【コックリル隊の勇戦】
30分遅れて発進したヨークタウン攻撃隊にも、トラブルが起きていた。
新しいヨークタウン攻撃隊長は、突然の大任であがっていた。(前任者のヘンダーソン少佐は、前日のウオッゼ環礁攻撃でキュアマカロンの攻撃で戦死)
本来、発進した機体が全部編隊を組んでから進撃する。しかし、後任の攻撃隊長は、未だ全機が編隊を組んでいないのに先に行ってしまった。
仕方なく取り残された10数機は、コックリル大尉が率いて味方の後を追った。
大尉の《TBFアベンジャー》は前日のウォッゼ環礁攻撃に参加した6機の中で、ただ一機生還した。
しかし、
「かなり天候が悪くなってますよ。確か、明日朝から急激に天気が崩れて来ると聞いてましたが」
コックリル大尉は、外の様子を見て軽く舌打ちをした。
「恐らく予想より早く、低気圧が進んでいるんだろう」
現在、ジョストン環礁北西から南東に向かって、低気圧が進んで来ている。
気象担当士官によると、天気が悪化するのは明日朝以降の筈だった。しかし、気象班の予測より、低気圧の速度が速まったのだろう。
未だ戦闘不可能とまで言えないが、周囲を見ると積乱雲や、積雲が増えている。
それらの厚い雲に視界を遮られ、攻撃隊長等の機体を探したが、見出すことができない。
その時、味方が謎の敵から攻撃を受けているという通信をキャッチした。
「ホーネット隊が例の敵に攻撃を受けています!」
「作戦を読まれたな。今回は我々が低空から侵入して来る事を見破られたようだ」
(頭にウサギ耳が付いていたから奴らはバカだと思ったが、よく考えてみると人間の頭にウサ耳が生える筈が無い。日本にはシノビ『忍』という、謎の戦闘集団がいるらしい。あいつらは日本に古くからいる戦闘集団なのかもしれない。カラフルな色の服やウサ耳は、奴らの戦闘衣装なのかも知れん。桃色ウサギの一味は、ウサギを信仰しているのか?)
ホーネット隊とヨークタウン隊の大半は、戦闘機と謎の敵に攻撃され、大半が撃墜されてしまった様だ。
中高度から侵入したジョンストン基地航空隊は、待ち受けていた《零戦》多数の攻撃を受けて撃墜されるか、適当に爆弾を投下して逃げ出したらしい。
コックリル大尉は頭を抱えたくなった。もうまともに残っている隊は、ここにいる16機しかいない。大尉も逃げたくなったが、まだ何も起きていないので逃げる事は出来ない。
取りあえず、どこか奇襲できる隙が無いか、探りながら進む事にした。
予想より半日早く、天気が崩れ出したのが幸いした。急激に増えてきた積雲は、敵からコックリル隊が発見されるのを防いだ。16機という少なさも幸いした。
しかし、20分以上探ったが奇襲できそうな隙は無かった。
雲の隙間から遠くに主力空母らしい影も見えたが、その近くには《零戦》の他に、
しかし、何時までも飛んでいる訳にはいかない。帰りの燃料が無くなる前に決断する必要がある。さてどうするかと考えた瞬間、視界の影をふわりと白い影がよぎった。
一瞬青ざめたが、幸いにもその影は本物の鳥だった。
「お前達は気楽でうらやましいよ」
そう愚痴って鳥の飛んでいく方向を見た時、水平線近くに空母らしい平たい船体が見えた。近付いてみると、3隻の小型空母と、水上機母艦及び7000トン級の防空巡洋艦が確認できた。
周囲を見ると、運良く数機の戦闘機は居るが謎の敵は居ない。
コックリル
「奴らは恐らく対潜空母に違いない。大型空母や主力戦艦隊に、潜水艦が近付かない様にしているのだろう。よし、あいつらをやるぞ!」
大尉は《ワイルドキャット》6機、《ドーントレス》8機、《アベンジャー》4機に小型空母の近くにある大きな積乱雲を迂回して、低空から近付くように指示を出した。
~1943年12月9日、午後2時~
対潜空母《雷鷹》(らいよう)は、沖鷹(ちゅうよう)型空母2番艦で、排水量10000トン、速力は20ノットとアメリカの護衛空母よりやや速い。
搭載機は、戦闘機12機と対潜攻撃機用の《97式艦上攻撃機》12機の合計24機だ。
数時間前に幸先よく、米潜水艦1隻を撃沈していて士気も高まっていた。
それは完全な奇襲だった。
突如、上空で《零戦》が《ワイルドキャット》と戦闘を開始したと知った瞬間……
乗員
「敵、急降下爆撃機! 直上です!」
艦長、大倉留三郎大佐は即座に回避命令を出した。
「面舵一杯!」
しかし、時すでに遅し。
舵が動く前に、454キロ爆弾が3発命中した。1発は機関室内で爆発し、機関員は瞬時に全員消し飛んだ。
残り2発は格納庫内部で爆発。整備中の《97式艦攻》と対潜爆弾が爆発した。
10000トン前後の小型空母に、0.5トン爆弾が3発も命中すれば致命傷になるのは当然だ。1発だけでも、沈没は免れなかっただろう。
《雷鷹》は1時間後に沈んで行った。救助された乗員は、乗員750名の内228人だった。多くの乗員が爆弾の命中時に死亡していた。
《雷鷹》は日本海軍最初の喪失空母となった。
コックリル大尉は、別の空母を雷撃しようかと一瞬思ったが、《アベンジャー》は、自分の機も含めて4機しかいない。4機では撃沈できるかは微妙だ。
コックリル
「あの水上機母艦はリストに無い新型だ。《TBF》隊は水上機母艦を沈めるぞ」
そこに居た水上機母艦は、昨年2月に完成した、新型水上機母艦《瑞穂》だ。
全長192.6メートル、速力22ノットで、水上偵察機を24機搭載できる。史実で空母に改造された《千歳》、《千代田》と同等の能力を持っている。
今後、水上機母艦は軽空母に改造される可能性が高く、ここで撃沈しておく事は、かなり有意義だと大尉は判断した。
《アベンジャー》は積乱雲をかすめて、超低空から接近したので、《瑞穂》も気付くのが遅れた。
12センチ対空砲や、25ミリ機関銃で射撃して来たが、
魚雷4本の内、2本が命中した。特にコックリル大尉が発射した魚雷は、水上機に搭載するガソリン庫の真横に命中した。
ガソリン庫が爆発し、ちょうど対潜哨戒から戻って来た水上機に給油作業を行っていたので、給油管と給油中の水上偵察機が、ドミノ倒しのように次々と爆発炎上した。
《瑞穂》は30分後には沈没してしまい、同艦は帝国海軍大型艦の中で、最初の喪失艦となった。《瑞穂》も魚雷命中時に多数の乗員が爆発と火災で戦死し、生存者は少数だった。
《アベンジャー》が《瑞穂》の上を飛び越え、近くの海防艦を回避して4機が集合する。その直後、その海防艦に水柱が上がる。
「何事だ?」
「水上機母艦に命中しなかった魚雷の1本が、小型駆逐艦に命中しました」
水柱が消えると、海防艦は海面に僅かな残骸を残しているだけだった。
「あの艦の乗員でなくて良かったよ」
「全く同感ですね」
コックリル大尉達は、自分達の境遇に感謝し、僅かだが敵艦乗員の冥福を祈った。
吉野型防空巡洋艦は、《ドーントレス》3機の爆撃を受けたが奮闘し、2機を叩き落とした。
「日本版の《アトランタ》は中々やるな。艦の性能が良いのか、もしくは、あの艦の艦長や乗員が優秀なのか?」
しかし《ドーントレス》3番機が、僅かな隙を突いて爆弾投下に成功。艦橋や機関室、煙突等には惜しくも命中しなかったが、対空機関砲に命中し艦内で爆発した。
爆弾1発で7000トン級巡洋艦が沈む可能性は低いが、火災による黒煙に視界を遮られ、コックリル隊がいる側の対空射撃は止んだ。
戦闘機を除けば8機の《ドーントレス》と4機の《アベンジャー》で、小型空母1、新型水上機母艦1と海防艦1を撃沈し、防空巡洋艦に命中弾で火災を起こさせた。12機の小部隊としては大戦果と言える。
この戦果によりコックリルは、『初めて日本海軍に被害を与えた男』と讃えられた。
そして、戦後、コックリル隊の戦果は『プリキュアと日本海軍の足に、強力な蹴りを入れた』と称されることになる。
だが、無邪気に喜んでいる時間は無い。
「各機戦闘終了! 浮かれるのはまだ早い! 直ちに逃走するぞ!」
大尉は奇襲をする際に利用した積乱雲に、逃げ込むように命令を下す。攻撃隊が積乱雲の方角に機首を向け、60秒ほど飛行した時、忌々しい
「今度はライオンのたてがみとリスの尻尾が付いてます!」(キュアジェラート・キュアカスタード)
「俺は死ぬまで動物園には行かんぞ!」
大尉の《アベンジャー》は、積乱雲の下に逃げ込む。
落雷も怖いが、謎の敵よりは100倍ましだろう。
10分後、集結した時に合流できたのは、《ワイルドキャット》1機、《ドーントレス》3機、《アベンジャー》2機(コックリル大尉機含む)に減っていた。
コックリル大尉は《ヨークタウン》に戻るのは危険と判断し、ジョンストン環礁に向かい無事生還した。
防空巡洋艦は史実でも、計画はあったらしいです。しかし、防空巡洋艦は中止となり、代わりに大型防空駆逐艦が建造されて、秋月型として完成。