プリキュアDOOMSDAY   作:宇宙とまと

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第1話【2017年】 

 【序】

 

 ニューハンプシャーのコンコードでは、月が上天に輝き、星々の煌(きらめ)きで満ち溢(あふ)れていた。その空を見上げていた若者は、本を閉じ、こう呟いた。

 

 《自然は、観測する者とされるモノが一体となった時に初めて本当の姿を現わす》

                       ”ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ”

 

 

 

  【2017年、アメリカにて】

 

 情報機関で分析官をしているジョン・ケインは、その日、ワシントンDCから西に50キロほど離れた町から帰っている途中だった。

 ケインが50キロ離れた町に行ったのは、公務では無く、完全に私事の範囲だ。

 

 数日前、ワシントンDCを含むアメリカ東岸一帯を春の――いや時期的には早春の――嵐が襲い、各地で強風や浸水、沿岸部では高潮の被害も出た。

 ケインの叔父が住む家に隣接する土地には、老朽化した空き家が有ったが、その空き家が強風で倒壊し、叔父の家に、その破片が多数飛び込んでいた。

 

 ケインが非番を利用し叔父の家に行き、後始末を手伝い一冊の本を見つけた――ここまでなら何処にでもある話で、事実、それで終わる筈であった――

 その本は少し奇妙な物だったが、こう書くと何か妙な事件――コロンボ警部辺りに、お出ましを願う事態――が発生した様に勘違いするかも知れないが、別に、何か死体を発見したとか、変な白い粉が見つかったとかでは無かった。

 

 その奇妙な物は、死体でも謎の拳銃でも白い粉でも無く、一冊の日本語で書かれていた、アニメ誌と呼ばれる類の本だった。

 ケインが叔父の部屋を見渡すと、あちらこちらが、倒壊した空き家の破片で傷つけられているのに、なぜか、このアニメ誌だけは傷ついていなかった。

 ケインが、そのアニメ誌を開くと、そこには、日本で放映されているアニメらしい記事が掲載されていた。

 ケインは何故、叔父がアニメ誌などを所持していたか訝(いぶか)しく思った。

 叔父は某有名商社で長年勤務しており、日本には何度も渡航経験が有り知人も多く、所謂(いわゆる)、親日家であり、日本の歌舞伎や伝統芸能のマニアで、剣道をやっていた趣味が高じ、一地方の剣道愛好会の会長もやっていたはずだ。 

 しかし、日本のアニメファンという訳では無かっただろう。と、ケインは疑問に思ったが、深く考えることはしなかった。

 

 ケインは、気分を変えようとカーラジオのスイッチを入れた。すると、ちょうどニュースの時間だった。そのニュースは、先週土曜日に95歳で老衰により死去した、元上院議員の軍部葬が行われた事を報じていた。

 軍部葬になったのは、死去した元上院議員が、かつて軍人だったからだ。その人物は、ウェストポイント合衆国陸軍士官学校を極めて優秀な成績で卒業した。

 士官としての必須科目だけではなく、彼は歴史や文学、さらに哲学にも精通し、愛読書としてゲーテ、スタンダール、ドフトエフスキー、カント、パスカルなどがある才人でもあったそうだ。

 その後、彼は最前線を志願し、英国駐留の第8航空軍の《B-17フォートレス》爆撃機の尾部機銃員に配属された。

 数か月後、ドイツ西部の工業都市デュッセルドルフ爆撃の際に、当時、多数の米爆撃を撃墜したロケット推進戦闘機《Me-163》に狙われたが、奇跡的に返り討ちにして撃墜した。しかし、運悪く破片で負傷し、一旦前線を離れる事になった。

 

 その翌年、彼は、ある任務に志願する事になった。その後、彼は志願者、100人の中では部隊の隊長を除いて、最も栄光に満ちた人生を送った。

 朝鮮戦争では、爆撃機乗員として北朝鮮軍や共産党軍に対し活躍し、ベトナム戦争では、爆撃部隊司令官として味方の窮地を幾度も救った。

 

 その後、彼は1982年の上院選挙で故郷のニューハンプシャー州から立候補し当選し、2008年に政界引退を表明するまで、26年間に渡り上院議員として共和党の要職を歴任した。

 

 政界引退後も、故郷、ニューハンプシャー州の退役軍人会会長などの名誉職に就いていたが、昨年、春先に体調不良説が報じられた。

 彼は11月半ばに入院し、マスコミが重病説を報じた。その後、元上院議員の死が賭けの対象にされた。

 人の生死を賭け事の対象にすることはタブーだと考える運営元は動かなかったが、こっそりと賭けをした連中は相当数に上るだろう。賭けの内容は、上院議員が特定の日に亡くなるかどうかであり、特定の日に亡くなるとする方には、数百倍以上の高い倍率が設定されていたらしい。

 結果、議員が全く無関係の2月に死亡した事で、大穴に賭けていた連中は全員、大損をした事だろう。

 

 20分後、ケインは途中のドライブインに入り、駐車場に車を止める。ラジオは日本の話題を流している。

 ニューヨークの有名観光地で、日本の有名な果物ゆるキャラが撮影されていて、通行人が集まったという内容だった。ケインはラジオを止め、メニューを眺め、コーヒーとハンバーガーセットに目を留めた。 

 

 ケインは、いくつかのメニューに目移りしたが、結局、ハンバーガーとコーヒーを注文した。周りはもう薄暗くなって来ていたので、室内灯を点けて、叔父の家から持って来たアニメ誌を開いてみた。

 アニメ誌の内容は、特段、変わった事は無い。アニメの今後の見所や、声優のコメントが掲載されていた。

 アニメ誌の発行日付は10日前の一月末で、同名のアニメ誌が日本に存在する事は、叔父の家を出る前に検索を掛けて確認してあった。ケインがページを開いてる所には、2017年2月5日に放映開始される予定の子供向けアニメの情報が書かれていた。

 

 その内容は、それ自体はおかしい所は無かった。お菓子作りに興味がある主人公が、不思議な出会いをして仲間達と知り合う。という初回あらすじの他に、担当声優のコメントが掲載されていた。主人公を含めて担当声優4人と脚本家は、確かに日本に存在し活躍していた。

 しかし、2月5日も次回放映日の2月12日も日本の番組表で確認したが、そのアニメは番組表のどこにも記されていなかった。

 番組表によると、朝7時から8時までは報道番組で、9時からは子供向けアクション番組(実写)が放映されていた。8時から9時までは、妙なバラエティ番組の放映だった。

 その内容は、日本のコメディアン達が観光地に行き、そこで2人から3人ぐらいに別れ、買い物や食事をしながら互いに遭遇するまで帰れない。又は、ローカルバスやローカル線に乗り、ダイスを振って出た数だけ進んだ駅で、飲食店が見つかるまで歩いて探すという、中々に大変そうな番組が放映されていた。

 

 

 ケインは、そのことを訝しく思い謎のアニメ誌を調べたくなったが、あいにく業務もある。

 そこで、日本人の知人に調査を依頼する事にした。

 昔、彼が法務省のエリート官僚時代に研修でニューヨークに数週間滞在した時知り合った知人で、今は別の職務についているとのことだった。

 新しい職場でも多忙だろうから、それを理由に断られるかと思ったが、すんなりと了解の返事を得た。なぜか現在は暇らしい。余談だが、彼は10年以上前に読んだ日本の

学園マンガ……暴走族出身の熱血教師が、荒れた学級を立て直す内容だが、それの実写版ドラマで、主人公の教師役を演じた俳優にかなり似ている。

 そして、その知人から今日、連絡が入った。その知人によると、このアニメ誌で記事を書いていた記者数名の内、3人ほどは、もう担当部署には居ない事が明らかになった。3人の内、半年以上も前に、一人は退職し、もう一人は別の部署に栄転していた。残りの一人は、3か月前に死亡していた事を知らされた。

 

 知人

「中々、興味深い案件でした。本件、むしろ私の上司の方が興味津々でね。日本の言葉で死人に口無し。死人にアニメ誌の記事は書けないでしょう。ちなみに、この死亡した記者、女性だったのですが、自殺だと思われてたんです。しかし、現在、他殺の線も出て来て捜査が始まりました。結論が出たら、また、お知らせしますよ」

 彼は法務省から、警察に出向でもしているんだろうか?

 以上から、ケインは謎のアニメ誌が、この世ならざる物という確信を得た。

 

 

 このページを誰かが見たら、「ふうん」とでも言って、ダストシュートかリサイクルボックスに直行とはならない。不幸にも発展途上国で学校に行けず、働かなければならない児童労働者なら、そんな感想でも誰も責めないだろうが。

「まっとうな高等教育を受けた人が『別に』程度の感想だったら、良識を疑われるだろうなあ」

 何故なら70年前、ケインの父や祖父の世代は死力と知略の限りを尽くし、アニメ誌のページに書かれている彼ら、いや、彼女達と戦わなくてはならなかったからだ。

 

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