BLEACH 最強の剣豪   作:スマート

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またまた続きました。


滲み出る強者の気配 剣などいらぬ

 死神、狛村左陣は驚愕していた。霊圧が全くと言っていいほど感じられなかった男から滅却師バンビエッタの霊圧に呼応するかの如く、強大な霊圧の奔流が発生したことに。二つの相反する霊圧はお互いをはじき返さんと荒れ狂い、火花を散らしながら男と彼女の間合いを区切るように二分する。

 

「…っ」

 

 これは…これはまるで隊長格ではないか。それも自身よりもはるか格上の実力を持つ存在。無名の死神に期せずして助太刀のようになった構図に狛村は情けないような気持ちになるも、これで良くも悪くも確実に時間稼ぎが出来ると割り切った思考を展開する。全ては尸魂界の為、大恩ある山本元柳斎重國の為にと駒村は自身の感情を押し殺した。

 

 男の実力は未知数、だが先ほどの攻防を見るに自分の数倍の実力は持っていると思われた。どこの所属か、はたまた何者かもわからない男に敵を任せるのは不安ではあったが、自身より先に戦闘を離脱した副隊長、射場鉄左衛門の為にも此処は絶対に死守しなければと改めて刃を握りしめる。

 

「なんだ、来んのか?」

「……アンタ、刀はどうしたの?その黒い着物、アンタも死神でしょう?……なら、刀ぐらい持ってるんじゃないの?」

 

重圧の様に感じられた数分の間、その最中男は急に構えを解き不思議そうにバンビエッタを見つめたのだ。大きな隙。だがそれに対して彼女も仕掛けることはせず、どこか苛立った面持ちで言葉だけを返す。

それは彼女の純粋な疑問だった。自身の霊圧に対抗できるほどの力を見せつけながら、滅却師として霊圧を込め始めた自身を見てもなお、男は刀を抜く気配が全くなかったのだ。

 

 ここで男が刀を持っていないというのは大して問題ではない。死神は多種多様な手練手管を駆使して刀を別の何かに変容させているのは常套手段だと彼女は知識として知っていた。ならばこそ、此処まで来て刀を抜かないのは明らかに自分の実力が男にとって『抜くまでもない相手』だと見積もられている。と彼女は憤慨し怒鳴りつける。

 

その少女の容姿に似つかわしくない殺意と霊圧の奔流を受けてなお、男はそれを見て平然としますます分からないといった風に首をかしげたのだ。

 

「刀が必要か?」

「……アンタ、本当に人をイラつかせるのが上手いみたいね」

「そうではない、真剣が必要かと問うたのだ」

 

 分かりやすい挑発。冷静であるならば乗らない様なお粗末なものに対して、バンビエッタは頭が沸騰するのを感じていた。感情の高ぶりが抑えられない、だがそれは彼女が幼稚だったからではなく……ただ挑発も含めた戦いの回し方を彼の男が心得ていたからである。

 

こう言えば怒るだろう、こうしたらこう動くだろう、その推測の積み重ねが今バンビエッタの正気を奪いつつあった。もっとも、操りやすい手合いであった事は間違いないのだろう。そうやって男は布石を積み重ねていく。

 

「剣がなくては人は斬れんか?剣とはそんなに不便なものか?」

「なにっ…を!?」

 

 何をしたの!?そう叫びたかった彼女は、言葉を最後まで発することが出来なかった。

唐突に訪れた、首元に刃が突きたてられる感触。それは余りにも現実的で一瞬痛みさえ錯覚させるほどだった。それこそ思わず静血装(ブルート・ヴェーネ)を発動させてしまう程に。

 

だがそれでもなお、ぬるりと自身の首元に入り込む刀の嫌な感触を拭い去ることは出来なかった。何をされたのか分からぬまま、彼女は得体のしれないモノの片鱗を見たと、震えてしまう。思うように動いてくれない身体、その熱がどんどんと冷めていくのを感じて彼女は言いようのない孤独感に襲われた。

 

 息が荒くなる。それは当然だった。彼女は四肢を切られた上に今『死』んでしまったのだから。自分が今『死』んだと身体が錯覚してしまったのだ。恐怖をその顔に張り付かせて彼女は揺れる瞳で自分の首元を押さえつけた。不安だったのだ、自分の首が繋がっているのか、自分が今本当に生きているのかが今の彼女には分からなくなっていた。

 

見えざる帝国に閉じこもっていた数百余年、彼女は敗北は喫しようとも明確な死を体験した事は無かった。その為男によって齎されたそれに心を揺さぶられてしまったのだ。此処まで明瞭に死の気配を匂わせられるだけで自分が動けなくなってしまうとはバンビエッタ自身も予想外だった。

 

「ふむ、矢張り強者か、生身の人間の感触ではないな。鉄でも切ってる感覚だった」

「はぁ…はぁっ……なにを…したの」

「切ったのだ」

「そ、それが…アンタの…能力ってワケ…?」

 

それは圧倒的な霊圧で押し潰すのとも、殺気で相手を威圧するのともわけが違う。

見えない……彼女は、ありもしない剣に間合を脅かされている。

 

 刀は何処にあるのかと聞いた彼女の眼には、男の右手にすらりと伸びる白刃の斬魄刀が映り込む。焦燥しきり、霞む眼にもはっきりと何処から現れたのか分からない刀がしっかりと握られているのが見えたのだ。

切った感覚を相手に与え、また突如出現した刀。彼女はそれが精神に作用する能力であると当たりを付ける。

 

滅却師にも似た力を持つ者はいるが、あくまでそれは知識として知っているだけ。対処法は彼らが教えてくれるはずもなく、彼女はこれは不味い事になったと舌打ちする。なるほど、真剣が必要ないと豪語するだけはあると彼女は男の評価を改めた。

 

しかし『見えざる帝国』の聖十字騎士団として敗北することは決して許されない。

 

 数瞬の攻防、その一言、行動に冷静さを完全に欠いた彼女は身体に活を入れ、動きだしてしまう。止めとなったのは先の刀身の幻影だろう。一瞬でも男を恐れてしまった自分自身が彼女は、許せなかったのだ。力に絶対的な自信を持っていた彼女は、自分を恐れさせた存在を認められなかった。

 

そんなことはありえないと、自分の迷いを振り切る為に挑発に乗ってしまう。

そこで抱いた恐怖こそが、彼女の本能から来る警報だという事に蓋をして。

 

 

 

 

 仕掛けたのは勿論バンビエッタだった。先ほどの言葉に偽りはないと敵から奪った天譴明王を差し向ける。双方の刃がかけてしまった天譴は、それでもなお強大な密度の霊圧を内包していた。凄まじい速度で欠けた刃ごと拳の一撃が男へと向かっていく。だがそれは先ほどとは打って変わって陽動だった。

 

きめ細かい肌と、煽りに乗りやすい好戦的な性格が幼げな印象を与える彼女だが、その実何百年もの歴史を影の帝国で過ごした精鋭の一人である。先ほどの攻防で力技は不利だと悟った彼女は、巨大な卍解を影にする事で自身の主砲である光弓を覆い隠したのだ。

 

いくら男が天譴を止められるほどの膂力を持っていようとも、その攻撃の軌跡さえ読ませなければ反応することが出来ないと見ての判断だった。当然の如く天譴明王の攻撃を躱してのける男に、八方から無数の光の矢が襲来する。

 

周囲一帯に撒き散らされる、豪雨にも似た苛烈な光の矢の連射攻撃。それは彼女の焦りの裏返しだった。未だに首周りの痺れが取れない。その不安を押し流すように彼女は天譴を操作しながら的確に追撃を男に加えていく。能力などを使わせる暇など与えないように。

 

「あはっ、死ね!!」

 

一個人の刀ではとても反応できない方向からの攻撃、それは男の身体へと吸い込まれるように飛んでいき、見えない壁に弾かれたかのように全て崩れ去った。否、男はその全ての矢を必要最小限の動きのみで全て叩き落したのだ。自らの拳から伸びる、人差し指のみで。

だがそれは更なる攻撃の前段階に過ぎなかった。落とされた矢を見て笑みを浮かべるバンビエッタにいぶかしんだ瞬間、突如として男の拳が爆発したのだ。

 

「なんとっ」

「どう?私の力は……私の爆撃は防げないのよ!」

 

硝煙を上げながら巻き上げられる血飛沫を見て狛村は男を心配するが、当の本人は表皮が弾け飛んだ事よりもその能力其のものに興味をひかれているようだった。しげしげと皮が剥がれた拳を観察してから、また拳を握りしめたのだ。爆発物を投げられたのではなく、当たった部位が爆発した。その瞬間を男は目でとらえ、そして冷静に分析していた。

 

「妖術使いか、面白い手合いに巡り合えた」

 

 素手では触れることが出来ない攻撃。だがそういった能力を持つ手合いを男は、百を超える程戦ってきた。今更それに狼狽える程ほど無知ではない。爆発したのは薄皮一枚。男の練りに練った筋肉には届いてはいなかった。

消耗を恐れないのならば、片腕を犠牲にすれば防ぎきることが出来る程度のものだと男は当たりをつける。

 

そしてそれを即座に実験し、彼女の第二撃である矢をそれぞれ指の腹だけで防ぎきって見せたのだ。その様子にバンビエッタの不安と怒りは更に増していく。

 

「チッ……まだまだ、いくわよ!!」

 

 だが彼女もその程度で男がやられるとは思っていない。流石に全てを防がれたのは予想外だったが、思考を切り替えて後続の光の矢を作り出していく。その間に天譴が時間稼ぎとばかりに拳を振り下ろしてくる。天譴をいなして時間を取られれば、爆発する矢が襲来する。それに時間を取られていれば天譴の追撃が待っている戦術。意外にも死神の卍解を合わせる事で、攻防一体となったそれは確実に男の攻撃を封じていた。

 

手も足も出せず、追い詰められていく男の姿にバンビエッタは勝利を確信した。矢張りあの並外れた怪力も特殊な能力も絶え間なく続く矢の攻防には通用しないと。そう、思わされていた。

 

故に……

 

「ひっ…しまっ!?」

 

唐突に脳内に送り込まれた背後から迫る真剣の幻影に彼女は、戦闘中にも関わらず後ろを振り返ってしまう。滅却師の精鋭としても、ありえない隙の作り方。それほどまでに幻視した男の刃は、彼女のトラウマになっていたのだ。そしてそれは、操っていた矢の到来を数秒遅らせ、天譴の動きとのズレを生じさせたのだ。

 

「ワシは別にお前を侮っているわけではない。真剣を握らぬのは、ワケがある」

「…っ!?」

 

 男は天譴の拳を手の平でなぞり、振り下ろされる攻撃の軌道を僅かにそらす。攻撃する相手が居なくなった拳はそのまま地面に激突し、天譴はその巨体をわずかに斜めにずらされた。そのわずかな隙間にバンビエッタの顔が見えた。

 

地面に敷き詰められた床板がはじけ飛ぶ。天井にも一瞬で届く並外れた脚力で男は、瞬きする間もなく彼女と間合いを詰める。予備動作なく眼前に迫られた彼女はまたも面喰い、慌てて矢を射ろうとして、その腕を鷲づかみにされ力任せに曲げられた。無理矢理方向の変えられた矢はあらぬ方向へ発射され、壁に穴をあけて消滅する。

 

「此処まで近付かれてしまっては矢は撃てぬだろう、小娘」

「くっそがぁっ、離せ!!」

 

自分のやることなす事が悉く失敗に終わる。いや、全てがこの男の手のうちにある様な気がして気に入らなかった。怒りに任せて彼女は脚を血装で強化し男の胴を蹴り飛ばそうとするが、その前より先に男が動く。握った彼女の腕を腕力にモノを言わせて振り上げたのだ。

 

その膂力は先ほど天譴の一撃を受け止める程。彼女の華奢な体はあっという間に宙に釣り上げられてしまう。

 

「並みの刀では、斬ることはおろか素振りにすら耐えられぬのだ」

「いっ…なにを…」

 

猛烈に嫌な予感が彼女を襲う。

独白するように淡々と技を作り上げていく男は、宙に浮いたバンビエッタごと腕を振り下ろした。さながら彼女を剣に見立てて試し切りでもするかのように。

 

彼女は知らない、男の素振りで竹がささらになる事を。

彼女は知らない、男の素振りで日本刀が根折れすることを。

彼女はしらない、百年以上の時を経た男の筋力は、生前とは比べ物にならないほど活力を取り戻し、そして死神となって磨き上げられた技術もまた研鑽されていたことを。

 

彼女は、知らない!!

 

男の素振りは、今や斬魄刀を圧し折るのだ!!

 

 

「並みの剣よりはマシに出来とる」

 

 

 

 

それが、決着の合図だった。

地面にへたり込むバンビエッタ、その瞳は何も映さず虚ろだった。

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