人であふれた華やかなネオン街、笑い声、怒鳴り声が飛び交い、音が止まない街、
男はそんな中を会社の同僚とへべれけになりながら歩いていた。
「なかちゃああああああああああああん!!どこだああああああああああ!!??」
唐突にポストに向かって一人の男が叫び始めた。
周囲は彼らに注目し始めた。
「せんぱあああああああいいいい!??飲みすぎっすよぉぉおおおお!!!???俺はここにイマアアアアス!」
もう一人の男はそう叫びながら酒瓶を片手に肩を組むように電柱になだれ込む。
ポストに叫んでいる男は電柱に寄りかかっている男の先輩なのだろうか、
周囲はただ酔っ払いが騒いでるだけと、向かっている方向に歩みを進みを戻す。
そんな電柱を先輩と間違えてる男、中本 学は、先輩社員の昇進祝いの帰りだった。
会社に入り、ずっと彼の元で仕事を教わっていた学は、4件ほど居酒屋に付き合い、
そのため終電はとうになくなっている。
今まで一緒にいたはずの会社の人たちは帰ったのだろうか、皆、気づい時にはいなくなっていた。
ポストに叫ぶ男と電柱にもたれかかる男らは明日の始発で帰るしか術はない。
そんな中、一台のタクシーが先輩社員のそばに止まり、先輩は乗り込んでいった。
「なかちゃあああああああああんんん!!!!俺これでかえっからぁああああああ!!!」
「せんぱあああああああああああいいいい!!!!おれものっけてってくださああああああああああ!」
タクシーの後部座席に倒れ込むかのように先輩であろう男は乗り込み、そのままタクシーは出発してしまった。
「あの糞野郎ォォォオオオオ!!休み明け覚えてろよこのカスがぁぁぁぁあああああ!!!」
電柱にもたれかかったまま学はそう叫んだ。
しかし家に帰る術がない。そのうえ、酔いのためか非常に強い眠気が襲っている。
ここで寝るわけにはいかないと、べろんべろんになってもまだ考えることができた彼は、
どこかホテルかネットカフェを探し始めるため街の中を歩み進み始める。
「なんだぁ……?」
突如、学の目の前に白く輝く大きな鏡が現れた。
(あぁ……終電じゃねぇか!!早く乗り込まなきゃなぁ!!!)
学は迷うことなく光へ飛び込んでいった。
どんっ!と耳をつんざく爆発音。まるで花火の煙玉のように広がる土煙。
あたりが見えない中、学はただ、呆然と立ち尽くしたままだった。
「あんた、誰よ?」
土煙が消えたころ、視界が晴れ、周りに人がいることがわかった。
その中に唐突に聞こえた声は、幼い少女の声だった。
ここはハルケギニア大陸の一角、トリステイン王国の魔法学院
ここではある行事が行われていた。
「春の使い魔召喚の儀」
学院に通う「メイジ」と呼ばれる彼らは、2年生に上がる際、一生を連れ添うパートナーである使い魔を召喚する。
いわば進級テストのようなもの。
──おぉ!キュルケがサラマンダーを召喚したぞ!!
タバサは風竜を召喚したわ!──
──使い魔は召喚者の実力によって変わる──
儀式は順調に進んだ、かのように思えたが、使い魔を召喚できていないものが一人残っていた。
「おいルイズ!早く召喚しろよ!」
「お前は召喚すらまともにできないのか!」
「さすがはゼロのルイズといったとこだね!ネズミくらい召喚したらどうだい!?」
ゼロのルイズと呼ばれた少女は焦っていた。
彼女はいままで「メイジ」でありながらも、一回も魔法に成功したことがなかった。
このままでは家の名に恥をかけるであろうこと。
大好きな姉に向ける顔がなくなってしまうこと。
様々なことを考えながら、目の前にある召喚の儀に集中していた。
しかし、いくら召喚の魔法を唱えても起きるのは爆発のみ、
同級生からの罵声、彼女はさらに焦り始める。
「ミス・ヴァリエール」
彼女の背後から教師、ジャン・コルベールが声をかけた。
「そろそろ時間が迫っております。今日はこれくらいにし、また機会を設け」
「ミ、ミスタ・コルベール!お願いします!あと、あと一回だけ召喚させてください!」
彼女、ルイズはコルベールの言葉を遮り、叫びながら頭を下げて頼んだ。
コルベールの言う機会とは、またいつでも行えばいいという意味だったが、
焦燥感にかられたていたルイズにとってはもはや最後通牒にしか聞こえていなかった。
「……わかりました。ですが、今日はこれが最後ですぞ、ミス・ヴァリエール。肩の力を抜き、思うままに唱えてください。」
「はい!ありがとうございます!」
ルイズは深呼吸をし、自分にとっての最後のチャンスを無駄にしないよう集中した。
──私のとってこれが最後のチャンス、失敗はできない!
今までにない、決して散漫させていたわけではない集中力をさらに高める。
もう、失敗はできない。震えた指先で呪文を唱える。
──神様、どうか私に、召喚させてください──
「宇宙の果ての何処かにいる私の僕よ。神聖で! 美しく! そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 」
「わが導きに……答えなさい!」
再度、爆炎が巻き起こる。
「また、だめだった……」
「おい!また爆発じゃないか!」
「もう諦めたらどうだ!?」
ルイズは諦めたように膝をつき、こうべをたれた。
周りの生徒も再びひどい言葉を投げかける。
しかし、コルベールは爆発の中に人影をみた。。
爆発の直後、煙の中にナニカがいることを彼の眼は見逃さなかった。
「ミス・ヴァリエール!なにかが召喚されました!」
「えっ!?」
コルベールの言葉に驚き、心が躍りながらも、爆炎の中を見つめた。
ほのかに酒精を感じつつも、しばらくして土煙が晴れて行くごとに明かされた召喚されたモノ
それは、瓶を片手に呆けていた一人の男であった。
男はただ周りを眺めていた。
手に持っているものは酒瓶か、男は酒に酔っているようであった。
「あんた、誰よ?」
そこにいた、神聖でも、美しくもなさそうな男を見て、思わず口から出た言葉がそれである。
「見ろ!ルイズが酔っ払いを召喚したぞ!」
「さすがはゼロのルイズ!召喚したのはただの酔っ払いの平民だ!」
召喚に成功したにも関わらず、ルイズは茫然とした表情で男を見ていた。
ネズミどころか平民を、それもこんな時間から酒を飲んでいるような男を召喚したのか、
なぜ、こうもうまくいかないのか、己の人生を悔やみながら、男を見ていた。
しかし、周囲の生徒は笑い、罵っていると、その男は叫んだ。
「誰よも何も俺は中本様だぁああああああ!!!!お嬢ちゃん達こそだれだよ!!!!???
こんな酔っ払いに絡んだってなああああんにも得にしねええぞおおおお????
こんな時間に非行かぁぁぁぁああああ!?早くお家に帰ってクソして風呂入って寝ろやあああああああ!!!!!」
ルイズと、周囲の生徒には十分に聞こえるほど非常に大きな声を上げ、学は答えた。
その咆哮ともとれるほどの大きな声に生徒たちはすくみ上り、しかしすぐに平静を取り戻した。
「キミ!酒に溺れているとはいえ、その口調はどうなんだい?
このマントをよく見たまえ、キミは今貴族を相手に……」
ある生徒は、平民が酒に酔っているとはいえ、貴族に強い口調で叫んでいるのが気に食わなかった。
そのため、一人の生徒が注意しようと前に出たが、コルベールが遮った。
生徒よりも酔っぱらいの人間の扱いに慣れているため、下手に刺激をあたえるより、
冷静に状況を伝えるべきだと思ったからだ。
「ミスタ、私はこのトリステイン学院の教師を務めるジャン・コルベー……」
「おぉぉぉ!!!課長!!!!さっきぶりですねえ!!!!!さっきより髪の毛薄くなったんじゃないですかぁ!!!!???」
更に大きな声でコルベールに対し、そう言い放った。
その言葉ははほかの生徒にも聞こえ、生徒全員が声を上げて笑い始めた。
「……ミス・ヴァリエール、次の儀へ進んでください」
「えっ!?」
どうしたらいいか戸惑っていたルイズは、コルベールの一言でさらに戸惑ってしまった。
「でもこれ、人間ですよ!?、も、もう一度!召喚させてください!」
酔っ払いが使い魔であるということを認めたくないルイズは必死にコルベールに再度、召喚を行うことを求めた。
「ミス・ヴァリエール、これは神聖な儀式です。貴女もそれは分かっているはずです」
「でも!」
それでも平民の、こんなだらしない男を使い魔と認めたくないルイズは必死に弁明した。
「でももへちまもありません。これは決まりです」
「うぅ……」
「おいルイズ!早く終わらせろよ!」
「いつまで待たせるんだよ!ゼロのルイズ!」
しびれを切らした生徒たちがルイズへ投げかける。
「う、うるさいわね!すぐ終わらせるから黙ってなさい!」
「お前がうるせえんだよおおおおお!!!!!!!」
「あんたが一番うるさいのよ!!!」
「ミス・ヴァリエール!契約の儀を済ましなさい!」
ルイズは怒りに顔を真っ赤にし、そう叫んだ。
生徒たちに注意するよりも早く、ルイズが反応したため、コルベールはそのまま儀式を続けることを催促した。
自分の発言に後悔し、ルイズは覚悟を決めた。
「勘違いしないでよね。これはあくまで使い魔としての契約だから。本来なら貴族にこんなことされるなんて、一生ないんだから」
「契約ゥ!!??……一度弊社の営業と確認しますのでぇ!!!本件は預からせていただきますぅ!!!!!」
学は頭と舌が回らないながらも、打ち合わせのテンプレートを唱えた。
しかしルイズはそれを無視して契約の儀を唱えた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
ルイズは呪文を唱えると、男の顔に両手を添え、ゆっくりと唇を近づける。
先ほどとは違った感情で顔が紅潮していく。
平民の顔が近づくにつれ、酒の匂いが強いことに気付き顔をしかめた。
「やめろおおおおおお!!!!俺は好きでもない女とキスはできねええんだああああああああああ!!!!」
「うるっさいわね!私だって好きでもない男とキスなんてしたくないわよ!!!」
学の叫びを遮り、そのまま勢いに任せ、ルイズは平民、中本 学と契約を済ませた。
暴れる中本をコルベールが押さえつけながらも、無事、契約は終了した。
「お、終わりましたっ……!」
「サモン・サーヴァントは何度も失敗しましたが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできましたね……」
「うおおおおおおおおおお!!!!!!話せええええええええ!!!!未成年保護法には引っかからないぞおおおおおおおおおお!!!!!」
二人は疲労困憊になりながらも、なんとかコントラクト・サーヴァントを終えた。
「あああああああああづうううううううううういいいいいいい!!!!!」
先ほどからうるさい男がさらにうるさく叫んだため、何事かと振り返ったところ、
男の左手に使い魔のルーンが浮かび上がるのを発見した。
「ミス・ヴァリエール、よくやりましたね。人間が使い魔というのは私も聞いたことがありませんが、良きパートナーとなることを祈ります。
しかし、珍しいルーンですね……少しスケッチを……と思いましたが、暴れまわってうるさいので後でもう一度確認しましょう」
コルベールは平民の左手の甲に使い魔のルーンが浮かび上がるのを見届けると、
珍しい紋様だと思いながらも一先ず最後まで粘った生徒へ労いの言葉をかけた。
しばらく暴れのたうちまわった学は、酒のせいか、疲れ果てそのまま眠ってしまった。
「な、なんなのよぉ~!もう~!!」
「ひ、ひとまず学院へ戻りましょうか……」
何人か生徒を呼び、眠った男を浮遊の魔法で浮かび運ばせ、学院へと戻っていった。