お金が無い彼女達は如何にして楽園へと至ったか?   作:山雀

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ネタが尽きてきたので控えめ。
まあ(引き出し無いのに続けるなら)そうなるわなって。


2日目 俺達の冒険は明日から始まる

 マ、ママ上(14歳)ぇー!!!(笑)

 

 

 なぜか酒場に着くなり絶叫し、白目を向いて口から魂オブジェクトを漂わせ始めた我らが保護者様(14)。

 

 そ、そんな……典型的なFXで有り金全部溶かす人の顔をしながらわざわざ魂ゲロるなんて七面倒臭いこと……流石だな、堂に入ったRPだと恐れ入る。

 

 これには我輩もエンターテイナーの端くれとして便乗せざるを得ない。涙目エモーションを展開し、魂オブジェクトをむんずと掴んで口のあたりにぐいぐい押し込める。

 その光景を見て何を勘違いしたのか、下着姿の死んだ目をした少女はミルクで魂を臓腑へ無理矢理流しこもうとしている(堕天使かな?)。

 

 それを見ていた長身痩躯で耳がとがっているナイトが「ジュースをおごってやろう」と気の利いた言葉をかけてくれたので、「9本でいい」と謙虚に返す俺氏。控えめに一人頭3本換算である。

 

 都合5本のジュースを消費したマーチャント様が、「ねえ……せっかくの仮想世界なんだし、どっかの崖で紐なしバンジーしたくない? 楽しいらしいわよ、死んじゃうけど」だとか、「クエストガイドの可愛い女の子に何故か渋い顔されるけど、初心者向けのオススメクエストでゴブリンのすくつ(死語)へNPC救助しに行くってのがあるんだけど、興味ない?」だとか、「今の体どう? どうしてもって言うならキャラデリしてもいいのよ? 特典は惜しいけどこの際アタシも付き合うし」などと、この世界に不慣れな自分たちを慮ったかのような台詞をボソボソと口にしている。

 

 

 そこまで俺たちのことを……ありがてぇ……ありがてぇ……だがしかし――!

 

 

 おうおうおうねーちゃんよ、俺たちの冒険はまだ始まったばっかりなのだ。無駄なリスタートをするには時期尚早というものなのよね。

 まだゲームの全容どころか基本プレイの方向性すら掴んでいない初心者の身では、このままゲームを攻略するのと大して変わりゃしねーと思うのよ。

 

 それに、どうせまた女性のアバターにさせられるやん。……どうせなら最カワなおにゃのこでありたいのよ。せやろ?

 

 次のキャラメイクで外装を自分で好きに出来るとしても、今のようなそこそこ見栄えのいい外見で作れるかというと……正直センス的に全くもって自信が無い俺氏としては遠慮させていただきたいのでごぜーます。というか、メンドイ。嫌。

 

 

 ああそうだ。次のキャラ云々以前に、俺らに今日あったことの報告がまだじゃねーか。よっしゃ聞けリーダー! 腰を据えて耳の穴かっぽじってよく聞け!

 

 話を聞きたくなさそうに耳を抑える娘の手をぐくいっと押し開く。ふはははは無駄無駄ァッ! これでも俺は元社会人として、ホントに自分が原因のトラブルが発生した時以外、何かあった時の責任逃れをするためにホウレンソウはきちっとやるタイプなのだ! ちょいとそこのニューウェーブエンターテイナーさん、そっち側の手抑えといて。あと話の補足頼んます。

 

 

 

 

 あれはそう……今朝俺らが指示された通り、街の周りの粘体生物を追いかけ回し粗方駆逐し終え、更なる血と経験値と薬草を求め、ちょっとばかし遠出した時の話である。

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 この仮想現実しゅんごいのおおおおおおおおおおおおおおおッ!!

 

 

 

 

 ……ふぅ(恍惚)。と、いうわけで仮想現実生活二日目である。

 

 

 やっぱすげーわー かそうげんじつって すげーわー。

 

 

 (今の)リアルボディと違って普通に動けるし、何百メートル走っても息一つ切らさないのはまさに仮想現実様々……ちょっと風景がぼやけていたり感覚が鈍かったりするが、そこはご愛嬌。

 

 前世より格段に下がってしまった目線が多少新鮮……だがそれと差し引いてもこの五体満足な感覚は実に素晴らしい。俺嬉しくってついつい伸身ムーンサルトとかしちゃう! ヒャッハーぐへっ!

 

 

 ぐぬぬ……顔面から墜落した俺に好機と見たのかゴブリン共が集団レ○プしようと駆け寄ってくる。リアルだったら俺の貞操(鉄壁)は、もはや風前の灯火というシーンである。

 だが問題ない。昨日の開幕あぼーんにはちょっと心が折れかけたが、その後のレベリングの甲斐あって、もうここら辺りのモンスター共は俺らの敵ではないのだ。

 出会って3秒で(剣を)挿入して即昇天……この繰り返しで充分こなせるルーチンと化している。

 

 攻撃は今でも当たるとやっぱ痛いが、専らスロウリィな物理攻撃しかしてこない奴らばっかなので、「当たらなければどうということはない」という究極のコンプレックス複合体の名言通り、ここまで無事ノーダメージである。

 

 

 更に我がアバターの種族特性により、薬草探しとか良さげな木材集めとかはお任せである。

 なんかこう、なんでもない野原とか木々とか眺めるとぼんやり光るオブジェクトがあるので、適当にそれらを漁ると割といい感じの素材が生息していたりするのだ。

 

 尚、今日の俺のお気に入りはカブトムシである。たまに木にひっついているこいつらは探さずにはいられない。

 男ならみんなカブトムシ、好きくない(偏見)? 個人的にライダーは片刃短剣二刀流カッコヨスなクワガタの方が好みだったりするが……ああ、でもやっぱカブトムシもいいもの。グラスランサー、嘘つかない。あの独特の匂いもユグドラシルだと気にならないというか皆無だしな!

 

 

 

 ゴブリンと違って剣のダメージ効率がイマイチなスライム系は、頼れる我が死んだ目をした相棒にお任せである。

 餅つきの如くスライムの核をぺったんぺったん的確に潰す彼女にかかれば、頭上からのぺーと押し潰されない限り(あぶなかった)、粘体生物など恐るるに足りない。

 

 ちょっとひねくれたRPGのように、片っ端から武器を溶かしてきたり物理攻撃を全く受け付けなかったり、ムダに大きい当たり判定でタゲとられたり、ノータイムで復活しちゃったりするような、極めていやらしいタイプのスライムが居なくて良かったと思う。いやー、やっぱスライムは雑魚なのはお決まりだよなーそうだよなーうへへへへへへげほっげほっ。

 

 

 

 まあそんな感じで、二人して調子に乗りまくり、薬草採取のクエストと並行してレベリングを行っていた時のことだ。

 早速必要量を確保した経験値を消費し、(14)に指定された通りファイターのレベルを上げ、より効率の上がるレベリングにご満悦の俺は鼻歌を歌いながら木立の中を散策していた。

 普通に考えたら獲物はこういった込み入った地形の方に潜んでるものだしーという、専ら狩猟民族的思考回路に従って。

 

 ひらひらと俺の目の前にかわいらしい蝶々までとんで……なんか変な蝶ですなこれ、毒々しく光っとるし。

 

 

 

 

 

 ――そこで俺の耳に「ぎゅーん、ぼーん、びたーん」という三拍子が響いたわけです、はい。

 

 

 

 

 何奴ッ!? と俺が背後を振り返ると、そこにはいい感じのウェルダンに焼き上がって倒れ伏すハンマー娘の姿が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして気がついた時、俺は街のリスポーン地点でムカつく顔のタウンガイドに説教されていた。

 

 

 曰く、「おお、わかきグラスランナーよ! しんでしまうとはなさけない!」とのことだが、え? 死んだの? うっそーん……。

 

 ああ、ホントにレベルがガタ落ちしとるしローブとブーツがどっかいっとる……ダガーとチェニックに素足というなんとも微妙な格好になっていて、足の裏ゾワゾワして落ち着かない。

 

 

 隣を見れば、石畳の上で体育座りをしている目の死んだハンマー少……娘っ子よ、さっきまで振り回していたハンマーどこやったん?

 

 涙声のまま語る彼女の話だと、「俺の後頭部を眺めながら歩いていたら、突然致死レベルのダメージ数値が表示されて体が動かなくなり、そのまま地面にキスしたと思ったら俺と同じく街のリスポーン地点でガイドに説教されていた」のだという。

 ファーストキスが地球(?)とか、壮大なのか悲劇なのか判断に困るところだ。

 

 

 よくわからないが、兎にも角にも事件現場に戻ろうという話になった。今は落としたアイテムの行方が気になってしょうがない。

 

 俺は足裏に振れる土肌の鈍い感覚が落ち着かないし、愛用し始めていた武器を無くした相棒はそれどころではない。早急な精神安定が求められる。

 

 せっかく貯まり始めた活動資金を削るのは貧乏性的に辛いものがあるが、流石にモンクタイプでもマジシャンタイプでもないのに非武装で街の外には踏み出せない。

 初心者用の武器屋NPCからとりあえず《こんぼう》なる安価な殴打武器を買い求め、どこか哀しい目になった相棒に手渡す。スマン、今はこれが精一杯。

 

 

 

 

 意気揚々と街の正門からさっきと同じルートを辿るように木立へと向かう。

 今度はPTの並び順を、①こんぼう娘 ②俺 に変更して。

 

 無論、俺たちの本来の目的に沿って遭遇した魔物はなるべく仕留めていきながらの道中なのだが……案の定ここにきて5レベルのダウンはキツイものがあるね。当然のことながら、キル効率が目に見えて落ちてしまっている。

 

 

 やっぱ先達は偉大であるものだな、と昨日得意げにモンスターを痛めつけていた商人娘(Lv.14)の姿を思い浮かべる。

 「ああもうめんどうねー」だとか、「しょうがないわねー」などと呟きながらの騒がしいレベリングだったが、彼女がその言葉とは裏腹に結構嬉しそうにしていたような……まあ気のせいだな(確信)。

 

 

 今夜彼女と落ち合うまでに、失ったレベルを取り戻せるだろうか? と考えながら、確かこのあたりと検討をつけて木々に立ち入る。

 

 しばし探索を進めると、少し先にポツンと落っこちている俺たちの装備が見えた。おお! 良かったー! 助かったー! 気のせいかもしれんが、ハンマーがなぜかピカピカ光って見えるぜ!

 

 これで怒られないで済むなと俺が考えると同時、死んだ目を輝かせながらハンマーに向かって駆け出すこんぼう娘。やったね! ハンマーが戻るよ! 《こんぼう》には悪いけど!

 

 嬉しそうにハンマーに頬ずりする娘を見ながら、とりあえず履物をと手前に落ちていたブーツに手を伸ばす。

 

 そこで何故か何処からともなく飛んできたバッタが眼の前を横切り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……気がついた時、俺は街のリスポーン地点でかぼちゃパンツを披露しつつ、ムカつく顔のタウンガイドに再び説教されていた。

 

 先程と全く同じ台詞を吐かれる。ひょっとしてこれから先、ここらへんでデッドする度にこのイラッとする台詞を聞かなければならないのだろうか? それは流石にちょっと勘弁。

 

 早めにリスポーン地点の変更か、もしくは追加が望まれるところである。

 今夜早速ギルドの結成を我らがPTリーダーに具申するとしよう。確かギルドの拠点からリスポーンできたはずだしね。

 

 

 それはそれとして、再びの謎デッドである。

 うーむ、思い出せる範囲だと、ブーツに手を触れるか触れないかってタイミングで何故か突然俺の眼の前が真っ暗になり、HPバーがすっからかんになったのは確かなんだが。

 

 程なく俺の隣にリスポーンする下着姿の娘。ああ、今回は死んだ順番が逆だったのね。

 呆然とする我が相棒は心配だが、さてどうしましょうかね。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 とりま落ち着ける場所で考えるべきだなという結論に至り、ぐしぐしと泣きべそをかきながら「《インパクト》ぉ……」「《こんぼう》ぅ……」と、自身がこれまで使ってきた武器の名前を呼び続ける少女の手を引いて歩く。……あの、お嬢さん? 君は打撃武器なら何でも良いのか?

 

 まあなけなしの金で買った《こんぼう》まで失って意気消沈するのは分からないでもないね。俺も防具も武器も失った身なので。

 あまりにも風通しが良い恰好なので、気持ちいいこともないが想像以上に心許ないのよ。風なんて吹かないけど。

 

 

 代替品を買って再びあの木立にチャレンジ……と行きたいところだが、流石に全装備ロスト分の買い戻しとなると懐具合が今ひとつである。

 商人娘の話だと、ユグドラシルはモンスターから得られる金銭は比較的多いゲームとのことだが、現状足りていないのでしょうがない。無い袖は振れない、これは摂理である。

 何より、デッドした理由を突き止めないと先程の二の舞に終わる。それはあまりにも勿体無い。

 

 

 

 だがこうして歩いているだけで通りすがりのPC共がじろじろとこちら眺めてくるのは気になるのよね。まー確かに下着姿で少女二人トボトボと手を繋いで歩いてたらガン見するよな。男なら……ん? 女も? いやん。

 

 とりあえず人目を避ける為にPTの集合場所に指定されていた、酒場のカウンターに腰を下ろす。童女で痴女の街中練り歩きとか……そんなの自分の方がお金を払ってでも拝みたいくらいなので、他のPCの目にただ晒すにはもったいなさすぎる。ヘイマスター! 俺下戸だからミルク二つちょーだい!

 

 カウンターを滑りながら届けられた液体を口に運ぶ。「このミルク、味しねーな」とか考えながら微妙なバフがかかるのを確認し、隣のすっぴん娘の肩を叩いて慰める。まあ気分だ気分。

 

 

 

 

 しかし、ただフィールドを歩いているだけで死んで装備していたアイテムとレベルあぼーんとかひどいクソゲーである。

 運営だけではなく、肝心のゲームの中身までバグまみれとか、本当にこのゲームって巷で大人気なんだろうか? 疑わしいにも程がある。

 

 

 

 ふっ……だが問題ない。俺はこういうときに取るべき手段はちゃんと心得ているのである。

 

 というわけでっと……あったあった、これこれ。

 

 

 ――もしもしポリスメン? え、違う? あ、スマソ、間違えました。

 

 ちょいとGMさんGMさん。ウチら、さっきから二度も何もしてないのに死んじゃったんですけどー、ちょっとこのゲームバグってんよー、とメニューから呼び出したGMコールでバグ報告を行う。

 ただ漫然と提供されるゲームで遊ぶだけの俺ではない。昨今のオンラインゲームにおいて、総じてプレイヤー = デバッガー扱いなのはもはや常識。

 

 よしよし程なく回答が帰って――は? 「何も問題は無い? 全て仕様上の動きです」だとぅ!? にゃんですとぉー!?

 

 そんなはずはにぃ、ちゃんと確かめてくれと再三コールするが、その度に「仕様上の動きです」の一点張り。流石の俺氏もこれには憤慨(割とよくある)。

 

 ほんとクソゲーだな、と反応しなくなったGMコールに舌打ちしながらメニューを閉じる。隣には死んだ涙目でオロオロするPTメンバー。スマン、あてが外れちまったい。

 

 

 

 ぐぬぬ……これでは今後おちおちレベル上げするのもままならない。

 街から出る度に1デッドして装備全ロストとか割に合わなさ過ぎる。間に合わせで購入する武器代を溝に捨てるようなものではないか。

 

 

 仕方ないので、対策はユグドラシルのプレイに一日の長があるアヤツに縋ろうとレベリングを一旦放棄する。14までレベルをあげられる位なのだ。似たような経験はしているだろう。

 それに昨日は何も無かったし、何か伝え忘れていた注意点があったのかもしれん。

 

 とは言え、彼女が帰宅してログインするまで結構な時間残っている。はてさて、どうしたものか。

 レベリングをしていたはずが武器防具全部なくしてレベル1になってましたとか、ぜってー怒られるだろうなー、あ゛ー……気が滅入るわー……嫌だなー……。

 

 

 レベリングはできなくとも、時間を無駄にはできない。というわけで俺氏、おもむろに残っているアイテムを出してその辺に並べてみる。

 何は無くとも現状把握をせねば、何事もはじまらない。何が出来るかも分からぬのだ。勝負するにも手札を知らない、ではお話にならないので。

 

 それを見た隣のお嬢さんもぐしぐしと湿った音をたてながら後に続く。まあ少しでも彼女の気が紛れるならそれもよろしいでしょう。

 

 

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【 俺 】

 

 1.そぼくなリュート

 2.おかね

 3.やくそう

 4.やくそう

 5.やくそう

 6.やくそう

 7.カテーナ木材

 8.アリフレビートル

 

 

【 デッドアイズ・ホワイト・ドワーフ 】

 

 1.おかね

 2.やくそう

 3.やくそう

 4.はちみつ

 5.おいしいはちみつ

 6.スライムゼリー(低級)

 

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 むおっ、はちみつ!? いつの間に? 何処でげっちゅしたん!?

 なんとなく地面を掘ったらでてきた? ほへー、地面はあんま見てなかったから気づかんかった。よっしゃ今度真似しよ。

 

 んあ? リュート? 狩りには不要な気がしたので装備から外していたおかげで、唯一装備品の中で全ロストの被害を免れたラッキーなやつである。ポロロンボロロン。おー、ちゃんと音でるんだこれ。

 

 

 まあ案の定、役立つものは無さそうである。

 薬草の数は納品の規定数にギリギリ足りそうだが、それで得られるものはしょぼいポーション数個とちょびっとのお金。今回の損害を補填するにはまるで足りていないし、他の素材系アイテムは今の俺らが持ってても大した価値は無い。というか、多分本当に価値はあんまり無いよね、最序盤だし。

 

 

 

 打つ手なしかーと諦めかけた俺氏――その脳裏に浮かぶ、義母(14歳)の言葉。

 

 

 

 

 ――いい!? ちゃんと周りのロリコンどもに媚び倒してガッツリ稼ぐのよ! そのために雇ったようなもんなんだから!

 

 

そうよ、乞食プレイがあったじゃない。

 

 武器どころか靴下さえ無い有様なので、流石にどっかのパーティーに混ぜてもらう姫プレイの類は色々な問題から避けておいたほうが無難そうだが、プライドさえ捨てられるなら乞食プレイいけるんじゃね?

 

 下着姿のメスガキ二匹で適度に減らしたHPバーをアピールしつつ、その辺の心の弱そうなPC共に片っ端から泣きつけば……俺の見立てならまあ何十人に一人くらいは何かしらアイテムを恵んでくれると予想。

 

 問題は只今の時刻が平日の真っ昼間ということであり、どう見てもこの辺にそんなにPCが居ないことだが……それでも、ただ待つよりはマシかと腹をくくる。よっしゃー、やったるでーと気合も入れる。相棒が反応してくれなくて哀しい。

 

 

 ……しかし乞食プレイをするにしても、ただただ人様から貰うだけ、というのは個人的に心苦しい(それが真っ当な乞食プレイなのは置いておくとして)。

 他人から受けた恩を忘れずにいることは勿論、せめて援助を受ける側として相手が重荷に感じない、かつ俺らの懐が傷まないお礼をせねばならぬ。恩は3倍に、恨みは10倍にして返せという前世から続く我が家訓故に。

 

 

 

 ――何ができる?

 

 ――俺は、何になれる?

 

 

 

 自問自答しながらなんとなく横に視線を向ける。そこには俺のリュートをおもむろに弄る娘っ子の姿。

 スキルも何もないので本当にただ爪弾くだけなのだが、なかなかどうして良いセンスをしておられるようでちゃんと音楽になってるじゃないの。

 

 唐突に、「あ。」と呟く娘っ子。何やら、新しい職業レベルが取得可能になったと教えてくれた。

 なんのーと尋ね、こんなのーと返される。ふーん、そっかー、そうなのー……

 

 

 それを聴いた俺氏の脳裏に浮かぶ、起死回生の一手。

 

 我、天啓を得たり――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、その結果がさっきまでの乱痴気騒ぎってワケ? いくらなんでも、うまく行き過ぎじゃないの?」

 

 

 そこでジト目(あざとい)を向けられると興奮してしまうのでやめてください(真顔)。

 

 まあそうは言うが、実際そこそこうまくいってしまったのだから俺としてはそのままこれまでの経緯を述べるしか無い。

 

 残念ながら当初の目的である、戦闘職のレベリングは全くできなかったのは事実なので、そこを責められるんじゃねーかなーと内心ビクンビクンしていたが、どうやら彼女としてはそれどころではないようだった。あー良かった。いやちっとも良くないけどさ。

 

 

 んで、件の乞食プレイならぬアイドルプレイ(え? 響きがどこか卑猥? 鼓膜か魂のどっちかが腐ってますねぇ……)だが、実際やってみたら外のモンスターと戦わなくてもちゃんとレベルを上げられたし、歌手レベル上げたら声の通り良くなるし、踊り子レベル上げたらかわゆいモーション増えるし、俺氏も施設で悶々しながら我慢していた趣味を復活させられたしで結果オーライである。

 

 

 最初はどうにも素人臭が抜けないおこちゃま芸だったとは思うが、色々レベルアップしたころからは歌も踊りも音楽もキレがちゃんと出て……まあそれなりに見られるもんになったんじゃないだろうかと思う。ていうか、そう思いたい。でないと見てくれた萌え豚共(超失礼)に申し訳たたぬしね。

 

 夕方過ぎ位からポツポツ人も増え始めたし、人と歓声とスクショフラッシュが大きければそれに応じてこっちもテンション上がるもんだし、ただ無為に時間を過ごすよりはみんな幸せになれたと思うよ。これがWin-Winってやつ? え、違う?

 

 

 でもよー、あれだけ悲惨な有様だった我が相棒も大分気が紛れたのか、ほらこの通り。元の目が死んだ状態になってすっかり回復して元気になっている。

 何気に酒場据え置きのピアノまでアドリブでひきこなし、俺氏のぷりちーボイスに即興で合わせやがったコヤツには拙者も驚きですわ。演奏だけじゃなく歌もイケるクチのようなので、今度時間があるときに仕込んでみようと思う。

 

 

 おひねりとして投げ入れられたアイテムだってなかなかの収穫量である。

 お金、ポーション、各種素材、食材、武器、防具、アクセサリー……他プレイヤー譲渡不可属性のついていないお手頃なアイテムがテーブルに山盛りである。

 

 ただそのうちのいくつか――明らかに今の自分達が装備できないランクの装備品(商人娘の鑑定の結果、絶対見合わないらしい。なんでこんなのここいらのPCが持ってんのよ! とは彼女の弁)やら、価値が高そうな物品なんかは商人娘のお達しにより、間もなく元の持ち主へと返品されてしまったが。「あんなランクが高いもん貰っても後々恐ろしいだけだから返してこい。て言うか、お願いだから返してきて、ホント、何でもしてあげるから」とテーブルに突っ伏したままの彼女に頼まれたので、渋々親切な萌え豚ども(♀もいるよ!)にごめんなさいしつつ返してきた次第である。はー、気が小さいご主人様であるこった。き、嫌いじゃないけど!

 

 

 

 まあ、結果としておかげで装備も今朝と比べて格段に充実したでござる。

 

 

 ありがたく頂いた装備品でランクが適正なもののうち、性能は無視してデザインが良さげなものを優先して装備させて貰った。

 全体的にひらひらなやつね。かぼちゃパンツもちゃんと角度によっては見えるよ! クソ運営分かってる。やっぱ文明人としては衣類は必須なのだなと実感できて喜ばしい限りであります。

 

 せっかく貰った武器は無くなってしまったのがちょっと痛いが……まあ、これだけお金に余裕ができれば大した問題じゃないよな! 適当にショップ巡りでもして光り物を仕入れることにしようず。

 

 

 エロゲーの陵辱後みたいな雰囲気を漂わせていた、ハンマーがどっかいっちゃった娘っ子も大分健全になったよ!

 

 ショートパンツスタイルがお気に入りなのか、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねしきりに着心地を確かめてる。一緒に跳ねるポニーテイルも心なしかツヤツヤしている。ぐへへへへ、ええのう、ええのう。

 

 俺と違って手頃な獲物まで手に入れてブンブンとご満悦なことで……シャベル? あの、それ何の武器カテゴリーなん? 剣? 斧? 棍? ああ、手に感触が伝わるのがたまらなく良いと。へ、へー……(逸らし)

 

 

 

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

 

 

 即興ライブの休憩時間中に、昼間に俺らに起こった謎デッドの真相を教えてもらったのよね。

 曰く、「新人狙いのPKなんじゃねーの」だってさー、どっかに潜んでたプレイヤーに遠距離から魔法なりなんなりでやられたんじゃないかって。

 

 

 まさかの人災に俺氏の怒りが天元突破。激おこぷんぷん丸である。それが……それが人間種(決めつけ)のやることかよおおおおおおおおおおお!!

 

 別に個人的にはPK行為を全て否定するわけではないが、何も知らない初心者を食い物にするとは……どうにも救いがたい、けしからん奴らである。初心者ぃぢめてアイテム強奪して嬉しいとか……恥ずかしくないの?(呆れ)

 

 「駆逐してやる!! ……一匹残らず!!」と悔し涙を流すフリをしながらカウンターに立ち(きちゃない)、似たような奴らと遭遇したら即PKK(駆除)する不破の誓いを立て、養豚場に集った畜生共(みんないいやつ)で団結した一幕である。今度のライブも、頑張るぞい!

 

 

 

 

「……まあ、大体はやっすい初期装備だったし割とどうでも良いとしても、確かにあのハンマーは惜しかったわね」

 

 

 

 ちびちびとジュースをすすり(減らない)、多少は影が濃ゆくなったママーチャント娘が呟く。あのハンマーの行方には未練タラタラらしい。初期ステ画面確認した時、俺らの後ろで歓喜の小躍りしたせいで隣から壁ドンされたくらいだしな。さもありなん。

 

 

 

 ――フッ……だが安心召されよ、ご母堂。

 

 わざわざ我ら幼子を狙って姑息な不埒を働くしかないような、クソ雑魚ナメクジなんぞにこの俺氏……容赦せん!

 

 何を隠そうこういう時に取るべき行動について、昼間のステージインターバル中にちゃんと出来る一匹の豚からレクチャーを受けていたのだよ。

 

 

 俺の台詞を聞いて訝しむ14歳に対し、酒場のこきたない壁の一角を指差す。

 

 まー彼女にわざわざ言うまでもないことではあるが、そこには見た目はくたびれた羊皮紙がいくつか掲げられている掲示板があんのよね。

 

 俺が指差したのは、その中のオリジナルクエスト板。その実態は、アイテムのトレード・譲渡・収集・作成などはもとより、PL・PK・PKK・PKKK・ギルメン・PT・同好の士・出会い・見抜き相手を募集するなど、ありとあらゆる依頼が無節操にやり取りされているカオスの権化である。

 俺はその中から割と新しい記事をホイッと彼女の眼前にピックアップ表示させる。

 

 

 善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし!

 害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし!

 

 フハハハハハハハ! 見るがよいぞ! これで彼奴らは詰みなのじゃー!

 

 

 

 

 

 

<クエスト依頼:尋ねハンマー>

 

 

● 発行元

 

 【グラランむすめ】

 

 

● 目標

 

 ・両手鎚《インパクト》の回収・譲渡

 

 

● 報酬(更新あり)

 

 ・初級ポーション × 3

 ・おいしいはちみつ

 ・アリフレビートル

 

 

● 期限:無期限

 

 

 

< 募集文 >

 

・白ドワーフちゃんの愛ハンマーをさがしています。

 

・名前は《インパクト》です。最近使い始めたばかりの両手鎚です。

 

・ワールド:アルフヘイムの駆け出しの街付近でさがしています。

 

・○月○日のお昼頃、れべらげの途中にPKされてなくしました。

 

・その後、死んだ場所に行って探そうとしましたが、今度は防具を全て剥かれました。

 

・お力添えください。理不尽に抗えず困っています。

 

・見かけた方や、保護された方はご連絡ください。

 

・持ち主に似て臆病な子と思われます。

 

・ってか、やったやつ氏ね。

 

・やってなくても似たようなことやらかす奴ら皆氏ね。

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 ご覧の通り、ザ・他力本願である。どうよこれ、とドヤ顔とともにあんまり無い胸を張る。商人娘が盛大な音を立てて床に崩れ落ちた。

 

 えー、何故にその反応? 俺らを襲った不埒者に関する手がかりもこれといってあらず、他に出来ることも無い状況下で繰り出した、こんなに完璧な策であるというのに(困惑)。

 

 まあ、ぶっちゃけ恥知らずな初心者狩り共への嫌がらせ以外の何ものでもない。これで動きづらくなってくれればなーというのが、俺氏のささやかな願いでもある。

 新人はそれなりに大事にしてあげないと、コンテンツ全体の衰退を招いちゃうって、はっきり分かんだね。守護らねばならぬ……。

 

 初心者メスガキプレイヤー一匹の訴えがこの世界の何処まで響くかは甚だ疑問なのだが、入れ知恵元の豚君からは「やらないよりマシ」という極めて妥当な評価を頂いている。

 

 

 仮に(可能性はほぼ無いが)ハンマーが見つかったら万々歳。最悪盗まれたハンマーが返ってこなくとも、いつか同じものが手に入る可能性も見込める。

 下手人にハンマーが捨てられてしまう可能性が無くもないが……この先そんな悪党の倉庫の中で眠り続けるよりは彼女(?)も安らかに眠れるであろう、という断腸の思いで下した決断である。ハンマーちゃん……済まない……済まない……。

 

 

 成功報酬に旨味がさほど――というか報酬が絶対にしょぼいという事実が最大の問題だが。如何せん純粋に自力で獲得したと言えるものが、今の所コレくらいしか無いのが辛いところである。他人から貰った物をそのまま他人に流すのは、ちょっとモラル的に……ねぇ?

 

 ま、まあ? 今はしょぼくてもちょっとずつ良さげな内容に差し替えるし! そのうち労力に見合うクエストにできるやもだし!

 

 

 

 

 

 

 

 ま、こんなもんでしょ(適当)。果報は寝て待てというところなのよ。

 

 それよりもだリーダー! ギルド作ろうギルド! 死ぬ度にあのタウンガイドから説教受けるのもうやめにしようず。いい加減聞き飽きてんよー、まだ数回だけど。

 

 

「は? ギルドぉ? んなもんまだ無理に決まってるでしょ! 拠点どうするのよ! レンタル拠点代だって今のアタシらにとって馬鹿になんない額なのよ! 自力で見つけたいならさっさと強くなってどっか維持費格安の未発見ダンジョンにでもアタックかけられるようになんないと話になんないの! それにさっきからリーダーリーダー呼んでるけど、アタシ一度もそんなこと言ってないじゃない! 昨日やってたぁ!? 最初だけよ! もう嫌! ギルマスだってやんないわよ! ギルメンの管理とか他所のギルドとの交渉とかコミュ的に矢面に立ちそうなの無理無理無理! そうよアンタがやればいいじゃない! アイドルロールなんかしちゃって目立つの好きなんでしょ!? というかいい加減適当極まる母親呼ばわりやめてくれない!? 14歳とかリアルのことまでバラすせいで周りの奴ら皆変な目でこっちみてんじゃないの! この歳で経産婦扱いとか冗談じゃないわ! あとなんでアンタといいそっちの白ドワーフといいヤバイ方向に突き進んでるのよ! アンタらの育成方針考えるのはもう諦めたけど、だからってウォーモンガーとかお呼びじゃないっての! この先まともに連携できるんでしょうねぇ!?」

 

 

 

 

 ……とのことなので、俺らがギルドを結成するのは当分先になるらしいよ、残念。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数日後 どっかの大墳墓】

 

 

 

 

 フフフ……

 

 

 

 あれ? ポーションと……昆虫の飼育セット? それがどうかしたんですか?

 

 

 

 いえ、ちょっと人助けを、ね。その報酬です。

 

 

 

 ああ、なるほど。いつもの、ですね。

 

 

 

 ええ、まあ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前」ですから。

 

 




・そろそろ原作キャラだせやオラアン! というお告げに従ってあの骨と虫にご登場願いました。短かいけど。

・キャラの名前ださないように無理矢理してるけどそろそろ厳しい……厳しくない?


■ぐららんオリ主
・暫定PTリーダー
・虫とともだち、草もともだち
・鼓膜はピッチピッチなので魂の方が腐っているに違いない


■白ウォーモンガー(なりかけ)
・とりあえず鈍器中心でいくらしいです。
・初ちゅーはアホ面で昼寝してたどっかの破天荒娘


■厨二マーチャント
・アイテム管理が格段に楽になるので実は切実にギルド拠点構えたがってるのはこいつ
・実態はともかく、コミュ症がリーダーに推されてもキツイものがあるよね


↓後出しのあとがき

 人間種なのに即PKされて剥かれちゃう激おこなオリ主と、他人から一方的に奪われる(心の)痛さと怖さを思い出してしまった可愛そうな女の子の話。

 ラストの通り、あっという間に解決してしまったので全くもって緊張感が続かなかったですが、結果的にすんなり行方不明のハンマーを取り戻してしまったオリ主への好感度うp待ったなし。


 高価な装備を貢ごうとしてきたのはオリ主sをまだ襲っていなかったPKが大半です。目的は純粋に改心してのプレゼントだったり、洗脳系のちょっとヤバイ品を贈って良からぬことを企んでいたりってとこです。

 ちゃんと商人レベル上げて得た鑑定スキルでそのあたりのことを見抜いた娘っ子は、多感な時期の少女メンタルに配慮して黙って返させましたが、後でヤバイ品だけ売っぱらえば良かったと後悔したことでしょう。


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