青春の探し方   作:しまばら

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やられたらやり返すな

「という事で、僕はいろんな人に聞いて回りたいと思うんだ」

 

 放課後の教室で僕とボンチは相対していた。朝の一件があってから僕はボンチを親の敵のように恨んでいたが、根に持つ男はモテないと内藤先生から教わったので特になにも手は出していない。ただボンチの下駄箱に泥団子を10程置いてきただけで断じて仕返しなどしていない。泥団子は僕からボンチへの日ごろのお礼だ。味わって食べろよ。

 

「なるほど、確かに俺たちの凝り固まった頭ではいい案が出るのは難しいかもしれんな。俺も聞いて回るとするか」

 

 僕は今ボンチに内藤先生で試した「自分だったらどんな部活を作るのか」という質問をいろんな人に聞いて回ろうと提案している。ボンチの受けはいいのでこの作戦で明日から動いていけるだろう。

 

「ああそう言えば、どの部活を作るのかも問題なんだが、もういくつか問題があった。創部するには部員が5人以上、それと活動場所と顧問の先生の確保も行わないといけないらしい」

 

「え、じゃあ部活作れないじゃん」

 

「いや、活動場所は既に当たりをつけてある。顧問は俺にあてがあるからいいとして部員だが、部活の案を聞いて回るついでに部員の勧誘も合わせて行うぞ」

 

「お、なんだか行けそうな気がしてきたよ。さすがボンチ!」

 

 よし、それじゃあ方針も決まったし図書室に本を返してから家に帰るか!

 

「じゃあまた明日!」

 

 僕はそう言うと廊下を駆け抜ける。途中先生に注意されたが僕は止まらなかった。よく父さんに「男に生まれたからにはブレーキに頼るな。アクセルだけ踏んで生きていけ!」と言われていたので、僕のブレーキは6歳の時に廃品回収に出してしまったのだ。

 

「やっふぅぅぅうぅぅぅぅう!」

 

 茜色の夕日を顔半分に受けながら僕は図書室へと一直線に駆けて行った。その様子はまるで韋駄天であった。どうでもいいが高校に入るまで韋駄天を天ぷらの一種だと思っていた。響きが芋天と一緒だからだ。仕方ないよね。

 

 図書室に近づいたのでスペアのブレーキを踏んで走るのを止める。乱れた息を抑え居住まいを正すと扉を開いた。

 

 中には数人の生徒とカウンターに図書委員らしき人物がいるだけだ。

 

 さて、カウンターで返却を済ますか。

 

「へい、そこのメガネの彼女。この本を返却したい」

 

 先ほどまでの走っていたテンションで声をかけてしまったため少し変な声のかけ方をしてしまったようだ。そのためか、呼ばれた女性はギョッとした表情をした後こちらを伺うように覗き込んでいた。

 

 顔をじろじろ見られるのはあまり好きではないので手早くカウンターに本を置くと立ち去ろうとする。が、そんな僕の背に声が掛けられた。

 

「あの……この本は多分返却出来ないと思います」

 

 声をかけたのはどうやら図書委員の女子のようだ。しかし、本が返却出来ないとはどういうことだろう。

 

 目をカウンターの方に向けると、そこには派手な下着に身を包んだ妙齢の夫人が記されている本が佇んでいた。

 

 これは多分エロ本だ。今朝河川敷で拾ったエロ本だ。

 

 そうか、つまり僕は借りた本を返却しようとして今朝拾ったエロ本を出してしまったと言うことか。やっちまったぜ!これはピンチだ。今後の対応を間違えたら僕の学校での評判はゴキブリの並みに低くなるのは避けられない。なんとか穏便に済ます方法はないものか。

 

 ん?図書委員の女子の様子がおかしいな。これは…食い入るようにエロ本を見ているではないか。ふむ、多感な時期の娘には刺激が強すぎたと言うことか。いや、待てよ。この本をダシにして事実を隠蔽すればこの場を乗り切れるのではないか?

 

「いやぁ、ごめん!つい間違って僕のバイブルをだしちゃったよ。ところで随分熱心に見ているけど、この本に興味があるのかな?」

 

「いや!え…その……」

 

 よし、あともう一押しだ!

 

「まあこの本の事を秘密にしてくれるというのなら、貸してあげないこともないかな。どうする?」

 

「え、いや。でも、」

 

「はい決定!その本は君に譲るよ。だからついさっきまで起こったことは僕たち二人だけの秘密だ。その本を僕が渡したと言うことも、君が受け取ったと言うことも、全部秘密ね」

 

 よし、なんとか誤魔化せたな。

 

 彼女はいまだ呆然といたが、僕は会釈をしてから図書室の扉をくぐった。危機を潜り抜けた後の言いようのない胸の高鳴りが心中で響いていたが、無視して下駄箱に歩みを進める。なんというか青春であった。

 

 よく高校生にかかれば失敗の1ページさえも青春に取って代わるだろうと聞くが、その理由がいまわかった気がする。

 

 ああ、綺麗な夕日だ。今ならこの景色を何時間でも見てられるだろう。

 

 校舎に沈みゆく夕日を燦然たる気持ちで見ていると、そこに黒い物体が飛び込んできた。と言うか顔にぶつかってきた。

 

 それはまるで泥のようなもので僕の顔に不快感を与えている。ん?泥?

 

 汚れを払って物体の飛んできた方を見ると、そこには先ほど別れたはずのボンチがいた。しかも片手に泥団子を持っていた。

 

 ああ、僕がボンチのために握った奴か。確か10個程握ったっけ。

 

 僕がそう物思いにはせているとボンチが大きく振りかぶった。

 

 放課後の校舎に茜色の夕日、加えて高速飛翔する泥団子。どうしてこうなったのかと思考を回したのと泥団子が僕の頭に着地したのは、ほぼ同一であった。

 

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