お金が無い彼女達は如何にして楽園へと至ったか?   作:山雀

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あけましておめでとうございます。

本当は大晦日に投下したかったけど、全部彼女視点に書き直したので三が日ギリギリ。


※ 今回、彼女は大いに寝不足です。




マーチャント少女(その2)

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「――あいつら、最近はなんちゃってアイドル活動に満足しておとなしくしてたと思ったのに……」

 

 

 血の繋がらない娘二人をどうにかこうにか扶養している16歳の少女(徹夜明け)は、そうボヤきながら帰り道を歩く。先日自身の養い子が手に入れてしまった一つのアイテムが、そのボヤキの原因であった。

 

 

「ワールドアイテムなんていきなり持ちこまれても困るっての……欲しかったけどさぁ……」

 

 

 そもそもこの二年間、当初彼女が想定していたユグドラシルのプレイは、全く計画通りにならなかった。

 早々にあの二人のドリームプレイを認めざるを得なくなったのに始まって、すっかり諦めていた正義キチとの出会い、炎上騒ぎ、エルフ娘の強引な飛び入り、拠点喪失 etc.etc.……とまあ、想定外の出来事を数え上げるとキリがない。

 

 レベリングが頗る捗らないのだってそうだ。初っ端から無駄に注目を集めてしまったせいで、集中的にPKされたり拠点を取られたり……普通にプレイできていたならばとっくに100に達しているであろうレベルが一向に上がらない。これなら、一人でちまちま生産スキルを使い続けていた方がまだマシだったのではないだろうかとすら思えてくる。

 

 辛うじて計画に沿って上手くいっていると言えなくもないのは姫プレイくらいなものである。こちらがドリームプレイをしていることが知れ渡っているせいか実用的なものは少ないとはいえ、諸事情により制限プレイ状態な自分たちにとっては、全く無いよりは全然ましというものだった。

 

 

 それに、中途参加のアケミのこともある。

 かれこれ彼女が加入して1年半は経つが、名前しか原作に出てこないキャラのそのまた関係者とか、正直扱いに困って仕方がない。

 迷惑なPK連中を追い払ってくれるのはありがたいが、期待していた寄生プレイも思っていたほど効果が上げられていないし、それどころか最近の彼女は他の面子に倣って非戦闘職の裁縫師(ドレスメーカー)まで育成し始める始末。ほとんど戦闘職らしい戦闘職をとっていない自分が言えたことではないが、どうにか考え直させることはできないものだろうか。

 

 ……だがまあ、ナザリックに顔パスでお邪魔できる立場を手に入れられた棚ボタに繋がったあれこれに関しては、他のメンバー三人には感謝する他にない。自分一人では絶対に得られなかった立場だ。

 それも協力者だとか内通関係だとか、そういう利害関係で結ばれた仲ではなく、ほぼ純粋な情で繋がった縁……損得抜きで非常に良好な関係が築けている。多少の不安定さは否めないが、これは収穫としては大きいと言ってよいだろう。

 

 更に言えば、自分の目から見てアインズ・ウール・ゴウンの面々は自分たち4人に甘々である。

 露骨な金銭や物品のやりとりこそなく、化け物揃いなアバター故に表情すらろくにわからない連中ではあったが、それなりの精神年齢である自分からすればそれなりに察しはつく。

 悪の異形種ギルドトッププレイヤーたちという世間体は一体何だったのか……無駄に敵視していた自分が馬鹿みたいではないか。

 

 特にあのアホの子にはゲロ甘と言って良いだろう。

 ちょろちょろとナザリックをお化け屋敷感覚で冒険したがるあの娘にやましいものを見られまいと、一部のメンバーはこっそり過去を清算しているようだと女性陣から聞いている。娘がお年頃の時期に入りかけたお父さんみたい、とは良く言ったものだ。

 

 確かにな、とは自分も思う。

 人間を苗床にして増殖するクリーチャーだとか、入るだけでSAN値直葬してしまう拷問器具展示室だとか、人の尊厳を傷つけることに特化した意地の悪いNPCとか……そういう児童教育に大変よろしくない一部の施設やNPCを作ったと、純粋無垢な(と思われている)幼い少女に自慢するほどの猛者はそうそういないだろう。残るのはせいぜい、エロコンテンツだけは消されまいとなんとか固持している自称エロゲーマスター、悪に拘り中途半端な悪役は消えちまえ主義の大悪魔、いたずら好きの悪タレくらいなものだ。

 

 またその分浮いたリソースを活用し、グロに頼らないギミックが増えたとも聞いている。

 幽霊・悪霊といったアストラル系の異形種モンスターを増やしたり、第六階層のジャングルエリアに配置されている魔獣・動物・植物系モンスターが多彩になったり、一般メイドNPCにそれぞれ違った娯楽職レベルを追加して個性を増やしたりといった具合に。ナザリックに対する大規模なプレイヤーの攻勢がなくなって久しいとはいえ、アンデッドの巣窟がそんなビフォーアフターしてしまって大丈夫なのだろうか?

 

 

 それに加え、どうもナザリックの中には明らかに自分たちをアインズ・ウール・ゴウンに合流させようとしているフシがある。

 

 言葉こそ匂わせるレベルでしかないのだが、ファッション装備以外に異形種に転化させるアイテムを何かとプレゼントしてくるあたり、向こうも隠す気がないとしか思えない。

 その度に愛想笑いを浮かべて、うっかり何かの間違いで使ってしまわないようにそのままアイテムを三人に受け渡すやり取りを何回繰り返したことか。おかげでレンタル拠点の倉庫が圧迫されて困る。捨てるわけにもいかないし。

 

 正直、勘弁してくれとしか言いようがない。

 こちとら紆余曲折があった末に決断した、人間としてあちら側に行きたいからこその人間種プレイである。下手すれば二度と太陽のもとを歩けなくなる上に、食事だとか睡眠だとか……そういった煩悩まみれな人生の楽しみを捨てるつもりはサラサラないのだから。

 

 この確実に外堀を埋められている現状、あの娘は理解しているのだろうか?

 ……間違いなくそんなわけがあるはずもない。どうせ何かいいものをプレゼントされたくらいにしか考えていないだろう。いつの間にか異形種になっていたとしても、「これはこれで良くね?」とか言い出すに決まっている。せっかく自分が気を使って人間種でプレイさせ始めたというのに、いらん気苦労ばかりさせられている。

 

 

 そこにきて、あのワールドアイテムときたもんだ。寝耳に水どころか熱湯を注ぎ込まれたみたいなもんである。

 

 確かに、前々からワールドアイテムはいずれ最低一つは確保しておきたいとは思っていた。ワールドアイテムの効果を防げるのは、同じくワールドアイテム持ちであることが必須条件である故に。

 自分は――自分だけは、原作のシャルティアのように洗脳される展開はなんとしても防がねばならない。他の三人の記憶ならばいくらでも持って行かれても困ることはないだろうが、自分のこれはそれなりの手順を踏まなければ決して表には出せない。出すわけにはいかない。

 

 時間にして10年以上前の遠い昔の記憶なのでもうあやふやとはいえ、原作知識が登場人物の誰かに知られた時の影響が全く予想できないのだった。

 仮にナザリックの連中に知られてしまったとしたら……自分は見たことすらないが、確か拷問なり脳味噌クチュクチュなりすることで、相手の情報を抜き取ることを専門にしている設定のNPCがいたはず。そいつの手でとんでもない目に遭わされ、ジ・エンドるのは間違いない。それも惨たらしく死ぬ可能性が非常に高い。

 

 無論、そんな展開を避けるために洗脳系や記憶操作系、催眠系の抵抗スキルや装備品を優先的に取得することで対策は進めている。だが、最後の保険にワールドアイテムは是が非でも手に入れなければならない……!

 

 

 ――<魔神王の契約書>

 

 

 ノノカが手に入れた、プレイヤーをワールドエネミーに変化させてしまうという実用性がなさすぎるにも程があるあのワールドアイテム。はっきり言ってしまえば、他のワールドアイテムと比べてもハズレもいいところだった。使えばなくなる消費型アイテムという時点で大チョンボだし、具体的にどのようなワールドエネミーになるのか明記されていない点でも結果が恐ろしくて使えたものではない。死ぬほど追い詰められたときに使う、最後の手段としておくしかない。

 

 休憩時間中に軽く調べてはみたが、<魔神王の契約書>なんてアイテムは見つからず、代わりに<魔神王の禁断契約書>とかいうパチモンくさい別のワールドアイテムの情報しか発見できなかった。おそらく同系統のアイテムだろう。効果もほぼ同じであり、加えて異形種に転化する強制効果が付与されているという違いはあった。……今回手に入ってしまったのがそっちではなくて、本当に良かったと思う。

 

 過去<魔神王の禁断契約書>が使用されたことが何回かあるらしく、およそ5年前の発動時には、ギルドに所属していなかったアウトロープレイヤー一人のみがワールドエネミー化(Lv.334)した、と記事にはあった。

 他の大多数のプレイヤーにとって、それは幸運だっただろう。それほどの大惨事だった。

 

 

「個人的に恨みがあったプレイヤーにひたすら粘着とリスキルを繰り返した挙句、巻き添えで拠点や集落、良狩場をいくつも廃墟にしちゃうとか……」

 

 

 うっかり発言した、「やべっ……俺しーらね」という失言が大音量で響き渡ったらしい。それをバッチリ記録されて拡散されたものだから、自身の思い出や狩場を台無しにされた都合100人以上のプレイヤー達の恨みを買って袋叩きに遭うとか阿呆すぎる。全長50メートルを超す巨体になっていたこともあり、全員が同時に攻撃をしかけてもポジショニングには全く困らなかったという記録もある。ただし、「やたら固いしタフだしそのくせ大したアイテムドロップしなかった」と当時のコメントに愚痴の山が残っていた。

 

 逆にいえば、そうでもしないと討伐できなかったということでもあるのだが。

 

 結局討伐されたプレイヤーはそのまま引退してしまったようである。それはそうだろう。ブラックリストの一番上に固定されたようなものなのだから、今の自分たちよりひどい有様になってしまったことは想像に難くない。

 

 仮に、自分たち4人が同じような効果を発動させてしまったら、どうなるか……考えるまでもない、地獄絵図だ。

 

 サイズが50倍になった少女アバターが4体とか、ひどく滑稽な絵面になるだろうが、当事者としてはとてもそんな呑気にかまえていられない。

 うっかりミニスカ系の装備でも身につけていたが最後、地上全域にこれでもかとパンモロを披露しながら歩くことになり、意図したものではないにせよ無慈悲なBANを喰らうことになるだろう。

 

 それだけではない。間違いなくそんな珍獣を発見したらば、全ワールドのプレイヤーがこぞって集まって来る。前回の惨劇を知っているものは危機感マシマシで駆けつけるだろうし、コレクター気質のあるプレイヤーはドロップ品狙いで襲ってくる。それ以外の連中もお祭り気分でとりあえず超位魔法を打ち上げてくるのは間違いない。

 それほどの大人数の視線にさらされるなんて、自分には耐えられるものではない。即座にログアウトして、あとはBotにお任せする。それしかない。 

 だがそうなってしまえば、事はユグドラシルの中だけには収まらないだろう。そんな面白可笑しいニュースがネットを通じて全世界に拡散されないはずもなし。4人揃って仲良く世界的道化の仲間入りである。流石にリアルの素性がバレるようなことはないだろうが……

 

 

「……ダメ、絶対にダメ」

 

 

 幸い、ワールドエネミーになった後の大きさやレベルはまちまちらしいので、そういう展開になるとは限らない……が、そうならないと断言することもできない。

 従って、これから彼女が選べる道は2つ。ノノカにワールドアイテムを使わせずに抱えさせるか、さっさと使ってしまい効果が切れるまで暫くどこかの過疎地に引き篭もるか。

 

 前者を選べば、あの世界に貴重なワールドアイテムを持ち込める。アイテムについている譲渡不可属性もおそらくあっちでは無意味になるので、問題なく自分のアイテムボックスに入れることもできるだろう。

 ただそうなると、これまで以上にPKが苛烈になることは想像に難くない。レンタル拠点から彼女を外に出さずにずっと留守番させることも視野にいれなければいけない。そう、後々のことを考えれば絶対にそうするべきだなのだ。

 

 そうするべき、なのだが……

 

 

「……はぁ、それは流石にあの娘が可哀想ね。後からアインズ・ウール・ゴウンの連中に何言われるか分かんないし、勿体無いけどさっさと使っちゃうこと前提で今後の対策練らないといけないのかなぁ」

 

 

 さほど悩まずそう決める辺り、彼女は完全な利己主義者とは言い難い少女である。

 

 

「どこか巨人の隠れ家みたいな所ってあったっけ……お誂えな場所ないか聞いてみるしかないか……ああ、あの連中にこれ以上借り作るのやだなぁ……」

 

 

 徹夜明けということもあり、今日の彼女はとっても疲れていた。それでも、考えなければならないことが山積みである。

 とりあえず、最低でも軽い現状確認くらいはしなければならないだろう。ため息を吐きながら、少女は家路を急いだ。

 

 

 

 

 ……そう、思っていたのに。

 

 

「あ、おかえりーステラちゃん」

 

「……世界征服のお時間」スリスリ

 

「――ふっ、御母堂。余が世界に覇を唱える日がついに来たのだ!」

 

「がう」

 

「……」

 

 

 ユグドラシルにログインした彼女を迎えたのが、ギルドメンバーのお気楽っぷりである。さらにこの漫然とした違和感はなんなのか。

 

 エルフ娘アケミちゃんはいそいそと内職中である。一見これは特に変わりのない、いつも通りの光景である。

 下品さが度を過ぎたエロ装備がオーレリアに度々送られてくるのはけしからんという理由で、彼女はかなり前に裁縫師系のジョブを取得し、メンバー全員の衣装を自作していた。正直自分たちのギルドが彼女の色に染められている感がないわけでもないが、そこそこ高性能で見栄えの良い装備品を量産するだけあって半ば黙認状態である。

 

 だが、作っているものがいつもと毛色が違う。今も大方グララン娘の衣装でも作っているのだろうが……並んでいる装備品がこう、如何にも悪役っぽい品々なのは気の所為?

 

 

 他二人の様子は明らかに様子がおかしい。NPCの(ロー)ちゃんまで何処か自慢げな態度なのがムカつく。何があったし。

 

 世界征服という台詞と変なグララン娘の自称からして、二人してまた訳の分からないRPに奔っているだけなのかと思いきや、白ドワーフ娘ノノカはいつもと比べてお肌がツヤツヤしている(ように見える)し、隣のグララン娘にいつも以上にベッタリくっついている。

 あと二人のレベルがついに一桁になっていた。大方言いつけを破って何処かに出かけ、またPKされてデスペナを食らったらしい。二人揃ってワールドアイテム持ちなので、そうなるのも自明の理である。

 

 ……あれ?

 

 

「なんか、増えてる……」

 

「ふふん!」ドヤァ

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 とりあえず興奮状態の二人を先日ガチャで当てた完全なる静寂(ピコハン)ではたき、事情を聞き出した。

 たった一日でワールドアイテムを二つも追加で持ってきたことや、ナザリックでの入れ知恵には、何も言わない。言いたいことはたくさんあるが、今はそのようなことに気を遣っている余裕は無い。

 

 それよりも……ユグドラシルのイベントシナリオが書き記されたワールドアイテム<ヴォルヴァの預言書>を斜め読みした自分が、今ここでどうしても言わなければならないことがあった。

 

 

 ――このシナリオ書いたの、どこのどいつだ。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンの誰かだとは思われ」

 

「問題あり?」

 

 

 大有りに決まっている。

 いきなり主役と思しきグラスランナーの娘が故郷を滅ぼされて奴隷落ち。牢屋の中で似たような境遇の白ドワーフと出会い、そこにたまたまやってきた旅商娘が二人を全財産はたいて引き取る。旅の道中でエルフ娘が加わり、そして4人娘一行を巻き込む一大スペクタクル。

 

 

「逆境から這い上がるのはよくあるパターンなの」

 

 

 そこまではまあいい……だが問題はラストである。

 『罠に嵌って全員惨殺されて死体が沼地にゴミのように沈められた後、理不尽な世界を憎む系の悪堕ちから復活……さあ世界の命運や如何に!?』 ――これ絶対、化け物になって最後には『もういい……安らかに眠れ……』とか主人公に言われながら倒されて消滅する流れである。

 ユグドラシル時代に起こったことやユーザーメイドの設定が、ある程度向こうの世界で反映されることを踏まえると、到底受け入れられるものではない。

 

 

「やっぱり私もハッピーエンドがいいなー」

 

「そこは同意」

 

 

 幸い、ギルドメンバーにも不満はあるようで、さり気なく軌道修正は可能とみた。

 だが、これ書いた人物は性根が弄れているとしか思えない。序盤の未来が明るく開けていく展開から容赦なく叩き落とされるこの落差……残虐性と悲劇性まで盛り込んでいるため、読み手の感情を揺さぶりまくること請け合いである。ただ単に幸薄な女の子がイチャイチャしながら幸せになる展開を期待していた層にとっては阿鼻叫喚ものだろう。

 そして微妙にリアルの自分たちの事情が盛り込まれているということはつまり……あと、なんでラストがこんなに凄惨なのか。ホラー映画でも最低一人くらいは生き残るというのに。

 

 

 とにかく却下却下である。世界の敵になるのはともかく、そのトリガーが自分たちの無残な死という時点で論外というもの。まったく……全力で死亡フラグ踏み抜くところだった。

 

 

「修正は構わないけど、イベントの主催を務めるんだからさ。①一般プレイヤーの皆さんを喜ばせるのと、②低レベル狙いPKをしばき倒すのは確定ね。あと、自分のキャラ設定に『世界征服を策謀する幼女』って入れといてね」

 

「私はその半身」スリスリ

 

 

 二人がアインズ・ウール・ゴウンの異形種二人にされた入れ知恵によれば、程々に強いワールドエネミーになって適当に暴れればそれだけで娯楽としてはそこそこ上出来らしい。

 

 ただし、気をつけねばならないポイントがいくつか。ネトゲのイベントと言えば、後々問答無用で修正を食らうであろうご祝儀性能なイベント報酬でプレイヤーの競争心を煽ることが多々ある。

 だが今回のように復刻なしの一度限りのイベントとなれば、それは仮に今回ログイン出来なかったプレイヤーがいたら、後々そいつらから自分達が総スカン食うということにもなる。止めておくべきだろう。それにイベント報酬で旨味なんて羨ましいことこの上ない……自分たちはイベントホストなので報酬らしい報酬は後に何も残らない。あと報酬をタダで配るような安い女だと思われるのもなんとなく嫌だった。

 

 そもそも、自分たちが用意出来るのはシナリオと敵キャラのみ。報酬その他については完全に運営任せである。

 

 

「さいですか。すまない、一般プレイヤーの諸君。運営が気を利かせてイベントアイテムを勝手に作ったりしない限り、報酬には欠片も期待しないでくれ給へ」

 

 

 そういうことである。

 

 質の悪いPKを駆逐するという目的は、アインズ・ウール・ゴウンを信じればシナリオを通して運営へのお願いでなんとかなるはずである。誰が誰をいつどうやって殺したか、というデータベースが存在することはワールド・レコードが実装されていることからしても間違いないようなので、そこからエゲツないプレイをしている外道共を判別し、世界の敵と化した自分たちが天誅を下す……という流れらしい。

 

 

「お手本にすべきは、巨悪を以て小悪党をちまちまお掃除するダークヒーロー……俺たちが絶対にしなければならないこと……その最たるものは、クソPK共を徹底的に懲らしめ、俺みたいな幼女でも普通にレベリング出来るようになるレベルまでユグドラシルの治安を回復させること……!」

 

「……思えば、ゲーム開始早々のわからん殺し。無理矢理装備を全部剥ぎ取られたあの時から、すでにこの戦いは始まっていた」

 

「下着ライブ開催時に酒場に居た皆と交わした、『初心者狩り絶対駆逐してやる』的な誓い、今こそ果たす時……!」

 

 

 年少組二人がワイワイ盛り上がっている。そういえばそんなこともあったな、と二年前の出来事を思い出す。自分が二人のドリームプレイを許容させられた、あの日の記憶が甦る。

 ……そういえば、ワールドエネミーということはオーバー100レベル以上になるのは確実なわけだが、肝心のキャラビルドはどうするのだろうか?

 

 

「今回の俺は本気なのです。『慢心するだけの実力もない悪役とか論外』って、ウルベルト氏からもこっ酷く言われた故に。いや、これまでの俺が手抜きってわけじゃないんだけどさ」

 

「勝負はガチガチ」

 

 

 ――あれ、これはもしかして、これまで自分が待ち望んでいた、純戦闘職三人に寄生して行うPLを実現する好機なのでは?

 

 

「あ、母上。一応言っておくけどさ、RP用に最低限の非戦闘職は取るよ。今もプリンセスLv.1が根っこだし。それに別に俺は強いほうが偉いだなんて思ってはいないしさ」

 

 

 そんな自分の考えを読んだかのように、さらっとアケミの希望を反映させたグララン娘が言葉を続ける。

 

 

「あくまでPvPの結果とかとしてはそうせざるを得ないだろうけどさ、要は気の持ちようってやつ。どうせ課金出来ない以上、今回みたいな反則技でも使わない限り俺らは相対的に弱者で有り続けるしかないわけなのだし。それくらいなら、弱くっても皆の尊敬を集め、ただ幼く可愛いというだけでチヤホヤされるような……せめてそんな皆の理想的幼女に俺はなりたかったのだよ。そもそも『ぅゎょぅι゛ょっょぃ』みたいなキャラでもない限り、幼女はか弱いのが普通であるからして」

 

 

 可愛い顔をして、可愛げのないことを言う。時々、コイツは変に大人びたことを口走るから困惑する。大方、アインズ・ウール・ゴウンの連中の受け売りなのだろうが。

 

 

「だが、それもつい先日までの話……今の俺は、まさしくその『ぅゎょぅι゛ょっょぃ』みたいなキャラになることを……強いられているんだ!」

 

 

 集中線エフェクト(無料)を展開しながらのドヤ顔だった。……いや、どっちよ。

 

 だがまあ、やる気になるのは悪いことではない。この際、将来に向けての布石は打てるだけ打っておくべきなのだから。

 

 

 

 

 まず、全員ただの一般人では物足りない。収集癖があり、レア物に弱いモモンガの傘下で確実に生き延びる為には、その素性からして見直さなければならないだろう。

 

 というわけで、オーレリアがグラスランナーの国の王女という設定はイマイチ物足りない。他にグラスランナーのプレイヤーも居ないことであるし、実は魔法の無い異世界から逃げ延びてきた希少種ということにしてしまってはどうだろうか。

 

 

「……それって実験動物にされて、最終的にホルマリン漬けか冷凍保存される展開じゃないですかね?」

 

 

 この世界にたった一人だけの生き残り種族とか燃えると思う。

 

 ノノカも似たような素性にしておくべき、と言い含める。オーレリアとお揃いにしては、というとほぼ間違いなくその通りにしてくれるので、この娘の説得はとても簡単だ。

 

 ついでに、アケミの設定も合わせてしまおう。ただのエルフだとイマイチパンチが弱い、ハイエルフよりも格上のエルフってことにしてしまおうそうしよう。世界に数人しかいない古代種のエルフとかそれっぽいやつ。

 

 

「ユグドラシルにそんなエルフ居ないよステラちゃん!?」

 

 

 そんなこと、気にする必要はない。とにかく、レアっぽい何かをイメージさせる種族なら、捏造でも万々歳なのだ。

 自分の設定も考える。一見ただの旅商だが、実は超切れ者の天才錬金術師で、超強力な魔力持ちで身体能力抜群で苦手なことが無い前世の記憶持ちの超絶美少女な王女様とかどうだろうか。あとこの世界の全部の魔法が無制限に使えるけど実は隠してる、とか――

 

 

「いや、それは駄目だよ。力を封印されてるとか事情があるならまだしも、全力を出さない手抜きキャラには最近厳しい風潮なんだから」

 

「同意。王女も一人だけならともかく、そうホイホイ増やされたらちっとも有り難みがない。それに我が主は一人だけ」

 

「それと自分だけチート設定盛り過ぎです。ワールドエネミー属性に加えてどれだけ求めるのよ、この欲張りちゃんめ」

 

 

 今日に限って、どこかギルドメンバーが手厳しい。だが、ここで恥や外聞を気にしてはいられない。三人にも、ここで決めたことが実現すると思って書け、と言い含める。間違っても、弱点とか設定してはいけない。

 

 

「……ステラちゃん、キャラの弱点はちゃんと設定しておかないと人間味も人気もなくなっちゃうって、この前自分で言ってなかったっけ?」

 

 

 だまらっしゃい。

 それにオーレリアは魔法がロクに使えない代わりに特殊な能力が使えるという設定は必ず入れるべきである。魔法とか呪いとかの無効化能力とか反射能力とか如何にもヒーローっぽい。おすすめである。

 

 

「なんというチート・オブ・チートの典型」

 

 

 レベル100オーバーは確定なのだからそれくらい許される。むしろそれくらい出来ないとワールドエネミー(笑)とか言われて馬鹿にされるに決まっている。

 

 

「そーなのかー」

 

 

 そして思い出した。全員時間操作系能力持ちであることも盛り込む必要があった。

 

 

「それモモンガ殿が言ってたPvPでの時間対策? ってか、ワールドエネミー属性で賄えると思うんですが」

 

 

 とにかく書くのだ。書くだけならタダなのだ。

 この際だ。イベント期間中は魔法も格好いい詠唱付きにしてしまっていいと思う。前々から思っていたが、ユグドラシルの魔法は味気なさすぎるのだ。

 

 

「賛成。口上と詠唱は浪漫」

 

「流石にそれは無理だと思われ」

 

「初心者にも分かりやすい方がいいと思うんだけど……」

 

 

 ああ、ワールドエネミーになった後の、各自の二つ名も作っておかないと。箔をつけるためには必須だ。

 

 

「賛成する。世に広く我らの名を知らしめる良い機会」

 

「ン拒否するゥ。俺センスないし、多分二つ名なら運営かネットの暇な人が考えてくれると思う」

 

「そうだね。いっぱい呼び名があっても覚えにくいだけだし」

 

 

 ではそれはこちらで適当に考えておくとしよう。

 ……というか、なぜ自分ばかり案を出さなければならないのか。なんでも良いから、とりあえず意見だけでも出してくれないと議論が滞る。

 

 

「うーん、なんでもいいって言われても困っちゃうなー、皆で演奏会とか、そんなのでもいいのかなー」

 

 

 アケミちゃんがポロッとこぼした一言に着想を得る。……なるほど、合体スキルか。確かにこれまでのユグドラシルには無かった要素だ。ギルドメンバーの数が足りていない自分たちの最大火力を伸ばすという意味ではいいかもしれない。

 

 

「はいこれ」

 

 

 そう言いながらノノカが差し出してきたメモには、彼女が考えたらしい自分のキャラ設定が書き連ねてあった。

 人魚の肉、賢者の石、不死鳥の血、冥界の霊草、仙人化、吸血鬼化、意思が宿った機械人形、精霊化したアーティファクト、などなど……書いてあることに矛盾が山盛りで節操が無いが、ファンタジーや二次元文化に触れたことのある人間なら、概ねその狙いは正確に理解できる。

 

 

「白ドワーフの短命設定作ったスタッフは死ねばいいと思う。でもこれだけあれば万全。我が半身……永遠に一緒……」スリスリ

 

「 ソダネー 」

 

「皆の分も書いてあげる」

 

「あ、ありがとう……でも意味無いと思うな」

 

 

 いや……意外と良いかもしれない。

 

 自分の仮想敵であるモモンガの得意とする魔法は死霊系に特化している。それらに対する抵抗力を得られるとすれば、満更悪い案ではない。異形種に関わる要素だけ削除して、とにかくノノカに任せて書けるだけ書いてしまって構わないだろう。アンデッド系種族でさえちゃんと死ぬ(デッドする)このユグドラシルにおいて、本当に死の概念がなくなることもないだろうし。

 

 

「母上、この際だし俺らもギルドと皆のエンブレム作ってもらおう。イメージだけ書いて、運営に丸投げするの。アインズ・ウール・ゴウンの玉座の間に飾ってあるフラッグ、あれ凄く羨ましい」

 

「課金しないと本来作れないしね、ああいう凝ったやつ」

 

「モチーフにする資料ならお任せ。著作権が切れたアーカイブが一杯ある」

 

 

 確かに良い案だ。向こうの世界では日本語は仲間内でしか使えないし、敵味方を問わず人語や文字を解さない種族で溢れている。そこで自分たちを表す分かりやすい記号を用いれば、コミニュケーションの一助となるだろう。悪くない。

 

 

 思いつきなのだろうが、むしろこの場では質より数が重要だ。もっとこの調子で意見を出してくれ皆の衆。

 

 無意味にテンションが上ってくる。そうだ……自分は本来、こういう妄想を友達と一緒に楽しむ人間なのだった。

 

 前世で女友達と漫画やラノベをテーマに馬鹿みたいに語り合った日々を思い出す。あの時、自分は確かに自由だった。

 

 

 それなのにクソみたいな世界、クソみたいな親、クソみたいな会社……一体自分の第二の人生はどうなるというのか。

 

 無論、このままだとどうにもならない。一方的に搾取され、野垂れ死ぬだけの未来が待っている。

 

 だから今は、ひたすら忍耐の時……リアルの自分の身体は、今号泣しているかもしれない。久々に、明るい未来を自分は感じている……!

 

 

 せめてお金のかからない妄想の中でくらい、自由でないとこの先やっていられないではないか――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――この日から数えて二週間後に開催される、【伝説級黒歴史】とユグドラシルプレイヤー達に評されるイベントが、実はこういう経緯で生まれたことを知るものは、とても少ない。

 

 そして……結果だけを言えば、彼女たちの功績により低レベル狙いのPKはユグドラシルから一掃された。そんなことをすればどうなるかを、彼らは身を以て思い知らされたのだ。

 

 ユグドラシルがサービス終了するまでそれほど長い年月ではなかったが、それでも彼女たちの偉業は生暖かい視線と笑顔で皆から讃えられた。

 

 

 

 哀れ、本来彼女たちの手綱を握るべき人間が、諸事情でブレーキどころかアクセルを目一杯踏んでしまった結果である。

 

 

 

 

 

 

 




■本気で世界を獲りにいくオリ主
・思春期(ずっと)
・騎獣:ローちゃん(命名)
・グラスランナー → グラスランナー・ゴシック とかそんなの

■是が非でも愛する人とは添い遂げたいノノカ
・思春期(以降永続)
・趣味は電子書籍収集(無料)
・白ドワーフ → ネザーランド・Wドワーフ

■寝不足ステラさん
・思春期(二度目)
・実は非戦闘職レベル(総合)が一番高い
・希少民族出身(意味は無い)

■実は今回内心では超喜んでいるアケミちゃん
・思春期(まだ)
・えっちなのはいけないとおもいます(自分が見る分にはおk)
・エルフ → ルーンエルフ



・パンドラさんは無事
・恐怖公も無事
・餓食狐蟲王は駄目だった。




▼ あとがき

 とっても人生に疲れているステラちゃん回。そういうときもあるよね。


 理性がちょっと吹っ飛んでいますが、それでも自分と仲間の身を護るために頑張ってます。
 ただし、今回ワールドアイテムに書いた妄想がどれだけ実現するかは分かっていません。数撃ちゃ当たるの精神です。

 厨ニ妄想は彼女の素です。普段は社会人として節度を弁えて我慢してますが、色んなしがらみが無くなるとこうなります。小さな身体に精神が引っ張られてます。他の面子もきっとそうなる。

 実は異世界で無双することを誰よりも夢見ていた子。そして、その願いだけは叶わない。だって、戦いそのものが苦手なんだもの。



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