最近大雨や洪水が多いです。避難する際は明るい内に。
4月21日 午前7時半
北緯43度28分 西経127度6分 オレゴン州バンドン北西200Km
TF-16(第16任務部隊旗艦)《サラトガ》
ハルゼー中将の元に、「シアトル空襲される、これは演習に非ず」(1)の緊急電が届いたのは午前7時15分過ぎだった。
「チッ、フェイントを掛けてシアトルを狙って来たか。相変わらずせこい事が好きな民族だぜ」
司令官ハルゼー中将は、忌々しい表情で葉巻をゴミ箱に放り込んだ。
「上手く行けば敵機が発進直前か、 帰還した直後を奇襲できるかもしれんぞ。 それと《ヨークタウン》隊は今どの辺りだ?」
タイミングが難しいが、特に発艦直前の空母に1発でも命中させれば、飛行甲板に並んでいる航空機が次々と爆発して、ガソリンや爆弾が爆発し空母は火達磨になるだろう。(2)
爆風で、多くの熟練搭乗員を死傷させれば人的資源も乏しいジャップには、かなりの打撃になるだろう。いや、もしかしたらプリキュアも何人か巻き込めるかもしれない。
そこまで上手くいかないとしても、プリキュアの目の前で敵空母を沈めて見せて精神に打撃を与えるのは、かなり効果がありそうだと、ハルゼーは猛将らしからぬ思考を進めていた。
「恐らくカリフォルニア州と、オレゴン州の州境沖位ですかね。」
「よし、《ヨークタウン》隊到着まで速度を落とすぞ」
参謀長の報告を受けた、ハルゼーは合流まで速度を落とす事を決定した。
同時刻
北緯41度54分 西経124度21分
カリフォルニア州 ヨントケット西沖
空母《ヨークタウン》
《ヨークタウン》隊は、昨日午前9時にアラメダ海軍基地を出港し、ハルゼー艦隊に合流するべく北上していた。《ヨークタウン》艦載機隊は、修理中に新たに補充された搭乗員と共に、陸上航空基地で猛訓練を重ねていた。午前9時前後に陸上航空基地を発進し、《ヨークタウン》に着艦する予定だ。
東10kmには、大西洋から回航されてきた新鋭高速戦艦、《サウスダコタ》級戦艦《インディアナ》と護衛の駆逐艦6隻が、同じくTF-16に合流するべく北上していた。
《サウスダコタ》級戦艦は、排水量35000トン全長は207mで速力は28ノットだ。攻撃・防御・速度のバランスが取れている戦艦という評価を受けている。
《マサチューセッツ》《アラバマ》も太平洋に回航させたかったが、大英帝国の強い要望で英艦隊の支援に出さざるを得なくなった。
《マサチューセッツ》は、モロッコ上陸時にカサブランカ沖で仏戦艦《ジャン・パール》(3)交戦した。この2戦艦は6月か7月に実施されるシチリア島上陸作戦『ハスキー作戦』にも参加が決定している。
《サウスダコタ》は太平洋戦線に派遣される予定だったが、2月にカリブ海で主砲暴発事件が発生し、死傷者30名を出してしまい現在は修理中だ。
「戦闘機も新型の《ヘルキャット》に換装された。憎いプリキュアをぎゃふんと言わせてやるぞ」
「しかし《ヘルキャット》』は、見た目がビ―ル樽みたいで不格好ですね」
ノイマンと、ラムソンが新鋭戦闘機の外見について話している。
「戦闘機や見た目じゃなく、撃墜されにくさだぞ。新米パイロットの戦死率が下がれば、ベテラン搭乗員に成長できる割合が増えて、全体の戦力底上げに繋がるんだ」
「防弾措置で増えた重量は、パワーのある発動機で補うですね。」
生存率が高い《ヘルキャット》戦闘機は、グラマン鉄工所の異名で呼ばれている。速度は610kmほどで《零戦64型》より30kmほど勝っている。
しかし、格闘戦は劣っている可能性が高く搭乗員には、速度と上昇力を生かした、一撃離脱戦を徹底する予定だ。
ここ数日、米海軍、沿岸警備隊、対潜哨戒機が共同で潜水艦狩りを行い、撃沈2隻と撃破3隻の戦果を挙げていた。反撃で何隻かの船が撃沈されてはいたが、
沿岸近くから追い出す事に成功した。しかし、裏をかいて沿岸に潜み攻撃の機会を覗っている、「鋼鉄の鮫」がいた。
「《ヨークタウン》もしかしたらと思っていたが、しぶとく生きていやがったな」
《伊―19》木梨鷹一少佐は、丸で久しぶりに友人と再会したように明るい声で乗員に知らせた。《伊―19》は、昭和16年4月28日に就役した大型潜水艦で、魚雷発射管6門を装備している。更に水上偵察機を1機搭載している。2週間前には、米本土からハワイに向かっていた、輸送船と油タンカー1隻ずつを撃沈していた。
「《エンタープライズ》《ホーネット》は初日に沈んでいますからね。《ヨークタウン》に間違いないでしょう」
いちか達から、《ヨークタウン》洋上停止の報告を受けた連合艦隊司令部は、潜水艦隊に撃沈を命令し、翌日夜明けに現場に到着した。しかし、周囲を捜索するも《ヨークタウン》は見当たらない。結局乗員を収容後自沈処分されたと判断した。
「彼女達が気に止まない様に、ここで引導を渡してやりましょう」
先任士官の渡辺大尉が、艦長に攻撃を促す。
《ヨークタウン》との距離は6千メートル、できればこの半分くらいまで近づきたいが、これ以上は近付いて来ないだろう。
「魚雷発射! 速度40ノット調整深度5m!」
ラムソン達は、艦載機が来るまでは未だ時間があるのでのんびりと海を見ていた。
(今日は波が高いな)
この日は晴天だが、風が強く海も少し波が高い。その時、高い波の間から一瞬黒い物体が見えた。その物体は先頭部が日光を反射して光って見えた。
「左舷機銃より艦橋へ! 左舷3000に筒状の不審物発見! 魚雷かもしれません」
ラムソンは即座に、電話で艦橋に伝える。
シャーマン艦長は躊躇せずに、取り舵一杯を命じた。魚雷が接近している時は接近している方向に全力で転舵し、被弾する確率を下げる必要がある。
だが大型空母ともなると、舵を切っても駆逐艦みたいに直ぐには舵が効いて来ない。同時に駆逐艦に、隊内電話で潜水艦の捜索と撃沈を命じる。
「魚雷接近! 数6本!」
シャーマン艦長は、双眼鏡で海面を捜す。確かに魚雷の航跡がかすかに見える。
「あれが噂の航跡が見えない魚雷か。速度もわが軍の魚雷より速いぞ」
最初の2本は《ヨークタウン》の前後を外れて行く。次の3本目も辛うじて艦首の20m先を外れて行った。
「魚雷3本接近中!」
「総員衝撃に備えろ! 応急隊は準備せよ!」
しかし4本目の魚雷は、左舷側で護衛についていた《シムス》級駆逐艦《ハンマン》後部に命中した。水柱が上がった瞬間に、一瞬閃光が見え次いでオレンジ色の爆炎が上がった。恐らく、魚雷か対潜爆雷のどちらかが誘爆したのだろう。《ハンマン》は艦の後部がちぎれて分断され、水柱が消えると《ハンマン》が分断された後部から、急速に沈んで行くのが見えた。
「《ハンマン》沈みます!」
《ハンマン》が沈んで行くが、何もできる事は無い。魚雷2本が《ヨークタウン》の前部と艦尾に向かって突進して来ているのだ。他の艦の事を考えている余裕は無い。
数十秒後まず前部格納庫付近に、1本目の魚雷が直撃した。魚雷はバルジ(装甲)をぶち破り爆発し、格納庫に海水が流れ込んだ。周囲の予備機が爆発し火災も発生した。
直後艦尾に最後の魚雷が……
(なんだ最初の魚雷より、衝撃が小さいぞ?)
ノイマン達は、衝撃が1本目の魚雷より小さい事に気付いた。
「後部甲板より艦橋へ、2本目の魚雷は命中寸前に爆発しました。」
日本の《九三式酸素魚雷》は命中すれば、大型艦でも1本で大破できる。速力と破壊力更に、発射距離も米海軍の魚雷に勝っている。しかじ、高い波などが魚雷前部に当たるとその衝撃で、信管が起爆してしまう欠陥があった。
「敵潜水艦の第2撃に警戒しろ。手の空いている乗員は応急隊の支援に向かえ」
シャーマン大佐は、再度の攻撃に備え左舷側の見張りを厳重にするように命じた。それ以外の乗員で手の空いている乗員は、応急隊を支援させ消火や、浸水阻止に加わらせた。
「敵潜水艦がまた撃って来るかも知れないから、左舷側を見張るぞ」
「りょうか……」
ラムソンが応答した直後、東の方から轟音が響いて来た。慌てて東の方を見ると、10km彼方の駆逐艦の艦首から水柱が上がったのが見えた。その水柱が消えない内に、今度は戦艦《インディアナ》の艦首にも魚雷命中した事を示す水柱が上がった。
「別の潜水艦が居るぞ!」
《伊-19》は魚雷再装填をしようとしたが、直ぐに複数の駆逐艦と、近くを飛んでいた対潜哨戒機が殺到して来たので、追撃は断念し退避に入らざるを得なかった。《伊-19》は3時間以上の爆雷攻撃を生き延びて生還した。《インディアナ》被雷から、別の潜水艦が潜んでいると判断し、対潜攻撃が分散してしまった。実際は、《ヨークタウン》を外れた魚雷が、そのまま10km彼方の《インディアナ》に到達し命中したのだが、合衆国側がそれを知るのは戦後の事になる。
午前8時
空母《サラトガ》
ハルゼーは朝食にホットドックを食べ、コーヒーで流し込んでいた。
「緊急電です!」
「どうした、プリキュアでも来たか!」
「発《ヨークタウン》艦長フレデリック・シャーマン大佐 《ヨークタウン》は敵潜水艦の雷撃を受け魚雷1本命中。更に艦尾至近距離で魚雷暴発。直撃は免れるも、舵機室浸水で舵反応悪化せり。更に爆発でスクリューシャフト損傷の可能性あり。最大速力20ノットに低下。艦隊への合流は困難と考える」
更に、別の潜水艦により戦艦《インディアナ》にも魚雷命中と付け加えられていた。電文を読んだハルゼー中将は、天を仰ぎたくなった。
最初から戦力で日本軍に劣っているのに、(日本側はプリキュア込み)味方空母艦載機の内、25%が消えてしまった。《インディアナ》は、最新の対空砲を多数装備しておりこれの離脱も痛い。
「《ヨークタウン》と《インディアナ》には、サンフランシスコに引き上げるように伝えろ」
ハルゼーは通信参謀に、損傷を受けた艦に撤退命令を出させた。
周囲を見ると、艦橋士官や兵士が不安そうな表情でこちらを見ている。
「レディYは、急に二枚目野郎とデートでシスコに帰るらしいから、こっちには来られないそうだぜ」
それを聞いた乗員達は、思わず吹き出してしまった。
《ヨークタウン》被雷のシーンは彼女と、空母《ワスプ》沈没の史実ネタを合わせてあります。
《ヨークタウン》ミッドウェー海戦で、反撃を受け大破。翌日《伊ー168》の魚雷攻撃を受けて沈没。この時《ハンマン》も巻き添えで沈没。
《ワスプ》1942年9月15日に、ソロモン海で《伊-19》の魚雷4本命中し沈没。この時外れた残りの魚雷が、10キロ離れた所にいた戦艦《ノースカロライナ》の艦首に命中。修理の為に数か月前線を離れる事になった。
1 元ネタはairraid on pearlharbor x this is not drill(真珠湾空襲さる。これは演習ではない)昭和16年12月8日の真珠湾攻撃開始直後に、パトリック・ベリンジャー少将が全海軍部隊に向けて発信した電文。
2 ミッドウェー作戦(史実)では、実際に起きた。
3 《リシュリュー》級戦艦の2番艦 姉は艦これに実装。