入学当日。自己紹介を済ました一同。
男子一名と、女子三十名。正確には男子一名と女子二十九名と元男子一名であるが、当の本人たちにはどうでもよいことである。おそらく事実を知っているものも、少ない。何せ織斑一夏という世界唯一の男性操縦者の話題が大きすぎて、男性から女性になってしまった操縦者がいるというニュース自体、あまり話題にならなかったからだ。仮に知っていてもまさか自分のクラスにはおるまいとは思ってもいないはずなのだ。
なので、織斑一夏のすぐ隣の席に座っているすらりとした肢体を持つ燃えるような赤毛のロングヘアの女性が、まさかその元男性であるなどとは思いもよらない。
女子は、制服のスカートを短くしたがるものだ。制服の改造が黙認されているIS学園においても、同じ傾向が認められる。
その女子もとい元男子は、スカートが地面につくのではという限界を狙っていた。背丈が高く、ピアスまでしていることもあり『スケバン』という太古の大昔に生息していた種族を彷彿とさせる。
ただし態度は腹痛でも我慢しているようなもので、隣の席に座っている一夏と無言で顔を合わせては首を振ってみたり、前を見たりと忙しい。
自己紹介の後はブリュンヒルデこと織斑千冬が一夏の脳細胞をクリップボードで数万単位死に追いやったりとあったが、無事完了した。
一時間目のIS基礎理論授業後のこと。なかなか声をかけられない女性陣(こう書くと一夏以外全員ということになるが)をよそに、約一名がスッと腰を上げた。
「一夏、ちょっとツラ貸してくれや」
「おう」
「ちょっ………ぐぅぅぅ!」
ほぼ同時に篠ノ之箒が一夏に声をかけようとしたが、しくじった。二人はまるで示し合わせたようにすばやく教室を後にしていったからだ。
(あの女………一体誰なのだ!? 一夏に限って私を置いて女を作ったなどと……な、なにを考えているのだ私はッ!? とにかく追いかけなくては!)
およそ六年間は顔を合わせていなかったせいで忘れられているのではないか。そんな不安を胸に、箒は二人の後を追いかけた。
と言っても、追いかけるにしては限度がある。なぜなら二人は教室外の廊下窓から上半身を出して外を見ながら会話をしているからだ。まさか背後につくわけにもいかず、その他大勢の女子がそうであるように、それとなく距離を置いて聞き耳を立てるしかない。
「そのダンじゃなくてハズミってのは………」
「ん。お偉いさん方にそう名乗るように言われてな……格好がつかんだろってことらしいぜ。お前は今までとおりダンでいい」
「まさかと思ったがなんで入学してるんだよ」
「学費完全免除に惹かれた! っていいたいけどありゃあ半分強制だぜ。断ったら黒服に拉致されそうな雰囲気かもし出されたらノウとは言えんわな」
「はぁ~……苦労してんなあ」
「俺のことはいい。お前どうなんこれから」
「?」
「女の子ばっかじゃんここ。俺も男ならなァ………いややっぱやめとくわ。息が詰まりそう」
「弾も女じゃんか……」
「…………そういやそうだった。あぁぁぁぁぁぁ!」
「いいから落ち着け!」
パコーン! パコーン! と二連攻撃が炸裂し、バカ二人組みは頭を抱えて蹲る羽目になった。
「とっとと席に付け。予鈴のチャイムは鳴り終わってるぞ」
鬼神織斑降臨す。
二名はサッと敬礼をした。
「サーイエッサー!」
「サーイエッサー!」
「誰がサーだ、馬鹿者が」
パコーン! パコーン! 打撃音が増えた。
「であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合には、刑法によって罰せられ――」
馬耳東風。馬の耳に念仏。馬と鹿が同居する頭の出来の一名にとってそれはとてもとてもつらい内容の授業だった。
「はー」
まさかゲームが役に立つ日が来るとは思わなかったと弾は教科書をペラペラと捲っていた。法律や計算式はともかく軍事的な用語に関しては一応理解できたのだ。それ以外は意味不明だった。マン・マシン・インターフェースを使用しているISなので、戦闘機のように機器類の表示を読み取って適切なアクションをしないといけないことはないだろう。きっと。
希望的観測を並べつつも横の席の幼馴染を見てみようとすると、視線が合った。
「なあ」
「ん?」
弾は一夏が声をかけてきたので、ノートの端っこに書いていたオリジナル曲の草案を一時的に切り上げることにした。
「わかるか、これ?」
「日本語で書いてあるってことはわかんな」
二人そろってちんぷんかんぷんである、ということがわかったあたりで山田先生が声をかけた。
「織斑くん、なにかわからないところがありますか?」
「あ、えっと………」
「わからないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生ですから」
訊いてもいいらしい。ならば訊いておこうではないか。
一夏は胸を張る山田に元気よく手を上げて質問してみることにした。
「はい、織斑くん!」
若さと、希望に満ち溢れた顔で山田は挙手に反応し、指した。この顔を織斑一夏は歪ませたくなかったが、しかし、聞いておかねばこの先苦労することは拙い灰色の頭脳でも瞬時に理解できた。
「ほとんど全部わかりません」
「え……ぜ、全部ですか?」
引きつった顔で受け答えをする山田。一夏は、希望が打ち砕かれてしまったことを感じたが、まだ希望は残されていると信じていた。何せ横に自分と同レベルの男(女だが)がいることを知っていたからだった。
「え、えっと、織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
誰も手を挙げない。弾も挙げない。まっさらなノートに何か歌詞のようなものを書きつつそっぽを向いている。
(この裏切り者~~~!!)
「………フッ」
弾は肩をいからせる一夏に対し口元を緩めてみせた。
わかれ
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