリエッティ』と知った今はそうもいかない。

 ジェイルはセルジオを騙して三課を壊滅させた。セルジオから全てを奪ったのはジェイルであり、その相手に力を借りるなどあり得ない。

 そも彼は既にその痕跡を完全に消して、霞のように消えてしまった。コンタクトを取ろうにも取ることはできない。

 

 故にセルジオは自分の今の身体の状態について理解が及んでいない。

 

 それは最高評議会も同様であり、セルジオの身体の件もジェイルに研究データを提出させたからこそ知り得ている。

 

 その後魔法の確認を終えると、始業の時間になるまで槍を振り、拳を握り、今の自分の技術に衰えがないかを確かめて行く。

 幼い頃から何千、何万と繰り返してきた一連の流れ。

 充分に魔法が使えないならせめて体術だけは万全に。今は一人だけで戦うわけではないのだから。

 

「……そろそろ二人が来る頃か」

 

 水を流し込んでバリアジャケットを解除してシャワールームで軽く汗を流すと制服に着替えてネクタイを締める。

 

「俺は、『セルジオ・アウディ』だ」

 

 ぱしん、と頬を軽く叩いて気持ちを入れ替える。

 気づけば毀れそうになる心の刃を保つ為、溢れそうになる自責の念を漏らさぬように、自分という存在を思い出す。

 

 このルーティンできちんと『自分』を維持する。

 

 セルジオがオフィスに戻ると、そこには既に二人の人影があった。

 

「あ、おはようございます、セルジオ一尉」

 

「おはよーですよ隊長さん!」

 

 軽い敬礼とともに声をかけてくれたのは先日三課に配属された八神はやて。ちょうど今来たばかりだったのかデスクの上の整理をしているところだった。

 そしてそれに続くようにはやての融合機、リインフォース・ツヴァイもふよふよ宙に浮かびながら敬礼を見せた。

 

「もう来てたんですか、八神二尉にリインフォース空曹」

 

「もう、隊長さん! リインのことはリインて言いって言ってるですよ!」

 

「いえ、公使を分けるのは大切ですから」

 

「でも今はここにははやてちゃんと隊長さんしかいないですよ?」

 

「それでも業務中ですから」

 

 不満そうに頬を膨らませるリインに軽い笑みを返してセルジオは自分のデスクについて今日の仕事の確認を始める。

 

「はやてちゃーん、隊長さんが冷たいです〜」

 

「そうは言っても、セルジオ一尉の言っとることもそんなに間違っとらへんからな……」

 

「それでも名前くらい読んでくれてもいいじゃないですかー」

 

「まあそれもそうなんやけど」

 

 手のひらサイズのリインに袖をぐいぐいと引かれながら、はやてが空いたもう片方の手で頬をかいた。

 

(いい人、なのは間違いないんやけどな、セルジオさん)

 

 三課に配属されて早二週間、その間セルジオといくつかの事件に当たってきた。どれも聞き込みや犯罪者の聴取といったもので、まだ戦闘を共にした訳ではないが、それだけの期間があれば大まかな人柄は掴める。

 

 セルジオははやてを元犯罪者という事で偏見の目で見たりしないし、融合機──言って見ればただの機械のリインを見下したりもせず、ちゃんと一人の局員として扱ってくれる。

 

 そういう面ではセルジオは間違いなく『良い人』だ。

 

(でもなんちゅうか、なのはちゃんに聞いていたのとはちょっとちゃうな)

 

 なのはに聞いていたセルジオ評は、『無茶しがちだが頼りになる人』、『優しくて人によく頼られる』だったのだが、どうにも今のセルジオとは少し違うように思えた。

 

(なんとか仲良くなれへんものかなぁ)

 

 ううん、とはやてが唸り、リィンの文句に相槌を返していると、そこまで無言でキーボードを叩いていた、む、と小さく声を漏らした。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、少し次の案件で調べなきゃいけない事がでてきただけです」

 

「次の案件ですか」

 

「はい、中将からの依頼で他の管理世界まで少し遠出することになりそうです」

 

「他の管理世界って、三課って地上防衛の部隊じゃなかったんですか」

 

「本当はそうなんですが、三課(ウチ)はもともと後始末に回ることも多くて、今は人も少ないですしその面が大きく出てる感じです」

 

「ははあ、なるほど」

 

 さて、とセルジオが卓上の書類を纏める。

 

「少し俺は出てきます。本部の書庫の方で今回行く世界について調べたいですし」

 

「あ、私も行きます!」

 

「リインも行くですよ!」

 

「……いえ、今回は結構です。仕事についてはそちらに転送しておいたので──む」

 

 フラットに断ったセルジオだったが、がっしとリインに袖を掴まれ遮られる。視線を落とせば人の手のひらほどの大きさの彼女は、不満を示すように膨れっ面。

 

「はやてちゃんは隊長さんの元に勉強しにきてるですよ。それをこんなとこに一人なんてないです!」

 

「む」

 

「隊長さんならちゃーんとはやてちゃんの先輩をやってくださいです!」

 

「む、む……」

 

 リインの勢いに気圧されるようにセルジオが唸った。

 それを見たはやてがチャンスとばかりに、手を上げてリインに続く。

 

「私も将来『陸』で働きたいので地上本部の書庫について教えていただけると嬉しいです」

 

「……ですが」

 

「駄目ですか?」

 

「隊長さんリインからもお願いですよ!」

 

「私が早く仕事できるようになったらセルジオ一尉も助かるんと違いますか?」

 

 はやてとリインにじっと見つめられたセルジオは暫く眉を寄せて唸っていたが、やがて根負けしたように肩を落とした。

 

 

 

 

 

 その後セルジオ達は陸の書庫に行った──はいいのだが、望むようなデータについては得られなかった。

 

 そもそも今回の案件はミッドチルダの外のもの。それを地上本部の書庫で調べようとする事が間違いだったのかもしれない。

 

「アテが外れたな……」

 

 困ったように頭をかくセルジオ。

 

「今回の案件ってどう言うものなんですか?」

 

「あー、ある企業の研究機関付近の視察……って表面上はなってます」

 

「と言うことは実際は違うんです?」

 

「ですね。なんでも企業の方から付近に不審者がいるって連絡があったらしく。その企業が管理局にもある程度繋がりがあったため……」

 

「私たちに任務が、と」

 

「そういうわけです」

 

 はあ、とセルジオが嘆息を漏らすと、はやてが、あのー、とセルジオを覗き見た。

 

「八神二尉?」

 

「陸の人って、あそこにはいかないんですか? 私たちにとってすれば、調べ物といえばあそこなんですけど……」

 

「あそこ……?」

 

 セルジオが眉を寄せると、はやてが軽く頷いた。

 

「時空管理局本局の無限情報データベース。今でも未整理の場所も多い、世界の本棚。通称──」

 

 

 ──『無限書庫』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長さーん、こっちですよー」

 

 リインとはやての案内でセルジオは『無限書庫』に訪れていた。

 

「ここが、無限書庫、か……」

 

 案内のままにゲートをくぐると、とつぜんふわり、とセルジオの体が重力から解放されて宙に浮かんだ。

 

「まさか自分がここに来る日が来るとはな……」

 

 目に入るのは上も下も右も左も本だらけ。これはたしかにその名の通り無限に広がる書庫に他ならない。

 

 

 『無限書庫』は、()()()()()()()()()()()()()である。

 

 もう失われたはずの過去の事から、学会で発表されたばかりの新しい論文まで、ロストロギアである『無限書庫』は常に情報を集め続ける。故に、凡そ『無限書庫』にない情報ないと言える。

 

 けれどその『無限書庫』を『陸』の局員が使うことは殆どない。何故か。

 その理由は簡単、『無限書庫』は『次元航行隊』の本拠地、『時空管理局本局』にあるのだ。

 

 そこに陸の管理局員がわざわざ調べ物に行くとということは『陸のデータベースではわかりませんでした。だから海の力を貸してください』と言いに行くようなものなのだ。

 

 それは『陸』の人間として我慢ならない。

 

 故に『陸』の人間であるセルジオも噂は聞けど『無限書庫』に実際立ち入るのは初めての経験だった。

 

 リインが辺りを見渡しているセルジオを連れてきている間に、はやては一人の人物に声をかける。

 

「おーいユーノくーん!」

 

「ああ、はやて。久しぶり」

 

 はやてに声をかけられた少年──ユーノ・スクライアは眼鏡を指で押し上げると、古書の閲覧を止めてはやてに手を振り返す。

 

「それで今日は僕に何の用? 確か陸に配属されたって聞いたけど」

 

「ちょっと調べ物手伝って欲しいんよ。陸の方には欲しいものがあんまあらへんくて」

 

「調べ物、ね。いいよ、内容は?」

 

「ほんま? ありがとうユーノくん」

 

 はやてがにっこりと笑うとユーノの腕をとってぶんぶんと振った。そして遠くの方でリインに無限書庫のことを教えて貰っているセルジオを呼んだ。

 

「隊長さん、こっちですよ!」

 

「あたた、リインフォース空曹ちょっと落ち着いて……」

 

 早く早くと袖を引くリインに連れられて、ユーノの前にセルジオがやってくる。

 

「ええと、ユーノ・スクライア司書長……ですよね。はじめまして、私はセルジオ・アウディ一尉であります」

 

「セルジオ……アウディ……あなたが、()()セルジオ一尉」

 

 何事かを呟き僅かに瞠目したユーノだったが、その表情もすぐにいつもの好青年然とした笑顔へと変わる。

 

「こちらこそはじめまして、僕はユーノ・スクライアです。何かあれば気軽に声をかけてくださいね」

 

「ありがとうございます、スクライア司書長」

 

 二人が和かな笑みで握手を交わす。

 

「それで調べ物、とのことでしたけど、一体何を調べれば……」

 

「あ、いえそこまでお手数はおかけしません。閲覧権限さえ頂ければ自分で調べますよ」

 

「それは流石に難しいかと。無限書庫はかなりの広さがありますし、それな検索魔法だって……」

 

「一応俺も検索魔法に心得はあります。大丈夫、()()()()()()()()

 

「セルジオ一尉流石にそれは」

 

「あ、八神二尉はスクライア司書長と閲覧許可を貰っておいて下さい」

 

「は、はあ」

 

「スクライア司書長も、そんな感じでお願いできますか?」

 

「…………わかりました。困ったことがあれば声をかけてください」

 

 セルジオは頭を下げると一人で書庫の奥に飛んで行ってしまう。

 

「隊長さんも結構勝手な人ですぅ」

 

「あー、ごめんな、ユーノくん。きっと悪気はないと思うんよ、たぶん」

 

「いいよ、それはなんとなく僕もわかるし」

 

 苦くユーノは笑って、遠くに見えているセルジオの背中をじっと見つめて、すっと目を細めた。

 

「彼が、『元』なのはの、相棒…………」

 

 その視線がほんの僅かに冷たいをものを孕んでいることにその場の誰も、ユーノ自身でさえも気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 素早く検索魔法を走らせる。

 

(……ヤガミさんもリインさんも、スクライア司書長も良い人だな)

 

 決して自分の態度は良いものではないだろう。他人行儀で、手前勝手で、褒められたものではない。以前のセルジオならこうではなかったはずだ。

 

(でも、俺は()()()()()()()?)

 

 はやてたちに好感を抱くと同時に、胸の奥でぞわりとした疑念が鎌首を(もた)げる。

 

(あの人たちが、偽物でないという確証なんて、どこにもないのに)

 

 あの日、敵はティーダに化けていて、それをセルジオは見破ることができなかった。

 容姿も声も、それどころか一人一人違うはずの魔力反応ですら全く同じ。

 そしてティーダと長年の友人であったはずのセルジオに悟らせないほどの擬態の上手さ。

 

 ならば同じように八神はやてが、リインフォースが、ユーノ・スクライアがドゥーエの変装でないという可能性がどこにある?

 変装でないと証明する手段は?

 

 ない。そんなものはありはしない。

 

 セルジオはドゥーエが変装して知人になりすましたとしても気づく手段がない。

 

 ならば、隙を見せてはいけない。心を許してはいけない。

 同じ過ちを犯してはならないのなら、セルジオは()()()()()()()()()()

 

「ん、あったな」

 

 セルジオが目当てのものを見つけ出すと二つの本を魔法で手元まで引き寄せる。

 

「あったあった、『第23管理世界』と『ヴァンデインコーポレーション』の情報。どっちも陸にはなかったからな」

 

 

 次の任務、目指す先は、第23管理世界『ヴァイゼン』。

 

 

 




 

奪ったものの名は『信頼』。

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