リン……と鈴のような音に気づいて、ゆっくりと閉じていた瞼を開けた。
椅子に腰掛けて本を読んでいる内に眠ってしまったのか、膝の上に開きっぱなしになった本のページが窓から入る風でパラパラと揺れていた。
窓から見える外は真っ暗で、電気をつけていないこの部屋じゃ月の光だけが頼りになっていて、長いこと眠っていたのだと気づかされたまま、月を見上げる。
そのまま眺めていると、再びリン……と音が鳴る。
寝ぼけたままの頭で何の音だろうと必死に脳内をフル回転させて、思い出したかのように私は肩にかけた黒いポシェットから音の正体であるスマホを取り出した。
電話の着信を知らせるように、電話のアイコンと共に相手の名前が画面一杯に映る。
「出た方が、いいのかな……?」
このまま無視を決め込みたいけれど、次に会った時に文句と一緒に銃弾が飛んできそうだ。
それだけは勘弁してほしいので通話ボタンを押して「もしもし…?」と呟くと、向こうから舌打ちが飛んできた。
『…おい、何回かけたと思ってる』
「………ごめんなさい。寝てたから、気づかなかった」
声だけでも凄く苛立っているのが分かる。
そんなに電話かけてきたのか…と思いながら、後で確認だけしておこうと頭の片隅に留めておく。
『チッ…ガキが』
通話相手を宥めているのか『落ち着いてください、アニキ』という小さな声も聞こえる。
それだけで、あの2人は今日も一緒に行動しているって事が分かる。
「…それで要件は何?私、時差ボケのせいでしんどいから…できれば仕事はしたくない」
『フン…。安心しろ、ベルトットが五月蠅かったからそっちには回さねぇよ』
仕事が回さないと言われた事に内心で安心しながらも、表情などには出さずに何も言わずに続きを待った。
『お前の事だ……世界を飛び回って仕事しながら、どうせ調べているんだろ?組織を裏切ったシェリーの居場所をな…』
まるで私ならそれぐらい当然とばかりの言い方に、僅かながら思うところはあるけれどそれには触れず「うん」と答えた。
「でも、隠れている場所までは知らない。それに……………」
一度言葉を止めてから、私は目を伏せて告げた。
「シェリーは私のものにしたいから」
電話の向こうからは沈黙が流れているだけで、相手がどんな事を考えているのかは分からない。
怒っていないことを祈りながら、反応を待つ。
でも、私が自分の物にしたい=相手を殺すというのはあっちも知ってるし…怒る事はないと思いたい。
『始末できるなら、何も言うことはないが……あいつを殺そうとしているのはお前だけじゃないと覚えておくんだな』
「………その時はジンに八つ当たりする」
誰が先に見つけて殺すかの勝負みたいになってる事に、むすっとしながら小声で呟くと、聞こえていたのか『その時は、ベルトットにでもしてろ』と標的を変えるように言われてしまった。
……その時が来たら、考える事にする。
「もう切っていい……?明日、朝早くから街を歩いて回る予定だから」
『勝手にしろ。ブルームーン』
それを最後にこっちが終了ボタンを押す前に、ブチッと通話が切られた。
通話終了の画面を見ながら、私は一息ついてからスマホの電源を落として何もない天井を見上げた。
ちゃんと私らしく話す事はできただろうか…そんな疑問が頭に浮かぶ。
「なんで、今になって思い出したんだろう…」
前世を思い出してここがコナン世界だと気づいた瞬間、ジンから電話がかかってくるなんて、タイミング悪すぎて変な事言わないかずっとドキドキしてた。
しかも、転生した姿が殺戮の天使というフリホラに登場するレイチェル・ガードナーで、黒の組織の一員でありコードネーム持ちって…10代前半の幼女に何させてるの組織の人達。
×××××
ブルームーンというのはジンをベースとしたカクテルで、ドライ・ジン、レモンジュース、クレーム・イヴェットからできる。
見た目がレイチェルなせいで、お酒関係なくそういうコードネームをつけられたんじゃないかって考えた事があったけれど、調べてみればそんな事なかった。
ただの偶然だった。疑ってごめんなさい。
そんなコードネーム持ちな私だけれど、他のコードネームを持った人の事は前世を思い出すまでは、ジンとウォッカとベルモットとシェリーぐらいしか顔を合わせた事がなかったから知らなかったし、名前聞いた事あるなって程度ではキャンティとコルン、ラムだけ。
スコッチやらライとかバーボンとかキールとか……ピスコ、アイリッシュ、キュラソーなんかは前世知識で知ってるだけ。
私の組織内での交流関係少なすぎる。
「……あっちの道を真っ直ぐ歩いていけばベルモットのお気に入りがいる毛利探偵事務所があって、こっちにいけば……」
地図アプリを見ながら米花町の探索をしながら、ふと頭に疑問が浮かぶ。
……今、原作でいうどの辺りなんだろう。
海外にいる事が多かったせいか、日本で起きた事なんて何も知らないし……誰も教えてくれなかった。
お菓子でも食べながら考えようと思って、近くのコンビニに入ってみると、なぜか銃を突きつけられた上に逃げられないように拘束された。
「金を出せ!でないと、このガキを撃つぞ!!」
どうしよう……犯罪組織のコードネーム持ちがコンビニ強盗に人質にされた。
字ずらだけみたら、意味が分からなくなる。
米花町が日本のヨハネスブルグっていうこと忘れてた…って思いながら、ずっと銃を突きつける覆面を被った強盗を見上げるも、私を見てはいない。
ならばと思って、何か打開する方法がないかと周りを見渡してみる。
レジにいる若い店員さんが私を心配していのか、焦った様子で強盗の用意した鞄に売上金を入れていくが、震えているせいか時々落としている。
ならば居合わせた客は…と思って商品棚に隠れている人影に目を向けているとサッカーボールが飛んできて、強盗の顔面にヒットした。
ポロリと強盗から落ちた拳銃と、その場で伸びた強盗を呆然と見ながら駆け寄ってくる足音に耳を傾ける。
「お姉さん、大丈夫だった!?」
駆け寄ってきたのは小学生の少年。
前世で死神なんて一部で言われてた見た目は子供、頭脳は大人な……私にとってのラスボスの工藤新一こと江戸川コナンだった。
………………今すぐ帰りたい。