BLEACH 最強の剣豪   作:スマート

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たぶん、つづきません。


百戦錬磨 天下無双

 『かつて、日の本に名を遺す一人の剣豪が居た。言わずと知れた大剣豪、播磨の国より出で全国を渡り歩きその最強の名を欲しいままにした侍。後世の世に演劇、舞踊、書籍と様々な文体で残り続ける彼の残した偉業の数々は、未だ超えられていない。』

 

 

 

 

 尸魂界(ソウルソサエティ) 真央地下大監獄最下層・第8監獄「無間」

そこは、尸魂界において最も広大な場所であり、そして何よりも『何も存在しない』場所である。霊圧も、光でさえ其処では閉ざされ其処に収監されたものに永劫の孤独を味わわせるという、ある意味地獄よりも悲惨な場所。

 

 尸魂界の1000年以上にも及ぶ歴史においても、そこに収監されるものはたった数名ほどしかいない。それは、此処が本来監獄などではなく収容される死神などいなかったからに他ならない。大悪人であっても、其処に収監される前に処刑がなされるからだ。

 

 ならばなぜ、この場所が『監獄』として今も機能しているのか。その理由は極めて単純である。そこに収容された者の多くが、何らかの理由で『処刑出来ない』という身体的特性を持った者達であったのだ。

此処は、大罪人であっても処刑できない、殺す事が出来ない存在。そういった最早人外の境地へと足を踏み入れてしまった者を半永久的に閉じ込めておくためのいわば封印なのである。

 

「ああ、退屈だ」

 

 本来ならば、口も、身体の自由さえも封じられるその場所で、野太い人の声が発せられた。

非常に大柄な体躯と、その体格に増して鋭い眼光を持つその男は、退屈と言う反面歓喜によって身を震わせていた。身体に巻き付いた鎧にも似た筋肉が脈動し、その度に彼を封じるべく取り付けられた帯や鎖が悲鳴を上げるかの様に軋み、罅が入る。

 

だが、かれは此処から逃げようともがいているわけでも、無理矢理拘束を解こうと力を入れているわけでもない。ただ単純に、嬉しさからくる自然な反応だったのだ。力を封じられ、殺気石によって霊力をも封じられてもなお、数百年の間彼はこの練度の膂力を持ち続けている。

 

いや、むしろその力はそのままに精神性や、技術力は封じられる当時よりも上がっているといってもよかった。彼に与えられたのは刑期という膨大なる時間。死ぬ心配をすることなく妄想に没頭できる時を得た彼は、今まで培った知識、技術を脳内で補填再構築し、仮想敵を作り出し戦ってきた。

 

自分勝手な妄想ではなく、極めて再現度の高い…いわば成長する幻。

それは彼の有用な修行相手であり、彼が妄想を止めない限り絶対に彼を超える事の無い最高の師匠であり続けた。彼はそれらを妄想できる事へ、かつて彼らと本当に刃を交えた事を感謝した。

 

最高の死神、護廷十三隊総隊長 山本 元柳斎 重國。かの恐ろしくも美しい斬魄刀『流刃若火』と刃を交えた事数千回。

最強の死神、初代剣八 卯ノ花 八千流 最強の名を欲しいままにする戸魂界での好敵手と血沸き肉躍る殺し合い数万回。 

 

妄想から生じた身体の傷は、不思議な事に彼の身体に現れる。切り裂かれた、焼かれた、突き刺された、溶かされた、ありとあらゆる剣術によって刻み込まれた傷が、封印されてからの彼の身体には刻まれていた。

 

尸魂界にとって不幸だったのは、彼が四肢を拘束され封印されてもなお、精神の世界で成長を続ける本当の化け物だった事だろう。だれが想像できるだろうか、彼が妄想の中でひたすら修行に明け暮れていようとは。

誰が想像できようか、その妄想で作り出した相手が、寸分違わず……現実の彼らの実力であったなど…

 

「この暮らしにも飽きてしまったな」

 

数百年をもこの監獄で孤独で過ごしてきたとは思えないような、さも面白いことは無いかと問うような軽い調子で、黒い椅子に厳重に封じられた男は気だるげに首を横にひねったのだ。

 

 自分が犯してきた、切ってきた罪を感じることもなく。無間における言いようのない重圧に屈することもなく自然体とした口調で男は指を動かした。その瞬間、彼の腕を椅子に固定していた黒皮状の拘束帯が、まるで鋭い刃物によって切断されたようにちぎれてしまったのだ。

 

自由になった片腕で、人差し指を立てる様に拳を握り込むと、軽く一振り。そして更に彼の拘束は頭から順に胴体、両足とほどかれていく。

 

帯はただの帯ではない。大犯罪者を捕らえるために嘗ての四十六室や死神の技術者が考案した特別性の帯だ。霊圧をかけることはおろか、普通の力ではどうやっても切ることは出来ないもののはずだった。それが意図も簡単に、まして人差し指によって切られていく様はまさしく異常だった。

 

「刀との対話も、この闇の中での微睡も、もう…十分だ」

 

 彼はそれほど短気ではない。そして、類いまれなる精神力を持つ、それこそ与えられた刑期を全うしてなお心を正常で保てるほど。だが、彼は我慢できなかったのだ。この無間のはるか上、尸魂界の地上にて行われている剣戟の振動が、彼の心を猛烈に揺さぶった。

 

知らない者が居る。

数百年の歴史の中で新たに生まれ出た強者が居るのだろう。彼は知っている者は何処までも妄想できるが、知らないものを作り出す事は出来ない。故に、彼は新たな強者を欲したのだ。

 

並みの実力者では歯が立たないような猛者たちが、お互いに決死の覚悟で刃を交わらせる形容しがたい熱気が、彼には感じ取れた。自然、彼の頬に笑みが浮かぶ。上では、さぞ楽しそうな事が起きているのだと、かれは期待に胸を膨らませた。

 

「取りあえずは…これでいいか」

 

地下監獄再下層 第8監獄無間

通常ならばありえない事に、其処には一人の偉丈夫が一人立っていた。否……化け物が一匹…解き放たれたッ!!

 

見る者を怯えさせるような三白眼に、針金を思わせる逆立った髪、猫背にも思える姿勢から似ても似つかない一切の隙を感じさせない佇まい。それは人と言うよりは獣と表現する方が正しいかに思われた。なにより彼から発せられる殺気にも似た気配が、獲物を狩る猛禽類のそれを幻視させるのだ。

 

何気なく握った拳に人差し指を立て、とりあえずはと彼は頷いて見せた。彼には現在斬魄刀は存在しない、其れもそのはず彼は大罪人であり、無間に収容される化け物である。一部の例外を除きそんな囚人に脱獄の恐れのある武器を持たせる看守が居るだろうか。もっとも、彼にはそんな用心は用心足り得ないのだが。

 

握った指が、白銀の刀に見える。そんな現象があるだろうか。斬魄刀の能力でも特殊な技術でも、また法に触れる薬物の効果でもない。彼が培った純粋な闘気と、数百年にも及ぶ経験が彼の手元に刀を想像させてしまうのだ。彼にとって刀とは切っても切り離す事の出来ない存在。であるがゆえに、彼に対面した者は皆、彼が刀を握っていなくとも其処に刀を見てしまう、魅せられてしまう。

 

「ああ…やってるなぁ」

 

 とぼけた様に首を振り、彼が見上げたのは丁度真上。霊圧が一切遮断された空間であるのにもかかわらず地上での争いを察することが出来たのは単に『勘』の成す所業である。僅かばかり響く振動と、その前後にあった自分と同じ化け物の収監、そこから齎された情報をもとに彼の頭では、未来予知じみた推測が作られていた。

 

早く戦いたい。その本能に導かれるままに、彼は無間の床に手をついた。

果たしてはそれは、地上にどうあがいても出ることが出来ない自身の境遇を嘆いたものだったのか……それは、直ぐに明かされることになる。

 

彼の拳から発せられる圧力に無間の床が軋み悲鳴を上げた。その瞬間彼は足を思いっきりまげ、さながらカエルの様に跳躍したのだ。無音の世界に突如爆音が響き渡る。彼が跳躍した反動で、床がはじけ飛んだのだ。

霊力を一切に纏わない状態での、膂力のみによる跳躍。それは尸魂界広しともいえど彼にしか出来ない離れ業だろう。

 

そして彼は監獄の天井をしっかり見据え、自身の人差し指を天井に向けた。

 

願わくば、自身の振るう剣でまた……

 

「もう一度、名声を……」

 

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