サイコロの黄昏 ~あるいは、黄昏時の神々~ 作:うみねこ06
地母神様に落ち着きがないのを、《幻想》はぼんやりと眺めていました。あまり好ましくない理由ではあるのですが、気持ちはよくわかるので、すっかり面倒見がよくなっている《死》に任せて放任です。
「クリティカル、クリティカル、クリティカル……」
横からくる圧力に汗をかきながら、《死》が骰子を一投。ころころと転がった2d6は、
《幻想》が微笑ましいものを見るように微笑み、それから地母神さまと《死》の視線の先に目を向けます。そこには、祈りをささげる女神官がおりました。そう、彼女は新しい奇跡を授かりに神殿に出向いていたのです。うれしそうな地母神さまが神界できゃっきゃと声をあげているのはそういう理由でした。
新しい奇跡、どうなったのー?と《幻想》が尋ねます。《
「守り、癒し、救え。あの娘、本当にそればかり考えてましたから」
対象があの方なのが玉に瑕ですが、と言いつつも、地母神さまはここぞとばかりに女神官の頭を撫でます。位階も何もかもが足りていない女神官はそれを感じ取ることなどできませんが、地母神さまはそれでも頭を優しく撫でてやりました。
その思いが通じたというのは、些か以上に夢想的でしょうか? けれども、きり、と決意を新たにした女神官は、地母神に感謝と信仰をささげ、神官長に御礼を伝えると、足早にギルドへと向かいました。恩人に、新たな奇跡を授かったことを伝えねばなりません。
地母神さまはそんな健気な信徒を目で追いかけ、はたと《幻想》に気づくと居心地悪そうに身じろぎしました。いいよいいよ、と《幻想》。本当に、その気持ちはよくわかるのです。米つきバッタのように何度も頭を上げ下げしてから、《死》に促されて地母神さまがギルドの方へと向かいました。女神官が、あの健気で心優しい信徒が、新たな奇跡をどう使ってくれるのか。地母神さまの期待は高まるばかりでした。
ネタバレ:あとで膝抱えて落ち込みます。
閑話休題。
さて、絶対公平な光と秩序と宿命の神々と、闇と混沌と偶然の神々ですが、骰子の出目に逆らわない大前提を守れるならば、お気に入りの子というのが当然いるわけです。まぁ、そうでなければ、
地母神さまのそれが女神官であれば、《幻想》にだってそういう駒の一人や二人は存在します。ひとしきり本日の駒たちの愛らしき冒険譚を見やってから、《幻想》は最近注目している少女のもとへと向かいます。誰かと言えば
別に、気に入った理由に深い意味はありません。《幻想》、これでいて子供っぽいところがありますので、単に弓使いにシンパシーを感じただけなのです。が、深い理由などなくとも気に入れるのが情というものなのです。そして、きっかけがどんなに些細なことでも、実際に彼女を知り、彼女の内面を見て、そうしてなにより実際に骰子を振ってやれば、愛おしく思えないという方がきっとおかしな話なのです。もはや《幻想》にとって、冒険を楽しむ妖精弓手は見ていてとても好ましい存在なのでした。
え、ゴブリンスレイヤーも弓は使う? 彼は、その、まぁ、あの、ええとですね、物事は必ずしも首尾一貫していないというか、感情に論理性は必要ないというか、あれなので、例外でした。はい。
ともかく。《幻想》が妖精弓手を眺めていると、なにやら森人の使いと話し込んでいる様子。んん?と《幻想》が首をかしげます。つい先ほどまで、気ままに冒険を続けていた彼女、少なくとも順当にいけば、使いなんて受ける理由がありません。なんぞ、あったのでしょうか? そうですそのとおり、ありましたとも!
と現れたのは《真実》でした。なにやらふんぞり返っております。あ、良くなったんだね、ぐっすりだったもんねと《幻想》。ふて寝なんかしてないやい、との反論もどこ吹く風で妖精弓手の会話に耳をそばだてます。なにやら、ゴブリン退治のお話らしいです。
ふっふっふと《真実》。聞けば、ダイスロールが大成功。ついえた洞窟はもうどうしようもないとしても、魔神将の策略の方は存外とうまくいったらしく、森人の勢力に圧力を加え始めたのだとか。妖精弓手に与えられし依頼は、
どうだ、いいだろう? 王道だろう?と《真実》。確かに最も人気のある
え、なんだ、なんか悪いことしたかと当惑仕切りの《真実》。《幻想》は、ふくれっ面のまま、辺境の街を指さすと、いよいよ女神官を引き連れてギルドを出立しようと準備を整えているゴブリンスレイヤーを指さしました。
なんか変なの、只人だよ?と《幻想》。《真実》が、あっと声をあげて固まりました。
《幻想》が妖精弓手の目星判定を何とかしてファンブルに持っていきたいお話
とんとん拍子で話は進み、森人は妖精弓手。それから、鉱人と蜥蜴人は各種族の推薦でというお話に相成りました。残るは只人だけ。こればかりは3勢力にも誰が良いとかてんで分からないので、妖精弓手も対象者を探しつつほかのものと合流するように、との下知が聞こえてまいりました。というわけで、目星判定をどうぞ。
《幻想》がぶつぶつぶつぶつつぶやき続けます。冷や汗掻いた《真実》がそっと聞き取れば、ファンブル出ろファンブル出ろと壊れたテープのようにリピート再生。まぁ少し落ち着きなさい、と颯爽と《時》が現れなければ、《真実》の精神状態も危ないところでした。
《時》が《幻想》へと呼びかけます。貴方が信じる自分の出目の悪さを信じなさい、と。そう、ファンブルとはいかなくても、目星判定成功値を超えなければ良いのです。そうよね《真実》、と水を向けられ、大慌ての《真実》が
こくこくと壊れた人形のように首を縦に振った《幻想》。そう、彼女はここぞというときにファンブルを出すことで定評のある神様です。何を恐れることがありましょうか? 《幻想》にとって、2d6の期待値とは7ではなく、5か4なのです。え、計算と違う? 神の御業です。受け入れなさい。
そんなわけで、骰子2つ握りしめ、いざ緊張の一投です。えいやっ、と四方世界に骰子が転がります。果たして出目は!?
11!!
ごしごしごしごし、と《幻想》が目をこすります。《真実》が聖典に目を落として石になり、《時》が明後日の方向を向きます。1111?と《幻想》が舌足らずな声で言いました。神界に眼科はないわよ、と《時》がとどめを刺しました。
妖精弓手はまだ見ぬ鉱人、蜥蜴人、それから適任者の只人を想像しながら街を歩きます。ふと、その鋭敏な耳に、歌が飛び込んできました。辺境勇士、小鬼殺しの歌? なんと、今から受ける依頼にぴったりの人物ではありませんか!!
呆然と見守る神々の前で、妖精弓手は吟遊詩人に駆け寄っていきます。謡われた人物が果たして実在するのか確かめようというのです。刻一刻と、
まだよ!と《時》が鼓舞しました。そうでなければ、《幻想》はふやけ切って今にも消滅しそうだったのです。
まだよ《幻想》。次で、次でファンブルを決めれば、また最初の目星判定を振りなおせるわ、と《時》。口から魂が出かかった《幻想》が、強引にそれを押し戻しながら頷きます。
そう、彼女こそは《幻想》。四方世界の夢想と希望の象徴です。それが、たった一度出目が良かった程度で消えそうになるとは何事か! 己を叱咤した《幻想》が、四方世界から骰子を拾うと、いとおしそうに接吻します。そうして、鋭い視線で妖精弓手、吟遊詩人、それから遠くで砦を燃やしているなんか変なのを見据えました。
さぁ、運命の2d6です。判定をどうぞ!
12!!!!
《幻想》がうーんと倒れました。《時》が大慌てで介抱を始めます。奇跡です。
真顔で盤面を見つめる《真実》の目の前で、吟遊詩人はしどろもどろの回答を続けます。曰く、多分流浪してると聞いているから詳しい居所はよくわからない、とか、本当に真の銀の剣を持っているかはわからない、とか、実は会ったことないから姿かたちもよくわかんない、とか。それから、実際に小鬼退治に遭遇した村人を知っている、とか。きわめてあやふやな証言しか得られません。
しかし、妖精弓手は知っています。噂とは尾ひれがつくもの。ゴブリン禍がそこかしこである以上、本当に小鬼殺しなる存在が居るのであれば、報酬の少なさからも考えて定住していると考えるのが自然な流れ。そして、実在しているかという問いかけにだけは、吟遊詩人は確固とした口調で肯定してくるのです。間違いない、少なくとも探す価値は十二分にある。
そんな混沌の神に支配された空間に、《死》と地母神さまが戻ってきました。膝を抱えてこんなはずじゃなかったのにとぶつぶつつぶやく地母神様、面倒くさがった《死》によって台車で運ばれエントリーです。ちょっと《幻想》、これどうにかするの手伝ってよと現れた《死》でしたが、負けず劣らずめちゃくちゃな《幻想》の様子にうげとうめき声。慌てて踵を返して逃げだそうとしますが、それよりも《時》の動きが素早かったのです。さ、骰子で判定を、と《死》。神々の行動が骰子で縛られるわけないでしょ、と《時》。そのあとは、手伝いなさい! やだめんどくさい! との応酬があたりに響きます。
喧嘩を始める《時》と《死》。こんなの絶対おかしいよ、《時》ちゃんタイムリープして私を救ってとつぶやき続ける《幻想》。そりゃ、敵を食い止めるために使ってましたけどぉとぶつくさつぶやく地母神さま。ただただ一柱、《真実》だけが、どうするよこれ、と乾いた声で笑いながら頭を抱えておりましたとさ。
さてはて、とはいえ。がやの三柱はともかく、がっくりうなだれてる二柱ですが、こんな出目による結末が、将来的には案外と良き様に働くんですから、出目というやつは本当になんだかもうわかりません。
まー、神様だって出目には逆らえないんだから、況や駒をや、って奴だよな。とは、きっと《偶然》が言った通りなのでしょうね。
感想を見て、まど《幻想》様は運が悪いんじゃないやい! こういうどうでも良いところでクリティカル出してるから肝心なところでファンブルを出すだけなんやい!と主張したくなった、そんな午前中でした。
ま、まぁ、全体としてみれば、《聖壁》はまともに使われてる方だから(真顔)