黒い炊飯器と無個性の少年 作:名無しの炊飯器
個性把握テストが終わり、次の日。
イズクは早めに学校へ向かっていた。理由はメイからの呼び出しだ。
小さな私を通してすごく喧しい声で叫ばれたのだ。早朝五時頃に。
普通の人ならば苛立つはずのこの行為にもイズクはどこか思うところがあるらしく、目覚めたら急いで準備を始めた。
早朝五時には学校が空いている……メイはいつから学校にいるのだろうか。もしかしたら泊まりがけでサポートアイテムを作っているのかもしれない。
「どうしたんだろう。何か面白いアイデアでも思いついたのかな?」
「どうだろうな。小さい私を解析していたようだし、何らかのテストという線もありうるかもしれない」
そんな他愛もない話をしながらバスに乗って雄英へ行く。早朝なのもあるのか、バスの中はガラガラだった。
「おはようございます緑谷さん!」
「おはよう、発目さん」
昨日と同じ場所に彼女はいた。クマの深さを見る限り恐らく徹夜コースで頑張っていたのだろう。ドアの奥に見える机には大量のエナジードリンクの空き缶が無造作に転がっている。
学業に支障が出ない範囲で頑張ることを推奨しよう。
「あの後ちびレプリカ先生から色々な情報を聞き出したり、トリガーの設計図を見せてもらったりして完成したのが……こちらですっ!!」
メイが取り出したのはボーダー製のものと遜色ない形をしたトリガーらしきものだ。スキャンした限りではトリオン体に換装する機構はないようだが……。
「と、トリガーを作ったの!?」
「流石の私でもアレは1日2日で構造を理解出来るようなものじゃないですよう!これはスタンガンです!」
メイの説明ではトリオン器官のトリオンを外部に放出するところまでは順調に進んだのだが、それをトリオン体に形作ることがてんで出来なかったらしい。
この体からだだ漏れのトリオンをどうしようか、と考えたところ思いついたのがこれだという。
トリオンを電気に変換する機構を教えたことは小さい私の記録にも残っているが……まさか実用段階にまでこの短時間で達するとは驚きだ。
「私が緑谷さんを呼んだのはこれの被験者を探してたからなんですよね!自分にバチってしても気を失っただけで結果がよく分かんなかったんですよ」
口から低い笑い声を出しながらワキワキとイズクに手伸ばすメイ。イズク、私はこの場からの逃走が今日の授業に影響しない最善手と考えるが──
「レプリカ、逃げるよっ!!」
「了解した」
脱兎の如く工房のドアを蹴飛ばして私達は逃げ出した。
メイは前回の反省点を生かしたのか角を曲がれるサポートアイテムを装着して、滑るような動きでこちらとの距離を詰めてくる。
「トリガー、起動!」
さすがに身の危険を感じ、イズクはトリガーを起動した。この状態でトリオン性の電撃を受けたらどうなるかは分からないが、とりあえず保健室行きになるのは勘弁してもらいたい。
ただでさえ初日遅刻ギリギリだったのに2日連続となればイレイザーヘッドに大目玉を食らうことは間違いなしなのだから。
「にがしませんよぉおおおおお!!!大人しく私の実験に付き合グベッ!!」
メイの声が途中で切れたので私とイズクは恐る恐る振り向いた。
そこにはプロヒーローのパワーローダーがいた。メイの暴走をアイアンクローで止めていたのだ。
ちなみに彼の『個性』の鉤爪はクッション性の何かで包まれているので、メイの顔が目も当てられない状態になることは避けられた。
「明……おれがなんて言ってたか忘れたか……?」
「失敗は成功の母ですよ!パワーローダー先生!あっイタイタイタイイイイイィィイィ!!!!」
鉤爪でアイアンクローされているわけではないからそこまでの痛さはないだろうが……握力が相当強いのだろう。頬肉が変形してしまっている。
「……発目が迷惑かけたな。これはおれの監督者責任だ、すまなかった」
「いえいえいえいえいえ!大丈夫ですよ!その、僕もそういう部分もあったりしますから」
「そう言ってくれるとありがたいな。オラ、発目。片付けしに行くぞ。昨日の夜の爆発を忘れたとは言わせねぇからな」
小さな体に見合わぬ怪力で顔を引っ掴んだままズルズルとメイを引きずっていく。
確かに小さな私の記憶に少し不備が生じていたような……。次からは危険になったら声をかけてあげるとしよう。
メイのことはパワーローダーに任せて、私たちはその場を後にした。
「さて、ここの文法で間違ってんのはどこだ?」
雄英高校は先生までもがプロヒーローだ。皆ヒーロー活動と教育活動を両立することが出来るという確かな手腕の持ち主だ。
しかも今英語の授業をしているプレゼント・マイクは毎週金曜日の『HERO FM』にて深夜1時から早朝5時まで「PresentMICのぷちゃへんざレディオ」という番組をノンストップで放送している。
ノンストップ、ノンストップだ。教師としての仕事を終えた後に5時間もの長時間喋り続けるというのは尊敬に値する。
ちなみに私も後学の為に聴いている。トリオン兵には睡眠の必要ないためコチラもノンストップで聞いているぞ。
まあ授業内容はイズクが初日に渡されたシラバスに記載してあるものと同様のものだ。いつもの雰囲気から感じる破天荒さは見る影もない。
「Hey!シケてんじゃねぇぞリスナー!盛り上がってこうぜー!!」
……たまに"いつも"が出てきてしまうこともあるようだな。
お昼は食堂に行って定食を食べる。
券売機のボタンの数が凄いことになっているが、それは『クックヒーロー』ランチラッシュが顧客のニーズに応えるためだろう。
ここでは学生でもお求めやすいリーズナブルな価格設定の上に和食洋食はもちろん、宗教上の理由やアレルギーなどにも幅広く対応した食事をいただける。そして美味しい。
まさに至れり尽くせり。ボーダーでもここまでの規模ではなかったはずだ。
美味しさと安さを両立させるためには料理への飽くなき探究心とお客様のことを考える心が不可欠だ。
この食堂はひとえに彼の努力の結晶と呼んでも過言ではないだろう。
「わーたーしーがー!!!」
「普通にドアから来た!!!!」
そこまで誇示せずとも分かる。
いや、これは彼なりの始め方だというのは理解しているのだが。
NO.1ヒーローのオールマイトだ。
服装はメディアでよく目にすることがある『
「今日のヒーロー基礎学はお待ちかねの『戦闘訓練』を行うぞ!だけど体育着じゃあそんなハードな訓練には耐えられないよね!というわけで……みんなにはコチラを着てもらおう!!」
ポチッとな、とオールマイトがどこからか取り出したリモコンのスイッチを押した。
すると真空が開放されるような音がして教室の壁がせり出してきたのだ。
どこかのSF映画のような気分もしないではない。
「君たちの要望を反映したコスチューム!!各自着替えが終わったらグラウンド・βに集合だ!!」
HAHAHA!と高らかに笑うとオールマイトはすぐさまドアを開け放って出ていってしまう。
クラスメイト達はおっかなびっくりコスチュームを取り出していた。
よしイズク、私たちも急いで取りに行くとしようか。
出久のコスチュームが思いつかなかったのでこんな中途半端な切り方になってしまったぞ……。オールマイト的要素は入れるとしてどうするか……。