黒い炊飯器と無個性の少年 作:名無しの炊飯器
インフル中もコレを書き進めてはいたのですが、その影響かノリと勢いがひどいことになっていますのでそこは生暖かい目で見守ってくれると助かります。
追記:設定資料集を最初に追加しました。その影響でしおりがズレてしまった皆様、誠に申し訳ございません。
「出久、荷物持った?」
「うん」
「ハンカチは?ティッシュは?」
「あるよ!」
「レプリカちゃんは?」
『ココだ』
僕と言葉を交わす度に涙をこぼすお母さん。以前から泣き上戸ではあったけれど、今回は特にそれが顕著だ。
既に玄関が涙でびちゃびちゃだ。水系の個性を隠していたんじゃないかと見紛うほどの水量は一体どこから供給されてるんだろう。
それはともかく、憧れの雄英高校に入れるということはお母さんにとっても誇らしく思えることで、僕にとっても悲願だったからこんなにも涙を滲ませてくれているのかな。
「出久にレプリカちゃん、超カッコイイよ!!」
涙を拭ってお母さんが満面の微笑みを見せた。そんな母の優しさを背に受けて僕はドアを開けた。
「いってきます!」
「受け取りたい、いえ、受け取らせて下さい!!」
「よく言ってくれた緑谷少年!!」
僕はあの日、オールマイトの『個性』を受け継ぐことを決めた。
責任とか覚悟とか、色々と頭を巡ったけど結局のところ僕の答えはレプリカに聞かれるまでもなく決まっていたことなんだ。
それらを全て背負ってでも、僕はオールマイトのように、最高のヒーローになりたいって。
「身体は見たところ鍛えられているようだけど……何かやっていたのかい?」
『イズクのコレは現実の体とは別の体……いわゆる戦闘体だな。それを作り出しているのだが、現実の体で並大抵のことが出来るようになれば戦闘体ではそれ以上のハイスペック性を獲得出来るということを期待してそれなりには鍛えてある』
オールマイトが僕の体にペタペタと触れながら質問すると、レプリカは僕のトリガーを示しながら答えた。
僕はトリオン体での活動をスムーズに行うために、まずは生身の体を鍛えることに専念していた。
特訓初期の頃はトリオン体でいるよりも生身の体の時の方が多かった気がする。
「これだけ鍛えていれば大丈夫だろう。じゃあ……そうだな」
オールマイトは自分の髪の毛を一本、ブチりと抜くと僕にずいと突き出した。
「食え」
「えっ?」
『個性』の譲渡にはDNAさえとり込めればいい、というわけらしい。
それならポンポン渡してしまえばOFAもねずみ算式に増えていくのではないだろうかと思ったが、そんなこともないようだ。
『私にも一つ貰えないだろうか』
「レプリカ!?」
「おっ、レプリカ君も食べるかい?でも多分何も残ってないよ?」
『私の場合はオールマイトの『個性』の解析をするというわけだから、食べるという表現は当てはまらないかもしれないな』
まあ譲渡したわけだし解析されてもいいか!とオールマイトは吹っ切れたようにレプリカにも同じように髪の毛を一本渡した。
「ただし!!どこにも公表しないようにね!」
『約束しよう』
「そういえばなんでオールマイトは僕にOFAを?まだ受験者の採点とかしてないよね?」
『私の見立てた限りでは、この会場でイズクは一位だが』
「ええ!?そうなの!?」
『最初にちびレプリカを飛ばしておいた。オールマイトが譲渡に踏み切った理由は明らかにイズクは雄英に合格するとわかっているというのも含まれているだろう』
「ちょっと早く来ちゃったね」
『そうだな。カツキの方は何やら騒がしいようだったからな』
現在時刻は7時半。
元々カツキと一緒に行く予定だったが、登校初日というのに親子喧嘩でもしているのか、受話器越しにかなりの怒声が聞こえたので私達は先に行くことにした。ちなみに親子喧嘩は日常茶飯事である。
カツキ父の胃がもたないような気がするので程々にしてあげるのが良いと提案しよう。
UとAが合体したようなロゴの意匠がある巨大な門を通り過ぎると、そこはまるでテーマパークを彷彿とさせる空間だった。
ジンなら「テンション上がるなぁ〜」とでも言うだろうか。いつも通りに揚げせんを食べている姿が容易に想像出来る。
ボーダー本部よりも広大な敷地内を確保しているその最たる理由はやはり学科数だろう。
ヒーロー科を筆頭に普通科、サポート科、経営科と大きく4つに分けられていて、科ごとに専用の施設がある。(ヒーロー科なら模擬演習場、サポート科ならばアイテム作成用の工房など)一日でその全てを目にすることは到底出来ない。
今回は入学初日なので急いで周らなければいけない、なんてことはない。私達の教室周辺の施設を少し見ていく程度に留めておこう。
僕は一階の廊下をペタペタと歩いて色々な教室を眺めていく。特にこの場所は工房のような部屋が多くあり、サポートアイテムが所狭しと並べられている場所もある。
扉が開きっぱなしの部屋が多いのはきっと換気のためなのかな?それとも材料の搬入とか?
「レプリカ、これってどうなってるのかな?」
道端に置かれていたサポートアイテムのような何か(失敗作だろうか?)がたまたま目に付いたので何の気なしに尋ねてみる。
……しかし返事が来ない。
怪訝に思って後ろを振り向くとそこにはレプリカはいなかった。
その代わりに少し離れたところに黒い炊飯器を掲げて走る桃髪の女の子が──
「えっ……ちょ、待ってぇぇぇえ!!」
サポートアイテムを脚部に装着しているのか、思ったよりも足が早い!
頭に見えるゴーグルからしてサポート科だろうけど(ここが工房だらけということも理由に入れるよ)。
まさかレプリカが連れ去られてしまうとは夢にも思わなかった。機械か何かだと思われ──いや、レプリカはトリオン兵じゃないか。もしかしなくても微妙に近しい存在なのかもしれない。
追っていた桃髪が曲がり角に消えた直後、耳を劈くクラッシュ音が聞こえた。
まさかとは思うがあのサポートアイテムは不良品だったり……?カーブが出来ないのは致命的じゃないか!?
一抹の不安を抱えながら自分も角を曲がるとそこには目も当てられない惨状が広がって──
「凄いですねあなた!」
『この程度、お易い御用だ』
──いなかった。
「レプリカ!」
『すまない、イズク。不覚にも連れ去られてしまった』
「いや分かって連れ去られたよね!?」
桃髪の人はレプリカと僕が会話しているにも関わらず、レプリカの背面をみたり耳っぽいところを触ってみたりしている。
最後にマイナスドライバーとペンチを取り出した時はさすがのレプリカもその手から逃げ果せた。
「なっ!ちょっとくらい分解させてもらってもいいじゃないですか!」
『丁重に断ろう。その工具で私は傷つかないとは思うが』
少し怒った様子の彼女をレプリカは軽くあしらい、ふよ〜っと僕の元に戻ったときに初めて桃髪の人は僕を認識した。
ゴーグルのせいで目が見えないが口元はどこか不満げだ。
「……あなたは?」
「え?あ、ぼ、僕は緑谷出久!レプリカの──」
「ホントですかぁぁぁぁぁぁ!?いやー!!すごいですねあなたのベイビーは!!ドッ可愛いどころかもはや見た瞬間卒倒ものですよコレ!!どこに反重力システムを搭載してるのか、人工知能とかさっきの……なんですかアレ!?シールド射出機能なんてどんな手間をかければこのスモォールボディーに収まるのか全く検討がつきませんね!あ!もしかして他にもまだ色んな機能ぶち込んじゃったりしてます!?」
僕は確信した。彼女は自分の好きなもののことになると僕のようになる。マシンガントークになってしまうのだ。
ブツブツと喋る僕とは違いハキハキと言っているところが僕よりは好感が持てるところだろう。
そして僕はまだ「レプリカの」までしか言っていない。脳内補完早過ぎない!?
『私は彼、イズクの個性だ』
「へ、個性?」
レプリカが僕を忠告するときのようにそう彼女を窘める。一瞬顔から感情が消えた後、「イヤイヤイヤ」と彼女が爽やかに笑いながら言った。
「個性なワケないでしょう!!私の目は誤魔化せませんからね!」
確かに彼女のゴーグルは何でも見通せそうだが……。
まさか……個性が『看破』だったりするのか!?
それだとしたら相当まずい。
心を読むタイプのものだったらOFAの存在なんてすぐにバレてしまうし、そうじゃなくとも雄英高校の入学取消なんてことも……。
「ご、ごごごっごめんなさい!!」
何故か僕は謝ってしまっていた。チラと彼女の顔を見やると「あら」と口に手を当てて驚いていたようだった。
「カマかけたつもりだったのに大当たりでしたか」
「えっ」
「ええええええぇえぇぇぇ!!!?」
「アッハッハッハッハッ!!ビックリしましたよーもう」
今私達は雄英高校のサポートアイテム開発用の工房内にいる。
目の前で笑っているのはハツメ メイという少女だ。サポート科に今年から在籍するそうだ。
メイの口八丁で私がイズクの『個性』由来のものではないと看破されてしまったが、彼女からするとソレはどうでもいい事だという。
そんなことより私の構造が気になるらしいのだが……私自身まだ全てを把握しきれているワケではない。そこはメイにも謝罪し、納得してもらった。
とりあえず「レプリカが君の個性じゃないってバラしちゃうぞ☆」という形だけの脅しを受け取った私達は、懇切丁寧にイズクの黒トリガーの機能や私の機能を教えていた。
「成程成程。『印』ですか。これまた合理的で興味深い機能ですね〜!ちなみにさっき私が『スーパー加速君7号機』で事故りそうになったときに使ったのは?」
『アレは
「ほっほ〜う!入学初日だというのに私はこんなにインスピレーション溢れる体験が出来るだなんて〜もう感激ですぅ!!」
パソコンを打ちながら笑い続けるメイは何かそこはかとなく狂気を感じる。そんな彼女にイズクがおずおずと話しかけた。
「あの、発目さんって僕と同じ1年生なんだよね?」
「ええそうですとも!それが?」
「どうして工房を使えてるのかなって」
「あー、それはですね。直談判したんですよ。入試終わった直後に」
「直後に!?」
メイによれば雄英のサポート科に入ることは自身の中では決定事項だったようで、入試終了直後に工房担当のパワーローダー氏に直接「工房使わせて下さい!!」と頼み込んだそうだ。
さすがに初日は「帰れ」と言われて大人しく帰宅したが、次の日の早朝から毎日雄英に来て直談判を続けたそうな。
結局メイの熱意に雄英教師陣は折れ、彼女の採点を急ピッチで終わらせた。
ちなみにテスト結果は基準値を大幅に上回っていた為に直ぐに許可が降りた。
そしてその日から今日まで、1日たりとも休むことなくサポートアイテムの開発に勤しんでいたという。
「凄いよ発目さん!」
「そうでしょうとも!!」
その後メイと私達は始業五分前になるまで話しを続けた。
「連絡手段とかあったりしませんかね!?じゃないと秘密バラしちゃいますよ☆」 とバラすつもりは毛頭もないだろうが脅しをかけてきたので、イズクに許可をとってからちびレプリカを彼女にプレゼントした。
さっそく分解しようとしていたので釘を刺したのは言うまでもない。
僕らは始業ギリギリに1-Aの教室に転がり込むように入った。
何かにぶつかった気がするが気の所為だと思いたい。なんかドアの前で寝袋がモゾモゾしているのは疲れているからだ。きっとそうだ。
「……オイお前」
「ヒィっ!!すみませんでした!」
人でした。
彼はここで怒鳴っても合理性に欠けるな、と呟き寝袋を脱ぎ捨てて教壇に立った。
僕は急いで空いている座席に着く。
もしかしたら、もしかするのか?
「ハイ、君達が静かになるまでかかった時間は八秒だ。光陰矢の如し、合理性に欠くから以後気をつけろ」
もしかしたよ!初日に担任に思いっきりぶつかっちゃったよ!!
内心汗ダラダラになりながら僕は彼の自己紹介を聞いた。
「ここの担任の相澤消太だ、よろしくね。早速で悪いがお前らそれ着てグラウンド集合だ」
相澤先生が示した先──教室の隅っこのほうにダンボールが山ずみになって置かれていた。
側面にデカデカと「体育着」と書かれている。成程、初日から身体測定をするのかと関心する。
相澤先生はいつの間にか寝袋を持って出ていってしまった。
僕は先生と衝突してしまったこともあってみんなが呆然としている中、せっせと体育着を出し始める。
常識的に考えれば始業式などがあって然るべきだが、ここは雄英高校。
いい意味でも悪い意味でも、既存の知識はぶち壊される運命なのだろう。
僕につられてみんなもせかせかと準備をし始めた。とりあえず僕は一番に行って相澤先生に謝らなくては!!
みんながガヤガヤと騒いでるのを他所に、一人演習場へと走った。
発目少女と初日でエンカウントしたのは当方だけのような気がしないでもない。
もしいらっしゃったら申し訳ございません。あなたがNo.1です!