【不思議な夢】
宇佐美いちかは、不思議な情景を目にしていた。
(あれ、私、ありすちゃんの家で、お茶会していた筈なのに)
テレビのニュースで、偶(たま)に見る海上自衛隊の護衛艦と比べると、古い塔の様な構造物を持つ軍艦が見える。
数日前に行った、某中古書店で積まれていたタ〇ヤ製の軍艦のプラモデルに、かなり似ている船の上の乗組員の声まで、何故か聞こえてくる。
乗員C(兵士)
「いよいよ発進するみたいだぞ」
双眼鏡で10キロメートル右方を航行する艦隊旗艦(新型大型空母)の甲板を見ていた一人の下士官が、周囲の乗員に伝えた。肉眼では見えないが、甲板員や機銃員の退避が始まっているだろう。
乗員B(下士官)
「波も収まって良かったですね」
乗員A(特務士官)
「今日の朝までは波が高かったからな」
乗員C
「成功しますかね?」
乗員B
「ロングアイランド沖で実験した時は成功したらしいから大丈夫だ……多分」
本来、昨日に作戦が行われる筈だったのだが、低気圧の影響で波が高く、発進は危険と判断され、止む無く一日だけ延期を決断したのだった。今日も朝の間は未だ波が高かったが、太陽が昇ると同時に波は急速に収まった。
戦隊司令(少将)
「私の勘だが作戦を行うチャンスは今日が最後だろう」
艦長(大佐)
「我らが宿敵である桃色兎達ですが、現時点で動きは無い様ですね。尤(もっと)も動かれては困りますが」
もし、何らかの兆候が有れば、即座に真珠湾の太平洋艦隊総司令部より緊急電が入るだろう。今や桃色兎達は、全世界の注目を集めている。
太平洋全域のみならず合衆国本土、豪州、英領インド、連合国の全ての通信傍受基地が24時間体制で耳を澄ませている。
桃色兎に比べれば、『ティーゲル』戦車だろうが、タンク博士の『最新作戦闘機』も『墳進式戦闘機』も、旧式爆撃機でソ連戦車を破壊しまくっている『魔王』も、脅威と言う点では著しく落ちる。
少将の思考は、見張り員の言葉で終わった。
艦橋見張り員(兵士)
「間も無く発艦します!」
少将や艦長も一斉に双眼鏡を覗く。直後、1番機が滑走を開始する。発艦した航空機は一瞬だけ沈み込むが、無事に力強く大空に飛びたって行った。
艦橋では、周囲の士官や兵士の歓声と拍手が起きた。続いて2番機3番機も、無事に発艦して行く。
20分後、何度かひやりとしたが、無事、最後の20番機も大空に舞い上がって行く。
やがて編隊を組んだ爆撃機は、軽く主翼を振って挨拶すると、西の空に向けて飛んで行く。
艦橋員(下士官)
「桃色兎達に別れを告げて来い!」
艦長
「祭りは終わった。浮かれるんじゃないぞ。この作戦は今の所、99%成功しているだろう。だが、我々に1%の油断や敵に1%のツキが有ったら、この作戦は、たちまち失敗してしまう」
見張り員
「失礼しました!」
信号員
「旗艦より信号! 艦隊一斉反転! 速力22ノット新針路E-E-E(真東)、発動180秒後」
作戦の成功率を99%から100%に近づける為に艦隊がすべき事は、1分1秒でも早く、この海域から離脱する事だ。
~数分後~
艦隊は真東に転進し、巡航速度よりも、やや速い速度で急速に離脱を開始している。今までは、艦橋前方に重巡『ヒューストン』が見えていたが、今は逆に、対空巡洋艦『フリント』が見えている。
発進した爆撃機は、もう水平線の向こうだ。次に会えるのはニューヨークの大通りだろう。
戦隊司令
「運命が決するのは何時頃かな?」
艦長
「桃色兎達の最大速度から考えると、現地時間で午後5時……いや午後5時20分から5時半でしょう」
戦隊司令
「あと3時間か。ちなみに、かの名将ロンメル元帥は、ノルマンディー上陸作戦の直前にこう言ったそうだ。まあ噂だがね。《連合軍がノルマンディ海岸に張り付いてからの24時間は、ドイツにとっても連合国にとっても、最も長い24時間になるだろう》と」
艦長
「我々には《最も長い3時間》ですか」
戦隊司令
(攻撃隊が攻撃後、安全空域に離脱するのに1時間と考えると、全てが決するのは現地時間の午後7時か)
後世に、こう呼ばれる事になる。
《合衆国建国史上、最も長い5時間》