黒い炊飯器と無個性の少年 作:名無しの炊飯器
あれから色々あったがやっとこさ入試の日まで漕ぎ着けた。
「おいデク!」
「あ、かっちゃん!」
遠くからカツキが声をかけてきた。ふむ、バイタル良好。彼はあまり緊張していないようだな。
「俺が落ちねぇように、お前も落ちねぇ。気張れや」
「!?」 『!?』
まさかカツキの口から人を気遣う言葉が出てくるとは思わなかったぞ……
それだけだ、とカツキは言うと真っ直ぐ試験会場に走って行った。
「あれほんとにかっちゃんだよね」
『ああ、純度100%カツキだ』
「今日は俺のライブへようこそォ!エヴィバディ〜セイヘイ!」
今、イズクと私は筆記試験が終わり、別な会場に移動している。そこではプロヒーローのプレゼント・マイクがノリノリで実技試験の概要を説明していた。
私としては彼がこの説明の場を持つのは不適切なような気がするが……。
「こいつぁシヴィ―――!!!受験生のリスナー諸君!実技試験の概要をざっくりとプレゼンするぜ!!」
「まあ入試要項通りなんだけどな!さすがに予習してきてないリスナーはいないと思うが、この後は『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!」
概要は簡潔にまとめれば「ロボットを行動不能にしろ!」ということだ。
ロボットの攻略難易度によって自分に入る得点が変わるようだが……一つ説明していないのがいるな。
プリントの画像からして確実にイルガーよりもでかいロボットのようだが……。
「質問よろしいでしょうか?」
「OK、どうぞ!」
私たちの少し前の席にいるメガネの少年が手をビシッと上げる。
ふむ、どことなくオサムっぽいような……?
「プリントには四種類の敵が記載されています。ですが現在説明してもらったものは3種類しかありません!
誤記載であれば日本最高峰の恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!」
プリントの写真の欄をビシッと叩きながら彼は言う。
「OK、OK。受験番号7111くん。ナイスなお便りサンキュー!四種目の敵は0P!
そいつはドッスンとかパワークッキーを食う前のパックマンのゴーストみたいな奴だ!つまるところはお邪魔虫!
各会場に一体だけ、所狭しと大暴れする『ギミック』だ!俺個人としては戦わずに逃げることをお勧めするぞ!」
「ありがとうございました!失礼いたしました!」
「じゃあ俺からは以上だ!!それじゃあシメにリスナーへ我が校の『校訓』をプレゼントしよう!」
「かの英雄ナポレオンは言った!『人よ願え! お前たちに不可能は無い!』と!!」
「更に向こうへ!『Pius Ultra!!』それではリスナー諸君よ、よい受難を!!」
なんというか、自由な校風だな。
そんな雰囲気が次世代のヒーローを生み出す原動力なのかもしれないが。
「さて、行くよ。レプリカ」
『了解した』
イズクもプレゼント・マイクの声で頭が冷めたのかカツキ同様バイタル良好。
……プレゼント・マイク、まさか狙っていたのか?
実技試験会場にはイズクの少し前にいたメガネの人がいた。
なるほど、脚に車のマフラーみたいなものが着いているな。
これが彼の個性だろう。さしずめ『エンジン』といったところか。
「トリガー、
イズクは自身の身をトリオン体に換装。
地面に手を触れて、いつでも印を使用出来る姿勢をとる。
「はい、スタート」
なんとも気の抜けた声だったがイズクはそれを逃しはしない。
「
ゲートに突入しようとする受験生達を飛び越えて一気に1番前へ躍り出る。
「
一人で1番前へ躍り出るということはそれ即ち格好の的になるということ。
試験用ロボット達は我先にとイズクに向かって突撃し始めた。
「標的捕捉!!ブッコロス!」
「
群がる敵に黒色の弾丸がぶち当たる。
行動不能にすればいいのなら、わざわざ
イズクの眼前には錘が生えた大量のロボットが行動不能になって転がった。
『次だ、イズク』
「了解!
受験生が戦うためには『個性』を使う必要がある。
その『個性』から発せられるトリオン反応を追って私たちはロボットを殲滅していけばいいわけだ。
────そしてヒーローとしての本業も忘れない。
「
ロボットに押され負けそうな人の後ろから黒色のトリオン弾を飛ばす。
「ヒーローは助け合いだからね!」
「あ、ありがとう!」
包囲されている受験生の周りのロボットを行動不能にしたり、既に怪我をしている受験生を入口まで搬送したりとイズクは中々に精力的に活動していた。
が、ここでお出ましか……!!
「に、逃げろぉぉぉ!!!」
「あんなの勝てっこないだろオイ!!」
試験開始から数分後……ビルの谷間から無機質な緑色の巨人が姿を現す。こいつに自爆特攻などされたら溜まったものでは無いな。この街全体が吹き飛ぶ風景がありありと想像出来る。
他の受験生達は我先にと逃げ出していくが、イズクはビルの上から0Pロボットを眺めて呟いた。
「レプリカ、僕はヒーローとして大切なことは守るために戦うことだと思ってる」
「あのヴィランを放っておけばこの街は他のヴィランが全部いなくなったとしても壊滅的な被害を受ける」
『答えは決まっているのか?』
私の問いへのアンサーはイズクの表情がしっかりと物語っていた。
「うん、もう優柔不断な僕じゃないぞ!」
『その意気だ』
「僕は僕の意思で、ヴィランを倒す」
「
距離はおおよそ100mほど。
あくまでも目的はヴィランの無力化だ。
「
敵と相対するまで残り40m。後は
『イズク、ここだ!』
「ちょっと待ってレプリカ!
なるほど、要救助者の有無を確認するのか。いい心がけだ。
「反応あり!下かっ!」
言うが早いかイズクはビルから飛び降り、『設』印でスパイダーを使いながら慎重に下っていく。
「大丈夫ですか?」
「う、ぐぅっ!……誰?」
バイタルチェック開始……終了。損傷は脚のみ。それ以外は良好か。
『イズク、脚部の軽い傷を確認。ゆっくり瓦礫を撤去することを推奨する』
「了解!
インコさんから入手したものがここで役に立ったか。
実は人の個性から入手した印はその人の個性の強さに依存する。
インコさんの個性はあまり強力なものではないために四重も重ねがけしなければいけないのだ。
丁寧に瓦礫を退かした後、イズクは彼女を抱えてにその場から離れる。
0Pヴィランから30mほど離れたところで彼女を下ろし、踵を返して0Pに向かおうとしたが────
「待って!君はアレと戦う気なの!?無茶だよ!」
確かにはたから見たら無茶だ。今の年代の子ども達でこのロボットに太刀打ちできるような個性を持った者は片手で数える程しかいないだろう。
……私に指はないが。
「君が無茶と思っても、僕はやるよ。僕がそうするべきと思っているから!レプリカ、ちびレプリカを出しておいて」
イズクは彼女も返答も聞かずに駆け出した。私はちびレプリカを生成して彼女の近くに待機させる。
『君が彼を心配して言ってくれたのは分かる。だが、彼はわざわざ無謀なことに挑むような人間ではない』
「あ、あなたは?」
「私か?私はレプリカ。彼の個性だ」
「
黒の猛威が鉄巨人に襲いかかる。着弾箇所から次々に錘を生成していくが……
『全く止まる気配がないな』
「ほんとだね。さすが雄英」
プランB、があるわけではないがイズクは冷静だった。もとよりイルガーよりも巨大なロボットにはあまり効くことはないと私は踏んでいた。イズクも同様だ。
「これならどうだ!」
イズクは『攻・狙・銃』の印を展開して『銃』を選択。
『撃』の文字が表示され、ボーダー製トリガーの「メテオラ」の文字がその場に表示される。
「メテオラぁ!!」
両手にイズクの身長の半分程度の大きさの球体型エネルギー弾が現れる。
私から小さい私を出すように、球体から小サイズの球体を射出。小球体はイズクの操作で流れるように巨大ロボットに向かっていく。
狙いは勿論━━━━
「駆動部!」
イズクはロボットの中でも関節部分に狙いを定めた。本来ならば指揮系統の回路を叩くべきだが、ご丁寧にロボのヘッドの部分にあるとは考えにくい。
ならば、と行動を制限するために駆動部を選んだのだ。
「あれがアイツの『個性』か!?」
「万能過ぎない!?強化に射撃にジャンプって……」
他の受験者たちの声が聞こえてくる。確かに通常の個性と比べれば私は少々多目的かもしれないな。
「終〜〜了〜ぅ!!」
試験時間の最後までメテオラを受け続けた0Pヴィランは終了の合図と共に黒煙を登らせその機能を停止した。
イズクはトリオン体から通常の体へ換装し、コンクリートの上に突っ伏してしまった。
計測してみればイズクのトリオン残量は既に2割を切っている。これは精神的疲労も多大なものだろう。
意識は……あるな。だが脳疲労が尋常じゃないため状況把握どころではないだろう。
イズクが倒れたことを心配したのか先程助けた少女がこちらに駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫!?」
『大丈夫だ、まあエネルギー切れのようなものだと思って欲しい』
私はちびレプリカを回収。その後イズクをどう運ぼうかと考えていると「ペッツをお食べ〜」と声が聞こえてくる。
そちらを向けば白衣を着た小柄なお婆さんがこちらにゆっくりと向かってきた。
「君は怪我を……してないね。どうしたんだい?ストレスかい?」
『彼は個性を使う度にトリオン……エネルギーを消費するのだ。現在のエネルギー残量は既に2割を切っている』
「おや、君は……」
『申し遅れた、私は彼……イズクの個性。名をレプリカと言う』
「レプリカ……なるほど、言い得て妙だねぇ。彼はそのままでも大丈夫なのかい?エネルギーの消費とか言ってたけど、栄養素ってわけではないんだろう?」
『そうだ。だからリカバリーガールの治癒力の活性化ではどうすることも出来ないだろう』
「物知りだねぇ。私の個性じゃどうにもならないかもしれないけど、一応検査はさせてもらうよ。そこの子も来なさい、脚の手当くらいならチャチャッとしてあげるよ」
『了解した』 「は、はいっ!」
私たちは救護ロボットにイズクを預けてリカバリーガールと共に保健室へ向かった。