Force Detonater   作:世嗣

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宴の始まり

 

 

 

「えー、ではなのはちゃんの昇進を祝ってかんぱーい」

 

『かんぱーい!』

 

 クイントの音頭に合わせて三課のメンバーが声を合わせてグラスをぶつける。そして「めでたい」と何度も言いながらグラスの中身を飲み干していく。その中身は大人だけあって、なのはの飲めないアルコールを含むものだったりする。

 

「あ、ありがとうございます」

 

(この人たちただ理由にかこつけて騒ぎたいだけじゃねえかな……)

 

 その様子を少し照れながら見ているなのはの横で、セルジオが小さくため息。

 

 時刻は夕刻。場所は三課行きつけの食事処。参加人員はゼストと一部を除く非番の局員。金は太っ腹なゼスト持ちで、高町なのはの昇進を祝う食事会である。

 

 言い出しっぺはクイントだが、できなかったなのはの歓迎会も兼ねて盛大にやればいい、と言ったのはゼスト。じゃあ店を予約しておくわね、と手早く準備したのはメガーヌ。それにやんややんやと騒ぎながら賛成したのがほかのメンバー。なのはは嬉しそうに礼を言って、セルジオはそんなみんなにため息交じりでついてきた形だ。

 

 まあ、なのはが未成年なこともあって飲み屋に入らないあたりがメガーヌの気遣いで、時間が早めになっていることに三課のメンバーの根本的な人の良さがわかるだろう。はっちゃけるだけできちんと良識はあるのだ。

 

 しばらく乾杯の嵐を受けていたなのはが落ち着くと、注文したウーロン茶を一口飲んで、隣のセルジオへと目を向ける。

 

「こういうのってよくあったりするの?」

 

「んー、どうだろうな。その時々によるが、デカい事件(ヤマ)が終わった後とか、誰かの祝い事の時とかにあるかな。前だとメガーヌさんが結婚した時とかな」

 

「へぇー、仲いいんだね皆さん」

 

「まあそれが三課の良さだよ。隊長が適度に締めてくれるお蔭」

 

「さすがゼスト隊長だなぁ」

 

「はいはい、ほら飯食え高町。その有難いゼスト隊長の奢りなんだから」

 

 運ばれてきた料理をセルジオが小皿に取り分けてなのはに渡す。お礼を言ったなのはが、自身の母親が作るものとは違う見慣れない料理を物珍しそうに口に運んでいると、不意にとなりにクイントがやってきて腰掛ける。

 

「や、改めておめでとうねなのはちゃん」

 

「ありがとうございます、クイントさん」

 

「ちゃーんと乾杯も終わったし、なのはちゃんが帰りたくなったらいつでも帰っていいからね」

 

「なのはのための会なのにそれは悪いですよ」

 

「いや、いいんだよ高町。この人達の目的の一つは君のお祝いをすること。つまり、この会に高町が来た時点で目的は達成してる」

 

「うんうん。それに子供を無理やり私たちに付き合わせるなんてできないもの」

 

「心配ありがとうございます。でも大丈夫です。こういう賑やかなの楽しいですから」

 

「ならよかったわ」

 

 にっこりと嬉しそうに笑うクイント。

 

 にしても、とクイントがセルジオの肩を抱き寄せる。

 

「セルジオくんがこういうのに来るのは随分久しぶりねー。いつぶり?」

 

「前は確かギンガちゃんたちがいた時ですから……、半年前ぐらいですかね」

 

「ギンガちゃん?」

 

 聞き慣れない名前になのはが首を傾げるとクイントがすぐに補足してくれた。

 

「ウチの娘。こういうのには時々連れて来たりするのよ」

 

「そう言えばギンガちゃんたちは今日居ないんですね。ナカジマさんが面倒を?」

 

「そうそう。一応誘ったけどなんでも見たいテレビがあるらしくて。断られちゃった」

 

 まあ、でも、と言ってからかうようにクイントが笑みを浮かべる。

 

「セルジオくんが来るって言ったら二人とも来たかもね。あの子達あなたのこと大好きだし。どうする? どっちかお嫁さんに予約しとく?」

 

「またそういう冗談を。あの子たちは俺を時々遊んでくれる親戚のお兄ちゃんくらいにしか思ってませんって」

 

「さーて、どうかしらね。そんなこと言ってると足元掬われるわよー」

 

「というかそもそも俺とあの子達は一回りくらい違うんですよ。無理ですって」

 

「そんなの私とゲンヤさんだって10こくらい違うわよ。愛の前では年の差なんて無力よ。ねー、なのはちゃん」

 

「そのタイミングでなのはに振られても……」

 

 あはは、と苦笑いをするなのは。まだ初恋すらしたことのない彼女にとっては酷な話題だ。

 そのなのはの様子にクイントが目を光らせながら食いついた。

 

「その様子じゃなのはちゃん初恋まだだと見たわ。なにー、気になる人くらいいないの?」

 

「えーと、そういうのは、あんまりわからなくて」

 

「あら、クラスに一人くらいカッコいい男の子いるでしょ?」

 

「クラスの男の子は、なんだかお話が合わなくて……。だから、あんまり」

 

「じゃあなのはちゃんは年上のオトナっぽい人が好みなのかしら。じゃあ、ウチのセルジオくんなんてどーお? 安くしとくわよ」

 

「セルジオくんは尊敬できる先輩ですけど、そういうのはあんまり……」

 

「そっか、残念ねセルジオくん」

 

「なんで勝手に引き合いに出されて振られたみたいになってんの? 俺一回も高町に好きとか言ってないんだけど」

 

「次の恋を探しなさい」

 

「ごめんねセルジオくん」

 

「なんで今度は励まされてんの? いや、クイントさんそんな肩を叩かれても困りますから」

 

 しばらく三人でたわいもない会話をしていると、両手に花のセルジオを目ざとい男性局員の一人が発見する。

 

「おいおいセルジオ、久しぶりに来たんだから俺らと飲もうぜ? もう16超えたから飲めるだろー?」

 

「いや俺酒はあんまり……」

 

「まあまあそんなに強いのは飲ませないから。たまには男と絡んでくれよ」

 

「それなら構いませんが……」

 

「よーし、言質とったぞ」

 

「え」

 

「野郎どもこいつ潰してベロベロにして高町チャンの前に叩き出してやろうぜ」

 

「さーせん、店員さーん、注文いいですかー」

 

「くくく、ついにこの時が……、お前が死ぬ前に適度にストレス抜いてやる」

 

「いややめてくださいよ? 適度に頼みます適度に」

 

「ボクたちがお前を自制心の枷から解放してやるよ……!」

 

「信頼できない……。明日も仕事するつもりなんで頼みますよ?」

 

 ずりずりと男衆にヘッドロックとともに連れ去られていくセルジオ。

 

「あー、ごめんねなのはちゃん。私あっちを見に言って来るわ。阿保はいないと思うけど、一応ね。あ、でもそれじゃあなのはちゃんが一人になっちゃうか……」

 

「なのはなら大丈夫ですよ。ここでご飯食べてますし」

 

「いやそういうわけにはいかないでしょう。うーん、どうするか」

 

「じゃあ、私がなのはちゃんとのお話は私が引き受けようかしら」

 

 胸元で腕を組むという思春期男子がいれば釘付けになってしまいそうなポーズをとるクイントの背後から紫髪の女性が姿を現わす。未だコートを着たままで、顔も僅かに赤い。片手にグラスを持っているが、どうやらまだ来たばかりらしい。

 

「あら、メガーヌ。いつ来たの?」

 

「今さっき。ほら、クイントはセルジオ君のとこに行ってあげて。あの子が潰れたらめんどくさいわよ〜」

 

「ん、ありがとメガーヌ!」

 

 クイントと入れ替わるようにメガーヌがなのはのとなりに腰掛けた。メガーヌはコートを脱いで近くのハンガーにかけると、机にまだ残っている串に手を伸ばして一口かじる。

 

「メガーヌさん新しいの注文しましょうか? もうあんまり残ってないですし」

 

「いいのよ。私あんまり食べるほうじゃないしね」

 

 うふふ、と笑うメガーヌ。

 

「なのはちゃんの階級って次なんだったかしら?」

 

「一階級の昇進で、一等空士になるって聞いてます」

 

「そうなると階級の差は、クイントと二つ、私とセルジオくんとは三つかしら。もう新人扱いはできないわね」

 

「いえいえ、年数はかないません。なにより皆さんにはまだまだお世話になってばかりですし!」

 

 メガーヌはぶんぶんと首を振るなのはの姿に少し笑みを漏らして、手の中のグラスを傾ける。その姿はなのはから見ればとても大人っぽくて、まるでドラマで見るワンシーンのようにも見えた。

 

 思わずなのはは見惚れたようにメガーヌを見つめてしまう。それに気づいたメガーヌは優しげな笑みと共に「なあに?」と問いかける。

 

「メガーヌさんって大人っぽくて凄いです。なんだか憧れちゃいます」

 

「ふふ、なのはちゃんも私から見ればとっても可愛いわ。娘ができたらあなたみたいになってくれたら嬉しいもの」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

 なのははそう言って笑うもののその表情はどこか納得していないような色を示している。

 

「可愛いって言われるのは嫌?」

 

「嫌、じゃないですけど。子ども扱いされてるみたいで、少し苦手かもです」

 

「じゃあなのはちゃんは早く大人になりたいのかしら?」

 

「そう、ですね」

 

 目を閉じれば今でも昨日のことのように思い出す光景がある。

 必死に戦って、守ろうとして、それでも守れなかった、救いきれなかった、手の中からこぼれていった人がいた。

 おそらくなのはその事をずっと忘れないだろう。もっと、どうしようもない現実をも何とかできる力があれば救えた存在があった事を。

 

「私は、救いたい人を、救われなきゃいけない人を、ちゃんと助けられるような大人になりたいです」

 

 なのはの答えを聞いてメガーヌが少し目を細める。

 

(早く大人に、ね)

 

 よく子どもと大人の違いを表す言葉に次のような表現が使われる。

 

『大人になりたい、と思うのは子ども。子どもに戻りたい、と思うのが大人』だと。

 

 子どもは大人に希望を抱く。自分より身長も高く、力もあるそんな存在は、まだ幼い彼ら、彼女らにはとても遠い存在で、なんだか何でもできそうな超人的な存在にも見える。

 

 けれど、大人になれば色々と思い知るのだ。自分の力の限界とか、努力しても実現しない夢だとか、どうしようもない才能の差だとか。そうした事を知って、身を以て体験して、彼ら、彼女らは現実を抱く。そして過去へと想いを馳せるのだ。

 

 それに照らし合わせて考えるならば、『大人になれば今より凄くなれる』と考えているなのははどうしようもない子どもで、メガーヌは大人ということになるだろう。

 

 メガーヌがグラスを傾けながら少し離れたところで、男たちと酒を飲むセルジオへと目を向ける。特に酒の好みはないらしく、先程から勧められたものを飲んでいるようだ。

 

「ねえ、セルジオ君と仕事しててどう思う?」

 

「え、セルジオくんですか?」

 

「そ、セルジオ君」

 

 唐突に投げかけられた話題に目をぱちくりさせながらも、今まで二ヶ月の間引き受けた任務のことについて考えてみる。

 

「結構なのはにも気をつけてくれて、サポートとかも上手いいい先輩だと思います。ただ、ちょっと何考えてるかはわからないかもです」

 

「そーねー、セルジオ君ちょっと変なとこあるものねー」

 

「そうなんですよ。一緒にご飯食べに行っても、高町に任せる、としか言わないし、飲み物すら自分で選ばないんですよ」

 

「あはは、あったわねそんなの。私と前組んでた時もそうだったわ」

 

 メガーヌとなのはが顔を見合わせてくすり、と笑いを漏らす。共通の相手への悪口というのは人を仲良くするいい方法だ。どうやらこの場合もうまくいったらしい。

 

 くすくすと小さく笑うなのはに、メガーヌがひどく優しい笑みを浮かべた。

 

「なのはちゃん、あの子の事よく見ておいてあげてね」

 

 そして、メガーヌはグラスを傾けた。

 

 

 

「たぶん、あの子は、あなたの目指すものの一つなのかもしれないから」

 

 

 その不思議な言葉をこの時のなのはは理解できなかった。

 

 だが、しばらくして、『セルジオ・アウディ』という人間が、どういう存在なのかを本当の意味で知った時、深く理解することになる。

 

 

 からん、とグラスの中の氷が、滑るように沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





もしかしたら今日中にもう一話書き終われば前話と結合するかもしれません。
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