お金が無い彼女達は如何にして楽園へと至ったか?   作:山雀

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まだプロローグよ、続いててスマソ


※ 本作は、稚拙なパクリと浅い界隈の知識の提供でお送りしております。

※ パクリ元を知りたい貴方は、時間が許す限りお気に入り小説を片っ端から御覧ください。



Prologue 2

 スチームバスに入り、生後最高レベルにさっぱりした俺。

 

 くたびれた雑誌の特集記事やらネットの公式デモやらを皆で一緒に見て、隣からあれこれとレクチャーを受け、ユグドラシルなるゲームの理解を深める。

 

 

 なるほど、完璧に理解した。

 以下、要素列挙。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

・皆が夢見た仮想ファンタジー世界へダイブして大勢でわちゃわちゃするゲーム

 

・さっき脳内に埋め込んだナノマスィーンやら、フルフェイスヘルメットやら未来的コンソールを使ってプレイ

 

・運営は糞

 

・自由度高し。

 

・人間だけじゃなくエルフや異形種になって善良な人間狩り尽くすぜーみたいなプレイだってできちゃう

 

・Wikiはあるがさほど当てにならない。最強ビルドとかそういうのも無い。

 

・サブ垢は作れない。ただしキャラデリと最初から始めることはできる、らしい。

 

・エッチなのはいけないと思います(即BAN&実名晒し)

 

・祝 配信ウン年目記念キャンペーン中!

 

・辛い現実から逃避したい貧困層を中心にブレイク継続中

 

・お手軽仮想現実を楽しみたい富裕層の方にもオススメ

 

・七面倒臭い法律のせいで視覚聴覚以外はほぼ機能しない

 

・実は世の中を支配する巨大複合企業とやらの思惑により、下々の学歴がガタ落ちしている

 

・俺の居た施設があんななのも多分そのせい

 

・世の中糞だな

 

・掲示板に晒されると難易度ノーフューチャーになるから、マナー違反なプレイはすんなよ!

 

・絶対にするなよ! 絶対だぞ!!

 

・仕様上可能なプレイはバグじゃない。ただし期限はGMが飛んでくるまで。

 

・基本無課金だよ、やったね!

 

・でもやっぱ痒いところに手が届かなくて皆課金しちゃうのビクンビクン

 

・なので、真面目にプレイするなら課金はある程度必須なのが前提

 

・別売りのツールで自分のアバターやらNPCやらアイテムやら諸々の外装とかいじれたりもできちゃう

 

・運営はクソ

 

・うちらは生きてくのもやっとの家計なのであえてリアル素寒貧プレイするぜ!

 

 

▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲

 

 

 

 

 うむ。こんな感じである。

 こうものっぴきならない状況なのにゲームに現を抜かせというのはイマイチ理解に苦しむが、せっかくなら楽しまないと続けるものも続けられないだろうしね。

 

 

 とりま感性に任せたフリーダムプレイが推奨され、逆に効率重視のテンプレプレイが雑誌で激しく貶されていたので、一々別窓でWikiを開くようなことはしなくて良さそうである。

 仮想世界でそんなことが可能かは知らないが、ファンタジーな風景にWikiの攻略情報とか気分ぶち壊しなのは間違いないよね!

 

 でも使えそうなバグ技とかねーかなーとネット検索画面を開く俺にちょい待ちと待ったをかけたのは、俺と目が死んでる少女を引き取った里親(14)。

 その歳で血の繋がらない子供二人を引き取るってちょっと人生始まったばかりでハードモード過ぎんよ~。

 

 

 

 まあそれは置いておいて。

 

 「Wikiはともかくネットは今後なるべく使うな」と言うのが一つ、「まずはさっさとキャラメイクしろ」というのが二つ。これが彼女の意見であった。

 

 

 なんでさご母堂よ、と尋ねれば、前者の理由はセキュリティ代さえ露骨にケチっているので、変なとこに繋がってゲーム機器全滅とかしたら困るからだとか。

 あと厚生省? とか公安局? だかがネットを監視しているので目をつけられたら困ると。

 

 流石にそれは考えすぎじゃねとは思ったが、この場において未来世界のネット環境に一日の長があるのは間違いなく眼の前の14歳児であり、俺のプリちーフェイスを凝視しながら「命令よ」とか「恐縮だが」とかされたら俺としてはその通りにせざるを得ない。

 

 それに時々忘れそうになるが、俺と連れのガワはネットデビュー直前の女児ということになっているし、実際にそうである。「信用に値しない」といわれればそれまでなのだ。

 

 定期的に放置プレイもされるようなことを言っていたので、この機会にネットリテラシーを叩き込もうという魂胆なんだろう……とどの詰まり、「余計なことすんなよオメー」ってこったー。

 

 

 んで、もう一つの方の理由なのだが。

 なんでも只今ユグドラシルが新規歓迎キャンペーン期間中であり(このタイミングで俺らを引き取った理由の一つなんだと)、自キャラメイクである程度の博打を許容すれば色々なご褒美があるとか無いとか。その間になるべく良いキャラを作らせたい、と。

 

 

 ……ここに来てリセマラかよぉ!

 

 いきなりゲームの売りである自由度(笑)を放り出すような企画だと思うのが、そこは良いんだろうかと思ってしまう。ちなみに、そのキャンペーンの期日は今日まで(あと数時間)である。せめてバックストーリーくらい把握する時間は欲しかったな……。

 

 俺としてはこの手のキャラメイクでのお決まりなんて百年前の知識しかないし、何度かやり直しもできるようだし、特典も割と良さげだし、タダだし、特に拒否する理由も権限も俺には無いし――と諸々の理由により言われるがままホイホイと抽選を回す。願わくば、何らかの特化型を引けますように。バランス型ってつまらんしな!

 

 やたら派手な演出とともに現れる俺の写し身。まさに堂々たる、と表現すべき姿とステータスが開示される――!

 

 

 

 

《 性別:男s「はい、やり直し」

 

 

 

 

 14ちゃいの少女の手によって容赦なく押されるキャラクター削除ボタン。仮想世界に生まれようとしていた偉丈夫のアバターが瞬く間に消え去っていった。

 

 

 ちょ、なにすんのや! 仮想現実とはいえ、せっかく股間の宝具を再び手にするチャンスだったのに!

 

 ……は? 女以外は駄目? なして?

 

 装備の管理がメンドイ? 多分女キャラの方が優遇される? 乞食プレイ姫プレイ寄生プレイの効率がダンチ? そのためにいい感じの声の女児(俺ら)を引き取ったぁ!?

 

 

 

 

 照れるぜ(ニッコリ)。

 そっかー俺ってイケボだったのかー気づかなかったなー。HAHAHA。

 

 

 

 ってちゃうわ。

 

 

 

 俺、今メスガキだから萌え媚びボイスじゃないか(呆れ)。 

 

 

 

 

 えぇ……キャラメイクからして乞食プレイ前提とかひくわー超ひくわー。

 

 始まる前からそんなこと考えるのはちょっと夢がなさすぎじゃないっすかねぇ……?

 ママンがそういうなら従うしかないけどさー、ねぇ?

 

 

 まあええわ(諦め)、というわけで、二度目のチャレンジである。ポチッとな、と抽選ボタンをプッシュする。

 再び始まる過剰な演出。よしよし、今度のシルエットはちゃんと女性的である。ボヨンボヨンとおっぱいおっぱいしてる。最高だな!

 

 今度はさっきより邪悪めいたアトモスフィアを感じるが、これはこれで俺の厨二心を否応なく刺激するので無問題である。

 

 

 

《 種族:ラミア(異形s「はい、やり直し」

 

 

 

 14歳の義母の手によって再び容赦なく押されるキャラクター削除ボタン。仮想世界に生まれようとしていた闇の眷属たる俺のアバターが瞬く間に消え去っていった。

 

 

 ちょ、なにすんのや! 人間のメスじゃなかったとはいえ、せっかくのでかちちを手にするチャンスだったのに!(強さは二の次)

 

 ……は? 人間種以外は駄目? なして?

 

 自分がPC人間種で作り直したから? なるべくに一緒にプレイしたい? 種族ペナルティもキツイ? 他のプレイヤーに絶対PKされる? てか、された? やっぱ装備の管理が面倒? 乞食プレイ姫プレイ寄生プレイの成功率が絶望的!?

 

 

 うん、ならしょうがないかなぁ(諦め)。

 異形種は強いって読んだけどそれならしょうがないな~いや~残念だな~HAHAHA。

 

 ま、まあ? 普通に考えてこの手のゲーム初めてでこれといってこだわりもないわけだし~↑

 

 ……ごめんなさい。ただでさえ縛りプレイみたいなもんなのに、更に自分から難易度を上げていくほど、俺は精神的マゾではないんです。性癖も攻められるより断然サービスしたいタイプなのです。

 

 

 ってか、一度異形種でプレイしてたのに諦めて人間種でやり直したんすかwww

 

 何があったかは知らんが、思い切ったことである。そんなに苦行だったのか、と思う以前に、なんでこの人はわざわざ難しいという異形種でプレイしようと思ったのか謎だった。

 

 

 

 というかそもそも、なんでこの人はユグドラシルをプレイしてるん?

 

 

 自分で不器用だとか言ってた気がするし、好きでやるって感じでもなさそうだし。

 趣味って感じでもないし、課題……でもない。仕事? 付き合い? うーむ、なんかこう、風? よくわからんが必死な雰囲気を感じる!

 

 

 

 しかし今ここでそんなことを考えだしたらキリがない、今更である。

 丁度で始まった14歳女児による愚痴っぽいものによれば、ド安定がどうとか、不確定要素がどうとか、知らないキャラはちょっととか、でもやっぱキモいのは無理とか。

 どうにもこうにも要領を得ないことばかり話すので、適当に放置してガチャに戻すことにする。しばらくすれば復帰するだろう。

 

 

 ガチャーガチャー多分もう回さないガチャーこいこいー、と適当な歌を歌いながら回す。合間合間にWikiと雑誌を斜め読みしながらという無駄に器用なスタイルである。

 

 え? Wikiは見ないんじゃなかったのかって?

 14歳が見ろ見ろと急かしてくるので見てるのです。「ある程度の効率プレイくらい許容しないとやってらんないわ」ってことらしく、おすすめの狩場や職業ページなどをプッシュしてくるのだ。

 

 

 結果としては読んで正解だった。

 メチャシコな女NPCの特集ページとか俺得である故に。

 エロフの……もとい、エルフのエロい……じゃない、偉い女の人とか定番だが実に素晴らしい。スレンダー金髪に貧乳とかこのキャラデザインした人マジ分かってる。あとこのロリ巨乳の吸血鬼とかオススメ。ゲームが始まったら率先して会いに行こう、と心に決めた。

 

 

 

 

 それはともかく、最初の目的であるガチャの方の経過だが、男 → 男 → 豚 → 男 → 汚物 ……とハズレが続いているので萎えてくる心を無心に変えて継続している。俺知ってる。こういうのはストレス感じた時点で負けなんだって。

 

 あと付け加えるならば、ただ女の人間種であれば良いのかと問われればさにあらず。

 最近の(-1世紀分)でいうところの、なぜかブサイクにされてしまった元美女キャラのごときアバターは、容赦なくゴミ箱ポイポイのポイされている。

 

 

 何しろ、これから始まるであろう我らの恥知らず極まりないプレイングに必要なのは、見るものの庇護欲を誘う可愛さ・美しさ・儚さ・艶やかさなのだ。

 それには当然、最低でも万人に「ねーよ」と思われない程度の顔面偏差値は必要であり、それを外部ツール等ではなく運否天賦に任せようというのだからそれなりに時間はかかる。間違ってもマッスルアピールとかいらない。

 

 

 

 

 気分転換にとふと隣に目を向ければ、目が死んでる少女(実はまだ名前知らない)が何やらむーむー唸って逡巡していた。

 聞けば、今まで人に名前を付けたことが無いので、勝手がよく分からないらしい。素直に自分の名前でいいんだろうか、とも零している。

 

 本名まだ知らないけど、下手すれば初対面の人間に死ねって言われる名前だってあることだし、慎重になるのは分からんでもない。

 生憎、俺もネーミングセンスに自信ニキとは自称できない感性しかもってないので、アドバイスするにしても自然とありきたりなところに行きつく。例えばそう――

 

 

 

 

 ――女キャラだし、「✞聖天使猫姫✞」ってのはどうよ?

 

 

 

 

 何故か14歳に頭をはたかれた。理不尽である。

 曰く、自分の分身じゃなく、自分そのものだと思ってもっと真面目に考えろと。あとは西洋ファンタジー風の名前だと尚良とのことだが。

 

 

 えー……何それ重すぎない? ネトゲキャラのネーミングってこんなもんじゃないの?

 あとは、適当に目に映った物とか流行りの二次キャラの名前でゲームのキャラ名つけるのって定番っしょ。

 「対○忍乳時雨」とか、「TOILET PAPER」とか。大体そんな感じの名前のほうが強くなれるし。

 

 

 俺? そんなこっ恥ずかしい性癖丸出しの名前付けるわけないじゃない(憤慨)。

 キャラビルド決めてからそれっぽい名前つけるんだお! その方が絶対いいお! と訴えたらため息を吐かれた。なぜだ?

 

 

 ちなみに14歳さんはどうしたのかと尋ねてみれば、「今の名前なんてクソくらえよ」と零しながらも、星にちなんだ名前にしたのだと教えてくれた。

 

 ……乙女かな?

 確か初対面のときもそんな感じだったし。

 

 そんなやり取りを何度か繰り返した後、目が(ryは結局本名プレイすることにしたようだ。

 

 

 

 

 

 

「この子は私。もう一人の私。だから同じ。パパとママから貰った名前だから、これでいい。これがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 素敵やん(ニッコリ)。

 

 

 

 ワタクシもそれでいいと思いますよ。

 

 14歳かかさまの、「なんでこの子はこうなのに、こっちはゴミなの?」みたいな視線が心に痛いけど。

 

 

 

 ……で、程なくキャラビルドも合格をもらって完了させていた。ちょ、ハヤスギィ!

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 DMMO-RPG『ユグドラシル<Yggdrasil>』

 

 

 

 人間種を種族として選んだプレイヤーが初めに降り立つ駆け出しの街――その転移ポート前に、三人の少女が集い、その様子はたまたま居合わせた他のプレイヤー達の目を引いていた。

 

 

 

「――Hello, World……ってやつ? ま、まあ、これからよろしくね」

 

 

 

 一人離れて立つ黒髪の少女は、腕を組むモーションで偉そうに二人を見下ろしている。

 明らかに戦闘用ではなく、されど仕立てと見た目がよさそうに見える装備と大きなリュックや腰袋からして、どうやら彼女はマーチャント(商人)のロール中なのだろう。

 

 多少経験があるプレイヤーはこの街でその職業についている彼女が初心者(ノービス)ではないと察していた。

 ただ、もっと経験があるプレイヤーは彼女の装備の大半が店売り装備であったり、少々恥ずかしい台詞をわざわざ周囲チャットでも同時放送中であったり、突撃エモーションを誤爆していることからして、「やっぱり初心者だな」と判断していた。

 

 

 ただまあ……それでも彼女は先達なのは間違いないのだろう。

 仮想世界に初めて触れた人間に使う定型文をアバターの開かない口で口にしたのは、相対する二人が完全なるネット処女である証明でもあった。

 

 

 

 

「……うん、よろしく」

 

 

 向かい合う片割れ――目を閉じた長い茶髪ポニーテールの少女。

 明らかに唯の初期装備ではない長柄の金属鎚を肩に置き、未だに慣れていないこの場の空気を感じ取ろうとしているようだった。

 

 

 通常、全くの初心者プレイヤーを目にした経験者達の思惑は様々である。将来有望そうであるとか、自分のギルドに勧誘すべきかどうかであるとか、流行りにのっかるニワカめだとか、リアルで会えそうな頭の弱い子か、etc.etc……

  

 ただ、新規を呼び込むこのキャンペーン期間中にわざわざこの場所を張っていた面子が、初々しい彼女に対して抱いた思惑は似通っているものであった。

 

 

      

  ニア してでも うばいとる

 

 

 

 まあ、大体こんなもんである。

 

 

 

 

 

 そして、最後の一人。特に周囲の目を引いている一人。

 理由は、彼女の種族にある。

 

 

 

 背負った木製のリュート。

 

 腰に据えたダガーと、風に揺れる青緑色のフードとローブ。

 

 成人の半分以下の背丈に、見た目以上に軽やかな、されどどこか危なげな歩み。

 

 

 

 現在開催中のご新規募集キャンペーン期間中、お子様プレイヤー限定で生成されるという、草原を旅する小さな人間種――グラスランナーである。

 

 

 

 

 周囲から「……ほう」「レアキャラktkr」という感心する声や、スクリーンショットを撮影するSEがなり続けている。まさに異常事態であった。

 

 

 ここで説明しておくと、別にグラスランナーをPCとする条件自体はさほど多くない。

 先程挙げた、キャンペーン期間中に、本物の子どもがキャラクリエイトで粘れば数日とかからず達成できるものでしかない。

 

 

 

 ただ、「ユグドラシルを子どもがプレイする」ということそのものが現在無理ゲーと化しているのが問題だった。

 

 

 

 ユグドラシルをはじめとするDMMO-RPGに限らず、仮想現実を為すシステム全般に言えることだが、子どもの参加条件は身分が確立している大人のそれよりも格段に厳しい。

 

 具体的には、①保護者の承認、②倫理・プレイングマナーテストに合格、③ナノマシン適正値クリア などが挙げられる。

 これらはいずれもそれなりにハードルが高い事柄だが、特に長期のプレイングに障害となるのが、【一部の外部クリエイトツールを除き、全課金要素の利用権を問答無用に剥奪される】という、この一点に尽きる。

 

 

 課金要素が世に生まれてからこの二十二世紀に至るまで、長期に渡って子どもの自制なき課金は大きな問題であり続けた。(大人も同様だが、やっぱ自己責任で終わり)

 いくら法的に問題がなくとも、社会人全般の就職年齢が絶望的に低下しているとも、やはり子どもと保護者の財布は保護されて然るべきものである。

 

 しかし流石に過去の形骸化している年齢認証と違って、現在のそれは国民の統制管理システムとの一部リンクによりほぼ完璧と言って良い精度を誇っている。まず通常の手段で偽装されることはないと言っていい。

 

 

 

 

 だがそこに……神がダメ押しっ……!

 

 このユグドラシルにっ……年端もいかない……社会人経験もない……

 

 小賢しいだけの……おこちゃまの分際で……遠慮も無しに踏み入ろうというのなら……

 

 

 捨てねばならぬっ……万民に……この世界の根源に通じる免罪符っ……課金っ!

 

 金は力……力は金っ……故に……それを……捨てるっ……!

 

 

 金は、命より重い……! 腐った世の中……その上仮想で、金を捨てる……

 

 一時の悦に浸る……その為に課金っ……馬鹿っ……大馬鹿っ!

 

 そんなのは……馬鹿らしい……馬鹿なのは……先のリスクを弁えた大人だけで充分っ……!

 

 

 自らの愚かさっ……蒙昧っ……

 

 それらと決別し者のみ……手に入れるっ……この……珠玉っ……お子様限定種族プレイ権……!

 

 

 

 

 要は、課金要素と子どもにまつわるトラブルを一切合切排除しようという、クソ運営の無駄な余計なお世話(いつもの)の一種である。(尚、ここでいう「子ども」は概ね、十歳に満たない者のことを指す)

 それ故、「記憶もったまま転生してもプレイ継続無理じゃねこれ」という意見で掲示板の住民がまとまり、時折現れてはいつの間にかユグドラシルから消え去る幻の種族――それがグラスランナーなのであった。

 

 

 

 

 さて、今度の奴はどれだけ保つかという、周囲の興味と期待を知ってか知らずか、グラスランナーの少女は余りまくったローブの袖から小さな手を伸ばす。そしてフードを外し、素顔を晒した。

 

 

 

 陽光を反射しプラチナブロンドが肩に流れる。

 

 誰のものでもない、傷一つ無い肌が覗く。

 

 目を開ける。大きく瞑らな、紫の瞳が輝いた。

 

 

 

 ほぼ完璧だ……そう誰かがつぶやく。

 体内に貫通している一部の髪の毛や、実は地面から数センチほどの高さでホバー移動しているブーツを無視して皆が理解した。

 これ以上は(外部ツール使わないと)望めない。望むべくもない(嘘)ということを。

 

 

 今や、彼女はこの世界(界隈)の中心であった。

 

 ロリ属性など欠片も持ち合わせて居なかった、男女を問わずこの場にいる誰もが、彼女を脳内で自らの主神に据えた。

 

 

 そうだ……ここに、教会を建てよう(無理)。

 

 神の恩寵など潰えた現実を捨て(でも仕事はする)、この目に映る女神を終生(引退するまで)崇め奉ることを誓った。

 

 

 

 

 そして、にこやかに(無表情の)グラスランナーの少女が第一声を発した。それは紛れもない、天然の穢れなき童女のものであり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――14歳の母って、響きだけでなんかエロくね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その音声の余韻をかき消すべく投擲されたレトロな爆弾により、グラスランナー少女のHPバーは残らず消し飛び、巻き添えを食らったハンマー少女の目が死に、下手人である商人娘のカルマ値が少し下がった。

 

 

 

 

 




無理矢理まとめた感が凄い


■仮想世界に君臨しそこねたオリ主
・リアル年齢は9歳
・みんなだいすきTSロリ
・強制無課金プレイ開始


■目が死んでるハンマー少女
・リアル年齢は13歳
・オリ主が思ってるほど子どもでも天才でもない
・ドワーフではない


■爆弾魔ーチャント
・リアル年齢は14歳
・入社二年目くらい
・爆弾(?)はPCを作り直したときにゲットしたキャンペーンガチャの景品。こいつは……強力過ぎる!



以下ネタバレ。


 ゆぐどらWikiに載っていた吸血鬼娘はシャルティアちゃんです。ナザリックはこのころ全盛期か、それに近い状態にあります。


 オリ主のアバターを一般PCの皆さんはやんややんやと絶賛してますが、極たまにしかこないグラスランナーのプレイヤーが現れたら、生暖かい目でもり立てながら自然消滅までのプロセスを見守るのが彼らの様式美になっています。なので、その前後の台詞は大体がノリの良いPCのものです。



 彼女が14歳の母になるまでの話。

 何気なく見つけた雑誌でユグドラシルの名前を見て、ここがオバロ世界と気づいた娘。色々と悩んだ末に小卒の学歴を得るまで必死に粘り、就職・家出を機にユグドラシルで異形種プレイを始めました。

 が、始めてすぐ酔ってゲロゲロになるわ自分のPCのキモいわようやく慣れたら人間種PCにPKされるわたっち・みーさん来ないわ知らない人は怖いわ無理してPT組んでもすぐごめんなさいされちゃうわ課金してもクズ運だわで、一年くらい踏んだり蹴ったりな目に遭ってます。

 それでもそのまま続けていればそれなりの状態でユグドラシル終焉期を迎えられたはずですが、日々忙しくなる仕事と芳しくないプレイ状況のプレッシャーによって、その選択肢は彼女の頭の中にはありません。前世では当たり前だった、幸運だった頃の記憶もそれに拍車をかけていきます。


 結局、彼女はナザリック合流を諦めて人間種で改めてプレイすることにしましたが、それでも問題の大半は解決していません。なので、自分を高みに引っ張ってくれる誰かを欲しました。もう、自力だけでは転移後の異世界で野垂れ死ぬ未来しか見えていません。そんなことないのにね。

 けど、たっち・みーさん(王子様ポジ)はいつまでたっても来なかった。
 他の人は何考えてるかわからなくて怖い。
 残された時間も、正確には分からない。
 
 そして最後に「自分が一方的に精神的マウントを取れる、保護者と被保護者の関係だったら」と思い至り、中身がボロボロの状態で施設にたどり着いたのが前話の場面です。地球ではない何処かに道連れにすることにもなるので、彼女なりに悩んだ結論がコレでした。尚、悲惨な子どもたちの姿を見てもっと胃がボロボロになっていた模様。

 オリ主をその相手に選んだ理由は劇中で話している通り色々とありますが、実は情が深い彼女は、アバターの肉体の方が明らかに良いであろう子どもを無意識に選んでいます。つまり、二人の身体は死ぬこたーないけどそういう状態に見えていたんでしょう。実はピンピンしてるみたいですが。誰も口にしない描写してないだけで。

 先の話でオリ主に言い聞かせた転移後の予想図は、実際には自分に言い聞かせる意味合いの方が強かったりしますね。もう本当にあの世界に行けるのかすら、彼女には分かっていません。そもそも、根拠すら自分の曖昧な記憶だけですので。


 そんでもって狭い我が家に連れ帰った娘っ子二人。これが、彼女の用意できた鬼札です。吉と出るか凶と出るか、まだ関係が浅い二人の前で精一杯の意地を張りながら、彼女の最後の挑戦が始まります。



今後現実の描写はありませんのよ。そう、オリ主視点ではね


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