ある日、俺の担当アイドル・高垣楓が深刻そうな顔をしてやって来た。
楓「......あの、プロデューサー。折り入って相談があるんです」
楓P「それは、大事なことですか......?」
楓「はい、とても大事な......私の人生がかかったことで...。」
楓P「楓さんの人生がかかったこと?」
高垣楓の人生がかかってるということはよほど深刻な悩みなのだろう。
楓「実は......少しだけ、アイドルをお休みさせてもらいたいんです」
楓P「な...なにか仕事に不満でも!?」
楓「いえ、お仕事に不満なんてありませんよ。毎日充実しています」
楓P「それではなぜ?」
突然アイドルをお休みさせてもらいたいと聞いたときは仕事に不満でもあるのかと思ったがそうではないみたいだった。
楓「けれど、どうしても外せない......ううん、外したくない重要なことがあるんです。ごめんなさい......私、わがままな女ですよね」
楓P「いえ...そんなことはないですが、でも、その外せない重要なこととはなんですか?」
楓「知ってますか?もうすぐ開かれる、七日間連続のビールフェスティバル......。私、高垣楓は、どうしてもそれに毎日参加したいんです」
楓P「は?」
俺は一瞬、頭が真っ白になった。なにか深刻な悩みとばかり思っていたのでビールフェスティバルに参加したいと言われたときは拍子抜けしてしまった。
楓「ふふっ。アイドルをお休みというのは、そういうことですよ。一週間連続のオフだなんて、スケジュール調整が大変ですものね」
楓P「まぁ......そうですね」
楓「だからここ最近、お酒をなるべく我慢して、どんどん仕事をこなすようにしていたんですよ。......それで......いかがでしょうか?」
どうりで最近、楓さんからの誘いがなかったのはそのためだったのか。大好きなお酒を我慢して仕事をこなしていた楓さんにご褒美としてOKしておくか。
楓P「わかりました...OKですよ」
楓「OKですか?ありがとうございます、プロデューサー。私...幸せです。このオフでビールを飲んで、羽根がのびーる気分を味わってきます」
楓P「はい...しっかり味わってきてくださいね♪」
そしてビールフェスティバル当日、俺は楓さんと一緒に会場へ到着し、席についていた。
楓「乾杯っ。ふふっ、ドイツビールのお祭りですし、あちらの流儀でしましょうか。オアンス、ツヴォア、ドライ、ズッファ!プロースト!ふふっ」
ドイツの流儀で乾杯した後、楓さんは喉を鳴らしながらおいしそうにビールを飲んだ。
楓「......はぁ、美味しい。やっぱり来てよかった......。たくさんのひとが、笑顔でビールを楽しんでいる空間......幸せそのものですね」
楓P「はい...そうですね......」
楓「でも、いいんですか、プロデューサー。お忙しいのに、つきあっていただいて......」
楓P「えぇ、構いませんよ...ちゃんとそこらへんは調整していますし、それに私も、ビールは好きですし...」
実はこのことで楓プロデューサーはちひろさんと常務にみっちり叱られたのである。なので楓は気付いていないが楓プロデューサーは若干テンションが低いのである。
楓「私、今日は容赦なく、とことん飲む覚悟ですよ」
楓P「あはは、いつだってとことん楽しんでいるじゃないですか」
楓「うふふっ、確かにいつだってとことん楽しんでいますけど。いまさら、断りを入れる仲でもないですね。それじゃあ、遠慮なく♪」
楓P「えぇ、どうぞどうぞ♪」
楓「金色、茶色、琥珀色。淡い白に、深い黒。ビールって、色とりどりで、それぞれに個性的。そして、アイドルのように人の心を慰めて......」
楓「プロデューサーが仕込む理想のビールは、どんな味がするんでしょうね。私も、少しでもその理想に近づけたら......けど、今は未来の味よりも、目の前にあるビールとおつまみを味わうときですね」
楓P「はい♪そうですね♪」
楓「ふたりで最高のひとときを過ごしましょう」