黒い炊飯器と無個性の少年 作:名無しの炊飯器
『イズク、まずは鍛えよう』
「なんで?」
『トリオン体に換装されると身体能力は確かに上昇する。だが元が低いならどうなると思う?』
「さほど上昇しない?というか上手く扱えないのかな」
『そういうことだ』
私はレプリカ。イズクの『個性』として日々を過ごしている。
もう彼は中学一年生になった。
イズクが幼稚園児の時、私のことをかっちゃん、もといカツキ達に説明すると、それはそれは驚かれたものだ。
他の人に黒炊飯器と呼ばれるのも、もう慣れた。
『トリオン体はとても疲れにくい、というか疲れない。そして大半の攻撃を受けても特に支障はない。だが、ずっとその姿のままでいると慢心してしまう』
『換装前に悪路を走破出来るようになれば、トリオン体ではそれ以上の速さで走り抜けられるようになる。慣れっぱなしではいけないということだな』
「今の僕の身体とトリオン体では組成も構成も違うトリオン体の動きは現実の身体に身体能力を上乗せしたような感じだから初めて操作したラジコンみたいに何も出来ないわけじゃないむしろ現実の身体よりも凄い高起動で動けるわけで───」
イズクの悪い……いや、良い癖か?自分の思考を外に垂れ流していることに気づかないのだ。それを諌めるのも私の仕事となっている。
『イズク、心の声がもれ出ているぞ?』
「────ん?あっごめん、レプリカ」
『せめて人前でそれを止められればあんなに奇異の目で見られることもないだろうに……』
現在私達は初めてイズクと邂逅した家の近くの森に来ている。
生身の身体を鍛えることに加えて、トリオン体での出来ることを確認するためだ。
生身での訓練は今日のノルマをこなしたので今からはトリオン体での訓練となる。
「トリガー、
イズクがユーマとさほど変わらないトリオン体に身を包み、私が液体状に体を変えてイズクの片腕に纏わり付く。これで換装は完了だ。
「
イズクが近くの木に向かって印を展開させる。
青い正六角形の中に『錨』の文字が出現。それにくっつくように『射』の文字が書かれた赤丸を中心に三重に円が先に発動したものよりも大きく展開される。
印の中心から光弾が飛び出し木に突き刺さる。光弾がぶつかった所にはまるで鉄杭のようなものがニョキりと顔を出す。
これは
玄界で使用した時はトリオン以外の物体には効力がなかったのだが、この世界ではそれ以外のものにも効果を与えることが出来る。
イズクに与えた黒トリガーのおかげなのか、それとも私の機能にアップデートを施された所為なのかは分からない。
たまにイズクの黒トリガーを調べてみるのだが、内部調査を拒絶する機構が存在しているために難航している。一体誰がこんなものを創造したのだろう。
今後その辺りも解き明かせればいいのだが……。
「レプリカ、どうだった?」
『とりあえずは印に驚いて周りに
「分かった!」
私は
これはボーダー本部の近くに住み着いていたラッドを捕獲して解析した産物だ。
通常のラッドよりも素早さだけが極端に強化されており、攻撃性能は皆無。防御力は
これを五体程放ってイズクに射撃の訓練をさせるのだ。
イズクの学習能力はそこまで高いものではない。が、他の人もびっくりするほど努力家だ。
最初こそ『射』を周りに撒き散らすようなことをしでかしたが、今ではそんなことはない。
それどころか日々自身の考察をし精度を向上し続けている。私も嬉しい限りだ。
少し話は逸れるがここで私の能力の話をしよう。
現在私とイズクが使用可能な『印』はこれらだ。
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ここまでが私が元々持っていたものだ。次にこの世界で新たに入手した『印』だ。
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の二つだ。
『爆』印はイズクの幼馴染のカツキの個性を解析したものだ。イズクがよく彼によって頭をさらにチリチリにさせられていたために、対抗手段として解析させてもらった。
『引』印はイズクの母親のインコさんから頂いたものだ。私をインコさんの個性で少し引っ張ってもらい、その時に発生した現象を解析。印の生成に至った。
今のところはこの二つしか解析が出来ていない。イズクもしくは私自身に直接効果が発揮されないと解析が不可能だからだ。
そして、何故トリガーではないものを解析して印に出来たかというと────
個性はトリオン由来のものだったのだ。
トリオン器官の存在を分かっていることを前提で話を進めよう。
この世界の人々には『個性因子』と呼ばれるものが存在する。これは通常の人体に+して付加されているもの全般を示すものだ。
これを働かせるためにトリオンを使用していることが私の解析で判明した。
あちらとの違いは完全に生身の状態で能力が使える、ということだろうか。
生身で能力を使う為にも、頑丈に身体が発達した形跡も見られる。
中々に興味深い。
イズクは雄英高校ヒーロー科を希望している。彼はオールマイトのようなヒーローになりたいと言っていた。
そこでなら優秀な個性を解析する機会も増えるだろう。
そして彼が目指す強く、優しいヒーローへの足がかりも掴める。
そのための協力を私は惜しまない。
何故?それは私がイズクの個性なのだからな。元の世界……玄界のことは既にイズクに話してある。
ユーマ達が此方に来た場合は私はイズクの元を離れることが決まっている。
いつになるかは分からないが……。
「あぁ……」
トリオン体での活動は現実の肉体に物理的疲労感は与えないが精神的な疲れは拭えない。
イズクが黄昏ているのもそのせいだ。
『イズク、いい調子だ。このままいけば雄英高校の試験も大丈夫だろう』
「ありがと、レプリカ。でも僕、ずっとレプリカに頼りっきりでいいのかな?」
イズクはこちらを向き深刻そうな顔をする。彼は今でも無個性というのは変わりない。個性のフリをする私にずっと頼ってもいいのか、ということだ。
『それを決めるのは私ではない イズク自身だ』
「えっ……?あぁ、そうだよね。ごめん、レプリカ」
『一応言っておこう。イズクが私なしでもその黒トリガーを使えるように訓練してもいい。が、現状私はイズクの元を離れる気はない。今のところは、安心してくれていい』
それを聞くとイズクは安堵の表情を浮かべた。
そしてそのまま地面に大の字になって寝てしまった。
『────疲れていたのだろうな』
私はイズクを
次回はオールマイトとで出会う日まで飛びます。