【ハル・ノート】
いちか達が世界Aに来て半月が経過した。
プリキュア達は、チーム毎に清掃活動などのボランティアに出かけていた。もしくは、人目に付かないところで、他のチームと模擬訓練をやっていた。
新聞を見ると、合衆国の世論は更に日本撃つべしの声が増えていて、既に日系人への暴行や不買運動も発生している様で、未だ戦争も始まっていないにも関わらず、一部の州では日系人の強制収容が開始されているとの事。
日本と、アメリカ、ヨーロッパやオーストラリアなどを結ぶ定期航路も、11月初めには日本に戻る便を最後に全て運休となった。
アメリカや欧州、大英帝国の植民地であるシンガポールなどに駐在していた商社員や家族の帰国も、相次いでいると聞かされた。
米太平洋艦隊の拠点真珠湾には、11月10日前後にこれまで大西洋や、地中海で英国艦隊と行動を共にしていた正規空母《ヨークタウン》、《ホーネット》の2隻が到着し、当初から太平洋に配備されていた《レキシントン》、《エンタープライズ》と合わせて4隻となった。更に西海岸のサンフランシスコで改造工事を受けていた《サラトガ》も、数日以内にはドックを出てハワイに向かう可能性が高いと考えられた。
太平洋艦隊司令長官、ハズバンド・キンメル大将が直接指揮する主力戦艦部隊と合わせると、戦艦8、重巡10、航空母艦9(4隻は、商船改造の小型低速空母)、軽巡10、駆逐艦50以上の大兵力となった。
更に、西方からも戦争の足音が迫っていた。3日前にセイロン島(現スリランカ共和国)北東部の軍港トリンコマリーに、T・V・フィリップス大将率いる英極東艦隊が入港。戦艦《プリンス・オブ・ウェールズ》、巡洋戦艦《レパルス》、空母《インドミダブル》、《アークロイヤル》を主力としていた。
数日の補給、休養の後、シンガポールに向かうのは確実だった。
ひまりと六花が窓から外を見ている。最初の日と違いとても暖かい。小春日和というやつだ。道を歩く人の姿からも、郊外から野菜を行商に来た老婦人の姿からも、戦争の足音が速度を増しつつ近付いているようには感じられない。
ひまり
「あそこの空き地で子供たちが野球をやってます」
六花
「私たちの時代と変わらないなあ。でも、70年先はこんな遠くまで見えないんだろうね」
ひまり
「この方角だと、ちょうど品川や大井町の方角だからビルとかホテルとかたくさんあるから……」
二人
「……」
その時二人の視界が覆われる。
「だーれーだー?」
六花
「もうーマナでしょ」
ひまり
「いちかちゃん、どうしたのです?」
マナ
「大丈夫だよ六花」
いちか
「安心して、ひまりちゃん」
マナ
「レジーナがキングジコチューに連れ帰られた時に比べたら、大した事じゃ無いよ。だから、戦争にはならないよ」
いちか
「エリシオに操られたり、世界中の人から心が消えたりしたけど、私たちは光を取り戻せたよ。だから、きらっと安心ですぞ」
マナといちかの言葉には根拠は無い……でも、二人の笑顔には強い説得力を他の面々に感じさせていた。
六花
「マナが言うと根拠が無くても、その通りになる……そんな気がする」
ひまり
「同感です。いちかちゃんが言うと、本当に何とかなりそうです。お日様の様な人ですから」
しかし、11月26日。必死に対米交渉を行う、全ての日本人とマナや、いちか達の希望を木っ端微塵に打ち砕く書簡が、米国政府から駐米大使野村吉三郎に手渡される。
その文章は、当時の国務長官の名前を取り、こう呼ばれる。
『ハル・ノート』と。
続きは明日投稿します。