蒼い月は銃声を奏でる   作:まどろみ

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第3話

暗い夜道を、1人の男が息を切らせながら走っていた。

時々後ろを振り返り、怯えたような目をしながらも足を止める事はしない。

まるで強い猛獣から逃げる仔羊みたいだと思いながら、再び男が後ろを確認したタイミングで私は身を潜めていた建物の影から、走る男の進行先を拒むように前に出た。

 

「………こ、子供??」

 

私に気づくと、予想していなかったであろう光景に男が止めてはいけない足を止めた。

今にも消えそうな街灯の明かりでは、私が手に持っているものまでは見えなかったのだろう。

ゆっくりと腕を上げて、私は男に銃を構えた。

雲の隙間から顔を出した月光が銃を鈍く反射させると同時に、男の顔から表情が消えた。

前方には銃を構えた私、後方からはたくさんの足音。

彼に逃げ場はなくなっていた。

 

怖い思いをしてしまうぐらいならば、感じる暇もないぐらい楽にしてあげよう。

撃鉄を起こして指を引き金に。

私の目の前にいるのは、天使でも生贄でも人ですらない………人形。

 

「大丈夫………私が後で、ちゃんと直してあげるから」

 

私のそんな言葉は、もう壊れた人形の耳には聞こえていなかった。

 

 

 

×××××

 

 

何か夢を見ていた気がしたけれど、目覚めると同時に忘れてしまっていた。

思い出そうと必死になるだけ無駄……とばかり朝食のパンをかじりながら、テレビで流れるニュースを眺める。

読み上げられる殆どの事件は米花町で起きたものばかり。

家の中に居ても、決して安全とはいえないのが米花クオリティー。

米花の住人のメンタルはオリハルコンか何かでできてる…と思う。

探偵達とエンカウントしてしまってから、だいたい………何日か何週間か経った気がするけれど、私の中で時間経過の概念がだいぶ怪しくなってきている。

あれ…………私、いつからここに居たっけ。

 

モヤモヤしている間にもニュースは次から次へと事件を上げていき、最後にはイベントの予告などをしていた。

……ちょっとだけ、聞いた事あるやつを見つけて思わず紅茶でむせ込んだりしたけれど。

でも、そっか…………。

 

「ベルツリー急行………」

 

思っていたより早かったなと思いながら、無意識に部屋の予約をしてしまった自分に絶句した。

えっと………予約してしまったのは仕方がないし、これも組織としての仕事なんだし、多分大丈夫。

現段階では年頃の子供らしく娯楽を楽しむようにしか見えないけれど、後からちゃんと目的あるやつになるから大丈夫なはず。

……だから、ジンから舌打ちなんて飛んでこない。

今脳裏に浮かんだ舌打ちのイメージは、列車に乗れない事に対して舌打ちして悔しがっているジンだから。

私が怒られる理由はないから。

あんな取引相手の行動を確認するために、ウォッカと仲良くジェットコースターに乗って遊んでたポエマーが怒ったって怖くなんて……………ないから。

 

外から聞こえる賑やかな声に脳裏で浮かぶものを打ち払いながら、食べ終えた朝食の食器を流し台へ片付けていく。

今日は特に予定もなかったはずだし、作りかけのぬいぐるみを仕上げよう。

テレビや外から聞こえる声をBGMにして、裁縫針に糸を通す。

布に一針入れてチクチク腕を繰り返し動かしながら、一つずつ前もって作っていた布のパーツを合わせていく。

フリルやレースといったものを足せば、一気に華やかに…それでいて愛らしさが出てくるけれど、それを求めるのは今作っているぬいぐるみのモチーフとなる人物には合いそうにないし、シンプルな物になってしまう。

それでもぬいぐるみ用ボタン目玉を見ていると、もう少し……という欲が出てくる。

それらの思いを封じて、玉止めした後にも何度か針を進めてから糸を切った。

 

溢れそうなほど入った綿でできたボディは、クッションにも負けない弾力。

仕上げとばかりに残った布と我慢できずに使ったレースを組み合わせて作った帽子とジャケットを着せて……。

 

「…できた」

 

誰がどう見ても、完璧なゴリラのぬいぐるみだ。

付け足したジャケットや帽子のレースもいい具合になって、シンプルでありながら可愛い。

ベルモットは前の事があって連絡しなくなったけれど、これを機にまた私から連絡してもいいかもしれない。

 

「そうだ………名前、つけてあげないと」

 

どんな名前がいいだろう。

やっぱり、元となった人の名前とかをつけるべき…?

 

「ゴリラの……ゴリラのとー君?」

 

なんかしっくりこない。

 

「ゴリラのれー君……ゴリラのアムロレイ………ゴリラのゼロ??」

 

せっかくなんだから、もっと可愛い名前をつけてあげたい…。

言葉遊び…なんか可愛い名前…。

うーん…と唸って何かないかなと考えいると、既に番組が変わっていたテレビに映ったマスコットキャラクターが目に入った。

その瞬間、脳裏に雷のように電流が走った感覚が来て目を見開いた。

可愛い名前…これしか、ない!

 

「ゴリラのボンボン…………!」

 

どこかで誰かが叫んだような気がして首を傾げたけれど、気のせいかと思いながら早速ベルモットにメールでゴリラのボンボンを紹介してあげた。

 

それにしても、外がだいぶ騒がしい。

立ち上がって窓から様子を窺うと、車の接触事故がすぐ目の前の道路で起きていた。

よく見れば歩道の方にも被害が出てるし、さっきの気のせいだと思っていた叫び声はこれのやつだと思う。

 

「…………ベルツリーの件が終わったら、すぐに米花から出よう」

 

元々、海外で諜報や暗殺なんて事をしていたんだし…いいよね?

早くベルツリー急行に乗る日にならないかな。

そろそろ物資補充の昼間の外出で誰かとまた会う予感が…………そんなの嫌だな。

できれば、私とは無関係な方向で探偵の日常が進んでくれないかな。

組織の人間と知られてストーキングされたくない。

ロリコンストーキングは赤い人とかジンとか、自称僕の瞳はアレキサンドライトの人だけで充分だから…。

 

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