フランス郊外の墓地。
俺は花束を持って、そこに訪れていた。あたりに人はチラホラと見え、皆それぞれ手には花を抱えている。
目的の場所へと歩を進める。ここに来るのは初めてだ、今までは確認する勇気が持てなかった。
墓標の並んだ道をあるく、通り過ぎる人はみな、大切な何かを失った顔をしていた。そうして数分歩いたところに彼女の墓標はあった。
墓標の前に花束を置く。その墓標にはアレン・リキュールドの名が刻まれていた。
「少し遅くなったか、まさか俺より先に逝くなんてな。どうも信じられない。君の墓標を見れば少しは実感が湧くかと思ったが、全然だ。君はまだあの格納庫で俺の機体を見ているものだとおもってしまう。」
俺は彼女の墓標の前に片膝をつく、冷たい風が頬を撫でる。少し、寒いか。
俺はまいてきていたマフラーをまきなおす。そして拾われた日のことを思い出していた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――――!!!」
俺は泣き叫んでいた。誰もいない広い砂浜で、喉が枯れるまで、声が出なくなり空気が出る音しか聞こえなくなるくらいになるまで泣き叫んだ。
彼は生きているんだろうか? 俺のことをプロト・ゼロと呼んでくれた人物、俺に人ということを思い出さしてくれたひと。生きているといいな、迎えに来てくれるよね?
俺はずっと彼のことについて考えていた。生存なんて絶望的だというくらいわかっていた。わかっていたが考えなかった。俺は思考を停止して、ずっと泣き叫んでいれば彼が聞きつけて迎えに来てくれる。何時だってそうだったのだ、今回も来てくれる。そう信じて疑わなかった。
「うるっさいわねぇ。向こう岸まで聞こえてきたわよ? おちおち寝て待ってもいられないじゃない。」
そんなところに現れたのが彼女だった。
「あれ、泣いてるの? ほらほら、もう子供じゃないんだからそんなみっともなく泣き喚かないでよ。それ以上やったら喉いかれるよ? もう、仕方ないなぁ。」
俺は現れた彼女に見向きもせず、泣き叫んでいた。そしたら不意に体が何かに包まれるのを感じた。とても暖かい、これは、なんだろう?
「よしよーし、まったくなんで私がこんなことやらなきゃならないのよ。うわほっそ、君ちゃんと食べてる? パッと見で漂流してきたって分かる人が食べてるわけないわよね。」
俺は彼女に抱きしめられていた。なぜだかすごく暖かい、暖かさを感じると失った水分や栄養を体が求め出す。つまり、お腹がなった。
「うん! 君歩ける? 歩けないか、まぁ大丈夫でしょう! 背中乗って、私の機体のとこ行けば非常食くらいはあるから。味気はないけど我慢してね。」
俺は彼女に背負られる。もともと体重があまりなかったため、食事を抜いたこの体はとてつもなく軽い。
そのまま運ばれた俺は、だされた非常食を無心になってかきこんだ。涙を流しながら、その暖かさを感じながら。
そして俺はAEUへと引き取られ、彼女はおれの管理役になった。
「あの、プロト・ゼロさん。ですよね?」
声をかけられる。振り向くとそこには高校生くらいの女の子がいた。手には写真を握りしめている。
「あの私、アリサ・リーバスっていいます。ちょっと教えて欲しいことがあって。」
彼女はこちらに目を向ける、
「私、軍に志願したいんです!」
俺は彼女がただならぬ思いでこれを口にしたいのが伺えた。その目には強い意志が見える、それと同時になにかに対する憎悪も見えた。
「なぜ、だい? 君みたいな子がなぜ軍に? そもそも君は若いんだ、軍になんて入るもんじゃない。」
正直なところ断ってしまいたい。彼女の目には確かに強い意志がある。だが、こんな子まで戦場に送り出したいわけがない。
「あなただって私と同じくらいじゃないですか。私は許せないんです。私は父子家庭で育ちました。お父さんは軍人で、お母さんは私が生まれた時に死んじゃって。でもそれでも寂しくなんかなかったんです。お父さんはいっつもいっつも私の気をひこうとしてお土産とかプレゼントとかいっぱい買ってくるんですけど、それでも、そんな不器用なお父さんだったんですけど。私にとっては家族なんです。たった一人の家族だったんです!」
彼女は目に涙をためながらこちらに話しかける。
「私は何度もここに来ました! 何度も何度も何度も何度も! だってお父さんとお母さんがいるから! ここでは一人じゃなくて済むから! でも気づいてしまったんです。ここにいたとしてもどうせ私は一人なんだって。優しくて少しうるさかったお父さんはもういないんだって。だからです。だから軍にはいろうと思ったんです。お父さんがいた場所、お父さんが、私の誕生日には帰ってくるよっていった言ったきり帰ってこなかった場所、そこに行けばお父さんの敵を打てると思ったから! 私は憎いんです。憎くて憎くて仕方がないんです。なんでお父さんは死ななきゃいけなかったんですか? なんでお父さんは私の誕生日に帰ってこなかったんですか? あなたはお父さんと一緒の部隊だったんでしょう? なんで守ってくれなかったんですか? 何が白銀の翼よ、お父さんすら守れない英雄なんていらない!」
そこまで言うと彼女はうつむく。手にしていた写真が落ちる、そこに写っていたのは俺の写真だった。
「わかってるんです。あなたに当たるのなんて全然意味がないことくらい。あなたがお父さんと一緒の部隊だったって聞いたのはお父さんの遺品を置いていった人からです、その時に写真ももらいました。それからはここに来るたび写真を持ってきていました。あなたに合ってみたかったから。あなたなら私の言葉をちゃんと聞いてくれるってなんでかそう思ったんです。」
彼女は再びこちらの目を見つめる。
「私はお父さんを殺したソレスタルビーイングが、ガンダムが憎い! どうかお願いです! 軍に私を連れてってください!」
そう言うと彼女は深く頭を下げた。彼女を戦場には出したくない。だが、彼女の意思を曲げることなど俺にはできない。そうわかっていた。
俺は紙とペンを取り出すとある場所の連絡先を書き出した。
「俺は君を戦場に連れて行くことはできない。だけど、その連絡先の場所で自分がガンダムと戦っても死なないと確信したときはその下にある俺の連絡先にかけるといい。その先は俺が準備しよう。」
そう言って紙を渡す。
「ありがとうございます!」
彼女は受け取るとまた深く頭を下げる。俺のしたことは正直褒められることではないのだろう。だが、止めることなどできなかった。いや、最初から止めようとは思ってなかったのかもしれない。
俺は彼女に背を向けて基地への帰り道を歩き出す。
彼女、アリサ・リーバスがその物語を綴るのは。また、先のおはなし。
今回はアレンとの出会いの記憶と、アリサとの出会いです。