黒い炊飯器と無個性の少年 作:名無しの炊飯器
ここは雄英高校の大会議室。
プロジェクターには奮闘する受験生の様子が細かに映し出されている。
手元の資料を見ながら教師陣達は熱く新入生達の様子を語る。
「救助ポイントで20点で1位とは……いやはや中々の成績ですな。『個性』も後半戦からが本領発揮という感じでしたね」
「腕からニトロみたいなのを出すのよね彼。汗と同じ原理で出てくるようだし、それなら後半のタフネスも納得ね」
「それを言うならコイツも凄いぜ!救助ポイントもそれなりに獲得している上に、0Pヴィランを倒しちゃったんだぜ!?」
「しかも周りに被害を及ぼさないように的確に駆動部ばかりを狙っていますし……ヒーローとしても十二分に素質ありかと」
「確か彼の『個性』は〜っと……『レプリカ』?複製ってことかしら」
「いや、説明欄も見とけよ。ほら」
プレゼント・マイクがミッドナイトに追加資料を手渡す。
個性︰『レプリカ』
異形自律型個性。周囲の情報を蓄積・解析が可能。
所有者を纏っての身体強化、その他『印』と呼ばれる能力の行使が可能。
『印』の効果は「強化」、「射撃」、「シールド生成」等多岐にわたる。
個性由来の攻撃や影響を本人もしくはレプリカが受けた場合には個性による現象を解析して新たな『印』を作ることが出来る。
「規格外ね……」
「ヴィランじゃなくてほんとによかったぜ……」
「このままでも彼は十分に強い。でも、その力を生かすも殺すも我々次第だ。みんな、しまっていこうね」
ネズミの姿をした雄英高校校長──根津校長は席を立ち、ゆっくりと会議室の外へ出ていった。
「あ、ありがとうございます」
「いいんだよ。こんなことも出来ないんじゃあ私ゃただの隠居老人になってるからねぇ」
緑谷出久、麗日お茶子の両名は保健室でリカバリーガールによる治療を受けていた。
といっても彼女の『個性』を利用したものではなく、栄養剤や湿布、消毒等の基本的なものだが。
『私も忠告していなかったのは悪かったな。すまない、イズク』
「いいよいいよ。夢中になっていたのは僕もだしね。これからは自分のトリオン残量も気にしていかないと……」
本来ならばトリオンは残量を気にするもの、というよりかは出力に直結するものだ。
トリオン器官の優劣はトリガーの力に繋がる。これがボーダーでの常識だ。
出久のトリオン量は遊真と千佳の中間より少し遊真寄りなのだが、なぜだか異常にトリオン消費が早い。
その代わりなのかトリオンの回復速度は修と比較しても非常に早いのだ。
しかし、今回の実技試験のように短時間で膨大なトリオンを使い続けたりしてしまうと、消費量が回復量を上回ってトリオン体を維持出来なくなってしまう。
ちなみに今回ぶっちぎりでトリオンを持っていったのはメテオラを乱射し続けた時である。
それと共に試験の心労も押し寄せてこの結果というわけだ。
つまるところ、彼は電費が悪いがすぐ充電が終わるEVのようなものである。
「出久くん、そのトリオンって何?」
保健室で意識が回復した後、出久とレプリカはお茶子に頭を下げられた。
助けてくれてありがとう、そう彼女は言った。
ヒーローの卵として当然のことだよ、そう答えられればよかっただろうが、出久のコミュ力はまだその段階までには達していなかった。
そんなわけでまずは慣れろ!というわけで自己紹介をして、今に至る。
「ええと、トリオンっていうのはね。簡単に言えば生体エネルギーのことなんだ。これは僕の『個性』やレプリカの動力源なんだよね。
トリオンは、人間が心臓の横に持っている『トリオン器官』っていう見えない内臓で生成されて、栄養補給と適度な休息によって回復するんだ」
『付け加えるならばトリオンは君たちの『個性』の運用にも関わっている。個性はトリオンによって稼働しているものなのだからな』
ここまで説明したところで出久とレプリカは顔を見合せた。
──しまった
出久は以前よりかはマシンガントーク気味にならずに説明出来たが、如何せん内容が濃すぎた。
そしてトリオンについてはレプリカが調べた限り、まだこの世界では認知されていない情報である。
お茶子は顎に手を当ててからポン!と手を叩いた。
「つまり……出久くんとレプリカが動くためのガソリン?」
「そう!」 『そうだ』
物事を簡潔にまとめる能力としては彼女の方が上手のようだ。
彼女も深く考えることはやめたようなので、それはそれで2人にも僥倖であった。
オチャコとの話にイズクもやっと慣れてきた頃、リカバリーガールがオチャコの方はもう大丈夫だから帰りなと声をかけてきた。
「う〜ん、名残惜しいなぁ。せっかく話せるようになってきたのに」
「ご、ごめん……」
「いいっていいって!でも出久くんとはまた会えるような気がするから!」
イズクは一瞬キョトンとした後、梅干しを食べた後のように顔をすぼめた。
「うわぁ……」 『イズク、顔を戻すんだ』
イズクは「ごめん、ちょっとキュンとしちゃって」と弁解していたが、もう意味がないような気がする。
「じゃ、またね!」 「うん、またね、麗日さん」
「別れの挨拶は終わったかい?それじゃ、ちょっとこっち来なさい」
リカバリーガールがキャスターからぴょこんと降りて保健室のドアを開けた。どうやらまだ何かあるようだ。
「別にまだ検査するわけじゃないよ。あんたにどうしても会いたいって人がいてね」
「誰ですか?」 『誰だろうか?』
「ま、それは来てみてからのお楽しみさね」
彼女は不敵に笑った後、しっかりした足取りでどこかへ向かっていった。
さて、私たちも追いかけるとしよう。
「失礼しまー……」
イズクが面談室のドアを開くと、画風が違う人がいた。
「わーたーしーが〜」
「来たっ!!」
「お、おぉぉおぉおぉお……!?」
青天の霹靂、今のイズクの状況を表すにはまさにその言葉が相応しいだろう。
正直なところ、私も少し驚いた。
近々雄英高校の教師になるとネットで噂されていたオールマイトが、今私たちの目の前にいる!!
「オールマイト!!!」
「会うのは2度目だったかな、緑谷少年!!そして、レプリカ君も!とりあえずそこにかけたまえ」
『そうだな、オールマイト。して、私たちに用事があるそうなんだが』
……む?オールマイトの体から白い蒸気のようなものが出ているな。これは一体……?
しかも体温が急速に下がり続けているのだが、これは彼の個性の影響だろうか。
そんなことを考えているといっそう蒸気の勢いは強まってオールマイトを覆い尽くしてしまった。
「オールマイト!?」
「大丈夫さ緑谷少年!ゴホっゴッホゴホッ……」
蒸気が晴れるとそこには──
『骸骨?』
「そう思われても仕方ないな。改めて自己紹介をしよう。私はオールマイト。そしてこれが本来私の姿、トゥルーフォームというわけだね」
口から垂れる赤い液体を拭って、彼は語り始めた。
イズクと出会う5年前、とあるヴィランとの戦いで重症を負ってしまったこと。
今の一日の活動時間は3時間が限界ということ。
その限界値は今も下がり続けているということ。
「5年前といったら毒々チェーンソーしか思い出せませんでした……」
「ムッ?よく知ってるね。でも私はあんな奴に負けるタマじゃないさ。世間に知られていないのは私が知らせないでくれと頼んだからね」
『そのヴィランの内容を私たちが聞くことは?』
彼は少し逡巡した後、自分に言い聞かせるように頷いた。
どうやらこの内容を探るのは時期尚早だったようだ。
「……時が来たら話そう。っと、それよりもだ。さっきから急で悪いがコレを見てくれ」
彼はピッと壁に取り付けられたテレビに向かってリモコンのスイッチを押した。
そこに映っているのは雄英高校の実技試験の時のイズクと私、そして──
「これは君たちだね?」
ヘドロ事件の時に撮影されたと思われる、私たちがビルから飛び降りる直前に戦闘体に換装している場面だった。
待てイズク、まだ全てが終わった訳では無い。
確かに私自身撮影されるようなことはないと思っていた。すまない、私の落ち度だ。
だから今すぐその怨嗟の声を止めんるんだ。ほら、オールマイトも引いているぞ。
「最初に言っておこう。確かに君がしたことは立派な犯罪だ」
「う、ぐっ」
「だが、今回はそのことについてはとやかく言うつもりは無い。結果オーライなら規則がどうでもいいわけではないのだが……」
オールマイトは腕を広げて、まるで演説のように言葉を繋ぐ。
「膠着状態の中で命を顧みず飛び出した君は、あの場の中の誰よりもヒーローだった。そんな君の姿に、私は心を動かされた!光るものが見えたんだ!!」
「トップヒーローは学生時代から逸話を残している。彼らの多くはこう結ぶ。『考えるより先に体が動いていた』と!!」
「そして私は決めたのだ。君ならば──否、君だからこそだ!!私の『力』を受け継ぐに値する……とね」
オールマイトはテレビによく映る筋骨隆々の姿に早変わりした。
「私の個性、その名は『ワン・フォー・オール』。超常黎明期から脈々と受け継がれてきた、言わば聖火のようなものなんだ」
『譲渡が出来、尚且つその回数の分宿る力が強まる個性、という認識で相違無いか? 』
その通り、とオールマイトはオーケーサインをする。
「活動限界も近くなってきていることもあって私は君のような後継者を探していたんだ。受け継いでくれるかい?緑谷少年!」
そう聞かれたイズクは首をガチガチと回しながらこちらを向いた。
ふむ。
確かにイズクにとってこれは願ってもないことだ。しかも、憧れのヒーローの『力』。
だがネガティブシンキングでは他の追随を許さないイズクのことだ。
譲渡に伴う責任・重圧やその辺りのことを考え、今こちらに目を向けているのだろう。
どうしようレプリカ!!に類似するようなことを言ってくることは分かっている。ならばここは先手を打たせてもらおうか。
『イズク、それを決めるのは私ではない』
「僕、自身……だよね」
イズク……成長したな。
私のセリフをかっさらって、覚悟を決めたようにイズクはオールマイトをしっかりと見据えた。
「オールマイト、僕は───」