プリキュアDOOMSDAY   作:宇宙とまと

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 だいぶ間が空いてしまいました。


第37話【読みはたんかんでは無いよ]

 

 

4月2日 

ハワイパールハーバー

 

 

 

「日本海軍に何か動きがあるのか?」

作戦参謀レイトン中佐の報告を受けたキンメル大将に驚きは無かった。初戦で大損害を受け戦力回復中の合衆国海軍に比べ、大きな損害を受けていない。コンバインド・フリート(連合艦隊)の方が遥かに早く動ける。

 

 

 フィリピンの米極東軍は、既にコレヒドール島とバターン半島に籠城するのみで、あと数週間しか持たないだろうと予測されている。

香港は既に陥落し、現在は日本陸軍第二五軍がフランス領インドシナ(ベトナム・ラオス・カンボジア)に進駐し、陸軍と海軍の航空隊が進出して、英領マレーへの侵攻準備を急いでいる。2月下旬頃まで、航空母艦の一部がマレー半島の英空軍基地を爆撃したり、

豪州北部ダーウィンを空襲したりと、陸軍を支援していたが、現在は整備と補給の為に日本本土に帰還している様だ。(1)

 

 

「先月20日頃から、暗号通信が活発になっております」

レイトン中佐が、報告書の束を示して説明する。 3月初めに、帝国海軍は暗号コードを改訂した、しかし解読班の努力で半月後には解読に成功していた。

 

 

解読班によると 『AL』『HM』『SB』など複数の単語が出ている事が判明している。レイトンを退室させた、キンメルは今敵が動く場合目的地は何処かを考え、いくつかの候補地を考えた。

 

 

1 マレー攻略作戦を再度支援する

 

 

敵空母数隻が支援に向かう可能性はあるが、全力で来る可能性は低い。

マレー半島及び、シンガポールに配備されている航空機は、新型機は一部で大半は旧式機だ。英国はやはり、新型機や新型戦車は本国や地中海を優先せざるを得ない。それに英領インドでの反英暴動は、沈静化どころか更に悪化している。

 

 

2 豪州遮断作戦

 

 

 ニューギニアや、ソロモン諸島を占領して合衆国とオーストラリアの交通を遮断し、オーストラリアを連合国から脱落させる。

 

オーストラリアが連合国から脱落すれば、米英にとってはかなり打撃にはなる。しかし、ソロモン諸島は現状火山噴火による、火山灰で占領は不可能だ。日本の補給能力から考えても、可能性は少ないだろう。(2)

 

 

 

 

「やはり、危険なのはハワイもしくはミッドウェーでしょうか?『HM』はハワイ・ミッドウェーの頭文字とも取れます」

レイトン中佐は、ハワイもしくはミッドウェーへの攻撃の可能性を述べた。パールハーバーが破壊されれば、太平洋艦隊は本土まで後退せざるを得なくなるだろう。

 

「『AL』という文字は、アリューシャン列島の事でしょうか?」

「しかし、アリューシャン列島に戦略的価値があるとも思えん」

スミス参謀長は即座に否定した。アリューシャン列島には、天然資源は無く産業も水産業と狩猟(毛皮)位だ。

 

 

 

 

「アリューシャン列島に、もし攻撃があるとしてもそれは主攻撃から、我々の目を逸らす為の陽動だろう」(3)

キンメルも、アリューシャン諸島が攻撃される可能性はほぼ無いと感じた。まあ、本土のアンカレッジが空襲でもされたら、国民は多少動揺するだろうが。

 

 しかし、一応は合衆国領土(アラスカ州)には間違い無く、民間人が居住する島もある。何も対策をしない訳にも行かず、ダッチハーバーにある海軍航空基地に50機ほど増援し、アリューシャン方面艦隊に護衛空母を3隻派遣した。

 

 

 

 

 

「先ずミッドウェーを占領し、航空隊を進出させてハワイ攻略の拠点とする可能性も考えられます」

 

ミッドウェーと、オアフ島の距離は2100キロで海軍の『葉巻型中型爆撃機』なら、往復は可能だろう。しかし戦闘機の護衛は不可能だ。しかし、空母機動艦隊やプリキュアと連携すれば、ハワイ攻撃も可能だろう。

 

 

 「私ならミッドウェーなど無視して、直接パールハーバーを叩きに来ますな」

まず敵の侵攻目標を特定する必要がある。そこでレイトン大佐は一計を案じた。

暗号解読班のアイデアだが、「ミッドウェー島の、海水ろ過装置が故障」という電文を暗号化させずに、打電させた。

 

ミッドウェー島には、真水が湧き出る水源は無く、海水から塩分をろ過して飲料水としてして使用している。実際にろ過装置が故障した場合、深刻な水不足に陥る。

 

 

 史実では、まんまとこのトリックに引っ掛かり、「『AF』では真水不足、攻略部隊は真水精製装置を準備されたし」と発信してしまい、ミッドウェーが目標である事が露見してしまう。

「『SB』とは何の意味でしょう。Sはサンフランシスコとして、Bは何を意味するのか? ボルチモアに、ボストンは……無いですよね」

ボストンとボルチモアは、大西洋岸の都市だ。

 

 

 30分ほど議論したがBの意味が出て来ない。そこで、参謀達に思いつく単語を言わせてみる。

「橋」

「橋かも知れんぞ。シスコと言えば金門橋だ」

 

 

金門橋(ゴールデン・ゲートブリッジ)は、サンフランシスコ湾と太平洋の繋ぐ全長2737メートルのつり橋だ。1933年から4年の歳月をかけて建設された。

 

サンフランシスコは、交通の要衝でさまざまな工業が発達している。大規模な軍港・造船所もあり、史実では戦争末期に、ハンターズ・ポイント基地から重巡《インディアナポリス》に原爆が積み込まれ、テニアン島に運ばれた。サンフランシスコが空襲でもされたら、国民が受ける衝撃は極めて大きいだろう。

 

「こちらも何か罠を仕掛けてみますか」?

「どんなネタで釣るかな?」

 

参謀の一人が案を提示した。

「今年は異常なほど、カリフォルニア州で空気が乾燥しています。各所で森林火災が発生し住宅が焼けたり空港や、航空基地の離着陸が妨げられる事例も発生しています」

 

 

翌日平文でサンフランシスコ周辺で断続的に、森林火災発生。鎮火の目途立たず、市民生活にも重大な影響が出ていると打電させた。その後各通信所は、息を殺して反応を待った。

 

 

 

4月4日

 

「敵が罠にかかりました!」

「本当か!」

 

 

日本側の複数「『SB』では山火事が頻発、攻撃時は山火事による煤煙で生じる視界不良に注意」という通信が、オーストラリアダーウィン近郊の通信傍受施設で、傍受され解読された。逆にミッドウェー島の通信には、反応は無かった。

 

 

 キンメルは直ちに幹部会議を招集し、帝国海軍の攻撃目標をサンフランシスコ(更に距離的に近いロサンゼルス)と判断した。本土に空爆を行い、米市民を動揺させ厭戦気分を高めようという意図だろう。米国は130年前の米英戦争以来、他国の侵略や攻撃を受けた事が無い。(南北戦争は内戦)被害が出れば、米市民の中で反戦世論が増える可能性は否定できない。

 

 

翌日サンフランシスコに飛び、海軍作戦本部長代理ロイヤル・インガソル中将と協議を行い、正規空母と新型高速戦艦を西海岸に移動させ、防衛の任に当たらせる事を決めた。《ヨークタウン》は、既に3月半ばに修理を完了し現在は、新兵の訓練を行っている。

 

 

4月11日 午後3時

択捉島 単冠湾(ヒトカップ湾)

 

 

 

いちか

「寒いですぞ」

あおい

「北の外れだからーなー」

 

いちかと、あおいが揃って震える。温暖化の進んだ70年後なら、東京ではこの時期最高気温が20度を超える事は珍しくない。内陸部の熊谷などでは夏日になる事もある。

桜も既に満開どころか、半分くらい散っていてもおかしくない。

 

 

霧が出ていて、択捉富士どころか海岸線もはっきりとは視認できない。

北海道島北部や、千島列島は霧が多く晴れ間は少ない。霧にぼんやりと浮かぶ海岸線を見ながらひまりは、この気象条件の悪さが原因で、史実のアメリカ軍は北太平洋経由での日本本土侵攻作戦を断念したのかなと、分析している。

 

船の汽笛の音が響きひまりの視線の先を、一隻の輸送船が海防艦の後に続いて港の方角に向かっている。

 

シエル

「島の住民の生活物資を運んでいるみたい。いつもなら週に一回定期船が運んでくるんだけど、今この湾は封鎖されていては入れないから、代わりにあの船が食料とかを運んでいるんだって」

島民の漁船も出漁を禁じられ、島民には海岸線に近付いてはならないという通達も出ているそうだ。

 

 

この択捉島は、北緯45度東経147度にある千島列島最大の面積を持つ島だ。総人口は約4千人で、産業は漁業と水産加工業が多い。

単冠湾は択捉島南側中央部にある湾で、史実では真珠湾奇襲攻撃に向かう南雲艦隊が、事前に集結した事で知られている。無論乗員は、島への上陸は禁止されている。

 

 

はるか

「皆、せっかく入港しているのに上陸できないのは、少し可哀想かな」

みなみ

「でもこの島は、あまり遊ぶところも無さそうですし」

トワ

「島一番の集落には、映画館や料亭もあるそうですわ」

 きらら

「大手水産会社の缶詰工場もあって、他の島から出稼ぎに来ている人も多いってさ」

 

 

この日いちか達は、飛行甲板の清掃を手伝っていたが・・・・

「おーい、霧が深くなってきたから作業は中止だよー」

戦闘機搭乗員の、山上中尉が作業の中止を知らせに来た。気付くとぼんやりと見えていた海岸線すらも、見えなくなってきている。

 

山上

「霧が出て来て冷え込んでいるから、体調に気を付けてるんだぞ」

 

あおい 

「中尉さんもね。あっ、山上中尉は山形北部の出身だから、寒いのは慣れているんじゃ?」

山上

「確かにな。でも夏は逆に暑いから結構大変だぞ。内陸部は何処も周囲を山に囲まれた盆地だからなあ。何年か前に、最高気温が40℃を超えた日は、かなりの人が病院に運ばれたんだ。あの時は休暇で帰っていたんだが、気分が悪くなったよ」

 

ひまり

「3月に結婚されたそうですね、おめでとうございます」

 山上

「ありがとうな」

いちか達は、のろけ話でも聞こうとしたが山上中尉によると、本当なら2日程度は故郷で過ごせるはずだったのだが、急に予定が繰り上がり挙式当日夜の夜行列車で、急ぎ横須賀に戻らなくてはならなくなってしまったそうだ。 

 

清掃作業を中断し、艦内に入って行くプリキュア達。ゆかりとあきらが足を止め、霧に完全に包まれてしまった択捉島の方角を眺める。

 

 

ゆかり

「私達がお花見の途中、異変に巻き込まれた時も、今日の様に急に霧が深くなったわね」

あきら

「そうそう……いや快晴だったよ」

 





タイトルは 佐々木譲氏の小説「エトロフ発緊急電」のネタ。日系アメリカ人のスパイが、
開戦直前の択捉島に潜入して来る。東京から追ってきた憲兵が、湾の名前を聞いてつい「たんかん湾」と読んでしまう。


1 史実では昭和17年2月19日 船舶11隻を沈め、豪州空軍基地を壊滅させた。
2 史実でも計画されたが、山本五十六連合艦隊司令長官が、強引にミッドウエー攻略作戦を主張し、ミッドウェー攻略が決定。
3 ミッドウェー作戦の際に、陽動作戦として実行された。当然米側は引っ掛からず。攻撃も天候不良で大きな戦果は無かった。それどころか、不時着した《零戦》が飛行可能な状態で捕獲される最悪の結末となった。(搭乗員は不時着時の衝撃で即死)

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