悲愴   作:茅野 紫簠

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悲愴

「ね、今日うちでご飯食べてってよ」

今はデートの帰り、私は彼を家へ誘った。

 

 

今日のメニューは私の十八番、かた焼きそば…!!

元々冷凍してあっただし汁を解凍してからテキトーに中華風にして、切って炒めた野菜を出汁の餡に絡めて、焼いた中華麺にかけて出来上がりっ!

 

 

夕飯の後は、洗い物。私はこの作業が1番苦手だ。

「やろうか?」

ふふっ……

この言葉を待っていたのだ…

「うん、おねがいしてもいい…?拭くのはやるから」

 

 

カチャカチャ… キュッ カチャ…

『おわったぁー!』

洗い物が終わった私達は、先日私が作ったケーキを食べることにした。

しかし、私の企みは、彼を終電発車時刻まで部屋に引き止めておくことだった。

 

「お風呂、入って行っちゃえば…?

明日は休日なんだし、その方がゆっくり休めるでしょ?」

彼がお風呂場へ行く。

慣れた様子で電気を付け、中の換気扇回す彼は、この家の住人のようだ。

だが彼は知らない、私の企みを…

 

実は、湯船の温度を通常よりも下げたのだ。

我が家の給湯器は旧式のため、温度表示機能など付いていない。

なので、普段よりぬるい、と言うよりも、身体が冷えていた、と考えているだろう彼を思い、含み笑いをしてしまう。

これで、風呂好きの彼なら、いつもよりも長湯をするだろう。

まるで悪戯を仕掛けた子供に戻った感覚に陥った。

 

「空いたよー。先にお風呂くれてありがと。

身体冷えてたみたいだったから、お風呂借りて良かったよ」

良かった、バレていない…

「ん、いーのいーの…あっ、、大変…!

終電の時間過ぎてる…!」

彼は急いで時計を見た。そして、少し悩みこう言った。

「ごめん、ちょっと今日、泊めてもらってもいい…?」

私は、待ってましたとばかりに答える。

「もちろん、いーよ! えへへ、久しぶりだね!」

しかし、まだ気づいていなかった。

彼がニヤリとニヒルな笑みを浮かべたのを…

 

 

「ふぅ…さっぱりしたぁー」

私がお風呂から上がると、彼はスマホでゲームをしていた。後ろから覗き込むと、私が以前、紹介したこのとあったゲームだったので、耳元で助言する。

「あーそこのモンスターやたら強いからスキル強化してからのがいいよー」

しかし彼は、聞こえていないのか、無視して敵に突っ込んで行く。

「あっ死んだ」

「もーだから言ったのに笑」

こういうところまで、彼らしいと、愛おしいと思う私は恐らく彼に溺れているのだろう。

 

「そろそろ寝ないとまずいかな?

俺、どこで寝たらいい…?」

来たっ

「それなんだけどね、、一緒に、寝ない…?

ほら、うちってセミダブルだし、狭いかもだけど、落ちないとは思う、し…だめ、、?」

そう、私はこれを待っていたのだ。

実は、今日は彼が帰省する前の最後のお泊りのチャンスなのだ。

「ん、良いよ。」

 

 

同じベッドに入ったは良いが、別に初めてではないのにも関わらず緊張している。

心臓の鼓動が、尋常でないくらい速いのだ。

 

ぎゅっ

 

私は、彼に抱きしめられた。

 

「こうしてもらうの、待ってたんでしょ?」

「っ…!!」

全部、全部ばれていたのだ。

恐らく、お風呂の辺り…

いや、もう家へ呼んだ時から勘付かれていたのかも知れない。

「こうやって俺が誘ってくるの、あんな小細工までして待ってたんでしょ?」

私は、もう観念して頷いた。

 

もうこの後は、私は彼の思うままにされるのだろう。

彼が、開くと言えばこじ開けられ、いけと言えばいき狂わされる。

まさにまな板の上の鯉だ。

自分の意思で彼の声に逆うことは、不可能なのだから。

 

こうしている間にも、私はひとつひとつ裸にされて行く。

身も心も。この言葉が1番相応しいだろう。

 

私は彼に逆らえない。しかし、そこに不満はない。

自分の意思でそうしているのだから。

 

私の口に彼の熱い舌が絡まる。

快楽、欲望、恋しさ、愛おしさ、やくそく…

その行為ひとつで交わされる。

 

なんて淫らで美しいのだろう。

ただ、淫らなだけではない。

その中に込められたひとつひとつの想いが、とてつもなく大きいのだ。

だから私は、美しさを感じる。

 

そして彼への気持ちを、再確認するかのようにすがる。

 

彼の熱が、私と交わる。

快楽だけではない、他のなにかが、私に涙をこぼさせる。

 

幸せ。

 

それを感じる時、私はもうひとつの負の感情を抱く。

不安、嫉妬、虚無感、きょうふ…

 

「愛してるっ…!!」

 

これらをくれたのは彼。

これらを彼へあげたのは私。

 

まだ夜は長い。

私たちはまた、甘い魔薬を貪る。

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