操縦桿を握り締める。
その額からは汗の粒が落ちている。
その瞳は全方向を縦横無尽に動き続けており、握られた操縦桿もせわしなく動き続ける。
顔からは疲労のいろがありありと見えているが、彼を止めるものは誰ひとりとしていない。
訓練開始から早5時間、その男――プロト・ゼロはその受けた屈辱から、演習装置から一分たりとも離れようとはしなかった。
(まだだ、まだ戦える・・・)
画面には訓練開始から既に5時間もたったことが表示されている。が、まだ一機として撃墜されてはいない。
この訓練機はヘリオンにのって同じヘリオンと戦闘する装置で、一機落とすごとにスコアが100ずつはいるようになっており敵小破なら25、中破で50、大破で75、といったふうに加算されていくが、パイロットになるには少なくとも125のスコアが必要となり、エースパイロットになるには300スコアもあればなれるというようなものだ。
ちなみにかのパトリック・コーラサワーはスコアを1725としており、その腕は確かである。
だがいまそのスコア表示欄には15400といったスコアが表示されていた。
右からのリニアライフルの射撃を避けすれ違いざまにこちらもリニアライフルでコックピッドを一撃する。すぐさまほかの4機が射撃をしながら突っ込んでくるが、避けるのはたやすくソニックブレイドで先頭の一機を撃破、2機目を蹴りで吹き飛ばし3機目と衝突させ2機とも撃破。最後の4機目はソニックブレイドで翼部を切断そのまま墜落させた。
4機目の撃破を確認した後また新しい5機のヘリオンが出撃してくる。自分の機体は、右脚部に異常と左椀部欠損以外に目立った損傷箇所はない。
そして次に行こうとしたところで、訓練機の入口が開かれた。
「まーた、訓練機に張り付いてるの?そんなんじゃあ退院したばっかなのにまた入院する羽目になるよ?」
そこにいたのは俺を見つけてくれたパイロット――アレン・リキュールドの姿があった。
俺は5時間ぶりにアレンに連れられて外の空気を吸った。
「何をむきになってるのか知らないけどさ、そんなんじゃあいざという時に体壊しちゃうよ?ちゃんと適度に休憩も挟まないとだめじゃない。」
「・・・ム。済まなかった。」
「私に謝られても困るんだけど・・・、次からこんなことしないようにね。」
アレンは俺が助けられた当時こそAEUのパイロットだったが、最初の実習で不時着して以来メカニックに転向したらしい。最初から実習で何もなければパイロットになるが、無理そうだと思ったらメカニックになると決めていたらしい。
そのメカニックとしての腕はもともとそれなりにあったがこの3年間で急激に成長した。自分のヘリオンを整備していたのも彼女だ。
直接、歳を聞いたことはないが自分の2個か3個上らしい。この基地の中で俺に気兼ねなく話してくる唯一の人物でもある。
「まずはメカニックとしての報告ね、あなたの乗ってたヘリオンだけど。・・・最初から関節部分にガタが来てたのもあって墜落時にその多くがダメになってる。この機体を修理するよりも新しく機体を準備したほうがいい。ってどんな無茶させたらこんなになるんだか、メカニックの苦労も考えて欲しいところだよ。」
「そのことに関しても済まないと思っている。だが、ああでもしなければおそらく死んでいた。」
「あなたでもそこまでの相手だったのガンダムって・・・とんだ化物じゃない。」
「いや、スナイパーの方の腕はそうとうなものだったが、あの青いガンダムの方はそうでもない。だが、恐るべきは機体性能だ。おそらく人革連のティエレン、ユニオンのフラッグでも歯が立たないだろう。」
「フーン、じゃあ機体さえあれば倒せるってこと?」
「ヘリオンだったらどう頑張っても1対1で引き分けるのが関の山だろう。イナクトでもおそらく火力がたりない。」
俺がそう言うとアレンは顎にてを当て考え込む仕草をする。
「やっぱり足りないのはあの装甲を破るほどの火力か・・・、あの変な粒子のことも考えなきゃいけないし、仕事が多くて大変。」
彼女はそう言ってあからさまに肩を落とす。
「それがメカニックの仕事だろう? なに、条件さえクリアできればおれがガンダムの一つや二つ持ってきてやる。」
そういって俺は肩をすくめる。
「はいはい、それとあなたの機体少ししたら送られてくるらしいわ。届いたらあなたごのみに整備するから待ってなさいよね。」
そう言い残しアレンは去っていく、彼女は一応俺の正しい腕を知る人物の一人だ。彼女自身凄腕のメカニックでもありマッドなメカニックなのであのガンダムに対抗できるものを生んでくれるだろうと思っている。
訓練機に長くいたため汗を流そうと自室に向かう途中、女性士官に呼び止められた。
「あ! ゼロ少尉、通信が来ていたらしいのであとで返して置くようにとのことです。」
「了解しました。」
そうして一度自室へ帰り、汗を流し、身なりを整え通信ルームへと向かった。
「お久しぶりです。」
そうして俺が通信をつないだのは、俺の後見人になってくれたラグナ・ハーヴェイ氏であった。