お金が無い彼女達は如何にして楽園へと至ったか?   作:山雀

7 / 14
モモンガ「歓迎しよう……盛大にな!」

みんな「「「 おかのした 」」」





前回三人娘がエロい目に遭うと書いたな……あれは嘘だ。すまんの。

あと今回ネタ皆無です。みんなまじめで困る。


おいでませ なざりっく

-----

 

 

 

 

【 しょうたいじょう 】

 

 

 

「――で、どうしようかコレ」

 

 

 客がいない酒場の、奥まった位置のテーブル席に座る少女たち。

 

 目の前には質の良い封筒が三通。仰々しい印璽が刻まれた封蝋が禍々しく自分たちを睨んでいるように思えてならない。

 

 つい先程少女たちの元に届けられたものであり、ユグドラシルのプレイ歴が浅い少女たちであっても、『招待状』というそのあからさまなアイテム名からしてその用途は容易に想像がつく。

 

 

「……わざわざ私達の名前まで入ってる……試着会とか色々依頼したいことがあるらしいけど、詳しい内容が一切書かれていない……それでいて報酬にヴィジュアル重視の装備品……」

 

 

 逃げられない……そう暗に告げる少女の声は暗く、目は光を失っている。

 あしたの朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命であることを自覚している豚ちゃんがいれば、こんな目をするかもしれない。

 

 

「つまり……こっちの事情は全部調べられてるってことかぁ」

 

 

 このアイテムを少女たちに齎した黒装束の男(?)によれば、自分たちの企てを全て把握した上で、協力を求めるならば使うがいい、とのことらしいのだが。

 この状況、このタイミング、そしてその言葉の裏を読めないほど彼女たちは愚か者ではなかった。

 

 

 

 ――間違いなく、先日やらかした落とし前をつけに来いということだろう。

 

 

 

 動揺する心の影響を忠実に再現(フィードバック)し、二人のアバターが震える。奴隷として飼われ、最後に殺される……痛みのない仮想世界とはいえ、そのような最期(1デッド)を迎えるのはすごくすごく悲しくて辛いことだった。

 

 だが、これは逆にチャンスと言えるのかもしれない。

 本気で彼らが怒り狂っているのなら、まともに戦闘職を育てていない自分などとうにヤ○チャ同然である。

 

 こういう回りくどい接触方法をしてきたということは、何かしら彼らが自分達に期待するものがあるということなのではないか?

 そうなのだとしたら、見込まれたからには出来る限りのことをせねばなるまい――(元)男なのだから。

 

 だが、自分たちの中でもようやく対策らしい対策が練られ、グラスランナーの幼女としては(心底嫌だが)さあこれから動きだそうとしていた矢先にこれだ。

 もし最上位ギルドの支援を受けられるのならば、自分たちだけで計画を進めるよりも遥かに早期に目標を達成できる……それは間違いないのだろうが、素直に喜べるものではない。

 

 幼女はぐっと拳を握る。ここ最近、何かと状況に振り回されてばかりいるという自覚があったからだ。何事も先攻絶対有利が根底にある彼女としては、実に面白くない。自分から踊るのは好きだが、他人に踊らされるのはまっぴら御免なのである。

 

 

 弱き者は去り、強者だけが生き残る。

 グラスランナーは知った。力無き者に対し世界は厳しい。この仮想世界で生き残るためには、真っ当な力を得なければならない。さもなくば、この先生きのこることはできないと。

 ……だが今は雌伏の時。まずできることからやっていくしかないのだ。

 

 

 それはさておき、天上人からのお招きである。下民は下民なりに、それなりの準備はしていかなければならない。

 このまま断頭台の露と消えるとしても、道化としての役割を期待されているとしても、弱者の矜持を示しておいて損はしない。というかこれは意地の問題である。

 その辺りの心得くらいならばちゃんと持ち得ている幼女ではあった……が、彼女たちの現状を鑑みると如何ともし難い瑕疵があった。

 

 

 

「ドレス系とか外行きの可愛いのとか持ってない? 武器も攻撃力とかどうでもいいから儀礼用のキレイなのが良いんだけど」

 

「これしか無い……他のはこの前持っていかれちゃった……」

 

「……そうだった……今の装備そこそこ可愛いけど、折角のお招きなのにオシャレ出来ないとか……乙女としてあるまじき失態……ウカツ……ウカツ……」

 

 

 

 グラスランナーの幼女の常識から言えば、上位者からご招待に預かった際のおめかしは至極当然であった。

 白ドワーフの少女は、そう言えばそういう慣習(?)があったような気がするな、と今となっては遠くなった記憶を思い出していた。

 

 ちなみに、現実では二人とも下着以外にまともな衣服すらまだ殆ど無い有様なので、それ以前の問題である。

 

 

 

「服もそうだけど……犬猫尻尾とかそれ系のアクセサリーないか優先で探そうず。この際呪われててもいいから」

 

「……なんで?」

 

「ほら、予め装備して垂らしておけば、お尻は無事ガードできるかもと思うんだよ。どう?」

 

「よくわかんないけど……何処かで見た気がする……探してみる?」

 

「人数分揃えたい。この歳で後ろの開発済ませましたとか、いくらなんでも背負う業が深過ぎる」

 

「じゃあ頑張る」

 

 

 

 とりあえず店売り装備の再確認とフリマのチェック。然る後に金策だな、と二人は席を立つ。指定された日は三日後の夜。後から悔いることの無いように、それまでに出来ることはして全ておかなければならない。

 

 

 

「生きて家に帰ってくるまでが遠足だかんね……今度はもっともっと長生きしてやるんだから」

 

「ずっと……一緒……死ぬ時も……一緒」

 

「お、よく知ってんね。えーっと、『我ら三人、生まれる時は違えども~』だったっけか? まあ三人だし、貧乏だし、性別違うけど丁度いいかもね」

 

 

 横山版(演義でも?)だと強奪に近い出世払いで馬とか調達していたりする元ネタの英雄たちは、結局バラバラのタイミングで死んじゃうことは口にしない。その程度のデリカシーは持っている幼女である。

 

 

「……姉妹?」

 

「家族、かなぁ? 友達ってのとはちょっと違う気がするし、仲間というには距離が近すぎるから、俺ら」

 

 

 姉妹なら、あと一人いれば若草物語だなと幼女が呟く。ネットで炎上しっぱなしなのにこんな調子の彼女たちは実際大物と言って良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 尚この場に一人足りないのは、商人娘の本体が今現在真っ黒な勤労に勤しんでいるためである。

 

 今となっては恐怖と憎悪の対象でしかないアインズ・ウール・ゴウンへの対策を必死に考えながらの業務をこなす彼女は実際有能であった。

 

 その彼女の手により、「レベル上げ!? 知るかバカ! そんなことよりバケモン対策よ!」と被保護者である二人には職業の調整と素人催眠術を交えた演技指導が行われるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

(――ちっさ!)

 

 

 事前にその姿は画像で見ていたものの、実際に見えるとこうも違うのか……鈴木悟ことモモンガが初めてグラスランナーの姿を見た感想はまずそれが第一だった。

 間違いなく、自分が今まで見てきたPCのどれよりも小さい。アウラとマーレの双子ダークエルフと比較しても尚小さいだろう。ヴィクティムほどではないが……反目の執事ペンギンNPCことエクレアとほぼ変わらないのでは?

 

 公式が子どもにしか解放していない種族だというのも納得の身長の低さであった。大人が使うアバターとしては身体を操る感覚が違いすぎて、リアルでの生活にまで支障がでてしまうことは容易に想像がつく。

 これで戦闘に関しては近接型のキャラメイクだというのも信じがたかった。どちらかと言えば魔法詠唱者タイプで運用するほうがよっぽど楽だろうに。

 

 

 

「……おはつにおめにかかります。アインズ・ウール・ゴウンのみなみなさま。グラスランナーのオーレリア・ルハティー・S・ナノレスともうします。こ、このたびははいえつのえいによくし、こうえいのきわみでございます」

 

 

 

 今はこうして玉座の間のレッドカーペットの上で跪き礼を尽くしているため、玉座に座り見下ろすその身体は尚の事小さく見えていた。

 

 

(……というか、なぜに敬語!? なぜに跪礼!? あとなんで狼尻尾!? めっちゃ震えてるし!)

 

 

 登場後のいきなりな低姿勢に、自分を含めたギルメンの雰囲気は穏やかではない。

 

 

 そもそもこの日、ナザリック地下大墳墓は密やかな熱狂の中にあった。何しろ、「普通の外からのお客様」である。

 

 某エルフの少女等ギルドメンバーの身内を除き、これまでアインズ・ウール・ゴウンは決して外部のプレイヤーを大墳墓の奥へと招くことはなかった。

 それは悪の異形種ギルドという、何かと敵を作りやすいプレイ方針故に敵対プレイヤーに情報が渡ることを防ぐ意味が大きい。

 数々の防衛ギミックやNPCの配置、相手の思考を誘導し読んで組まれる迎撃体制……いずれにせよ、敵方に漏れてしまえば拠点の防衛力そのものが低下する秘匿事項である。

 

 1500人からなる他プレイヤー・NPCの一大攻勢以降、その辺りの情報の価値が相対的に薄れているとはいっても、部外者においそれと見せるものではない。特にギルドメンバーの私室や作業場、娯楽施設などが配置されている第九階層以降には攻め入らせてすらいないのだ。

 如何に相手が幼い少女であってもそれは同様である。ギルドの情報が漏れる可能性は最低限に留めるべきなのは自明の理だ。

 

 

 だが対外的な警戒心と比較し難いほど、自分たちが作り上げたナザリック地下大墳墓を見せつけたい・見せびらかしたいという大人気ない気位もまた彼らにはある。仲間内で楽しむだけでも十二分に楽しいが、それをさらに共有し、称賛を得られることがどれだけ自尊心を満たし、プレイの励みになることか。

 

 無論、自分達とは違った視点から手痛い指摘を受ける可能性もある。年齢……性別……様々な考えを持つのが人間であり、分かり合えないこともまた多いものだ。

 だが、そうなったらそうなったらで奮起することができる。マンネリ化したギルドメイクに一陣の風が吹き込まれるのは間違いない。

 

 そういうわけでこの日一同は、第十階層「玉座の間」にて時を待っていた。いきなり最奥部なのはどうなのよという反論も少数あったものの、やっぱり威厳ある悪のギルドとして客人を歓迎するならここだろうという意見が支持され、こうして今日ログインしているギルドメンバーは可能な限りのNPCまで集め勢揃いしている。

 

 

 

 

「しかしながらこたびのふめいよは、すべてわたくしめのせんりょがまねいたこと……ふとくのいたすところでございます。も、もしおのぞみでしたら、さしょうではありますがこのグラスランナーのちであがなうしょぞんにございます」

 

 

 

 ……なのにこれだ。いくらなんでもへりくだりすぎである。

 直前までのどこか浮足立っていた場の雰囲気がすっかり霧散している。それもこれも、フラットフットに連れられてやってきた少女がいきなり最敬礼を通り越した服従の姿勢を見せたせいだった。

 

 アインズ・ウール・ゴウンの面々は預かり知らぬことだが、保護者からそれはもうきつく厳命された彼女は、絶賛強いものに巻かれろプレイの真っ最中である。

 要は本能でお腹を見せて降参アピールをする仔犬に等しい。それが仮に面従腹背の構えであったとしても、今この場で生殺与奪の権限は自身には無いことを全力で示しているのだ。

 『アクトレス』のスキルまで併用しての全力お嬢様系幼女プレイ中である。礼を失しないよう頭部防具と武器は装備すらしていない。これが失礼でないなら何が失礼なの? と言わんばかりの格好である。

 

 

 

「ノノカ……フランクフェザー……です。同じく、お詫びします」

 

 

 白ドワーフの少女が頭を垂れる。緊張しているのか、ちんまりとしたぎこちない挨拶だった。

 

 

「ステラ・トトニス・キャスロードです。あの、先日はご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。本日はご招待に預かり嬉しく思います。今日は宜しくお願いします」

 

 

 恭しくお辞儀をする少女は三人の中では一番しっかりしている印象を受けた。初対面の取引相手に対する挨拶としては充分な出来と言って良い。

 

 この二人の少女もグラスランナーの少女ほどではないが、同様に低姿勢である。

 お前、何やったんだと言わんばかりの視線が少女たちの背後に立つフラットフットに集中しているが、暗殺者としてもこれは予想外過ぎて冷や汗エフェクトを出しながら全力で首を振る以外にない。実際、特に何もしていないので。

 

 

 

「う、うむ……よく来たな。歓迎しよう」

 

(って違うだろ俺! 何雰囲気にあてられちゃってんの!?)

 

 

 つい彼女たちに釣られ、支配者っぽい口調で話しかけてしまったが、どう考えても悪手であった。ますます縮こまっている。

 

 

(ていうか何この子たちの態度!? ちっさい女の子三人を跪かせて上から物を言う状況とかめっちゃ胃が痛くなってくるんですけど!)

 

「あのー……別にとって食べるわけじゃないから普段通りでいいよ。周り異形種のアバターばっかで怖かったり緊張したりしてるのは分かるけど、中身は普通のお兄さんお姉さんだから」

 

(……あ! そうか!)

 

 

 ギルドメンバーのその言葉で、彼女たちが駆け出しも駆け出しの人間種……中身も全員まだ(おそらく)子どもだったとことにモモンガは思い当たった。

 

 自分はすっかり見慣れてしまっていたが、彼女たちは今まで人間種以外のPCなどほとんど見たことすらなかったに違いない。

 こうしていきなり骸骨だの悪魔だの巨人だの……大量の魑魅魍魎の中に放り込まれた彼女達にしてみればたまったものではないだろう。幼い子供なら長期に及ぶトラウマになりかねない。

 モモンガは後悔する。もっと相手の心情を慮って、事前にそれなりの配慮をして然るべき事柄であった。

 

 

「そ、そうですよ! 別に俺たち本物の怪物でもなんでもないんですから! 楽にしてください!」

 

「では……ええと、ギルドマスターのモモンガさま。むちとむぼうからくる、こんごのわたくしたちのぶれいとしったい、せんじつのものとあわせましておゆるしいただけますでしょうか?」

 

「かしこまりすぎぃ! 許すも何も俺たち全員ちっとも怒って無いですよ! 種族やプレイ時間は違っても同じユグドラシルプレイヤーじゃないですか! むしろ俺たちの悪評の巻き添えになっちゃったみたいで申し訳ないくらいで!」

 

 

 状況への焦りから年下の女の子に使うのは微妙な普段の口調で返してしまっているが、これは偽らざるモモンガの本心であった。

 そもそもプレイ開始間もない彼女達がネットでの炎上被害に遭ってしまっているのは、自分たちのギルドが最大の要因であるとモモンガは認識している。

 ユグドラシルの世界を楽しむ上で自分たちのやり方が間違っているとまでは考えていないが、仮に善のギルドであったのなら、グラスランナーの少女の言動に何一つ問題などなかったに違いないのだから。

 

 しかしながら異形種である自分たちがホイホイ人間種の拠点まで謝罪に出向く訳にも行かないので、こうして手間を掛けさせて自分たちの拠点に召喚する形になっている。

 

 

 

「むしろ貴方達のプレイスタイルには素直に関心と興味を持っています。個性的なやり方でこの世界を楽しんでいるなーと――」

 

「じゃあわたしたち、ともだち?」

 

「「「と、友達ぃ!?」」」

 

 

 

 唐突にグラスランナー娘の口調が極端に幼いものになり、どこか的はずれな展開になっていることにも気づけない。

 

 

 

「ええと……まだ強くない異形種プレイヤーをやたら滅多にPKとかしたりしなければ」

 

「しません! されたくないのでしません!」

 

「なら……はい、友達です。イベントとかで戦ったり競ったりすることもあるかもですが、今後とも仲良くしましょう」

 

「よっしゃー! おとこともだちゲットー!」

 

 

 

 幼女の口調のまま両手を上げて素直に喜ぶグラスランナーが一人。年若い女の子に囲まれる現状に不満は欠片もないのだが、たまには男性と駄弁る機会もあればなーと思っていたので。

 緩んだ場の空気からホッと息を吐く声が聞こえる。自分たちは悪くないのに幼い少女たちをいじめているような居心地の悪い感覚は失せていた。

 

 

 

 

 そして――商人娘の唇端がわずかに上がり、抑えきれない興奮から言葉を漏らしたことに気づいた者は誰もいなかった。

 

 

「及第点どころじゃないわね……よくやったわよ……後で一杯褒めてあげる」

 

 

 モモンガが口走った一連の言葉の真の価値を知る者は、PC・NPCを問わずこの場では唯一人のみである。

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 

 まずは軽い親睦から……ということで、アインズ・ウール・ゴウンのプレイヤーと招待客たる三人娘はサロンでお茶会を開いていた。

 女子会なら第六階層「大森林」 の巨大樹で催すところなのだが、モモンガら男性プレイヤーも交えてということでこの場での開催となっている。

 

 

「いい光景ですね……」

 

「ええ……このナザリックにまともな外からの客人なんて、永遠にありえないことだと思っていました」

 

 

 椅子に掛け、ティーカップを持ちながら(飲めない)会話に興じる人間種と異形種の姿は、モモンガにしてみれば感慨深いものである。

 どうやら異形種への確執も殆ど無いようで、最初は所作がぎこちなかった少女たちだったが今ではすっかり自然体である。

 

 

「しかもうちのなんちゃって女子とは違う、れっきとした女の子が三人も……感無量です……」

 

 

 ホワイトブリムなどは涙ぐんでいる。待ちに待った自身の念願が果たされようというのだから無理もない。

 

 

「おい、私らのどこがなんちゃって女子だオラ」

 

「普通の感性がある女子はピンク色の肉棒とかゴツくてキモい巨人とか自分のアバターに選ぶ訳ないだろ! いい加減にしろ!」

 

「あにおー!」

 

「……私はちゃんとした女の子ですよ」

 

「そりゃエルフだし……というか、なんであけみちゃんここに居るの?」

 

「え? 勿論お姉ちゃんに今日のこと聞いたからですけど」

 

 

 私抜きで三人とお茶会とかずるい! というのが、実は最初の歓迎のときからしれっと同席し、今現在グラスランナーを膝に乗せているエルフ娘の主張である。

 そんな醜い姉弟の諍いなどはあったものの、概ね穏やかにお茶会は進み、話題は三人のプライベートへと移っていた。

 

 

「――え、何? じゃあ、貴方達リアルでは一緒の部屋に住んでるの!?」

 

「はい。かかさまに、わたしたちみたいなこがいっぱいいたしせつからひきとってもらえました」

 

「うん。ついこの前」

 

「はー……掲示板で見たけどたしかまだ貴方14歳なんでしょ? よくその歳でその決断ができたわね。お金とか大変じゃない?」

 

「も、モロバレ……いえまあ、思うところがあって。確かに生活は苦しいですけど、でも二人のおかげで毎日賑やかです。一人はどうにも寂しくて……」

 

 

 今日は人一杯なのに気分良さげで元気だな、とグラスランナーは商人娘ことステラに目を向ける。多少は人見知りが緩和されたのか、それとも全くもって人に見えない人間が会話相手だからだろうか、と考えている。

 

 彼女が周りの異形種達を『創作物のキャラクターである』という歪んだ認識を交えながらこの場にいるという事実には、どうあっても思い当たるはずがなかった。

 

 

「で、でも学校とかどうしてるの? てか貴方達いくつ?」

 

「……学校通ってない。歳は多分12」

 

「わたくしははずかしながらじぶんのねんれいもわからず……ようちしゃにも(今世では)いったことがありませんね」

 

「そっちの娘が13、こっちが9歳です……引き取った時に確認しました」

 

「ほぼアバターのまま……ていうかそれ以下じゃん」

 

 

 不憫な……と、現実で幼い娘がいるたっち・みーや小学校の教師であるやまいこが呟く。特にやまいこなどは教育者として彼女達の現状はどうにかしてやりたいと思ったが、感情だけで動けるほど軽い問題ではなかった。

 

 

「でもかまいません。すばらしきこのせかいがわたしたちのがっこうのようなものですので」

 

「運動も好きなだけできる……リアルより好き」

 

「……恥ずかしながら、食べさせるだけで精一杯で」

 

「だいじょぶ……ペレット……美味しい……」

 

「ひにさんどちゃんといただけて、しせつにいたころよりいっぱいたべられますからきになさらないでくださいまし」

 

 

 グラスランナーと白ドワーフのフォロー(本心)が痛い。こんなことならもう少し良いものを無理してでも食べさせておけば……いやでも予算が無くなっちゃうとか考え、恥ずかしげに身を縮こませる商人娘である。

 

 

「……というか、いくらなんでも打ちひしがれすぎでしょう皆さん」

 

 

 そのウルベルトの言葉通り、三人娘以外のほとんどのメンバーは顔を伏せ『落ち込み』の感情をアピールしていた。

 

 

「普通にしてるの、貴方だけですよウルベルトさん……」

 

「皆さん素直に話を信じ過ぎなんじゃないですか? 初対面の間柄でするリアルの話なんて、話半分に聞いておけば良いんです。普通に考えればRPの役作りの一貫だと理解できるでしょうに。不遇な環境からの成り上がりストーリーとかありきたりじゃないですか」

 

「確かに……学校にも行ったことないはずなのにこの賢さは謎ですが……」

 

「うーん……」

 

「ぐすっ……だとしても真に迫り過ぎてて……びえーん!」

 

「何ですか……小卒で家を出て働き出して、体の不自由な身寄りのない女の子二人も施設から引き取って育ててるって……」

 

「学校にもいけずに、ペレットオンリーでの生活でも充分幸せなんて……作り話でも心が痛い……」

 

「自分がこの世で最も劣った生き物みたいに感じられてしょうがないんですが……14歳の母というパワーワードで一瞬ステラちゃんの不純な光景を思い浮かべてしまった自分が恥ずかしい……」

 

「うん、それは本気で恥ずかしいと思う」

 

「でもホントにどこか二人のお母さんっぽいのが……琴線にビビッとクルものがあるよね」

 

「そこはせめてお姉さんにしてあげようよ……」

 

「でも胸も結構あるし……ノノカちゃんもそれなりだけどぶっちゃけここに居る中で一番エロいと思う」

 

「貧乏なロリ巨乳のママキャラ……ありだな!」

 

「いやねーよ」

 

「いやいや、有りだろ」

 

「こいつら……」

 

 

 

 結局、話の流れが切ないものになりかけたところで、「私達は充分幸せです。世の中と運営糞だけど」というグララン娘らの言葉と男共の猥談で軌道修正することに成功した。

 

 

 

「それにしてもリアちゃん……アバターのお肌の質感ツヤツヤね」

 

「いえいえぶくぶく茶釜さんほどでは……みずみずしいことこのうえなく」

 

「いや、私スライムだし」

 

 

 そう言い合いながらぷるるんと躰を震わせるピンクの肉棒をキャッキャと両手で擦るグラスランナーである。手付きがちょっと卑猥とか思ってはいけないし、9歳児が半ば本気のいやらしい手つきで擦っていることに気づいてはいけない。

 

 

「んん……? でも確かに画像よりも、なんかこう艶っぽいというか……リアちゃん最近外部ツールでアバターをいじったりとかした?」

 

 

 だが二人の触れ合いをねっとりとした視線で眺めていたペロロンチーノの目はごまかせない。元々ロリ系NPCの作成に通じ、この中で一番オーレリアの画像を眺めていた機会の多かった彼の言葉に疑う余地は無かった。 

 

 

「ええと……このまえしゅとくした"ぷろすてぃてゅーと"のクラスレベルのおかげかと。アバターのがいそうにプラスほせいがあるとテキストにかいてありましたので」

 

「「「!?!?!?」」」

 

(プロスティ……って、は!? 娼婦(プロスティテュート)ぉ!?)

 

 

 モモンガ(童貞)は聞き慣れない職業名に一瞬思考が及ばなかったが、小学校の時に頭の中に詰め込んだ英単語(必須ではない)の知識から正解に至った。ほぼ間違いなく戦闘とは無縁の、雰囲気作り以外何者でもない職業であろう。取得しているプレイヤーの名前どころか、その存在すら今の今まで知らなかったが。

 

 

「な、なんでそんなものを……」

 

「はずかしながら、このまえステラとくちげんかしたあと……その、レベルがあがってしまいまして。えっちえっちとなんどもはしたないことをいいあってしまったのがとりがーかと……」

 

「いやいやいや、私の職業選択欄にそんなもん出てないし……というか、何いつの間にか上がってたみたいな言い方。私の居ない日中勝手にレベル1に上げちゃったのアンタでしょうに」

 

 

 やんやんと頬に手をやりながら恥ずかしがるグラスランナーと、そんな娘をジト目で見遣る商人娘。二人のこれまでのプレイ実績の違いに、『下着姿を不特定多数のPCに晒す』というものがあったりなかったりする。

 

 

「クラスめいをみたしゅんかんに、これはもうぜひとらなくてはならない、ぜったいにとっておけというえろいかみさまからのおつげが……」

 

「どこの碌でもないギリシャ神だよ……」

 

「俺の心の神様。エロには逆らえない」

 

「ああっ急に俺っ娘にならないで! イメージが! イメージが!」

 

「あら……しつれいをば、ウフフ、しせつではおとこのおとなのひとしかまわりにいなかったもので、つい」

 

 

 一瞬だけキリッと真顔になったオーレリアだったが、カバーストーリーも混ぜつつすぐさま笑顔で口に手をやり口調をもとに戻す。

 少なくとも、今回の訪問中ではこのキャラを通さなければならない、という強迫観念にかられて。

 

 

 

「はー、本当に思いつきでロールプレイしてるのね……俺らには無理だわ」

 

「ロール……プレイ……?」

 

「ちゃんとけんしとしてもつよくなりたいともおもっておりますのよ? ただ、いまはこういうプレイのほうがたのしくてたのしくて……」

 

「楽しい……」

 

「おかげで苦労しています……退屈はしませんけど」

 

「グララン……ロリババア……未就学児……貧乏……処女騎士……娼婦……アイドル……枕営業……うっ! ふぅ……」

 

「うわぁ……その属性でよく欲情できますね……」

 

「余裕っす。多少盛りすぎだとは思いますがエロゲーだとどうみても容姿が小学生以下だったり身長数十センチしかなかったりする攻略ヒロインもざらだし。無論普通の人間ではありえないけど」

 

「まあ……こうして見てると所作がそれほど子どもっぽくないしね……分かる気もする」

 

「色々と捗りますよね。今日はストレージの容量も空けてきたし、キャプチャツールの設定も万事OKです」

 

「アンタら暫くこの娘達に近寄らないでね」

 

「ボクも教育上不適切過ぎると思う」

 

 

 

 多人数のPTメンバーを庇い立てるスキルを発動させたピンクの肉棒の体積がぐわっと大きく広がり、少女たちをいやらしい視線からガードする。さらにやまいこの巨体と合わせ、ここに少女たちの貞操を守る鉄壁のガードが完成した。

 

 もっとも、この後の出来事に微塵も影響はないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 ――この日、ナザリックは大いに盛り上がった。

 

 

 お茶会の後は、当初の目的でもあったホワイトブリム謹製のメイド服と、主にペロロンチーノが用意した古今東西のコスプレ装備の試着会である。

 異形種ギルド故需要が無かったため、普段日の目を見ない宝物庫の中の装備まで大放出された。

 

 主にノリの良いオーレリアが率先してポーズを決め、積極的ではないが特に拒否もしないノノカは着せ替え人形にされ、当初は断固拒否していたステラは何人ものレベル100異形種の土下座攻撃に絶えられず泣く泣く参加した。また、最初は少女たちの着せ替えショーを眺めて興奮していたもうひとりの人間種であるあけみも成り行きで交ざった。

 

 

「……大丈夫ですか? ホワイトブリムさん、ヘロヘロさん、ク・ドゥ・グラースさん」

 

「ゆ、夢のような時間でした」

 

「四人とも嫌がらず、一通りのデザイン全部着てくれて好きなだけ撮影し放題とか……正直、もういつ死んでもいいと思った」

 

「お嬢様風ロリメイド……生意気ロリメイド……無口ロリメイド……母性マシマシ巨乳メイド……無邪気スレンダーメイド……いずれも素晴らしい」

 

 

 

 現在自身が抱えるメイド服を全て四人の少女に充てがい、精根尽き果てる寸前の化物達の姿がそこにあった。これが本懐を遂げた漢の姿か……モモンガは精神の極限を迎えた人間(?)というものをこの時初めて見たのである。

 

 

 

「だが駄目だ……肝心のメイド服がこの完成度では到底恩に報えない」

 

「ふふふ、そうですよね。まだ満足するには早いですよね」

 

「まだNPCレベル余ってましたっけ……?」

 

「は!? これ以上まだ作るんですか!?」

 

「ええ、今日の画像データだけであと20年は戦えます。それに彼女達の体型は完璧に把握しました……巨乳はやっぱり良いが貧乳もまた良しという真理も得られました。今日試着してもらったメイド服とは別に、一からのオーダーメイドで作成します。私の中にまだこれほどの熱意とアイディアが眠っていようとは……本当に彼女たちには感謝しきれませんよ」

 

 

 

 ――この数年後、ホワイトブリムはヒロインがメイド姉妹の漫画を月刊連載しはじめると瞬く間に好評を得、やがて「メイド漫画の帝王」までと呼ばれる様になる。

 漫画賞を受賞した際のインタビューで彼は、「あの時の彼女達との出会いがなければ、ここまでの高みには辿り着けなかっただろう。またいつか会ってお礼を言いたい」と答え、読者の称賛と嫉妬を一身に受けたという。

 

 

 

 

「――なんで18禁スレスレの装備をあんなに可愛く着こなせる……エロ可愛いとか……むしろ尊い……あんなの反則ですよ……」

 

「私としてはあの体型のロリにそんなもの着せたお前にドン引きだわ」

 

 

 グララン娘に極端に生地面積が狭いボンテージを着せたバードマンが咽び泣く。この日、ユグドラシルが18禁作品だったならと世界で一番悔しがった男、ペロロンチーノである。

 尚、実際に試着と撮影を終えた本人の感想は「なにこれめっちゃ動きやすい」であった。

 

 

「ドレス、ナース、メイド、チャイナ、和服、巫女服、バニー、スーツ、セーラー、魔女っ子、姫騎士、レオタード、軍服、水着、道着、くノ一、体操服、ブレザー、つなぎ、ゴスロリ、ケモ耳、ケモ尻尾、天使に悪魔……やるだけやった……もはや一片の悔いもない……!」

 

「そりゃあ、あれだけやりたい放題できればそうでしょうよ……」

 

「けっきょくしっぽからはのがれられませんでしたが、こえだけですんでホッとしています」

 

「意味深ボイスもバイノーラルでしこたま収録してましたもんね」

 

「至高のつるりんぺたんに感謝だが……流出したら逮捕されかねんな。非ネット接続で新規にストレージを組むか……」

 

「オンプレで三重バックアップします」

 

「最低限必須だな」

 

 

 予定外の出費に課金を控えなければと、嬉そうに語る男衆である。

 普段こういうことに興味を示さないモモンガでさえ、後にグラスランナーの至高の一枚をブロマイドアイテム化するほどの充実感を得ていた。

 

 

「まんぞくです。こじんてきには、ゴスロリとひめきしいしょうがすきです。『くっころ!』」

 

「おやめなさい、はしたないから」

 

「……疲れた」

 

「もう……お嫁に行けない……」

 

「大丈夫大丈夫! 皆可愛かったよ!」

 

 

 女性陣も色気を前面に出した装備の試着にはあまりいい顔をしなかったが、素直に可愛い美しいと言える装備の試着では一緒になって盛り上がった。あれこれとコーディネイトの指南をしてあげるほどに。

 自身の美的センスがイマイチであるという自負があるグラスランナーもこれには満足。今日の経験値は末永く活かされることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ――続いて、各階層の施設を巡ることになった。自分たちなど及びすらしない、最上位ギルドの拠点だけあって、リアとノノカにとっては見るもの全てに驚くほかない。

 

 

 

 

【バー】

 

「……ピアノ」

 

「ノノちゃん弾いてみたい?」

 

「うん」

 

「今日は時間が無いから、また今度にしようず」

 

「……わかった」

 

 ……グッ!

 

(また来るって……!)

 

(よくやった!)

 

 ドヤァ

 

「おさけをたしなむしゅくじょとかよさげですわね」

 

「大人になってからね」

 

「もーまんたいですわ」

 

 

 

 

 

【鍛冶場】

 

「……すごい……参考になる」

 

「何か作りたい装備でも?」

 

「うん。剣と鎧と……あと何か」

 

「ふーん……誰かにあげるのか?」

 

「……鎧は私の……絶対に……守る」

 

 

 

 

 

【地底湖】

 

「「「何も見えない」」」

 

「動かしたら凄いんだけどね。普段はこんなもんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

【大森林】

 

「おー……」

 

「……星が見える」

 

「ブルー・プラネットさんの力作、いつ見ても圧巻ですね」

 

「恐縮です」

 

「……」

 

「そういえばステラちゃん……君は、どうしてその名前を使うことにしたんだい?」

 

「……私は、現実の世界が大嫌いです。こんな世界、消えて無くなっちゃえばいいのにって、何度も何度も考えていました。今でもそう思うことがあります」

 

「大いに同意ですね」

 

「まあ……分からないでもないわな」

 

「私は……私の中では、星というのはもっと身近なものだったんです。もっと黒々というか、どこか深い青を混ぜたような夜空に、ここよりももっとたくさんの星が見えて……いろんな色と光の点が煌めいて、流れ星かと思ったら人工衛星だったり……ああ、一度だけだったけど彗星をみた時は圧倒されちゃったなぁ……まだ子どもだったから寝ぼけてましたけど」

 

「……夢の話かい?」

 

「……まあ、そんなところです」

 

「今の地球の空でそんなもの宇宙に出ない限りは拝めないですからね」

 

「それで(ステラ)か。ロマンチストねー」

 

 

 

 

 

 

 

【性格最悪】

 

「チャックモール……演奏は凄い上手……けど嫌い」

 

「そうですね」

 

「そう言えばリアちゃんとノノちゃん楽士の職業もってたんだっけ? 楽器系のレシピとかいる?」

 

「くださいな♪」

 

「ほいさ。クラフト系の職業鍛えればもっといろいろ作れるよ」

 

「……そうする。ありがと」

 

 

 

 

 

 

【エロ最悪】

 

「ふぅ……なかなかよいですね。HPを1すらへらさず、うんえいからのおしかりもなく、どうやってここまで18きんにちかいシチュエーションをじつげんできたのかふしぎです。そのどりょくにわたしはだつぼう。ほっこり」

 

「いや、実際にあのエロトラップを体験してそれで済ませる9歳児のほうがどう考えてもおかしい」

 

「気持ちよかった……参考にする……」

 

「えぇ……(ドン引き)」

 

「なんの参考!?」

 

「これが無知の勝利、か……」

 

「いや、どう聞いてもリアちゃんエロ知識持ってたっしょ!?」

 

 

 

 

 

【拠点最悪】

 

「「「パスよ」」」

 

「はい……」

 

「俺氏、気になります。何が居るん?」

 

「……まあ、知らない方がいいものでしょうね」

 

 

 

 

 

 

【料理長】

 

「え……ステラちゃんコックの職業レベル取ってるん?」

 

「NPCに持たせるべきじゃないの?」

 

「良いんです。錬金術的に意味が全く無いわけでもなさそうなので。スキルでミートパイとか出せますよ」

 

「……商人系のRPじゃなかったっけ?」

 

「美味しい料理……いつか食べさせるって約束なんです」

 

「……」ホロリ

 

 

 

 

 

【ペストーニャ・S・ワンコ】

 

「わんわんお」

 

「そういえば、リアちゃんの名前にも"S"って入ってるわよね? この子はショートケーキの略なんだけど、貴方のはどういう意味なの?」

 

「ないしょです」

 

 

 

 

 

【エクレア・エクレール・エイクレアー】

 

「仲良くしてあげてね」

 

「かしこま!」

 

「……うん」

 

「反逆志向……どうしてそんな要素を足したんですか?」

 

「それはね――」

 

 

 

 

 

 

【セバス・チャン】

 

「ウホッ、にくたいはしつじ」

 

「お爺ちゃん……」

 

「名前といい、ありがちといえばありがちなキャラなのよね」

 

「だがそれがいい」

 

「そうね」

 

「自分と同じく、力が無いばかりに苦しむ誰かを助けられるようなキャラクターをイメージしたのですが……」

 

「たっちさんのその思いは通じてると思いますよ、きっと」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

【ユリ・アルファ】

 

「おこったらこわそう……こわくない?」

 

「そりゃ、悪い事したら怒られちゃうかもね」

 

「……知ってる」

 

「子供のやることを全部優しく笑って済ませるだけの教師が良い教師であるはずないですもんね」

 

「あれ? ボクの仕事のこと、喋ったっけ?」

 

「……あけみさんから聞きました」

 

「あの娘ったら……」

 

 

 

 

 

 

【ルプスレギナ・ベータ】

 

「おっぱい!」ダキツキ

 

 ホッコリ

 

「そういえば、ユグドラシルってよくある萌キャラ系の獣人種っていないんですね」

 

「人要素が二本脚で立ってて道具を使えて喋るくらいしかないですからねぇ」

 

「異形種の人間形態の方がそれっぽく可愛いキャラになっちゃうっていうのも皮肉っすよねー」

 

「まあね……でもその仕様のおかげでこの娘はアインズ・ウール・ゴウンにいられる」

 

「いいはなし」

 

「……そうかな?」

 

 

 

 

 

【ナーベラル・ガンマ】

 

「にんげんしゅですの?」ダキツキ

 

「残念、二重の影(ドッペルゲンガー)だよ」

 

「あの、自分と同じ姿のを見たら死ぬっていう」

 

「呪術系の職業は設定してないからそのようなことはないな」

 

「……強いの?」

 

「一応プレアデスのメイドの中ではレベルを一番高く設定してはあるが……まあ強さは一つではないし、一概にそうは言えん。仲間がいるなら尚更だ」

 

「おー……」キラキラ

 

 

 

 

 

【シズ・デルタ】

 

「……ロボ?」ダキツキ――カタイッ

 

「人形……」

 

「ユグドラシルの過去の歴史って一体……」

 

「異星文明か超科学・魔法文明か……何にしても浪漫だよねぇ」

 

 

 

 

 

 

【ソリュシャン・イプシロン】

 

「エロいおっぱいです!」ダキツキ

 

「そりゃ、外装はそう創ったからね……捕食型粘体(スライム)だから融通がきくし」フフン

 

「え」

 

「今はゲスト権限あるから良いけど、普段だったら捕食されちゃうからハグはほどほどにね」

 

「……」モミモミ

 

 

 

 

 

【エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ】

 

「……はぁ……エントマちゃんかわゆ……!?」ジリッ

 

「本能で察知した……!?」

 

「……」ギュッ

 

「あ、やっぱりいくんだ」

 

「かたい……ギチギチいってる」

 

「そりゃそうよ」

 

 

 

 

 

【シャルティア・ブラッドフォールン】

 

「お! 可愛い吸血鬼!」ダキツキ

 

「流石俺……グラスランナーとロリ吸血鬼の絡みがここに」

 

「よくやった」

 

「この娘、本当に吸血鬼なんですか? ……よくこんなに可愛いNPCを創れましたね?」

 

「まあ、それなりに課金したから。あとは根気と情熱の問題」

 

「愛あればこそってやつですか?」

 

「お、分かってるね。二人も絡んでいいよ。いやむしろ見せてほしい」

 

「……じゃあ少しだけ」ダキツキ

 

「……」ダキツキ

 

「「「ああ^~」」」

 

「そういえば、シャルティアのこと知ってたの?」

 

「Wikiで見た俺の一押しNPC!」

 

「……ああ、そう言えば攻め込まれた時にスクショ撮られてたんだっけ」

 

「最上層の守護者だし……ある程度情報が漏れちゃうのはしょうがないっしょ」

 

「いいおっぱいなり」

 

「いや……実は貧乳でPAD入りっていう」

 

「?」

 

「まあ設定だけだけどね」

 

 

 

 

 

 

【コキュートス】

 

「ザ・ムシショーグン……」

 

「……強そう」

 

「武器戦闘では守護者最強なのだよ」

 

「そこは昆虫系の腕の多さの強みですね」

 

「うむ……鎧さえ装備出来ればもっと良かったのだが」

 

「鎧……」

 

「幸い武器での防御も出来ないことはないが……種族特性の悩みというものだな。この辺りは」

 

「わかる」

 

 

 

 

 

 

【アウラ&マーレ】

 

「どう? うちの子たち可愛いっしょ!」

 

「「「ハイ」」」

 

「ほらほら、並んで並んで……はい、チーズ!」パシャ!

 

「やっぱりいいわねー、うちの愚弟と全員トレード出来たらなー」

 

「酷すぎる……」

 

「なんで格好が逆なんでしょう……似合ってますけど」

 

「姉ちゃん業が深いからな……」

 

「おまいう」

 

 

 

 

 

 

 

【デミウルゴス】

 

「これは……くろまくというやつですね!」

 

「……確かに見た感じ、それっぽいですね。如何にも悪の参謀というか、魔王というか」

 

「そうなってくれたら、創造主としては実に愉しみがいがあるというものですね」

 

「……賢い?」

 

「ええ、軍略、内政、外政……あらゆる策謀において欠点がないという設定です。悪魔的って表現がぴったりかと」

 

「こんな上司がいたら心強いでしょうね。……現実では有りえませんけど」

 

 

 

 

 

 

【アルベド】

 

「ウッヒョー!」ダキツキ

 

「……淫魔?」

 

「大人の女性って感じですね。背徳的ですけど上品さもあって……王妃って感じがしますね」

 

「それだけじゃありませんよ。守護者統括として頭も切れる。そしてタンクとしての能力も一級品にしてあります。それに――」

 

「それに?」

 

「おっと、これは秘密です」

 

「……はあ」

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

「――すみません。こんなに装備品を頂いてしまって」

 

「気にしないでください。報酬としては少ないくらいなんで、これだってほんの一部です」

 

「そんなにまだ持てないからね……ギルドの拠点構えたら、ちゃんと追加分受け取りにきなよ」

 

「……はい」

 

 

 リアルでは日付が変ろうかという時間になり、子どももいるので名残惜しいが本日はお開きということになった。

 種族を超えたフレンド登録を交わし、穏やかな空気が流れる。

 

 尚、今回はたっち・みーもグラスランナーの少女とフレンド登録を交わした。相変わらずプレイ環境の差はあれど、今日の交流で十分友人と呼べるだけの関係は築けただろう。

 ……それにまた厄介事があったとき、連絡をとり辛いのは困る。聖騎士としてはこんなことが再び生じては大いに困るのだ。

 

 

「では、ネットの拡散の方もおまかせしますね。私だけだと手が回らないし、勝手がわからなくって」

 

「まかせてちょーだいよ。多過ぎず少な過ぎず、それでいて絶妙なタイミングでやってみせるから」

 

「他の奴らが悔しがる様子が目に浮かぶ……これが愉悦か」

 

「今の俺達こそが人生の勝ち組である……そう思わざるを得ないですね」

 

 

 そう……それこそが本日の(一応は)最大の目的である。大量に撮影された画像データを少しずつ世間に広めることで悪評を欲望で打ち消そうという、半ばヤケクソの作戦であった。

 

 もっとも、ぷにっと萌えやウルベルトなども笑いながら推したという心強さがある。たっち・みーややまいこなどの反対はあったものの、「アホらしくて誰も傷つかない、良い作戦だと思います」とのお墨付きがでたので結局遂行されることになった。

 

 なお、これには本人たちの名誉は一切考慮されていない。

 

 

「アルバムできたらくださいな♪」

 

「いいですとも」

 

「よっしゃー!」

 

「今度、君たちに完璧に合わせた最終メイド服(決戦兵器)を作成する。完成したらぜひ受け取って欲しい。そして見せてくれ」

 

「……はい」

 

 

「ではまたお会いしましょう――《転移門》」

 

 

 今日の良き思い出への感謝をわずかばかり込めての詠唱で、ギルドマスターであるモモンガ自ら《転移門》を展開する。この中を通れば、彼女たちの街へと辿り着けるだろう。

 

 

 

 

「感謝します……お元気で」

 

「……さよなら」

 

「おたっしゃで、ですわ」

 

 

 

 

 黒髪の商人娘はお辞儀を、他二人は手を振りながら《転移門》の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ……いい子達でしたね……」

 

「良い心の洗濯が出来た気がします。やはり無邪気な子どもというものは良いものです」

 

「それは……どうでしょうね。どうにも怪しいところです」

 

「?」

 

 

 各々が穏やかな心地をさらけ出す中、不穏な言葉を口にしたウルベルトに皆の注目が集まる。

 

 

「そんなわけないじゃないですか! 三人共今どき珍しいくらいの良い女の子ですよ! 私には分かるんです!」

 

「エルフのお嬢さんの言うことはともかく……個人的にステラさんは一筋縄ではいかないと思いますよ? 明らかに何か企んでいる様子でした。そこが興味深いといえば興味深いんですがね……」

 

 

 クククと笑うその口調は如何にも愉しげだ。

 

 

「そう言われれば、まあなかなか裏がありそうな子でしたからね……境遇もそうですが、私達のこともWiki以上に知っているみたいでしたし」

 

「……え?」

 

「うむ……不快では無いが、何かをこちらを探るような言動もしていたな。実害はなさそうなことばかりなので一旦様子見としたが」

 

「は? え!?」

 

「うまく隠していましたが、ナザリックの構造をある程度熟知してるんじゃないかって素振りもありましたからね。どう見てもただの初心者じゃありませんよ」

 

「……もしかして、あの娘本当に工作員とかだったりするわけ?」

 

 

 ぶくぶく茶釜が暗い口調で尋ねる。無論彼女一人に限った話ではないが、今日一日だけで少なからず三人娘に情が移ってしまっていた身としては気が気ではない。

 

 

「さてどうでしょう。これまでの全てが演技で……という意味ならば、その線は薄いでしょうね。いくらなんでも目立ちすぎです。グラスランナーの幼女とか、PTメンバーに入れるだけで人目を引きます」

 

「確かに……」

 

「おそらくは、私達のせいで個人的に彼女の恨みを買うようなことが過去偶然にあったとか、その程度だと思いますよ。誰も身に覚えがないようですので、どこか私達の預かり知らぬところで、でしょうが」

 

「そんなの話してくれないとどうしようもないじゃん!」

 

「まあ、いざとなればどうとでもなりそうですがね」

 

「?」

 

「適当な意地の悪い話を捏造して、それと一緒にお仲間の際どい画像をばらまくぞ……と、これで彼女は何も手出し出来ないでしょう。なかなか妹思いのお姉さんのようですしね」

 

「えげつな!」

 

「悪魔かよ……」

 

「悪魔です。そのために今回の提案にものりましたし、害がなければ何もしません。お互いに手を取り合ってユグドラシルを楽しむ関係ですよ」

 

「ああ、そういう」

 

 

 一同がウルベルトのかけた保険にドン引きするなか、悪を己の信条とする男は笑う。彼女が語った、リアルの世界を憎む気持ちは本物であるという確信とともに。

 一体彼女がどんな闇を抱えているのか、暴きたくてしょうがない。

 

 

 

 

「――ま、大丈夫でしょう。彼女が裏切るその寸前まで、私達はほら、『お友達』なんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―― がいけんはこわかったですが、おもったよりふつうで、いいかんじのひとたちでした。おしりもぶじです。

 

 ―― そうね。

 

 ―― またあそびにいきましょう。

 

 ―― ……うん。

 

 ―― よきかなよきかな。

 

 ―― ……もういい加減に喋り方普通にしていいわよ。

 

 ―― ……もどらない。

 

 ―― ……なんでよ。

 

 

 

 

 

 




【グラスランナー オーレリア・ルハティーなんたら】
・リアちゃん
・弐式炎雷さんにロックオンしたようです
・ひっそりたっちさんにキモい剣を返そうと思っていた
・狼尻尾
・言語中枢崩壊中


【白ドワーフ ノノカ・フランクフェザー】
・ノノちゃん
・キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
・Always with You.
・うさぎ尻尾


【にんげん ステラ・トトニス・キャスロード】
・名前は前世の本名からもじった
・上手くいってるはずだけど複雑
・催眠術は嗜み
・猫尻尾(もってるだけ)


【エルフ あけみ】
・ストーカーなりかけ



【モモンガ様】
・口約束で免罪符を発行





↓ あとがき と ネタバレ ↓

 ナザリックツアーはダイジェスト気味。なんとなく誰の台詞かは分かるように書いたはず……分からなかったら適当にイメージしてください。多分支障ありません。
 

 商人娘の指示で、特にオリ主は徹底的に媚びを売る様子を見せるようにされましたとさ。とにかくPC・NPCの第一印象を『ナザリックにとって無害』かつ『庇護下である』ことをみっともなくアピールする役割です。モモンガ様からしっかり言質とったのでこれからは安心だね!

 今回は人数多かったので終始ひらがな口調を強要しました。キャラがぶれてるので、時々極端に幼女化したり本性がでたりしちゃってます。かなり不自然ですが、今回もっと不自然なキャラが居たのでこれくらいは許容範囲内。



 ハンマー娘ノノカは今回一番楽しんでいます。言ってることやってることそのまんまの彼女は特に裏もないので普通にナザリックに馴染めています。今回は珍しくよく喋ってたけど、どこまでもオリ主にとって都合の良い女で有り続けるため、これといって見せ場も無いのが悩み。

 あと今回は冒頭のシーン以外目が死んでないよう見えますが大体何時も通りです。



 商人娘ステラは、今回で一安心といったところでしょうか。
 アインズ様の機嫌をよっぽど損ねない限り「こんにちわ! 死ね!」される心配はとりあえずなくなりました。
 必死でギルドの面々とNPCにまで胡散臭い媚を売りまくってます。前世の知識を総動員してるので、いらんことも描写してないところで喋ったりしてますが。彼女にしてみれば命がけの上本心からくるヨイショなので、聞いてる方も嫌味は感じないでしょうが。
 そのせいで一番警戒を集め、他に何か目的があるんじゃないかと疑われるキャラになってます。まさか媚びを売る事自体が目下最大の目的とは思われていないのでしょうがないね!
(ぶっちゃけこれからアインズ・ウール・ゴウンは衰退期に入るので特にどうということはなかったり)



 あけみちゃんは根っから優しい女の子です。天才肌なのであまり失敗らしい失敗とかしてきてなさそうにしてます。ひたすら突撃って感じのキャラです。
 今回で商人娘も大分馴染んだようなので、これからは普通につるんでくれるでしょう。


 モモンガ様視点では、オリ主は歳の離れた妹か娘が出来たらこんな感じみたいなイメージです。それはそれで一波乱ありそうなのでちっとも穏やかではないんですが。



 とんでもないギルド像を想定していたので、無事に帰れて拍子抜けしているオリ主とハンマー娘。お話的にも一段落といったところです。

 あとは……メチャクチャになってるレベル構成をどうにかするためにご都合主義イベントを経てってところでしょうか。適当プレイ全開でもそれはそれで味がありそうですが、それなりに強さがないとうっかりマーレきゅんとかに殺されちゃいそうな危うさがありますので。









▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。