お金が無い彼女達は如何にして楽園へと至ったか?   作:山雀

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なんでこんなに時間かかったんですかねぇ……





670日目 愛ゆえに

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 覚醒イベント(定期メンテ)の恩恵により、俺のアバターは無事、真・グラスランナー(笑)へと進化し、結果身長がちょっとだけ伸びた。

 

 その高さ、エロゲーのロリキャラ並み……と言われても、「俺ホモだからさ、エロゲはイケメンパラダイスな女向けしかやったことないのよね」という上位者ニキもいるだろう。

 

 そんな貴方の為にナザリックロリ系NPC身長比較表に俺らを混ぜ込んだリスト(最新版)をご用意しました。御覧ください。

 

 

 ① あけみちゃん

 ② シャルティアちゃん

 ③ 永遠の14歳

 ④ エントマちゃん

 ⑤ AIBO

 ⑥ アウラちゃん&マーレちゃん

 ⑦ 俺ちゃん(after)

 

 

 一応言うがあけみちゃんのアバターはロリエルフではない。遅れてギルドに加入したことを内心気にしているらしい彼女を仲間外れにしちゃうと、ちょいおこぷんぷん丸になってヘソを曲げちゃうのだ。

 

 彼女曰く、俺達4人はもう既にPTという枠組みを超えているという……言うなれば運命共同体。

 互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。

 一人が三人の為に、三人が一人の為に。

 だからこそ戦場で生きられ……ってしょっちゅう死んでるやんけ、ダメだったわこれ。

 

 こうして背の順でみると分かるが、俺らとナザリック勢が交互にに並んでるだけだから覚えやすいっちゃ覚えやすいかもね。ぶっちゃけ相棒と双子エルフと俺はあんまり変わりない。そして一般ロリメイドちゃんズは含まれていないのであしからず。

 

 他にもステータスが微妙な変化を起こしていたので何らかの調整が施されたようだが、昨日また「ぬわー!!」と焼き殺されたせいで本格的にレベルがヤバイこともあり、もはや以前との違いが殆ど分からない。今度レベリングを兼ねた検証が必要だろう。

 

 だが魔法関連がイマイチパッとしないのは相変わらず。

 光明が見えていたビルドの一部がおじゃんとなり、想定していた【巫覡】+【プリンセス】→(省略)→【巫女姫】へのクラスチェンジルートはもはや絶望的であると言えよう。エルフ娘ちゃんの言う、両刀プリンセスビルドは非情に厳しいものになったと言わざるを得ない。

 

 なんか商人娘がえらい剣幕で否定してきたのが気になるしね。「そんなブラック職に就くだなんてとんでもない!」という具合だ。

 彼女が言うことには、【巫女姫】=死亡フラグの塊らしいので。なんでも「家族から引き離されて、洗脳されて、人間性を失って、道具にされて、誘拐されて、エロエロなことされて、発狂しちゃって、最後には木っ端微塵に爆発しちゃうわよ! それでもいいの!?」とのこと。恐ろしいにも程がある。

 

 

 商人娘(✞悔い改め後✞)希望の俺の就職先は、【聖騎士】や【ホーリー・パニッシャー】であるという。正直意外だったが、「モモンガさんとタイマンで有利とれそうなやつ」を目指せとか言ってる。

 

 あのPvPの達人相手に有利とれとかなんとも厳しいことを仰る。

 だが、ユグドラシルプレイヤーでも最強クラスの魔法詠唱者である、かの御方に打ち勝てとは実に燃える話ではないか。先日の「クソビッチアイドル目指せよ!」に比べれば遥かにマシな発言である。

 そして彼女の胸中には、「かつて自身が憧れたたっちさんのようになってほしい」という、燻っている想いがあるのかもしれない。くっ……なんていじらしい娘なんだ……!

 

 敢えていうならば、【聖騎士】に加えて【アンホーリーナイト】も抑え、光と闇が両方そなわり最強に見えるアバターにしてみたい。俺の勘だと間違いなく【カオス・ソルジャー】とかあると思うのだ。

 

 

 あけみちゃんは兎に角、俺にお姫様プレイを推してくる。「レベル1になるようなことがあったらまずはプリンセスをとってね!」ということで、俺の根っこの素性をお姫様という設定にしてがっており、なにかと機会があれば皆でRPすることを好む。

 仲間になった女の子が、実はどこかの国のお姫様だったとかいうありがちで古臭いシチュエーションとか……王道で非常にいいと思います。女の子はちやほやされるプリンセスに憧れるものだが、男の子だって可愛いプリンセスとイチャイチャしたいという浪漫があるのだ。

 

 

 ハンマー娘は俺の進路に特に希望は無くて普通に強くなってくれればそれでいいと言う。ただ一緒に演奏会出来なくなるのは寂しい……と言われては、ますますアイドル系クラスが手放せなくなるね!

 

 

 そして先日から続いていた俺のグラスランナー(真)を巡る運営とのゴタゴタだが、実はまだこの話には続きがある。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 定期メンテナス明け直後の話である。

 

 結局クソ運営の調整力には勝てなかった俺だったが、何もアバターの修正以外に全く収穫がなかったわけではない。俺と俺の愉快な仲間たちのプレゼントボックスに詫びチケが届いたのだ。

 

 おそらくは口止め料ということなのだろう。

 グラスランナーのバグで不都合を被ったのが俺のギルドメンバー以外存在しないので、プレイヤー全員に配布するのではなくこういう対応にしたのだろうが……彼らは俺が大声でグラスランナーの背負ってきた重荷をぶちまけることを想定していないのだろうか?

 だとしたらなんとまあ手緩いことか。いやまあ、面倒だしそんなことしないけどさ。

 

 無論、こんなシケたチケットで誤魔化される俺ではない。

 無課金プレイヤーである俺らに降って湧いたこの幸運に目の色を変え受け取ったが最後、今後は何を言っても「本件は既に解決済みです」の一点張りで返されるに決まっている。コイツは使わず、ネチネチいやらしく運営の失態を責め立てるのが対応としては正解だろう。

 

 しかも枚数は各自たったの一枚ずつときたもんだ。はーつっかえ。

 クソ運営にしては奮発したつもりなのかもしれないが、やることがセコいとしか言いようがないね。身銭を切りたくないのは分からないでもないが、せめて10連ガチャチケットにしておけば話は違ったものを……愚かなる運営の浅知恵を鼻で笑う。

 

 

 ……でもこれ、引き換えに時間制限あるのよね。

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 ――もう、ゴールしても良いよね……?

 

 

 

 

 ひゃっほーいガチャの時間だああああああああああ! 二年ぶりのガチャの時間だあああああああああ! もう我慢できないのおおおおおお!!

 ガチャァアアアア!! いっぱいいっぱい回すのぉぉ!!(1回) 溶けるぅう!! 溶けちゃうううう!!

 

 

 ……何? なんか文句あんの?

 仕方ないじゃない、我慢出来なかったんだから。コレクター気質かギャンブラー気質がある人間なら誰だって、ガチャの魅惑に勝てるはずがないと思うの。

 

 それにほら、プレゼント扱いでプレミアムガチャチケット届いたら、運営に回収される可能性を考慮してとっとと使ってしまおうという心理はソシャゲーマーなら痛いほど分かるだろう。

 「好きなキャラのピックアップか期間限定ガチャで使いたいから取っておくだろJK」とか言っちゃう子は、プレゼント枠が知らない間に一杯になってて、あふれたアイテムが自然消滅しちゃってもリアちゃん知りませんからね!(2敗)

 

 

 欲望を滾らせたガチャの結果、俺がゲットしたのは《初級術師推薦書》であった。

 

 所謂転職アイテムの一種で、開放イベントを介さずに新たな職業レベルが取得できるようになる代物だが、如何せんアイテム名の通り魔法詠唱者向けとあって、俺にしてみればほぼゴミ同然。欲望センサーの感度が高すぎる。

 

 なにもMPの問題だけではない。取得魔法数が課金で上限開放出来てしまうユグドラシルの仕様上、本気で強い魔法職プレイを志すには課金が必須……つまり無課金勢でもちゃんと強くなりたいという人間にとって、魔法職という選択肢は原則ありえないのだった。

 尚、あけみちゃんは既に必要分は確保済みらしい、抜け目ないね。

 

 俺だってファンタジーな仮想世界で魔法バンバン使ってみたかったというのに……やっぱクソだわこのゲーム。

 せめて戦士職用だったならもっと有効活用できたはず。もしくは、将来の聖戦士系への転職を見越して《洗礼の聖水》辺りが欲しかったところだ。

 

 うーんそれでも敢えてこの機会に獲るならば……【地霊操師(ジオルーラー)】辺りだろうか?

 

 地脈、霊脈、龍脈やライフストリームといった、自身ではなく周囲の環境を巡るエネルギーを使ってスキルを発動することができる(という設定の)職業なので、割と魔力とかMPが乏しくてもなんとかなったはず。

 その代わりに戦闘用スキルの効果が特殊環境依存の上にマイルド、他には負の地形効果を抑えたりするパッシブスキルが覚えられるくらいだとか。

 

 ……あれ、意外と良くね?

 

 元々種族名グラスランナー(草地を駆ける者)だし、自然と調和を図る系の職種とはRP的にもなんとなく相性よさそう。その上、このアバターで魔法使いごっこもできるとすれば……。

 

 よーしリアちゃん、ここは賭けに出てこいつを育成候補にしてみようではないか。以前よりマシになったとはいえ、この体で接近戦オンリーというのはやや厳しいものがあるしね。

 流石にこれだけ死んでいるとレベルを下げることには全く抵抗がないので、駄目だったらやり直せばいいだけの話なんですがね!

 

 

 

 ……で、他のメンバーはというとだ。

 

 

 ステラママ16歳は見た感じ、キャンドル、カード、クラッカー、花火、爆弾といったパーティーグッズをテーマにしたアイテムの詰め合わせっぽいものを受け取っていた。課金アイテム扱いですらないあたりからして微妙な品々であり、彼女も難しい顔をしている。ご愁傷様。

 

 あけみちゃんはアバターのリビルドアイテムを引当て、それを使って自分の名前をカタカナ表記にした。よって彼女はこれからアケミちゃんです。一人だけ平仮名なのが仲間外れ感があったようで渡りに船とのこと。

 だが俺の美少女センサーは誤魔化せない……彼女はこの機会を利用して絶対にアバターのバストを、ちょっとだけ大きくしたのだ。絶対にだ! 見た目だけだと殆ど変わらないが、俺を抱っこした時の後頭部の収まりが格段に良くなったのが何よりの証拠。

 

 

 

 ――ところで、俺らのギルドメンバーの中で、この手の運試しに滅法強いのは誰かご存知だろうか? そうだね、話の流れから分かるかもだがハンマー娘だね!

 

 レア種族の白ドワーフとレアハンマーのセットを人生初のガチャで手に入れたことは言うに及ばず、以前ナザリックで開催された麻雀大会の例もある。

 

 悪辣な攻めに定評があるウルベルト氏、年季の入った手を仕込む死獣天朱雀氏、緻密なデータ分析で点数を伸ばすぷにっと萌え氏という、一癖も二癖もある面子を相手取りながらも初手天和をぶちかまし、以後戦略もクソもない打ち方で国士無双十三面(ライジングサン)清一色三暗刻四槓子ドラ20(バルチックフリート)純正九蓮宝燈(シベリアンエクスプレス)と立て続けに御無礼を重ねた彼女の運は謂わば国家首脳級。

 ガス欠が早いのか、連荘すると「ちょっと運が良い」レベルに落ち着いたが、レベル100の異形種連中を尽く素寒貧の死に体に貶めた挙げ句、彼女は勝者のくせに死んだ目で一同を笑った(可愛い)。

 

 「あんなに勝てるならなけなしの金貨を賭けてやらせれば良かった」とは、事が終わった後の商人娘の談である。もっとも、「未成年が賭け事なんてとんでもない!」という巨人がいたしどちらにしろ無理だったろうけど。

 それでもレベルも年齢も低いハンマー娘にしてやられたその時の苦い経験から、純粋な運勝負で彼女に挑むような輩はナザリックにはもはやいない。

 

 

 ――そんな彼女が、一発勝負のプレミアムガチャなんて回した日にゃあどうなるか。

 

 

 

 ティンティロティンティロティロリロリン! ペカー!

 

< You acquired World Item! Congratulations! >

 

「……やりました」

 

 

 

 虚空に古びた石版が出現し、自慢げに呟くハンマー娘のステータス欄に、燦然と《WI》の称号が輝く。「おめでとう、おめでとう」と拍手をする俺とアケミちゃん、そして白目を剥いたオカン。俺らの仲間にワールドアイテム持ちが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 WI……つまりはワールドアイテム。

 

 俺が今更言うまでもないことだろうが、ユグドラシルに存在する全アイテムの中でも頂点に位置する、一つ一つがゲームバランスを崩壊させかねないほどの破格の効果を持つとされている200種類の公式チートアイテム群のことである。(Wikiママ)

 

 ユグドラシルというゲームを語るにあたって、こいつの存在は避けることができない要素である。

 

 こいつが使われることによって、ユグドラシルから特定の魔法・スキルがはじめから無かったことにされたり、リアルマネーと丹精をこれでもかと込めて作り上げた俺の至高の嫁的NPCを寝取られて何処かの誰かが血涙を流したり、世界のどこかでスーパーなロボット大戦が始まったりと、それはまあ愉快な出来事が起こるわけだ。

 

 

 このワールドアイテムだが、なんとその一部が課金ガチャで手に入っちゃったりする。専ら使えば無くなってしまう消費アイテムタイプが殆どではあるが、このお陰でワールドアイテムを抱えているプレイヤーはちらほら見かけるのだ。

 

 そして俺ほどの著名プレイヤーともなれば、ゲーム内最上級レアアイテムとてそれほど珍しいものではない。

 プレイ歴はお世辞にも長いとは言えないし、当然課金などしたこともないわけだが、名前が売れれば売れるほど、この類のレアアイテムとは何かと縁が生まれるものなのは世の常である。

 

 悪名高い【二十】の一つ、使用者と被使用者のアバターを完全抹消する《聖者殺しの槍(ロンギヌス)》でさえ、俺は二度もその刃を向けられたという碌でもない過去もある。

 今こうして俺が無事でいられるのは、たまたまライブを見物しに来ていて完璧なタイミングでキャンセルスキルを発動させたワールドチャンピオン殿と、身を挺して俺を庇い、良い笑顔でサムズアップしながら光の中へ消えていった豚くん(後に復活)のお陰でしかない。

 そういった哀しい出来事を乗り越え、俺は今この場に立っていられるわけだ(しみじみ)

 

 

 さて、今回ハンマー娘が手に入れた石版……《魔神王の契約書》の効果だが、大雑把に説明すると『使用者と使用者の所属するギルドのメンバーに一定期間ワールドエネミー属性を付与して強化するよ! 頑張って他のプレイヤーを虐殺してね!』というものであった。

 

 

 ワールドエネミー……最大人数六人からなるチーム六つで構築される軍団(レギオン)ですら勝算が低いとされるバランスブレイカーな超級モンスター達である。(Wikiママ②)

 その形態は様々だが、状態異常完全無効、相手の完全耐性無視、能力超向上、レベル上限無制限化、超広範囲必中殲滅攻撃と、『ワールド』の称号に相応しい殺りたい放題な存在と化すことは間違いない。

 

 

 ……って、ちょ、おま! うちの子になんてもの寄越しやがる!

 拍手なんかしてる場合じゃねぇ! 案の定、「今までを俺達を殺してきたPK共の大粛清を始める。皆も命の収穫頑張ろー」とハンマー娘がいつになく張り切っているではありませんか。

 

 

 くっ……ここに来て俺の完璧な意識改革計画が裏目に出てしまうとは……。

 

 いつの間にか俺達が仲良く御手々繋いで世界の敵になる世界線に向かって何かが収束していっているのを感じる。

 そうでなくとも、このままでは間違いなく相棒がカルマ値真っ黒くろすけなシリアルキラーと化してしまう運命は避けられない。それなりに人生経験豊富な幼女である俺と違って、まだまだ未熟な彼女にそんな展開許されるはずもない。

 

 無論俺としては俺達全員の精神衛生上大変よろしくない為、彼女の覇道を阻みたいところ。他二人も同意見なのか、今にもワールドアイテムの効果を発動させようとしている彼女を必死で抑え込んでいる。

 

 

「やめなさい、やめ……やめろって言ってんのよ! 言うこと聞きなさい!」

 

「ヤダ。これも運命。私は世界を壊し、世界を変える」

 

「の、ノノちゃん! そんな危険物使わないで!」

 

「うるさいですね……」

 

 

 いつになく強情な彼女に、なぜか俺の良心がイタイイタイなのだった。

 

 とりま正面から纏わりついて沈静化を図る……せめて心の準備くらいさせて! お願い!

 ムギュっと童女を拘束し、なんとか大人しくさせることには成功したが……とはいえ、どうしたものですかね。

 

 今後の展開を脳内シミュレートしてみる。もんもんもん……

 

 

 

1.えんがちょ!なのでWIを即座にゴミ箱ぽいぽいしたい。

 

2.しかしシステム的に課金でゲットした扱いなのか譲渡不可属性が付いている。その辺りにぶん投げても手元に戻ってくる。

 

3.なので、他のプレイヤーに押し付けることも不可。

 

4.だがWIを抱えてるだけで余計なステータス表示が点灯しっぱなし。

 

5.それを見たWI目当てのPK連中がヒャッハーしてますます寄ってくる。

 

6.装備アイテムじゃないので死んでもドロップしない。

 

7.結果、俺達のデッドスパイラルが加速。

 

8.故に状況を打破するには彼女がさっさと使ってしまうしかない。

 

9.したらば大虐殺不可避。

 

10.事が終われば激おこPKがワンサカ復讐にやってくる。

 

11.☆ お わ り ☆

 

 

 ここまで考えて察する。アカン、これもうどうしようもないやんけ……。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 ――いい! 絶対にアタシがログインするまで大人しくしてなさい! それまで対策考えとくから! 絶対だからね! フリじゃないわよ!

 

 ――早まっちゃだめだからねノノちゃん!

 

 

 昨夜そう言い残して、カッチャマとアケミちゃんはユグドラシルからログアウトしていった。暫くの間、ギルドは俺と相棒の二人きりとなる。

 

 俺の隣には「わたしがかんがえたクズどものさつがいほうほう108しき」を嬉々として語っている童女が、ホントにどうしよう……。

 

 

 ……うん。どうしようもないので、近所の酒場で営業活動することにしました。

 PKが怖いのでフィールドに出るわけにもいかないし、俺の新アバターのお披露目もしておかなければならないので、丁度よい機会だろう。

 

 

 ――そしてライブ会場でお披露目した結果、俺の支持層(パトロン)連中の感想がものの見事に真っ二つに割れてしまったでござる。

 

 

 「あのちんまい幼女がもう見られないのは悲しい……悲しくない?」「ロリキャラが成長することなんてあるわけないじゃない!」「せっかくのレアアバターが台無しでくやしい……でも感じちゃう(ビクンビクン)」という【クソ運営分かってないな派】と、「所詮、これが低身長アバターの限度よ……!」「100%違法ロリから、リアルだと違法なロリになったのでセーフ」「むしろ体型とサイズのバランスがとれてスッキリポンよ」という【クソ運営仕事したな派】の醜い争いの始まりである。ビジュアル要素以外が一切考慮されていないのはこの際どうでもいいんだろうね。

 

 折角なので「争え……もっと争え……」とばかりに彼らを煽ってもいいのだが、どちらのグラスランナーも俺であることには変わらないので、今後も変わらぬご愛顧をお願いするに留る。

 新たなフォームに相応しいパフォーマンスを披露し、それを見て観衆がウッヒョーする。今日もユグドラシルの連中はお気楽であった。

 

 そして今日は彼らから貢物をこれでもかと一杯貰えた。

 姫プレイヤーの面目躍如でもあるのだが、今日はグラスランナー(真)の誕生記念だそうです。俺、自分の誕生日知らないから、こういうの初めてだよ。ありがとナス!

 

 

 さーて、今回のプレゼント何じゃろなー。毎回のことだが中身がピンキリで開封作業もワクワクする。

 

 ドレス、ケーキ、アクセサリー、ポーション、花束、鞭、ケーキ、う○こ爆弾、ケーキ、ステーキ、ポーション、ワールドアイテム、レオタード、スク水、ケーキ、首輪、きぐるみ、ネコミミ、メアド、ポーション、金塊、大鉄塊、ナイフ、ワールドアイテム、寄稿誌、ケーキ、ポーション、婚姻届と指輪のセット、チキン、銃……うーんこのカオスっぷり、たまらないね!

 

 ハンマー娘の独断と偏見により、ゴミと判断された物品が雀の涙な資源に変換されていくのを横目に見ながら、俺は目を逸らしたかったワールドアイテムを両方手に取る。まあ、さっきプレゼント受け取った瞬間に俺のステータス欄に【WI】って付いたので、この場にいる全員が俺のワールドアイテム獲得の事実を知ってたんですが。

 誰が俺のプレゼントに混ぜたのかは分からないが、立て続けに二つとかもう嫌な予感しかしない。

 

 うーん、見た目古びた石版とボロい革装丁の古本である。しかしこうして実際にワールドアイテムを手に取るのは初めてだが……なるほど、気分が高揚します。これだけあれば、せかいをせいふくできるかもな、むひひひひ……。

 

 

 そんでもって、これらには一体全体どんな効果が込められているのだろう。こうして普通に受け渡し出来てるってことは、課金アイテムではなさそうだけど。

 

 まず石版の方。名前は……《魔神王の禁断契約書》?

 大雑把に効果を説明すると『使用者と使用者の所属するギルドのメンバーに一定期間ワールドエネミー属性を付与して強化するよ! 頑張って他のプレイヤーを虐殺してね!』というものであった。

 

 ……なんか昨日も同じ文章読んだ気がする。

 

 っていうか思い切り被ってんじゃねーか! 世界の意思は、そんなにも俺達を世界の敵に仕立て上げたいの!?

 

 え、何ハンマー娘ちゃん。まだ続きがあるって? あ、ホントだ。どれどれ。

 

 

『また、効果対象者はもれなくイモータル系・グリムリッパー系等の種族に強制転化します。用法用量を守って正しくお使いください』

 

 

 うえー、しかもアバターの強制種族変更ときたもんだ。不死者(イモータル)系と死神(グリムリッパー)系ってぜってー異形種じゃん。アバター完全抹消とかよりはマシかもしれないが、姫プレイ出来なくなるので商人娘はマジギレ案件だろう。

 

 そんでもう一つの古本は……《ヴォルヴァの予言書》? 

 

 

『ユグドラシルで実現したいシナリオを入力して使用することで、後日開催されるゲーム内イベントにその内容が反映されちゃうかも』

 

 

 なんか最後の文体があやふやだが……ははーんなるほど、そういうわけね。完全に理解した。ユーザー参加型企画というやつで間違いないだろう。

 

 漫画やゲームで自分の考えた敵キャラが採用された時ってすんごく嬉しいらしいね。俺は絵心無かったから普通のイラストコーナーでさえも採用された試しがなかったけど。

 

 俺はウィンドウをそっ閉じする。そうか、そういうことか……。

 

 

 ――クソ運営よ、ユーザーにイベントのアイディアを募るとは、万策尽きたか……。

 

 

 このゲームの制作会社は並々ならぬ熱意をもって作り込んでるという話を聞いていたこともあり、下手すれば世界観を崩しかねないこんな迂闊なアイテムがユーザーの懐に潜り込んじゃう時点で、ユグドラシルの未来に暗雲が立ち込めていることを察する。案外、世界の終焉は近いのかもしれない。

 でもユグドラシルのシステム変更要求できるアホみたいなワールドアイテムが初期からあるって聞いたことあるしなぁ。スケジュールにないシステム変更作業とか負担半端ないどころか殺意すら湧くレベルだろうに、自らの首を絞めるような真似をする運営って馬鹿なの? 死ぬの?

 

 ……それを踏まえると、この古本は運営にとって負担が少ないという意味ではマシな効果だと言えなくもないのか。

 流石にそのまんまイベントシナリオとして採用されることはないだろうが、少なくともその原案には出来る。そうしてシナリオライターの雇用費をケチって開発費を確保しようという魂胆なのかもしれない。クソ運営にしてはやるではないか。

 

 

 ……で、チミ達はこれを使って俺にどうしろと?

 ネットは最初の炎上騒ぎ以来閲覧禁止されたままなので、最近は百科事典(エンサイクロペディア)へのネタカキコと自分たちが唄う歌の歌詞以外の書き物なんて、俺してませんよ? メールすら課金要素なので使えないし。

 

 自分たちだけで楽しむために、ユグドラシルのアイドルプレイヤーが一同に集う合同ライブとかなら分からないでもないが、ユグドラシル一般プレイヤー層にも受けの良いイベントのシナリオなんて、どうやって作れば良いんですかね?

 

 周囲を見渡しても、ワールドアイテムを押し付けられて右往左往する俺を助けてくれる者はいない。笑顔アイコンとニヤケアイコンを浮かべる奴らしかいやがらねぇ。無責任に「期待してるブヒ」という豚くんちゃんたちすらいる始末。

 俺がワールドアイテム手に入れて困っていることなど百も承知しているはずなのに。こいつら……幼女を精神的に追い詰めて愉しんでやがる……!

 

 頼れる仲間に相談しようにも、今の俺の意見を求められるのは隣にいる「ワールドアイテムげっと……おそろい……」と死んだ目をキラキラしているハンマー娘ちゃんのみ。

 二人とも魔法職も盗賊職も修めていないので、<伝言(メッセージ)>のスクロールすら使えない。従っていつものようにアインズ・ウール・ゴウンにアドバイスを求めることすらできない……!

 

 

 くっ……八方塞がりッ、俺は……一体どうすれば良いんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

『――姫様、今よろしいですかな?』

 

 

 むおっ!? 唐突に俺の脳内に悪魔的なねっとりボイスが響く……こ、これは、ウルベルト氏!?

 

 

『ワールドアイテムを手に入れたようですね。おめでとうございます。ギルドとしての位階を一つ上げたようで何より……心からの賛辞をお送りします。近い内にお祝いの品でもお送りしましょう』

 

 

 あ、これはこれはどうもご丁寧に……。

 しかしこれまたなんてタイミングの良い……しかも俺氏がナザリックを訪問する時にやってる、アケミちゃん発案恒例RPの一つ「リアちゃんをお姫様扱いして適当に盛り上がろう」モードじゃないか……これはノルしかないだろう、エンターティナー的に!

 

 丁度良いところだウルベルト殿! 今現在とっても困っているのでお主の知恵を借りたいのだ! と虚空にペコペコしながら天の声に縋り付く。いつものことながら恥も外聞もない、みっともない幼女がそこに居た。

 

 

『ククク、何事かは存じませんが、この私にそのようなことを仰るとは迂闊ですなぁ。高くつきますよ?』

 

 

 ぐぬぬ、背に腹は代えられん。その代わりに最後まで付き合ってもらうぞーと言質を取る。しめしめ、これでもう途中抜けは許さないのです。

 実はこれこれこういうわけで、ワールドアイテム三つほど処分したいのだがどうすればいいんでしょう?

 

 

『……は? 三つ?』

 

 

 そう、三つ。出来れば譲渡できる二つだけでもそっちで引き取ってもらえると大変ありがたい。

 

 

『……まあいいでしょう。都合が良いことにお役に立てそうな者もおります。ではお迎えにあがりますので、街の正門横で待機願います』

 

 

 よーし、期待できそうだな!

 ぃよっしゃ行くぞ相棒! ケーキ喰ってる場合じゃねぇ! なんとか穏便に事を収められそうだぞ!

 

 腐ってもワールドアイテムだし、アインズ・ウール・ゴウンなら喜んで預かってくれるに違いない。これで大分考えることが少なくなって楽になるぞ!

 

 

 

 

 § § § §

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 う~~ヘルプヘルプ。

 

 今ヘルプを求めて全力疾走している僕は、日本一の座を狙うごく一般的なグラスランナー(♀)。

 

 強いて違うところをあげるとすれば、男に興味がないってとこかなー……名前はオーレリア。

 

 

 そんなわけで、グレンデラ沼地にあるナザリック地下大墳墓にやって来たのだ。

 

 ふと見ると、サロンのソファに一人のブレイン・イーターが座っていた。

 

 

 (ウホッ! いい触手……///)

 

 

 そう思っていると、突然そのブレイン・イーターは僕の見ている目の前で、正面の席を指し示したのだ……!

 

 

 (打ち合わせを)「やらないか」

 

 

 そういえば此度の訪問は、分不相応に三つも手に入れてしまったワールドアイテムを処理する為であった。

 

 逆境と触手に弱い僕は、誘われるままホイホイとソファへと近づいて行っちゃったのだ。

 

 

 彼……ちょっとタコっぽい錬金術師で、タブラ・スマラグディナと名乗った。(知ってた)

 

 ミーティングもやりなれてるらしく、席につくなり僕の現状は素肌にむかれてしまった。

 

 ウルベルト氏の言葉通りに、彼は素晴らしいアドバイザーだった。

 

 僕はというと、心の琴線に触れてくる刺激の波にビクンビクン身をふるわせてもだえていた。

 

 

「ところで、俺のプランを見てくれ。こいつをどう思う?」

 

 

 すごく……大きいです……(スケールが)

 

 

「うれしいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあとことん喜ばせてやるからな」

 

 

 

 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲

 

 

 

 ……とまあ、大体こんな感じで、具体的に何があったかを100年は語り継がれている古典衆道文学に沿って表現してみました。正確にはタブラ氏だけではなくて、わざわざ迎えに来てくれたウルベルト氏も同席していたが。

 非常に珍しいメンバーであると言わざるを得ない。普段俺とはあんまり絡まないからね。

 

 生憎、モモンガ殿は不在であった。仕事が忙しいらしい。確か今は決算期だからサラリーマンはこの時期大変そうだね。多分。

 しかし流石はしつこいくらい気配り重点のギルドマスター。ちゃんと俺が困っていたら助けるようにギルドメンバーに言い含めておいてくれたようである。すまないッ……すまないッ……。

 

 

 

 以下、回想である。

 

 一刻一秒を争っていた俺は話を進めた。姫呼ばわりされていたことだし、RPも続行、レベル1【アクトレス】技能が火を噴くぜ!

 ところで、お姫様の自称って何が良いんだろうね。『妾』だろうか? 『(ワタクシ)』だろうか? 偉そうに『余』とか? それとも自分の名前まんま? それは子供っぽ過ぎるか……ロリアバターだけど。

 

 うーん、なんとなく今日は『余』でいこうかな。ちなみにRP時のモモンガ殿は『私』だ。魔道士らしくインテリっぽいリーダー設定である。慌てるといつも通りになるけど。

 

 

 そして始まった世界征服談義。なぜそんなものが始まったのかはイミフだったが、必要なことらしいので存分に語り合った。俺とて元は男の子、世界最強と世界征服には当然一家言あるものなのだ。

 

 非戦派な商人娘ならばほぼ間違いなく国連と企業連を影から牛耳る外交勝利か、さもなくば萌えカルチャーを駆使して異文化を衰退させ乗っ取る文化勝利を推すだろう。

 

 だが俺的には目的と手段が分かりやすい上に後々禍根が残らず、初心者にもオススメ的な意味で、他の文明全てを綺麗さっぱり滅ぼす征服勝利を推したい。ちなみにリアル世界基準ならば、地球を捨てて別天地を目指す宇宙勝利一択である(断言)

 

 評価は、「幼女らしからぬ主張」「戦術レベルでも話して、どうぞ」「アイドル文化で無血支配するとか言い出すと思ってた」である。うーむ手厳しい。

 

 

 ……で、世界征服が俺達の危機回避にどうつながるのかと尋ねた。

 

 結局のところ俺のギルドの規模ではいつまでもワールドアイテムを抱えている訳にもいかないし、勿体無いのでなるはやで使うしかないって。知ってた。

 

 そして都合よくお誂え向きのワールドアイテムを俺が持っているので、良さげなイベントプランを立てることでクソ運営の力を利用しユグドラシルのワールドを可能な限り征服、PK問題をまとめて解決し、更になんとかアフターケアまで完璧に出来そうとのお言葉をもらった。

 

 なるほど、そこで世界征服につながるのね……って嘘でしょ!?

 

 

「クソ運営の心理を読み、彼らが喜びそうなシナリオを用意してやればよいだけのことです。いやなに、実はたまたま、似たようなことを考えた時に没にしていた腹案がありまして」

 

 

 はー、信じられる? こちらの要望を捻じ曲げ、自分に都合が良いように解釈することに定評があるクソ運営を手玉に取ってみせると断言するんだぜウルベルト氏。

 で、具体的にどーするのって聞いたらば、ハンマー娘の望むがままに、俺達でこの際徹底的に低レベル相手のPKを目的とするプレイヤー達を皆殺しにして心を折ってしまえばって。

 

 ……何……だと……と思わないでも無かったが、そのまま話を聞いてみる。

 

 

「所詮はプレイスキルすら磨こうとしないこの世界に巣食う害虫……ユグドラシルの存続に必要不可欠な新規すら嬲って喜んでいるような連中です。他のプレイヤーはおろか、運営すら排除に諸手を挙げて賛同することでしょう。そして姫様達に手を出した結果世界が滅ぼされた……もとい、征服されたという前例を作れば、その危機感は間違いなく今後彼らの行動を縛ります」

 

 

 俺達が普通の女の子になるためには、どうやら覇道を志すしかないらしい。

 

 でもそれだと世界の憎しみが俺らに集まってしまうのでNG。それに恐怖では人は支配できない。そのやり方ではいつか必ず報復を受けるものだ。

 なので一片の肉片すら残さず彼らと彼らの係累は余さずこの世から消滅させるべきなのだが、残念ながらこの世界の命はストック制ではないのだった。

 

 しかし、そんな俺の意見に対してダメ出しが始まる。

 

 

「どうせPK共をなんとかしない限り、姫様達の今後に未来はありません」

 

「フィールドに出る度に殺されるものだから、レベルがちっとも上げられなくてずっとクソ雑魚ナメクジというのでは、今のままだと貴方は一生無力な幼女のままです」

 

「プレイ方針の組み立てを間違いましたね。ドリームプレイを志すのは大いに結構。ですが貴方が真っ先にするべきは人間共に愛想を振りまくことなどではなく、己が盾となる肉か……同士を募り、技を鍛え、我々のように強力なギルドを構えることだったのですよ」

 

「そうすれば、今頃は思う存分に遊んで暮らせていたものを……感情に任せるがまま動き、結果いいようにPK共に弄ばれるとは愚の骨頂です」

 

「人数はそれ即ち力。数を揃えられなければどれほど個人が強い力を得ても、結局は結束の力に対抗出来ません」

 

「事ここに至っては、これ以上貴方に味方するものはいない。要は『詰み』です。ワールドアイテムはその問題が表面化する切っ掛けになったに過ぎません」

 

 

 こんな感じで、ひたすら正論で心にグサグサくることこれでもかと言われた俺の気持ち、分かる? 久々に、この世界に二度も生まれてきてごめんなさいしたくなったよ。

 

 俺だって……俺だってもっと可愛い女の子の仲間集めたハーレムギルド作ってみたかったよ……(切実)

 でも人見知りが激しい商人娘ちゃんの事を考慮したらば、そんなこと出来るはずもない。ちょっと見知らぬ他人が近づいてきただけでガタガタ震えだしちゃうほどなのだぜ? アケミちゃんが加入したのだって実は奇跡に近い出来事なのだ。

 

 しかし、改めて言われれば俺のプレイスタイルは最初の一歩から間違っていたとしか言いようがない。

 

 くっ……はじめからWikiを読み込んでおけば、こんなことにはならなかったものを……初見プレイで攻略情報など邪道と決めつけ、軽くしか読まなかったのがここに来て響くとは……!

 

 

「それにですね……」

 

 

 言葉を続けるウルベルト氏。おうふ……これ以上まだ何かあるの!?

 やめてクレメンス……もうとっくに俺の精神的ライフはゼロよ……。

 

 

「ネットでは、貴方の死に様が定番のネタになっていますよ? 悔しくないんですかそんな扱いで」

 

 

 まさかの衝撃の真実2であった。「にゃんですとー!?」と、RP中に口調が崩れてしまった俺をどうか許して欲しい。

 

 

「有名ですよ? 一生ネットの晒し者になるのは確定です。ステラさんたちは貴方の心情を慮って、ネットそのものを貴方に使わせていなかったようですが」

 

 

 俺の脳内で、アヤメ科フリージア属・半耐寒性球根植物の種の名前が浮かんだ。

 フラフラと床に崩れおちる。ここで演出すべきは悲劇のヒロインである。間違っても喜劇に救いを見出された哀れな男ではない。

 

 お、俺は、そんなネット上での扱いも知らず、これまで生き恥を晒しながらアイドル活動をしていたというのか……。

 いや、なんか……死にたくなってきた。恥ずかしいとかそういうのではなく、なんかこう……完全に死にたい。

 ぐぅぅ、俺の胃がキリキリ痛む。こ、これがリアルボディの身体的損傷が仮想でもフィードバックされるという逆流現象というものか……演技とか抜きで顔がゆがむ。ま、すぐに治るだろうけど。

 

 

「貴方の存在は今言った通り厄介極まりない。一緒にいるだけで大なり小なり迷惑を被ってきたでしょう。……にもかかわらず、彼女達は貴方のことを見捨てなかった……ひとえに、愛ゆえに」

 

 

 うっほほーい、ここにきて愛ときたもんだ。悪魔系異形種が愛とか語りだすとひどくシュールである。

 でも愛って便利な言葉だよね。人を救うにも絆すにも十分な理由にできるって意味で。

 

 

「これまでずっと一緒にユグドラシルをプレイされた。貴方のドリームプレイを阻む事無く。これを愛と言わずになんと表現すれば良いと?」

 

 

 横を見ると、ハンマー娘が全力で同意している。「そ、そうだったか……俺は……愛されていたのか……」的な雰囲気を醸し出す。

 余談だが、俺はギルドメンバーの俺に対する愛を疑ったことなど微塵もない。なんだかんだで俺のドリームプレイを応援してくれたり、一緒に演奏会に興じてくれたり、ご飯を作ってくれたり、ハグしてくれたりと、得難き最高の仲間たちである。

 

 

「悔しくないのですか? いつまでも負けっぱなしで恥ずかしくないんですか? 勝ちたくはないのですか? 彼女たちの愛に報いたいとは、思わないのですか?」

 

 

 悔しくないわけない。恥ずかしい。勝ちたいです。もう負けたくないんです。愛されるだけ、愛したいのです。いや、それ以上に……!

 そんなことを呟きながら涙アイコンを浮かべ慟哭。ちっ、課金さえできれば涙エフェクトが使えるものを……。

 

 

「今まで貴方達を苦しめたPK共、許せますか?」

 

 

 ゆ゛る゛さ゛ん゛!! ……こんな感じでおk?

 

 

 

 

 

「――――結構。それでは、如何でしょう。彼女達の愛に報いる……そのための世界征服、そのための覇道。我々も、影から応援致しますとも、ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぅ。まあこんな感じの運びになりましたとさ。

 

 いやぁ、久々に熱くなってしまった。俺の相談ついでにRPをしてくれるウルベルト氏らはこういうゲームの楽しみ方を本当に分かってらっしゃることで。

 

 相談事? 結論だけを言えば「もう面倒くさいからさっさと使っちまえばいいんじゃないっすかね?」の一言である。

 

 うんまあ、そんなわけでワールドアイテムはどうにかなりそう。

 二つはパーッと使ってしまって、残り一つはアインズ・ウール・ゴウンに預けるのだ。ワールドアイテム持ちというステータスは惜しいが、こうしておけばいつでもその地位には戻れる。そこら辺のレンタル倉庫より遥かに安全なのだから。

 

 タブラ氏のお陰で、大体の筋書きは完成している。あとはウチのオカンとアケミちゃんの決済がおりれば即時プラン発動予定。

 ちょーっとだけ、アイドル業から女優業に比率を振るだけのことである。世界征服を狙うワールドエネミー(幼女)とか、ユグドラシルプレイヤーの皆さんは楽しんでくれるだろうか?

 

 それにネットでの俺の扱いとかショッキングな出来事もあったけど……色々演技にのって吐き出したお陰で大分心が軽くなった気がする。

 最近はほそぼそとしたアイドルプレイに満足して大人しくしていたこともある。たまにははっちゃけてみるのも悪くない。

 何事も暴力で解決するのが一番手っ取り早いって言うし、アバターチェンジしたことも含め良い機会なので、過去の自分に俺は別れを告げるのだ。

 

 

 

 

「――ふふふ……我が半身……ずっとずっと一緒……どこまでも一緒……」

 

 

 

 お、おうふ……。

 

 そして俺に対するハンマー娘の懐き具合が半端ない。今拠点への帰り道なんだが、厨二入ってる上にこれでもかというくらいひっついてくる。

 確かに思春期の病気を患う年頃の子だし、これまでも俺の傍から離れることなかったけど、いつも以上ですよこれは……。

 

 ハンマー娘さんや、ちょっと周りのPCの視線が気になるんですけど! いや、仲良しできるのは嬉しいけど!

 

 

「ノノカ」

 

 

 ほえ?

 

 

「ノノカって呼んで、マスター」

 

 

 『ギルド』が抜けてますよノノカさん!

 

 

「……すき……もう離さない……永久に……」

 

 

 ……俺、何かやっちゃいました? 皆で楽しく適当な寸劇したくらいしか心当たりないんですが。

 

 ちょっとだけ、俺と手を繋いでいる童女がこわい。

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

「本当に上手くいっちゃいましたね……」

 

「激情型にして劇場型の典型みたいなものですからねぇ、あのお姫様は。うまく場を整えてやればこんなもんです」

 

 

 閉じていく転移門を見ながら、タブラ・スマラグディナは呟く。どうにも幼気な少女を洗脳してしまったような、そんな後味の悪さを感じて仕方がない。

 今回の筋書きを書いたウルベルトに視線を向けると、オーレリアから受け取った石版を手持ち無沙汰にお手玉していた。

 

 

「でも、いいんですかこんなことしちゃって」

 

「さっきも言った通り、彼女たちがあの人数で本気で上を目指すのなら、今のプレイスタイルはどのみち止めさせないといけません」

 

「それはそうですが……」

 

 

 今回の一件は、全て彼らが仕込んだ茶番である。

 ありったけの偽装処置を施し、人間種に偽装させた工作員――フラットフットだが――を少女たちのライブ会場に潜り込ませ、プレゼントの山にワールドアイテムをこっそり混ぜたのだった。

 

 

「やれやれ、いつもの悪役(ヒール)と違って、こういうのは慣れませんね。もし皆にバレたら、なんて言われることか」

 

「どうせ近々引退してしまうのですから、後のことなど残ったメンバーに適当に任せれば良いんです。むしろ感謝してほしいくらいですよ。嫌われ役をやってあげたんですから」

 

 

 この事を知るのは限られた少数のメンバーのみ。密かにワールドアイテムの情報を集め、わざわざ遠出までして探してきたことすらモモンガを始めとするメンバーは知らない。

 

 

「……ですが、目的としては半分しか達成できませんでしたのは残念です」

 

「自力で一つ、ワールドアイテムを手に入れてしまっていたのは計算外でしたね……予定では、この機会に異形種にして我々の後釜に納まってもらう予定でしたのに」

 

「るし★ふぁーさんやベルリバーさん達にも手伝ってもらって、苦労して手に入れたのに、結局戻ってきちゃってますしね。似たようなのをガチャ一発って、笑っちゃいますね」

 

「素人の幸運に負ける……ま、そういうこともあるでしょう。気にするだけ無駄です」

 

 

 そう呟きながらウルベルトが掲げるワールドアイテム《魔神王の禁断契約書》を見る。

 妹分を手助けすることは勿論だが、どちらかと言えば彼らの主目的は彼女たちを異形種にしてしまうことにあった。

 

 

「自分たちが抜けてもギルドが寂しくならないように……ですか。まあ彼女達なら、他の皆も文句は無いでしょうけど。無駄になっちゃいましたね」

 

「後で必要になるかもしれません。彼女たちがアインズ・ウール・ゴウンに泣きついてきたら、改めて送りつければ良いでしょう」

 

「それもそうですね」

 

 

 これはもう、彼女たちのものだ。そういうことになっている。望むならそのまま渡してやれば良い。

 

 

「……ところで、ホントに上手くいくんですか? あの計画。それっぽく盛り上がりそうな設定は書きましたけど……」

 

「成功しようが、失敗しようがどっちでも良いんですよ。彼女達がPKされることがなくなればそれでよし。自力ではどうしようもなくなって途方に暮れているところを勧誘して、アインズ・ウール・ゴウンに合流させる形で保護するならそれもよし」

 

 

 うわぁ……えげつな……

 

 そう思ったが、口にはしなかった。どうせ、「褒め言葉ですね」とか言い返されるに決まっているので。

 

 

「しかしまた愛とは。全然似合わないことをいうものですね」

 

「良いじゃないですか。愛って人を騙すにも貶めるにも便利な言葉ですよ。あの二人は本物みたいですが……」

 

「……そういえば、さっきのシーン見ます? 録画しましたけど」

 

「事が終わったら、ギルメンに配るなり掲示板に上げるなりすればいいんじゃないですかね」

 

「……絶対恥ずかしくなって将来悶え苦しみますよ、彼女」

 

「ま、それもまた良しです。若気の至り、美味しく頂きましょう」

 

 

 手を振り歩き去る大悪魔を見送りながら、タブラ・スマラグディナは今日の収穫を確認する。これもまた、協力者各位への報酬となるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『――そう、か……余は、最初の一歩から間違っていたのか……』

 

「ここらへんかな」

 

 

 動画を適当に早送りすると、絨毯に両手をつくオーレリアのシーンだった。この辺りから場が盛り上がっていたっけ。

 

 

『確かにそうだ。余は弱い。余一人では何も出来ない。一人では駄目だ……今の余には、あの者たちが必要なのだ……!』

 

「ほくほく」

 

『それに……ふふふ、世界征服――なんとも心が躍る響きではないか。言葉にしてみると分かるゾ……余はこれほどまでに世界が欲しかったのか……そうとも分かっている。求めるとは? そうだ――愛しているから求めるのだ!』

 

「イイネ!」

 

『愛する者たちとのいられる当たり前の居場所を求め、そして世界を愛するが故に……それこそが征服の第一歩だ。そんなことも見失っていたとは……我ながら、遅きに失するとはこのことか……』

 

「むふー」

 

『そして愛し、欲し、奪う――それ即ち覇道!! 最初に愛が無ければ、欲ではなく覇でもない! そういうことなのだな! ウルベルト!』

 

『……ええ……まあ、そんなとこです』

 

「あ、ウルベルトさん若干引いてるなココ」

 

『異論の余地は欠片もない。至当である。このオーレリアとて全く賛同する! 今気づいた……世界の心は、愛だったのだな……!』

 

「……いや、なぜそうなるのリアちゃん」

 

『こうなったら世界征服だ! 征服しかない! 大人しくやり過ごそうなどと考えていたのは間違いだった! 秩序で守れるのは妥協だけだ! 平和なんぞで守れるのは昨日だけだ! 余はもう妥協などしない! 昨日ではなく明日を歩く! そして世界は征服されたがっている……余にはその声が聴こえるっ!』

 

「意味不明だけど、いい演技してるのよね」

 

 

 

『……ギルドマスター』

 

「お、ここからだ」

 

 

 画面端からトテトテと少女がフレームインしてくる。今回の撮れ高最高潮のシーンだ。

 

 

『ノノカ……お前はどうする?』

 

『……決まってる。私は貴方には恩がある、情もある、義理もある。……貴方が行く場所が、私の行く場所。他に宛なんて、何処にも無い。ずっと貴方についていく』

 

「愛が重スギィ」

 

『なら――余と世界を征服するか? これからも余とともに来てくれるか? 余はまだ唄って踊るくらいのことしか出来ないただの幼女だが、これからこの世界に遍く全ての場所に行くのだ!』

 

『……うん。じゃあ一緒に……世界征服、してあげる』

 

「……これ、演技だよね?」

 

 

 

 

 

 

 

『よし――では征くぞノノカ、我が半身よ! これまで我々を灼き滅ぼしてきた、数多の恐怖と共に踊れ! 余とともに、闘争のオーケストラを奏でるのだ!』

 

『イエス……マイマスター……何時(いつ)までも……何処(いずこ)までも……!』

 

 

 

 

 

 

 

「うん、上手に撮れてるな……鬼気迫るくらいに」

 

 

 撮れ高万歳、もうこれだけでも今回の茶番の意味はあったと、ブレイン・イーターは満足気に微笑んだ。

 

 




協力者「「「世界征服と聞いて」」」

デミえもん他「(同じ部屋で)ずっとスタンバってました」



■明日が欲しいオリ主
・演技は雰囲気重視
・出そうと思えば(王者の風格)
・愛のパワーを下さい!


■しあわせノノカちゃん
・演技はしないタイプ
・たぶん本当に幸せな時なら目は死んでない
・牌の動かし方しか知らない
・笑顔は凶い
・厨二期真っ只中


■しょうきにもどったステラかーさん
・レギュラー以外のNPCは覚えていない
・アストロジアンとかはじめました


■あけみちゃん → アケミちゃん
・受験勉強中
・今度私も撮ってもらおうとか考える



▼ あとがき ▼

 王道を征く覚醒回。

(こんな出来で投下しちゃってさ……)恥ずかしくないのかよ?

 やべぇよやべぇよ……百合とホモの書き方なんて、わかんねぇよ……。
 これでノノカちゃん回ではないという恐ろしさ、どうやって彼女視点回書けばいいんですかね……?


・WI×3
ま、まあ転移直前に捨て値で売られているのをただ買うよりかは面白いかなって。
あと課金でゲットしたWIは普通に奪える。譲れない捨てられないのはバグかな?

・沼地の魔神王
一字違い、惜しい。

・ウルベルトさん
優しすぎる。偽物疑惑。



 ネットでのオリ主の死体ネタですが、実はウルベルトさんが言うほどではないですね。団長には及ばなくてロキ・フェンリル氏くらいのレベル。
 まあ、嘘は言ってないし……という話の持っていき方。

 あとウルベルトさんたちは適当なところでRPは切り上げて、普通に話をするつもりだったみたいです。なかなか演技を切り上げない誰かさんのせいでタイミングを失ったようです。そのまま最後までズールズル。


 全体的に分かりやすいくらいの転移後下準備会です。皆仲良く一緒に世界征服目指してくれると良いなぁ。




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