BLEACH 最強の剣豪   作:スマート

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また、続いた。


三つ巴の攻防

『斬魄刀はただ切れればいい、刀は消耗品だ。折れればまた新たに』

 

卍解が…奪われた…!?

 

 それは赤毛に狼の顔を持つ巨漢、狛村左陣にとって自身の足場を崩されたかのような絶望にも近い光景だった。今まで自身を支え、自分と共に強くなってきた刀、その最終奥義をあろうことか敵によって使われてしまう事など、剣士にとってこの上ない屈辱であろう。

 

黒々と光る鎧を身に纏った身の丈数十尺は軽く超える巨大な武者。それが駒村の扱う卍解『黒縄天譴明王』。ひとたびその剣を振るえば空気は断ち切れ、あらゆる防壁が意味をなさず崩れ落ちる。まさに強固なる信念の象徴であるそれが、今……敵に奪われている。

 

駒村の手に映るのは、卍解を奪われ衰退した始解状態の『天譴』。具現化した斬魄刀との戦闘は、体験した事はあるが、こうも完全に力を奪われ再現されてしまえば自信が揺らいでしまう。

 

だが、彼は何十人もの隊士を預かる戸魂界の隊長だった。理不尽を前にしてなお、彼は立ち向かうことを諦めたりはしない。

 

願わくば、この事実を一刻も早く他の隊士たちに伝えなければ、その為には目の前の敵をほんの少しでも足止めしなければ。そう判断した駒村は自身の霊圧を徐々に高めていき……

 

「おお、これは……凄いな」

「なっ!?」

 

 唐突に、何の脈略もなく現れたその存在に、死神『駒村左陣』は困惑の色を隠せなかった。かつてない大戦の最中、その横合いから何の警戒感もなく、観光に来たと言わんばかりの太々しい態度で奪われた卍解を観察する男に、駒村は戦いの最中という事も忘れ呆然としてしまう。

 

一瞬、敵の応援かと思考を巡らせるが、ぼろぼろながらも死覇装を着ている事から男は死神。だが助太刀かと言えば、隊長羽織も副官証も身に着けていない時点で、この場には不相応の存在。実力不足も甚だしい。そしてあろうことかこの男は死神として自分が与えられているであろう斬魄刀を持っていなかったのだ。

 

今は大戦中、例え四番隊所属であったとしても、帯刀せずに尸魂界を出歩くなど自殺行為に等しい。現れた相手は昨年の旅禍などとは違いその全てが、隊長格に匹敵するような化け物たちなのだから。

だが、この登場が異常なものだったとはいえ、この現実を鑑みれば駒村がとったのはたった一つだった。

 

「どこの隊士だか知らないが、此処は戦場だ!刀も持たぬ者は足手まといだ、どこかに隠れていろ!!」

「ふむ...ワシを知らんか」

 

 腐っても一つの隊を治める隊長格の一人、そして誰よりも義を重んじる死神であるがこそ剣をも持たぬ一般死神が剣戟の余波で死んでしまったとあっては、寝覚めが悪かったのだ。しかし、駒村はその時点でもう一つの違和感に気が付くべきだった。

 

彼が、斬魄刀を持っていないにもかかわらず……この隊長格がぶつかり合う、膨大な霊圧が渦巻く戦場において平然としていられることに。突然の介入に気分を害した敵の殺気のこもった視線を受けてなお、其れを無視して天高く聳える鎧武者に視線を向けている事に。

 

「お前もワシを知らんのか?」

「はぁ?あんた誰よ...横合いからずけずけ入ってきちゃってさぁ?見たとこ大した霊圧も持ってない雑魚じゃない、雑魚が私の戦いの邪魔しないでよ、ねっ!!」

 

白い異国の軍服に身を包んだ黒髪の滅却師、バンビエッタ・バスターバインがそのあまりにも自身を気にも留めない態度に苛立ちを隠せず叫ぶ。

 

戦いに水を差したハエのごとき雑魚死神と、早速奪った卍解を使い天譴を差し向ける。黒い巨体が鼓動し、赤い軌跡を描きながら鉈のような巨大な武器を男めがけて振り下ろした。

 

「い、いかん......ぐっ」

「あははははっ、あっけない!隊長さん、自分の卍解で仲間が潰される気分はどう?」

 

駒村は咄嗟に男を天譴から守ろうとし、だが追撃とばかりに振り下ろされた二太刀目に男に触れることも出来ず戦場から弾き飛ばされてしまう。

 

辛うじて体勢を立て直した駒村だったが、流石は自分の身から生じた卍解。その威力は他の誰よりも自分がよく知っている。故に、それを諸に受けたであろう一般死神の運命は絶望的かと思われた。

 

「滅却師よ...貴様らには...誇りはないのか?戦えぬ者を...戦意の無いものを殺して戦士としての誇りは許せるのか!」

「何いってるのワンちゃん、戦いに誇りもなにも無いわよ。あるのはただ誰が勝って誰が死ぬかだけ。敵にたいして慈悲を期待するなんて馬鹿馬鹿しいわよ」

「だがっ...」

「うっさいわねぇ」

また一つ、失われてはいけない命が奪われたと駒村は絶叫しかけ...そこではたと異変に気がついた。爆音が響き、砂煙が舞い散るなか男の霊圧が微塵も揺らいではいないことに。

 

そして駒村は目撃する、あまりにも異常すぎる光景を。

 

「な...んだ...天譴が」

「なに...よ...これ...」

 

男へと放り下ろしたはずの巨人のごとき卍解が持つに相応しい巨大な武器。その中心から大きな亀裂が生じていたのだ。

やがて煙は晴れ、その中からたった二本の指で天譴を摘まみ持ち上げている男の姿が露になった。

 

「ふむ...この程度か」

 

天譴は力重視の斬魄刀。その卍解が、例え主従を奪われ無理に力を振るわれたからとて、ただ地面へ叩きつけたくらいで容易く折れるようなものではない。

原因は恐らく、いや確実に先ほど叩き潰したはずの男。

 

惚けた顔に三白眼を覗かせて、ひび割れ砕けていく卍解の切っ先を見つめながら、そこで初めて男は嘲笑うようにバンビエッタに視線を向ける。

 

「き、貴公は...いったい」

 

駒村の胸中は正直いって複雑なものだった。名も知らぬ死神が無事だったのは嬉しいことだが、それでも自身の卍解を受けて無傷だというのは、彼にしても思うことはあった。

 

だが、それ以上に素手で卍解の一撃を受け止める。そんな偉業を成し遂げる人物が無席なはずがないと駒村は驚愕を隠しきれなかった。駒村はその男の顔も、風体さえも覚えがなかったのだ。

 

それは敵であるバンビエッタも同じようで、訝しげに男を睨み自分の知っている死神の特徴のどれとも一致しない事実に若干の焦りを露にする。

 

「あんた...何者?陛下に渡された情報にはあんた何ていなかったわ」

「ふむ...お前の言う陛下が何者かは知らんが、それは仕方の無いことか。あれから何百と月日が流れたからな...ワシを知らないのも無理はない...か」

「......どう言うこと?いや...いいわ、どっちにしろアンタは私に殺されるんだからね!」

 

打ち砕かれた片方の天譴の柄を即座に打ち捨てた巨人は、バンビエッタの叫びに反応してもう片方の天譴を振り下ろした。

先ほどよりも強く、今度は自身の力をも上乗せして放ったそれは駒村が放つそれを上回り空気を切り裂く斬撃になって現れる。

 

バンビエッタは確信した。今度こそ死んだと。

無防備な体勢で卍解の一撃を受け止めて無事なはずがない。自身でさえ、防御していなければその威力は脅威となり得たのだから。

 

だが、だからこそ...

 

「うっそ...でしょっ...」

「なんと...」

 

 それが何食わぬ顔でたっていた。振り下ろしたはずの天譴を指で軽く押さえながら。その光景に駒村は、かつて双極の丘で見た藍染の姿を幻見してしまう。

 

何故、姿も性格も似通っていない両者を結びつけてしまったのか。それは彼らから発せられるある種の余裕だった。

 

お前程度では傷一つつけられないという、油断ではない

確信じみた余裕。そんな強者染みた独特の雰囲気が目の前の男に感じられたのだ。

 

「ほほう、これほどの巨体と交えるのは大虚とやったとき以来だ。女と思っていたが、なかなかどうして強いではないか。尸魂界の女は皆そうなのか?」

「はぁ?あんたふざけてるの?私は滅却師よ、死神風情と一緒にしないでもらえるかしら?」

「くいんし...とな、どこかで聞いたような名だな。まぁ強いことには......かわりない、か」

 

明確に向けられる純粋な殺気。

バンビエッタはそこで初めて男にたいして僅かに警戒を向けた。考えたのは、特殊性の強い斬魄刀を持っているという可能性。

 

 卍解ほど脅威でないにしろ、能力の相性的にそれは厄介なものになりかねない。第一に今まさに奪ったはずの卍解が壊されようとしているのだ。

 

卍解が邪魔をして真の力の発動が出来ない現状で、卍解を破壊できるほどの能力と相対するのは些か分が悪い。そう考えたバンビエッタだったが、持ち前のプライドが彼女の冷静な思考に蓋をしてしまう。

 

メダリオンを行使して卍解を奪うという先制を仕掛けたにも関わらず、自分の出鼻を挫かれた彼女の中には逃走という選択肢はなくなってしまっていた。

 

「くっ...こんな雑魚相手に逃げ帰ったんじゃぁ、陛下に何て言われるかわかったものじゃないわ...」

「雑魚...か、なるほど暫く見ないうちに強者が増えたようだ」

 

バンビエッタは目の前の相手を警戒すべき敵だと認めた。呆然とする駒村を尻目に、天譴明王を自身の前に配置した彼女は自分の手元へと霊子を収束させていく。

 

周囲の霊子を取り込み、自身の糧とする滅却師特有の攻撃方法。それは自分の内から発せられる霊圧と混ぜ合わせることで一陣の弓矢へと形を変える。

 

「弓...か、飛び道具を使うのか」

「何よ、卑怯だって言いたいのかしら?」

「いや、そうではない。ただ刀以外の相手と戦うのは久々でな。年甲斐もなく心が騒ぐのだ」

 

それは男の偽らざる本音だった。

戸魂界へやって来たときから数百年の間、出会ったことのなかった刀以外の方法で戦う強者の存在。男はバンビエッタに対して未知なる美味の香りをかぎとったのだ。

 

「さながら、盆の上の懐石料理...といったところか」

「......どうやら、私の事をなめてるみたいねっ、決めたわ、ただ殺してやろうと思ったけどやめた。惨たらしく死にたくなるくらい、痛ぶってから殺してアゲル」

「威勢の良い小娘だ。どれ、掛かって来るといい、軽く揉んでやろう」

 

 笑い合う二人、片方は自らの勝利を信じて、もう片方は相手の無様な姿を想像して。立ち上る強大な霊圧がぶつかり合い死闘の幕が上がる。

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