お金が無い彼女達は如何にして楽園へと至ったか?   作:山雀

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 前回のあとがき通りエルフ娘AKM-Chang回となりますれば。






10~103日目 エルフ娘の追憶

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「はぁ……どうしよ……」

 

 

 山瀬明美は控えめに言って悩んでいた。

 

 自宅のダイニングテーブルにうつ伏せて頭をグリグリと腕に押し付ける行為を始めて一時間以上経過しているが、未だに思考が堂々巡りし続けて一向に答えが出てくる気配がない。

 そもそも、今の疑問に対して明確な答えなどあるのか、ということすら今の彼女では判断が付かなかった。

 とどのつまり、時間の無駄遣いである。

 それでも彼女は思い悩まずには居られなかった。

 

 その悩みの焦点は、今彼女が(ある意味で)夢中な三人のユグドラシルプレイヤーにある。

 

 

 

 

 

 ――明美が初めて三人娘に接触した目的は、自身の姉が所属する異形種ギルド……アインズ・ウール・ゴウンの讃談を払拭する手助けを求める為である。

 

 しかし実際のところ、彼女にとってその真意は正確には別にあったと言っていい。

 あれは炎上騒ぎの切っ掛けでもある、グラスランナー少女への“釘刺し”という意味合いが強かったのだ。

 

 即ち――『絶対に逃げるなよ』、という……今思うと、なんとも浅ましい考えなのだろうか。

 裏を返せばその時の自分はそれだけ必死だったということでもあるのだが、いやはやなんとも恥ずかしくて恥ずかしくて悶絶してしまいそうになる記憶だ。

 

 

 そもそも当時の彼女が知り得た情報の中に、『騒動の発端となったグラスランナーの少女はユグドラシルをプレイし始めてから間もない』というものがあった。

 実際に会ってそのレベルが一桁だったのを確認し、まだ彼女がユグドラシルから離れていなかったことに安堵したのを覚えている。

 

 もし自分が彼女の立場だとしたら……オンラインゲーム開始早々にこんな炎上騒ぎに巻き込まれた時点で、さっさと自分のアバターを削除しユグドラシルそのものを止めてしまうか、最初からやり直してしまうだろう。

 自分のようなそれなりにプレイ時間を重ねた経験者の感覚からしてみれば、片手で数えて終わってしまうレベルのアバター程度惜しくもなんともないのだから。

 

 ……だが、明美としてはそんなことをされては困るのだ。

 

 一瞬だけ話題になったドリームプレイヤーのことなど、当の本人が居なくなってしまえばすぐに忘れられるだろう。

 彼女たちは前の人生のことを綺麗さっぱりロンダリング。

 お金も時間も掛けること無くおニューのアバターで心機一転新装開店。結果、世は全て事もなし。

 

 しかしアインズ・ウール・ゴウンはそうはいかない。

 

 現実の幼い女の子を脅し透かすなり誑し込むなりして工作員に仕立て上げるなど、これまでの噂の中でも悪辣極まりない。

 唯でさえ良くない印象が、ますます手のつけられない有様となるだろう。今度は延べ2000人以上の大攻勢をかけられるかもしれない。

 

 最悪、当てにならない現実の治安機構が出張ってくる未来まである。

 考え過ぎかもしれないが、仮にそんな事態になれば教育者としての姉の立場はどうなる?

 疑惑をもたれた時点で教師生命が絶たれるのではないだろうか。

 

 故に、彼女にはなんとしてでも弁明の為にユグドラシルに残っていてもらわねばならなかった。

 あるいは、少しでも姉のギルドへの疑いの視線を逸らすスケープゴートとして残すために。

 

 

 三人娘はそんな自分の浅知恵など、初見でお見通しだった。

 グラスランナーの幼女はこちらを観察しながらやる気なさげ相槌を打ちながら話を聞いているだけだったし、謎種族の童女は死んだ目で自分のことを終始睨みつけてきたし、マーチャントの少女は関わり合いになりたくないのか、視線を逸らし最初の問いかけ以外会話に交ざってくることが無かった。

 

 初対面なので外見以外褒める材料がないという理由で、ひたすら年少組と思われる二人を可愛い可愛いと連呼しながら構い倒したりもしたのだが、結局自分を見る彼女たちの視線にいたたまれなくなり、明美は早々に会話を切り上げてその場から離れてしまった。

 

 ログアウトしてから数日の間、彼女たちへの安易な接触を後悔した。それはもう盛大に。

 

 よくよく考えれば、あのやり方では彼女たちの焦りを誘発するだけである。

 ひょっとしたら、さらなる厄介事に巻き込まれたと考えているかもしれない。

 あんなみっともない懇願を聞き届ける人間なんて、よっぽどお金と時間に余裕を持った道楽者か、今の世では滅多に見られないまともな義憤を持ち得ているような正義漢くらいだ。

 結果、自分が避けたかった未来を自分の手で一気に手繰り寄せるというバッドミラクル。何をやっているのだ私は。

 

 終わったと思った。

 現状残っている切り札をみすみす放り投げ、後はただ事の成り行きを外野から眺めることしかできないのだと覚悟した。

 

 

 

 ……だが、そうはならなかった。

 幸か不幸か、あの三人娘がその絶滅危惧種に該当していたおかげである。

 

 自分たちのプライドと羞恥心を秤にかけ、彼女達は文字通り一肌脱いで事態の収束を図ってくれた。

 彼女たちは一人を除いて一見平気そうな素振りで撮影に興じていたが、内側では必死に逃げ出したい気持ちを抑えていたに違いない。

 

 そして、そんな彼女たちを見ていた明美には、自分がこの世で最も醜い生き物になってしまったようなおぞましい感覚があった。

 いつも通り、自尊できるほど可愛いエルフの容姿のハズなのに、アインズ・ウール・ゴウンの誰と比較しても、その時の自分には魅力が一切感じられなかったのだ。

 

 その理由は分かっている……これまで散々自分の身内を救うことだけを優先し、相手を嵌めることに執心した人間の発想――痩せた考え。

 それに従って行動した結果、自分は自責の念に苛まれているのだと。

 

 華美な衣装を着こなす彼女たちが直視出来ず、自分は顔を伏せていた。なんのエフェクトも発生していないのに彼女たちのアバターが光り輝いて見えるほど、自分の性根は歪みかけていたのだと思う。

 

 そんな私の心はまたもや明け透けだったらしい。

 そっと私の肩を押してくれた人達がいたのだ。

 

 ――尊敬する姉をはじめとした、アインズ・ウール・ゴウンの人達だった。

 

 彼らは、自分が勝手に動いて自爆したことを知っていたのだろう。

 今日、彼女たちの前では無理して奔放に振る舞っていたことも含め全てを知り、それでいて自分と彼女達を信じ、敢えて何も言わなかったのだ。

 

 姉やぶくぶく茶釜、餡ころもっちもちら女性陣は優しく自分の頭を撫でてくれた。

 男性陣は『微笑み』や『突撃!』エモーションを浮かべていたり、可愛らしいメイド服を差し出したり、グッっと親指を立てたりと様々なアクションだったが、そのいずれものが自分を励ますものだった。

 

 恥ずかしさとみっともなさから溢れようとしていた心の涙を拭いながら(現実なら本当に泣いていただろう)、自分は三人娘にこう言ったのだ。

 

 

 「――私も交ぜて!」と。

 

 これまでの謝罪と、僅かばかりの贖罪と、これから仲良くしてください、という意味を込めて。

 

 今でもたまにこの時のことを改めて謝罪をする度に、「なんのこと?」と三人揃ってとぼけられてしまうのは、恥ずかしいやら嬉しいやらで止めてほしいものなのだが。

 いい加減、素直に自分の謝罪を受け入れて楽にしてほしいものだ。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 彼女たちとの出会いを思い返しながら明美が悶々としていると、姉である舞子が帰宅した。

 

 

「ただいまー……って何よその格好、らしくないじゃない」

 

「あ、おかえりー……」

 

 

 舞子が驚いた表情を見せる。

 常に溌剌とした明美が見せる、『私、悩んでます』と露骨に表現するポーズを晒しているのが珍しかったのだ。

 

 

「うん、ちょっとね。リアちゃんたちのことなんだけど……」

 

「それはまた、『ちょっと』で済みそうにない悩みね」

 

 

 舞子の脳裏に、人間種PTのくせに極めて特徴的な三人娘の姿が浮かび上がる。

 彼女たちに関する悩みなら、その質と量と種類は折り紙付きだろう。

 特に最近の妹は、彼女たちにいたくご執心であることだし、と一瞬で思考を走らせた。

 

 

「で、あの子たちがどうかした? またPKされて装備盗られて騒いでるの? それとも罠にかかって全滅したとか?」

 

「あ、それは両方だね」

 

「……両方?」

 

「うん。ドロップして盗られたハンマーが何故かパワーアップして返ってきたとか、山岳フィールドでローリングボムとパンジャンドラムに逆落としされて、仕舞いに水攻めトラップ起動させちゃって生身でラフティングしたとか言ってた」

 

「“らふてぃんぐ”って、何?」

 

「大昔に流行った、岩肌丸出しの急流を丈夫なゴムボートに数人で相乗りして滑り落ちる命がけのレジャーなんだって。今じゃ水が汚くてもう誰もやろうとしないらしいけど。私も知らなかったけどネットで調べたら本当にあったみたい」

 

「知らないなぁ……誰からの情報?」

 

「ステラちゃん」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 

 相変わらず謎の多い少女達だったが、だからこそ出典が分からない情報の発信元であることが、ここ最近の会話でのお決まりだった。

 

 

「それにしても相変わらず命と経験値の価値が軽いというか、悪運が強いというか、とことん自由ね」

 

「あはは、一人だけ苦い顔してるけどねー」

 

 

 明美が見せる思い出し笑いに、思わずつられて頬が緩む。

 しかし、この話題は今の妹の悩みには直結しないものらしい。

 舞子は会話の続きを促した。

 

 

「で、どんな悩み? 言ってみなさいな」

 

「暇なら今度拠点ダンジョン攻略するから手伝ってーって」

 

「? それだけ?」

 

 

 明美の答えを聞いて拍子抜けする。

 助っ人としてPTに参加することに今更躊躇するような性格の妹ではないし、彼女たち三人との関係も悪くないはずだが。

 

 

「用事が無いなら行ってくれば良いじゃない」

 

「行くとは返事したよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの三人、このままにしておいて良いのかなって……」

 

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

『――それは……どうでしょうね。どうにも怪しいところです』

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人、ウルベルト・アレイン・オードルの言葉……正確にはその一言を切っ掛けに始まった、彼女たちに関する疑惑の発露。

 それが、今の明美の心配事の始まりである。

 

 ナザリックでの触れ合いを通じて彼女たちと心通わせた(と思っている)自分にしてみれば、それはまさに寝耳に水であった。

 その場では咄嗟にフォローして彼女たちの印象が悪くならないようには努めたが、よくよく考えると確かに彼の言う通り……とりわけステラの態度は不審なものが多すぎた。

 

 明美は興味本位で他人の事情を探るのは良くないことだと理解しながら、その日から衝動を抑えきれずに少しずつ探りを入れていくことになる。

 そして彼女達との思い出が増えれば増えるほど、謎は深まるばかりであった。

 

 

 

 決定的になったのは、オーレリアから聞き出した、彼女とノノカが施設から連れ出された時のエピソードである。

 

 

「ほっぺたが落ちるほどのご馳走? 柔らかくて快適な寝床? 雄大で美しい自然?」

 

「うん、そんな嘘をついてまで、二人を施設から連れ出したって……」

 

「それは……穏やかじゃないわね」

 

 

 舞子は話を聞いて表情を曇らせる。明美としても心境は似通ったものであった。

 オーレリアとノノカが『ここだけの話』とした上でポロッと出た話だったが……そんな誘い文句にホイホイのせられてやってきたのがこの仮想世界というのはあまりにも気の毒というものだった。

 

 確かにあの仮想世界には、見た目が美味しそうな料理は存在する。

 料理スキルをとれば自分で作ることもできるし、事実ステラが料理人のレベルを取得していることも知っている。

 だが果たして、飲み食いする真似は出来ても口には出来ない、味が全くしない、使えばバフやステータス異常を齎して一瞬でかき消えてしまう料理アイテムをご馳走と言い張るのはいかがなものだろうか。

 

 快適な寝床にしたってそうだ。

 料理よりはマシかもしれないが、どれだけランクの高い寝具アイテムを作成しても肌触りはリアルのそれには遠く及ばないし、本当に寝落ちしてしまったのならばその脳波を読み取られて即強制ログアウトの憂き目に遭う。

 

 雄大な自然……確かに雄大は雄大だろう。自分だって初見では圧倒された。

 しかしよく見ればテクスチャは適当で細かい部分は雑だ。空気も無味無臭。今まで見てきた中で一番それっぽいのがプレイヤーメイドの星空という微妙な残念っぷりは、逆にそこまで見事な物を自力で作り出したブルー・プラネットを称賛するべきだろうか。

 

 

 

「詐欺か……誘拐か……」

 

「うーん……」

 

 

 実はこれは、世間を知らない少女二人を嵌めた、極めて悪質な犯罪の類だったりしないだろうか?

 

 自然とステラを見る目が厳しいものになりそうになる……だが同時にある疑問も思い浮かぶ。

 『そんな嘘八百を並べてまで、孤児二人を施設から連れ出したのは何故なのか』という点――つまりは動機だ。

 

 『なんとなく』だとか、『特に理由はない』と言われればそれまでだが、その割にはあの商人娘は感情のみで動くタイプには……見えないこともないが、普段の彼女は一応理知的だ。

 理路整然とした会話を好み、確実な利益を優先する。

 つまり、彼女に利益を齎す明確な目的が存在するはず。

 

 

「『寂寥を紛らわせたい』っていうステラちゃんの言い訳は一旦考えないものとして……それでいて、リアちゃんとノノカちゃんの言葉に一切嘘がないと仮定して、彼女達を施設からステラちゃんが引き取った現実的な理由ね……」

 

「お金かな?」

 

「違うでしょうね。生活は苦しそうだけど」

 

「だよね……」

 

 

 金銭――ではないだろう。

 

 営利目的の詐欺や誘拐なら孤児を狙うはずがない。

 そういう時、普通は小金を溜め込みがちな貧困層~中階層の人間を狙う。

 上流階級? 彼ら相手に貧困層の人間が犯罪に成功するのは、犯罪そのものが何らかの八百長である場合か、同じ上流階級の人間の手引きあってこそだ。

 

 その場合、あの二人が実はどこぞの大企業のご令嬢だったり、権力者の隠し子や捨て子だったりといったような、極めて特殊な事情が背景にあり、それを知ったステラが身代金や脅迫目的で囲っている、ということになる。

 しかし、それにしてはゲームの中で彼女たちを自由にさせすぎているし、目立つことこの上ないプレイを行っていることに反する。

 事実、彼女たちに口止めしていないせいでこうして自分に疑われているのだからさもありなん。

 

 

「なんにも知らない女の子を騙して借金負わせて、どうにもならなくなったところを風俗業界に落としちゃうってのはたまに聞く話だけど、それにしちゃ9歳と13歳ってまだまだ小さ過ぎるしねー。リアちゃん娼婦クラス持ってるけど、所詮ゲームの中だけの話だし」

 

「……」

 

「? お姉ちゃん顔が怖いよ。どうしたの?」

 

「……え? ああ、ごめんなさい。そうよね、そんなこと――ありえないわよね、ええ」

 

「?」

 

 

 さらに言えば、今の彼女達のリアルのド貧乏っぷりが犯罪の結果得られた対価としては釣り合っていない。

 聞けば、リアルでの食事は三人とも毎度毎度安価なペレット三昧らしい。

 食事は極限まで切り詰めているなら分からない話でもないが、それにしたってペレット三昧というのは精神的にも耐え難い苦痛だろう。

 要は金銭的に苦しい状況にあるのは間違いないらしい。

 

 

 ならば今現在ではなく将来のための投資か? ……いや、それも微妙だ。

 

 金の卵を毎日産み落とすガチョウや、牧羊犬コンテストで優勝しちゃう仔豚ならばまだ分かる話だが、彼女が養っているのは孤児の少女二人。

 それも毎日毎日やっていることといえばユグドラシル――詰まる所、ゲームだ。

 それもギャンブルと違って、普通にプレイする分には間違ってもリアルマネーは生み出さない類の。

 

 

「……プロゲーマー育成とか」

 

「それはちょっとありえなくない?」

 

 

 これまでに至る話を聞く限り、抜群にゲームが上手い子どもを狙って拐かしたとも思えない。

 本当にそうだったとしても、いろいろな意味でギャンブルとしても成立するかどうか怪しいレベルだった。

 ゲーマージュニアアイドルとして売り出した方がまだ確実だろう(ただし、現実の彼女たちの容姿は考えないものとするが)。

 

 

「名誉かしら。身寄りのない気の毒な女の子を引き取って育てるって、子ども好きな人達からのウケの良さは相当だし」

 

 

 これまでで一番可能性は高そうな案だった。

 事実、その話を聴いたアインズ・ウール・ゴウンのメンバーはほぼ貰い泣きするかしんみりとした雰囲気になっていたこともある。

 

 

「でも、それって女の子二人も引き取る必要ある?」

 

「そうよね……」

 

 

 一人より二人……とはいうものの、あくまで同情と称賛を得る為だけならば一人引き取れば十分だ。

 0と1の違いは大きいが、それ以上は『たくさん』と表現するレベルまでやらないと、他者の共感に大した違いは発生しない。養育費の問題もある。

 

 

 ――お金でもない。名誉でもない。

 だがそれでもステラが自分の食い扶持を減らしてでも二人の身柄を確保しておくことに、なんらかのメリットが存在するとしたら……。

 

 

「……単純に、リアちゃんとノノカちゃんにユグドラシルをプレイさせることそのものが目的、とかかなー」

 

「いえ、流石にそれはありえないと思うわ」

 

 

 自分のプレイを有利に導くにしろ、ゲームの面白さを共有する為にしろ、普通に考えればどれだけ廃人でもリアル幼女育成なんて分野には手を出さない。やろうと考えるはずもない。

 

 

「でもさ、人の心は分かんないよー。例えばステラちゃんの正体が実はユグドラシルの開発陣の一人で、よりニッチな隠し設定を披露する手段としてあの二人を使ってるとか。……どう?」

 

「……どんだけユグドラシルに愛着持ってるのよ。ステラちゃんの中の人」

 

「自分たちで創った世界だもの。愛着持ってない訳ないと思うけど」

 

「だとしても、そこまではしないでしょ。それにステラちゃんの年齢忘れたの?」

 

「あ、そっか」

 

 

 オーレリアとノノカの話からしても、ステラの実年齢がまだ大人と呼べるものではないのは確実だ。

 ユグドラシルが発表されてから既に十年近く経っている。小学校に入学する前に最先端DMMO-RPGの作成を手がけるのは無理がある話だった。

 開発者の娘という考えも浮かんだが……やはり孤児をわざわざ使う理由がないという結論になった。

 

 

 

 

 

 

「うーん……じゃあユグドラシルはあくまでただの暇潰し目的にプレイさせているとして……」

 

「ステラちゃんの真の目的って……」

 

「「とどのつまり――」」

 

 

 そして在り得なさそうな可能性を排除していった結果、山瀬姉妹が最後にたどり着いた結論は――

 

 

 

 

「どんな事をしても二人と一緒に居たい……ってことでしょうね、やっぱり」

 

「あー……そっかー。寂しいだけじゃなくって、ガチな方もってこと。なるほどねーやっと納得できたよー」

 

 

 

 

 ……哀れ、どこかの商人娘にとってこの上なく不本意なものとなった。

 

 

「リアルで光源氏計画の倍プッシュ。しかも子ども同士、さらに同性……それは業が深すぎるわよ。ステラちゃん……」

 

「あはは、自分のものにしたいって気持ちは分からないでもないけどなー。あの二人可愛いし、リアちゃんなんて私もよくハグしちゃうほど……あれ? でもグラスランナーにしろ白ドワーフにしろ、あれアバターだよね。リアルでもすんごく可愛かったりするのかな?」

 

「おそらくステラちゃんの一目惚れでしょうし、そうかもね……ボクたちには知りようもないことだけど」

 

「う~、やっぱりそう考えると一回リアルでも会ってみたいなー!」

 

「無理強いはだめよ」

 

「そりゃあ分かってるけど……」

 

 

 はぁ……と溜め息をつく明美である。

 今回解決した悩みとは別に、彼女には別の悩みがまだ残っているようだった。

 

 

「でも確かに……それならステラちゃんが二人のドリームプレイを許してる理由にも合致するね!」

 

「野に咲く花のように、自由に生きる姿が好きってこと? まあ、個室に監禁して飼い殺しにしちゃうよりは万倍マシでしょうね。仮想現実だけど本人たちも楽しそうだし」

 

「うんうん!」

 

「でも悩ましいわね……今現在、誰も不幸になってないのが尚の事悩みどころよ、ホント」

 

 

 舞子としてはさほど深刻な事態にはならないだろうという安堵はあったものの、教育者の端くれとして思案するべきことがあった。

 ステラの恋愛観を知った上でオーレリアとノノカの身柄を保護するべきだろうか。

 ステラの正体が男性だったら、一発で事案だったのに。

 そしたらぶん殴って解決できる。事は簡単だ。

 

 だがしかし、ステラはリア♀である。

 また、彼女の尽力で身寄りのない幼女と童女がまとも……ではなさそうだが、一応家族として仲良く生活出来ている事実がある。

 少なくとも、身銭を切ってそこまでするステラの覚悟と責任感は本物だという証だった。

 

 

「なら、私に任せてよ!」

 

「明美?」

 

「大丈夫……私にいい考えがある」

 

 

 キリッとキメ顔を作りながら明美は語り始めた。

 

 

「拠点ダンジョン攻略するってことは、ギルドも作るってことでしょ? あの三人がどこかのギルドに加入するって考えられないし」

 

「まあ、そうよね」

 

 

 良くも悪くも我が道を往く三人娘である。

 見ているだけなら良いが、そんな劇薬みたいな少女たちを実際に受け入れようなどと考えるのは、アインズ・ウール・ゴウン(自分のところ)ぐらいのものだろう。

 

 

「だから、そこに私も入れてもらうの!」

 

 

 明美は言い放った。これで完璧と言わんばかりの晴れ晴れとした表情で。

 

 

「そうすれば、継続的にあの子達のこと観察出来るし、何かあった時にすぐに対応できると思う!」

 

「それはそうかもだけど……自分のギルドは?」

 

「仲がよかった女の子、引退しちゃったからね……。他の人は私が異形種プレイヤーと付き合うことにあまり良い顔してなかったり、アイテム収集のノルマを各自に課そうとか言い出しちゃったりしてるし、もう良いかなって……」

 

「……そう」

 

 

 若干曇った表情の妹を見て、舞子は言及を避けることにした。

 自分の知らないところで、妹にもあの三人と一緒にギルドを作る理由があるのかもしれない。

 そして、それが本人の口から語られない以上、今は無理をして聞き出すタイミングではないことも心得ていた。

 

 

「……一応、後腐れないように挨拶だけはしておきなさいね」

 

「うん……そうする」

 

 

 結局、舞子は妹にそれだけを言うに留めることにした。

 そこには、天才肌な妹への確かな信頼があった。

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

「――え? 駄目だったの?」

 

 

 数日後、拠点ダンジョンを無事攻略して返ってきた明美の事後報告である。

 話はギルドの加入に及んでいた。

 

 

「ううん。リアちゃんは歓迎してくれたし、ノノカちゃんは反対しなかったし、ステラちゃんの許可もちゃんと貰えたから駄目じゃないんだけど……なんか、めっちゃ渋られちゃった。というか、最初は露骨に断られた」

 

「ステラちゃんに?」

 

「ステラちゃんに」

 

 

 ドリームプレイヤー二人と非戦闘職のギルドなのだ。

 普通ならば自分のような高レベルプレイヤーは是が非でも味方に欲しいはず。

 それなのに――

 

 

「ギルド作ったら私も入れてーって言ったら、『似非アイドル活動にうつつを抜かして炎上とかしちゃうグラスランナーの小娘、それに付き合って楽器だの小物作って満足してる白ドワーフ、社会人で時間取れないのに苦手なゲームやってるアタシ――レベルも低い、戦力もない、お金もない……そんな面子ですよ?』って、ひたすら自分達をこき下ろして拒否ってきたんだ」

 

「まあ、謙虚と言えば謙虚なのかしら?」

 

「それでさ。私が『別にレベルは関係ないよ? 友達も居るんだからおかしくないでしょ?』って言ったら『……友……達?』って心底何のことか分からないって顔になるし! リアちゃんなんて『おれゎあけみちゃんとゎ……ズッ友だょ……!!』って言ってくれたのに! ひどくない!?」

 

「……“ずっとも”って?」

 

「100年くらい前に一瞬だけ流行った、不滅の友情を示すネットスラングだって。当時バカウケしてすぐ廃れたらしいけど」

 

「リアちゃんも大概変なこと知ってるわね」

 

「えへへ……不思議だよね」

 

 

 なぜそこで妹が照れるのか舞子にはよく分からなかったが、話の展開が気になるので続きを促すことにする。

 

 

「……で、それからどうなったの?」

 

「うん、それでね。仕舞いには『……はっきり言わせてもらえるなら 嫌 です。これからもずっと、必要な時にだけ私達に力を貸していただける都合の良い女で居ていただけると超ありがたいんです、個人的に』とか言い出すんだよ!?」

 

「へ、へぇ……というかステラちゃん、なんかキャラ変わってない?」

 

「そうなの! それまではいつもの丁寧な物腰だったのに、ギルドに入れてって言った途端にそれだよ!? いきなり毒舌キャラになっちゃうなんて思いにも寄らないし!」

 

 

 もうぷんぷんだよーと頬をふくらませている妹の怒りはもっともかもしれないが、舞子としてはそれ以上にステラが急にそのような物言いをするのかがよく分からない。

 そこまで妹のギルド加入を拒もうとする理由は何なのか……そこまで考え、ステラの嗜好を思い出し、得心がいった。

 

 そりゃあ、折角作った自分のハーレムに余計なものを招くはずがないでしょう……と。

 

 

「逆に、そこから良くギルドに入れてもらえるまで話を持っていけたわよね」

 

「ふふん、これでもかってくらい粘ったからね……最後あたりに『あけみさんって……モモンガさんの知り合いなんですか?』って再三確認してきたのが気になったけど」

 

「……どうしてモモンガさんの名前が出てくるのかしら?」

 

「そこは分からないけど……アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターだから、もっとしっかりしたコネが欲しいんじゃないかな。今でも十分だと思うけど」

 

 

 そんなこんなで、妹は苦心して新しく作られたギルドの席を予約することに成功したらしい。

 普通なら上出来な結果だと言えるが、妹にはまだ不満があるようだと舞子は察した。

 

 

「でも、まだなーんか隠されてるというか、壁を感じるんだよねー……」

 

「ははあ、その壁をなんとかしてもっと打ち解けたいってわけね」

 

「うん、そう。折角同じギルドのメンバーになるんだし、ギスギスしたままってのはちょっと勘弁だし」

 

 

 人間複数人が同じところに集まれば、たまに喧嘩の一つや二つはする。コミュニティとはそういうものだ。

 思い切り意見や拳を戦わせて、最終的な和解を経て、より強固な関係を築くというのは、問題解決の理想パターンの一つでもある。

 

 しかし、それが恒常的なものであり、さらにその攻撃が陰湿なものとなれば話は別だ。当事者は勿論、巻き込まれる方もたまったものではない。

 

 だが、先日のジェンダーやら誘拐やら、危険な領域に関わる悩みと比べれば、舞子にしてみれば遥かに指南するのは簡単な問題であった。

 この手の相談はかつての同級生や同僚、教え子達と幾度もこなしているのである。

 

 

「ほら、ステラちゃんって普段クールぶってるけど、実は多感で感情がはっきりしてる女の子じゃない?」

 

「そうだね」

 

 

 それは彼女と一度でも会話を交わした人間に共通する感覚である。

 某鳥男曰く、「常に何かを押し殺してる感じの表情がそそる」とのこと。

 

 

「だから、古典的な手が使えそうなのよね」

 

「うーん……例えば?」

 

「ひどく気落ちしてるところを狙い澄まして、優しくしてあげたら一発で墜とせるんじゃないかしら?」

 

「……流石にそれはちょっと引くかな……ナンパ目的のチャラ男じゃないんだから。それにいくらなんでもチョロすぎない?」

 

「まあ、実際やってみても損はしないだろうし、機会があったら物は試しでやってみたら? 案外コロッといきそうな気がするわ」

 

「そんなもんかなー」

 

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 

 ――で、その機会は案外早く訪れ、そして商人娘は実にチョロかったと言えよう。

 

 

「……なんでこうなるのよぅ……わたしがなにしたっていうのよぅ……」メソメソ

 

「そうだねー、ステラちゃんは自分のおうちが欲しくて頑張ったんだもんねー」

 

 

 折角手に入れた拠点を早々に失い、頭の上に『敗者の烙印』を浮かべた商人娘ステラは絶賛傷心中であった。

 場所は仮拠点からほど近い場末の酒場である。「僅か数日で喪われた我らが拠点に対し、遺憾の意を表します」というグラスランナーの宣言に従い、一同本日は慰問会の真っ只中である。

 

 商人娘と同じく、頭の上に『敗者の烙印』を浮かべたグラスランナーと白ドワーフの幼女たちの姿は、今は壇上にある。

 新調した宴会アイテム『ステージマイク』を片手にオーレリアはしんみり唄い、ノノカは小ぶりのアコースティックギターを大人しく奏でていた。

 慰問という雰囲気に合わせ、今日は哀愁的な雰囲気でいくとのことだが、それを特に打ち合わせもせずに出来る辺り、芸達者な二人であると言えよう。

 

 

「そうよぅ……わたしはわるくないもん……がんばったもん……ルールいはんしないし……ぴーけーなんてされたことはあってもしたことなんてないし……」メソメソ

 

「大丈夫大丈夫、悪いことがあった分、今度はそれ以上の幸せが……ってあれ? あの二人のファーストデッドって確か」

 

「したことないし!」クワッ

 

「アッ、ハイ……そ、そうだね! ステラちゃんは悪くないよね!」

 

 

 そして、今明美がやっていることはいじけている商人娘の慰め、全肯定、褒め殺しである。

 本当なら、じっくりグラスランナーのステージを楽しみたいところではあったが、今日のところは我慢である。

 最初はいじけて投げやり気味に「うるさい!」「ほっといてよ!」「この貧乳エルフ!」と罵声を連発していた商人娘だったが、雰囲気作りの一環で少々お高いカクテルを奢り、ひたすら優しい言葉をかけ続けた。

 

 

「ぐすっ……アンタいいヤツね……このまえはひどいこといってごめんね……」メソメソ

 

「いいからいいから。さ、泣きたい時は思いっきりなけばスッキリするよ」

 

 

 そしたらこの有様である。口調からはすっかり丁寧さが抜け、場酔いどころか幼女退行まで起こしていた。

 ここまでチョロいと流石に彼女の将来が心配になってくる明美である。いつか、悪い男に騙されてしまわないだろうか。

 

 

「はじめてあったとき、ただのナルシストエルフだとおもっちゃってごめんね……」メソメソ

 

「う、うん。まあ誤解が解けて何よりだよ」

 

「じつはアンタのギルドのかにゅう、『かんがえる』っていっただけで、あとでてきとうにごまかしておいだそうとおもってたの……」メソメソ

 

「……え゛?」

 

「さんざんりようしたあげく、ボロぞうきんみたいにポイすてしようとかかんがえちゃってごめんね……」メソメソ

 

「……」

 

 

 商人娘の遠慮のない言葉に一瞬心が折れかけた明美だったが、姉譲りの骨太メンタルでなんとか耐えた。

 折角仲良くなれるチャンスなので、ここで台無しにするわけにもいかなかったので。

 だが、本当に仲良くなっていいものだろうか……ここに来て二の足を踏まざるをえない。

 

 

「――ねーねーあけみちゃん。うちのオカンのメンタル戻ったー?」

 

 

 いつか今日の暴言をネタにしてからかってやろうと明美が画策していると、幼女二人がテーブルまでやってきた。ひとしきり楽しんで満足したらしい。

 

 

「んーとね」チラッ

 

「」メソメソ

 

「あはは、駄目そうかなーこれは」

 

「あちゃー……まあ今まで頑張って手に入れた希望をあっさり奪われたってパターンは今まで無かったし、当分後引いちゃうかなー?」

 

「……まだ大丈夫だと思う」

 

 

 「やれやれ」と言いながらメリケンジェスチャーを繰り出すグラスランナーは今後のフォローについて考えていたが、白ドワーフはそうではなかった。

 いつもの死んだ目で商人娘を観察し、何かを納得できたのか会話に交ざりはじめる。

 

 

「ノノカちゃん?」

 

「……泣けるのは余裕がある証拠……本当に絶望してたら泣くことも出来なくなるから」

 

「怖いよ!」

 

「……とにかく大丈夫」

 

「ふーん、相棒がそう言うなら大丈夫かな? ……ところで、あけみさんや」

 

「ん? 何リアちゃん」

 

「今更だけど、うちの【美味しいご飯食べ隊(仮)】に入るってホント? 撤回したりしない?」

 

「しないしない」

 

 

 明美の言葉を聞き、露骨にホッとした様子を見せるグラスランナーである。

 やたら肉体的接触が多いこの見目良い貧乳エルフがギルドに加入するにあたり、内心一番喜んでいるのはこの幼女だった。

 

 同性であることと自分がリアル幼女であることからか、セクシャルな行為に対する警告や妨害は今の所飛んできたことは無いが、それだっていつまで保つか分からない。

 イケナイことだとは知りながらも、乙女の柔肌の感触を諦められるかと問われれば元々男だった身からしてみれば当然の如くNoな訳で。

 

 故に今のうちに愉しむに限る。

 倫理バリアーに阻まれるようになってしまうその日まで。

 

 

「……むぅ」

 

 

 反面、複雑な表情なのはハンマーを楽器に持ち替えているノノカである。

 自分と一番仲が良い少女が奪われそうになる感覚、危機感とでも言おうか。

 『NTRですね、分かります』と知り合いの男共は言うだろう。

 頼りになる仲間が増えるのは結構だが、それで彼女との時間が減らされるのは困るし、嫌なのだ。

 

 

「心配しなくても、ちゃんとギルドの方針には従うから大丈夫だって。今までは微課金勢だったけど、これからは1円だって使わないし!」

 

 

 そして、明美はそんなノノカの表情から別の心配事があると曲解した。

 彼女たち三人のプレイングポリシーを横から突き崩す真似はしない。お財布にも優しいので個人的にも若干嬉しかったりする。

 

 

「……そこは、やめないでほしいかな」メソメソ

 

「えー、この期に及んで私だけ仲間外れはひどいよ。ステラちゃん」

 

「そういうわけじゃ……ああもう、どうでもいいかぁ……」メソメソ

 

 

 商人娘の若干持ち直しかけた精神が再び萎え、テーブルに突っ伏す。

 そんな保護者の様子を見たグラスランナーは、手にしたステージマイクを彼女に差し出した。

 

 

「んー、母上も歌う?」

 

「なんでよ……」メソメソ

 

「……なんとなく」

 

「なんとなくって何よ……」メソメソ

 

 

 そうは言いながらも、商人娘はマイクから視線を外さなかった。

 

 

「でも確かに……好きな歌を唄って気晴らしって定番ではあるよね」

 

「……いいと思う……歌は人間(リリン)が生んだ、癒やして良し、殺って良しの文化だって聞いた……つまり万能」

 

「後者はちょっと違う世界の歌だと思うかな!」

 

「無理強いはしないけどさ。もし歌うなら俺も演奏に回るし。贅沢だよー演奏スキル持ちのプレイヤー二人の伴奏なんて」

 

「何よその安っぽい贅沢……折角だし唄うけど」メソメソ

 

「あ、唄うんだ」

 

「うん……カラオケ用の仮想空間って結構クレジット使うし、もうここで良いや……『クリムゾン・アンヘル』よろしく……」

 

 

 歌唄うの久しぶりだけど、と呟きながら差し出されたマイクを受け取る商人娘は、曲名をリクエストしつつノロノロと壇上へ向かった。

 ノノカはクラシックギターをオーレリアに手渡しピアノの方へと向かう。曲調に合いそうな楽器がそれ以外に手持ちにまだ無かったので、いつものように勝手に使うつもりのようだった。

 

 

「あけみちゃんはどーする? 一緒に唄う?」

 

「ありがたいけど……今日は視聴に専念するよ。また今度お願いね」

 

「おっけー! その時はデュエットするか、グループ曲皆で歌おうず!」

 

 

 

 そう言うとグラスランナーの少女は、「演奏スキルぜんかーい!」と叫びながら壇上へ掛けて行った。

 

 

 

 

 

 ――やがて商人娘が歌い始める。明美が知らない曲、知らない歌詞だった。

 

 太陽は沈み、月は砕け、風が淀み、水が濁り、大地は腐り……そんな狂った世界は偽物だと、愛の為にまるごと叩き壊す天使の歌。

 

 たとえ死んでも、何度でも生まれ変わって同じことを繰り返す。そして最後に好きな人と笑い合って、幸せ掴んで終わるんだ、と。

 

 

 荒々しい曲調、歪な歌詞ではあったが、確かにそれは人並みの幸せを望む少女の歌だった。

 明美はその歌を聞きながら先日の拠点ダンジョン攻略の時、商人娘に言われた言葉をふと思い出していた。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 ――それは、姉である舞子にも話していない事。

 

 

『アタシ達にとってユグドラシルは……そう、悪い言い方をすれば逃避なんです』

 

 

 まだ気安い関係とは言えなかったあの時、ギルドに入りたいと言った自分に言い聞かせるように商人娘が口にした言葉だ。

 おそらく彼女は、ユグドラシルをゲームとしてしか見做していない、自分のような人間とはうまくやっていけないということを迂遠に表現していたのだろう。

 

 

『知ってますよね? 貴方達みたいな上流階級の世界を見上げながら、ほんの一握りのお金持ちにペコペコ頭下げて媚び売って必死で働いて、そこまでやってもゴミみたいに薄汚れた環境でしか満足に生きられなくなったアタシ達が何を考えて、何を心の支えにして生きるのか』

 

 

 その言葉を即座に否定することは、その時の自分には出来なかった。

 どれだけ綺麗事で取り繕っても、生まれからして彼女達と違うというのはおそらく正しい言い分だ。

 (彼女の話が本当なら)まだ十代半ばの彼女が生きるために必死で働く一方、年上の私は家族のおかげで学生をやれている。

 クラスメイトたちはそれが普通の感覚らしいが、幸か不幸か自分は、それが多くの人にとって得難いものであることを知っていた。

 

 

『アタシ達はこの仮想世界でこそ本当の自分で生きていられるんです。他の人にとってはアバターはただの写し身でしかないけれど、私達にとってはこれが正真正銘の私達自身の身体。これまでも、これからもずっと』

 

 

 その言葉を否定しないオーレリアとノノカを見て、このままだと危険だと思った。

 

 歪である。

 

 自然の摂理に反している。

 

 仮想はもはや仮想にあらず――というのは、現在を生きる人間にとって一つの真理だ。

 『DMMO-RPGのような仮想空間は、そこに活動する人達にとっては単なるゲームなどではなく、現実世界そのものなのだ』という結論に至る人達がもつ思想。

 昔と比較して環境問題が加速度的に悪化していったこの世界で、仮想世界こそが唯一残った人が真の意味で自由でいられる場所であると。

 

 ただそれは、現実世界をただの肉体の置き場としてしか見做さなくなった人間の言葉でもある。

 もはや息をして、食べて、寝て、お金を稼いで……彼らにとって現実の世界は、そういった些事をこなす場所でしかないのだ。

 

 それは生きていながらにして死んでいる人間……哲学的ゾンビ状態というやつであって、人が本来あるべき姿とはかけ離れている。

 

 

 

『……ユグドラシルは、凄い世界だと思うよ』

 

 

 でも、この世界には終わりがある……そう明美は語りかける。

 

 ユグドラシルは、仮想現実だ。

 腐っても永らえ続ける現実世界と違い、ラックに収まったサーバー筐体に依存するこの世界には、遠くない未来に必ず終焉がやって来るだろう。

 

 故に、明美は尋ねずにはいられなかった。

 

 

『その時、ステラちゃんたちはどうするの?』

 

『そんなの決まってます――』

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

「『――次の世界にいくだけです』……か」

 

 

 

 普通に考えれば次世代の仮想世界へ乗り換えると考えるべき台詞だったが……どことなく、不吉な響きに聞こえたのは自分の勘違いだっただろうか。

 

 少しばかり恐怖を感じる……気の弱い乙女ならばそこでギルドへの加入を諦めるところだろう。

 

 だが、生憎自分はそんな程度で引き下がるほどヤワではなかったらしい。

 自分でもよくわからないが、とにかくこれでもかと食らいつき、そして(ついさっき)ギルド加入の権利をもぎ取った。

 

 

 改めて三人の姿を見つめる。

 

 オーレリアは、とても不思議な女の子だった。

 

 普段は破天荒な雰囲気の俺っ子(?)だけど、コロコロ表情がかわってRPに入ると本当にお嬢様や臆病な女の子みたいに変貌するから見ていて面白いと思う。

 膝に乗せるとちんまり大人しくなって可愛い。

 相手を尊重し、ちゃんと他の人のことを考えて労る心を持っている優しい子。

 自分とは、ズッ友の誓いを交わした仲でもある。

 他に交わした人はいないというし、もうこれは親友同士ってことでいいんじゃないだろうか。

 

 

 ノノカはオーレリアのことが大好きだ。傍目に見ているとそのことがよく分かる。

 

 どこへ行くにも付かず離れず、けど決して彼女の邪魔はしない。それでいて、自分もやりたいことを一緒に楽しんでいる。

 お転婆な妹とその姉のような関係。まだ幼かった頃の、自分と姉のそれを思い起こさせた。

 

 

 ステラはそんな二人のさらに歳上の、面倒見の良い姉のようだった。

 

 オカン気質だよねと姉のギルドメンバーには言われており、そう言われれば確かにそんな気もする。

 手のかかる二人に振り回されて、苦労性気質なところが若干不憫。それでも彼女達の意思を尊重して受け入れている。

 他のプレイヤーと話す時は若干こわばっている彼女の声色が、あの二人と話す時はその素振りすら見られない。

 信頼している。認めている。

 そしておそらく……それは心の底から二人を愛している故なのだ。

 

 

 三人共自由なようで、その実見れば見るほど奇特な少女たちだった。

 何かあれば、すぐバラバラになってしまいそうな危うさもある。

 

 

 ――だからこそ、自分が守護(まも)らなければならない。

 だって、自分たちはもう(気分だけは)同じギルドの仲間で、友達なのだから。

 

 

 『友達が苦しんでいるなら迷いなく助けなさい。間違っているならとりあえずぶん殴ってでも止めてあげなさい。ボクならそうする』

 

 

 尊敬する姉の教えであり、自分も異論などあるはずもない。それを実践する時なのかもしれない。

 

 

 おそらく、今までの自分では居られなくなるだろう。

 

 これまでは避けていたデッドだって嵩んでいくに違いない。

 たった4人の無課金プレイ……一度も失敗しないほうがおかしいのは明白だった。

 

 これまで上げてきたレベルが零れ落ちていく未来が見える。

 勿体無い、ひどいものだと他のプレイヤーは言うだろう。

 

 

 だがなぜだろうか。

 自分にとって、これからがとても楽しい日々になりそうな……そんな予感がある。

 

 この仮想世界にあれほどまで入れ込む彼女たちなのだ。

 あのユニークな面々と一緒に冒険することが、面白くならない筈が無い。

 

 オーレリアが言っていたように、一緒になって歌を披露する、ということにも(多少の羞恥心はあるが)興味がある。

 多少マンネリ化していた自分にとっては尚の事だ。

 

 このユグドラシルはゲームなのだから、何よりも『楽しさ』『面白さ』を重要視するのはなんら間違っていないだろう。

 お金を落とさなくなるのは運営にとって苦い顔をされるかもしれないが……『未知を楽しむ』というのが彼らがプレイヤーに望んだことだ。

 少しくらいはお目溢ししてくれるだろう。女の子4人だし、と勝手に納得する。

 

 

 

 

 ギルドの転入禁止期間が明けるまで、あと何日だったか。

 彼女たちと本当に仲間になれる、その日が待ち遠しい。

 

 

 そんな心境で残りの日数を指折り数える、エルフの少女が一人。

 

 それは後に伝説にもなる、メンバー僅か4人のギルドの誕生までの日数と同じであることに、今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 




■ 敗北のオリ主
・今回は脇役。主人公(笑)
・一人でギルド名(真)に悩んでる


■ 楽器娘
・何気に内心描写したの始めてじゃない?
・オリ主 > オカン >>> エルフ♀
・どこぞの大企業のご令嬢だったり、権力者の隠し子や捨て子だったり、極めて特殊な事情があるようです


■ 傷心の商人娘
・チョロい
・クソレズ(疑惑)
・何やら良からぬことを企んでおられる様子


■ 善良エルフあけみ
・この後、無事弱体化
・後に三人に合わせてそれっぽく改名
・結局、最後まで三人のリアルフェイスは拝めなかった










↓ あとがき & いつもの ↓




 多分10万字以上書いては消して書いては消してを繰り返したYO!

 面倒臭いあまり、エルフ娘初登場時の描写を適当にしたツケがここに現れてるってはっきり分かんだね。

 いや、最初はなんにも考えずにオリ主に一目惚れ(?)してついてくるキャラだったんですが、傍目からオリ主sを見てきた割と常識的な良い子の役割押し付けたら、無事に逸般人の仲間入りを果たしていました。

 カルト教団と聞かされたメンバーと普通に接するオリ主もそうですが、頭がおかしい他人のレズハーレムにズケズケと入り込んでくる時点でやっぱこの娘もおかしい。
 


▼ オリ主

 愛され系になってますね。
 そんなつもりなかったけど、幼女にアイドルプレイさせるならまぁしょうがないかなって。

 最初のプロットではダンジョン攻略時に罠にかかりまくって逆さ吊りに遭い、下着(ロリメイド仕様ガーター)を晒しかけるものの重力に逆らう鉄壁スカートのお陰でBANを免れるというシーンがあったんですが、ダンジョン攻略の道中が前回の数行であっさり終わってしまったため、全カットされました。
 よって前回から彼女の下着はかぼちゃパンツではなく、常時それっぽくなっております。見えないところにこそ拘るのが一流だと思っている娘っ子ですので。



▼ ハンマー娘

 オリ主とイチャイチャする時間が短縮されてしまったので、エルフが邪魔で邪魔でしょうがない。
 でも優しくしてくれるしオリ主は喜んでるしでとりあえず様子見することにしたようです。
 あけみちんが増えたのでますますPT内での影が薄くなりそう。
 彼女が鬼のように活躍してくれるスポットシナリオがあればワンチャン。



▼ 商人娘

 最初書いてた話だともうこの娘が主役でいいよね級に台詞多かったんですが、あけみちゃんにこれでもかと言葉責めされて可愛そうな気狂いキャラに変貌しそうになったので、今回ひたすらメソメソさせることで大幅な文章量ダイエットに成功しました。安易な発狂描写はNG。

 あけみがギルド加入を申し込んだ際、一応関係ない人間をクッソ危険なギャンブルに巻き込むわけにもいかないので適当なフカシをこきまくった挙げ句、最終的に「こんなキャラ原作に居たっけ?」的な思考から、「原作主人公の知り合いなのに見覚えないってことは、まあユグドラシル終わる頃には絶対に引退してるやろ! よっしゃ暫く寄生したろ!」的な結論に落ち着いてOKしていたり。

 元々アインズ・ウール・ゴウンの面子には疑惑の視線で観察されていましたが、この日からただ生暖かい目で見られるようになったとか。


 
▼ あけみ

 お気づきでしょうが、都合に合わせて頭の良さや強さがコロコロ変わる気分屋であります。他三人が絡むと時たまポンコツになるだけの、基本的にはなんでもこなせる万能キャラです。 

 最初腹黒キャラにしようと思ったけど良い子過ぎて諦めた経緯があります。どっちかというとてへぺろお姉さんっぽいキャラになってるので、オリ主の馬鹿に便乗して一緒にはっちゃける役目になってそう。 

 リアルの三人と接触しようと奮闘するも最後まで報われない娘。
 もしそんなことになったら闇堕ちして「こんな世界――ぶっ壊してやる!」と暴走し、ホントにぶっ壊すテロリストか破壊神にクラスチェンジしちゃうからやっぱ駄目。

 オリ主が特にお気に入りで、よく膝の上に乗せてハグしております。ハグされる方もホクホクなので完全にWin-Winの関係。らぶらぶってやつ。

 最後は……まあ意地でもついてくるか、その後の語り部要員のどっちか。
 ただここまで内面書いておいてジャガー号のパイロットみたく置いてけぼりにするのは勿体な――可哀想かなって。



 あとこの4人組どっかで見たような……思い出せないけど。



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