今回のサブタイトル、色は、あるんです。前回のあとがきの通り、今回から一成くんの日常は崩れ始めます。でも、色が、輝きがなくなったわけではないんです。夢に見た殺風景な世界。その謎に首をひねりながら、今ある日常を噛みしめます。さあ、始まりますよ!
一
曇っている。辺りは暗いが、一応昼間なのだろう、雲の中からは、うっすらと白い光が差し込んでいる。
そこに人はいなかった。道ばたには草が生えておらず、建物も綺麗なので、無人の町、という訳では無いようだ。目の前にたたずむ民家の庭にはプランターが置いてあり、大事に育てられているであろう花が植わっている。こんなにも生活感のある町並みなのに、この住宅街はなんだか、殺風景に感じられた。
ーーー知っている。
なんとなく、そう感じた。ただそれだけの事なのに、なぜ?なぜ、これほどの虚無感に襲われるのだろう。知らないはずなのに、知っている。もともと持っていないのに、何かをなくした気がする。この、胸にぽっかりと空いた穴を塞ぐには、どうしたらいい?
なにかの音がする。雨だ。雨が降ってきた。雨は何もかもをーーー世界にあったはずの色も洗い流してゆく。
視界がにじみ、音も遠くなってゆく。意識が薄れる。もう何も聞こえない。ただ、聞こえなくなる直前、降りしきる雨の中で、誰かの声を聞いた気がした。
二
「夢、か」
つぶやき、三枝一成はベッドから起き上がった。心なしか、汗と、涙がにじんでいる。
「ん、涙。なんで僕は泣いて…」
考えて、先ほどの夢を思い出す。
『ーーー知っている。』
あれはなんだったのだろう。
考えても仕方ないと、支度に取りかかることにした。今日も今日とて、異世界には飛ばされてはいない。
「まあ、平和なことはいい事だよね。もし本当に飛ばされたら大変だし」
日課の筋トレをこなし、制服に着替え、弟を起こし、朝食の準備を手伝う。手馴れた朝のルーティンワークだ。そして、特に大きな問題もなく家を出た。
一成の家があるのは、この田舎町の中では比較的都会じみた住宅街の一角だ。住宅街を抜け、少し進んで大きな道に出ると、いつもの待ち合わせ場所なのだが、2人の姿はない。一成は、15分だけ待つことにして、そばにある電柱に背中をあずけ、腕組みをした。
二
少し遡り、時は真夜中。とある地方都市の隣に位置する、とある田舎町の住宅街。コードネーム:iceは、電柱に寄りかかった状態で腕を組み、しきりに足でリズムを刻んでいた。
「少し早く来すぎた。そろそろ、だね」
程なく、『それ』は現れた。そして、1分経たないうちに『それ』は消えた。
「まだ未完成なのか、それとも様子見か」
iceは、ひとつ、短く息をつき、きた道を戻ってゆくのだった。
三
三枝一成は不思議に感じていた。なぜ、彼らは来ないのだろうか。そんな一成の頭をよぎったのは、二人が何らかの事件事故に巻き込まれているのではないかという懸念だった。
「彼らが遅れてくるなんてありえないし、やっぱり先に行ったのかな」
不吉な懸念は封印し、とりあえず学校に行くことにした、その道すがらの出来事であった。一成の目に、一人の少女の姿が留まった。凛とした姿で、つかつかと歩いているようで、その瞳はきょろきょろと周囲を見回しており、どこか不安の色が見える。
「君、迷子」
一成が軽く訊ねる。
「気安く話しかけないでください」
「だってさ、明らかにきょろきょろしてたじゃない」
「あなたには関係のないことです」
少女が歩調を速める。これは少し面倒だ、と一成は心の中で肩をすくめた。
「その制服、時雨のだよね。時雨高校の人」
一成も、合わせて歩調を速めた。
「ここから先は道も複雑だし、案内しようか」
少女は立ち止まり、語調を強めた。
「まとわりつかないで、鬱陶しいです。あと、道案内もいりませんっ」
先ほどよりもさらに速い歩調で、つかつかと去ってゆく。
「あ、そっちは逆方向…はぁ」
声は届かなかったと見えて、つかつかと視界から消えてゆく。
「(見事なモデルウォークだったな)」
などと考えながら、一成も学校へ急ぐ。
四
学校が近づいてきた頃、一成は少し前からしていた背後の足音を不審に思いはじめた。歩きながら、ちらりと後ろを確認すると、そこには先ほどの少女が…!少女は息を殺し、足音を忍ばせ、先ほどの堂々とした歩き方とは打って変わっておどおどした様子でついてきている。一成は振り返り、ささっと物陰に隠れた少女に、
「道案内が必要なら言ってくれればよかったのに。ほら、もうすぐ学校だよ」
と、少し声を高くして教えた。すると、少女は恐る恐るといった様子で物陰から出てきた。
「気づいているならそのまま知らない振りをしていれば良かったじゃないですか」
もっともな話である。だが、一成にはひとつの目的があった。そのために、わざわざ少女と追加のコンタクトをとったのである。
「ところで、気になっていたのだけど、君、見ない顔だけど、誰。なんで迷子になっていたの」
少女は訝しげに一成を見つめた後、口を開いた。
「柳田美桜。今日から編入することになってる二年生です」
一成はとても意外に思った。なぜなら、和風な顔立ちで、綺麗な黒髪、そして頭髪に負けない澄んだ黒色の瞳のこの少女、柳田美桜(やなぎだ みお)は、堂々とした様子ではあるが、顔立ちは幼く、身長は一成の顎辺りなため、てっきり一年生かと思っていたからだ。
「へぇ、二年なのか、なら僕と同学年だね」
「そうですか、意外でした。見た目の印象だけで、勝手に三年生かと思っていました」
思ったことは素直に口に出すタイプかもしれない、と一成は苦笑した。しかし、思春期の男子にとって、実際より大人に見られるのは決して悪い気はしない。そんなことを考えながら、成り行きで並んで登校した。
「私、職員室に寄らないといけないので」
転校の最終手続きがあるらしい美桜と別れ、一成は一人で教室へ向かった。
五
ーーーそれは、一瞬の出来事であった。
ーーーいつもの通学路を歩く女生徒の足下は、その瞬間音もなく消え去った。
ーーーそして、奈落へ落ちてゆく女生徒。
ーーーしかし次の瞬間、彼女を飲み込んだ穴は、何事もなかったかのように姿を消していた。
一部始終を見ていたもう一人の女生徒は、大変に驚き、次の瞬間その顔は絶望と恐怖に塗りつぶされていた。それもそのはずである。隣を歩いていた友人が、黒いもやに包まれたと感じたかと思えば、次に瞬いたら、女生徒の友人は影も形もなくなっていたのだから。
ーーーかくして、三枝一成の周囲で起こる、奇妙な事件が始まったのであった。
六
結局、友人二人は登校しておらず、一成は大変に心配していたが、担任からの「病欠」という情報を得て、胸をなでおろしたのであった。
そして、いつも通りの授業が終わり、下校途中のことである。今日は普段と違い、徒歩で帰宅していた。住宅街の一角に差し掛かったところで、一成はふと右を向いた。この景色は、以前からずっと知っていたように感じたのだ。しかし、と一成は首を振った。自分が何か、超常現象の類に関わっていたらいいと思うことはあるが、さすがに今回のことは強引すぎる気がした。自分の住む町だ。いつ見ていてもおかしいことはない。
自分の馬鹿げた妄想を嘲笑し、一成は我が家へと向かって歩き出した。
「そうだ、あの漫画、新刊が出たんだった。よし買っていこう」
今日も彼の住む町は、概ね平和である。
お疲れ様でしたー!今回は人が一人消えましたね。まあでもしかし、あの娘もここで退場、という訳でわないんですねー。さぁ、この物語はどこへ向かってゆくのでしょうか!?次回は私が少し頑張りますよ!お楽しみに!