【旅館にて】
数日後、いちか達が宿泊している旅館に、先日、助け船を出してくれた石原大将という人が、海軍の参謀らしき人を連れて訪ねて来た。
石原大将というのは石原莞爾陸軍大将で、現在は東京三宅坂に在る陸軍参謀本部にて参謀総長の要職にあるらしい。仮に陸軍大臣を帝国陸軍ナンバー1とすると、参謀総長はナンバー2かもしれない。
いちか達は石原大将に、自分達の世界のことを色々語った。
石原は信じがたいことだと思ったが、彼女達の真剣な眼差しから嘘をついているとは感じず、なにか理由でもあるのだろうと考えた。
しばらく話を聞き続けてきた石原は、彼女達が話し疲れただろうと席を外した。
そして、旅館の仲居に土産として持参して来た和菓子を取り出し、茶とともに彼女達に出してくれるよう頼み、席に戻った。
しばらくして、仲居が各位にそれらを配膳した。
石原
「土産の
いちか
「ありがとうございます。私はパティシェ……西洋菓子を作る職人になるのが夢なんです。主に西洋菓子を作ってますが、勉強の為に和菓子や、中華菓子を作った事もあるんです」
真琴
「ういろうの由来について、少し前の朝の報道番組で、クイズを出していたわね。〇先生によると、元王朝(モンゴル帝国系列)から亡命した政治家の息子が、ういろう作りを始めたそうだけど、その亡命した親が、元王朝で就いていた官職から採られているらしいわ。ま、〇先生曰く、諸説あるそうですが……」
シエル
「私たちの時代で、ういろうが何処が発祥の地かで揉めているわ。名古屋と小田原の老舗で、論争になっているとか」
石原
「うむ、名古屋も有名なのだが、私としては小田原説を採りたいところだな。知ってるかね? 歌舞伎の外郎売を?」
マナ
「ほへ?」
皆が、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になっていた。歌舞伎に詳しい一部のプリキュアは逆に「へー、外郎売かー」と喜んでいる。
その声を聞いた石原が、得意げに口上の一節を披露し始めた。
石原
「拙者親方と申すは、御立会の内に御存知の御方も御座りましょうが、御江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町を御過ぎなされて、青物町を上りへ御出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今では剃髪致して圓斎と名乗りまする……」
得意げに
富岡
「閣下、口上はまた後日に……」
石原
「う、うむ。そうだな」
いい所で打ち切られた石原は、ばつが悪そうに話題を変えた。
石原
「私は山形県の日本海に面した鶴岡の生まれなんだが、山形県にも芋煮や板ソバに、だだちゃ餅など名産が色々と……」
その後も二人は世間話を続け、中々、本題を切り出さなかった。それを口にすることを、非常に迷っている事が感じられた。
彼女達を巻き込んでしまう恐れと、彼女達が本当に未来から来た特別な者であるという確証もなかったからだ。
既に、この日の夕方までに、未だ合流していなかったプリキュア達も無事合流していた。
富岡
「はなさん、さあやさん、ほまれさんは、関東近辺の何処からも彼女達と思える子が保護された。との報告は来ていないんだ。後、リオ君と言う子も同様だ」
ゆかり
「彼女たちは学校行事と重なり、お花見に来れなかったんです。リオは確か図書館で、どうしても読みたい本がある(製菓関連本)とのことで来れませんでした」
れいか
「あゆみさんも、お花見にお誘いしたのですが、学校の方で地域の清掃ボランティア活動があると言うことで、来れませんでした」
れいか
「茨城県大洗町で、大洗を舞台にしたアニメのイベントがあるそうです。大洗に親戚
いるお友達が居て誘われたので、一泊二日で行かれるそうですわ」
陸軍上層部は、甲府の連隊に周辺地域の捜索をさせたが、石和温泉の旅館に向かった筈の亜久里、レジーナ、アコと、亜久里の友人と彼女らを引率していた、その友人の兄も見つからなかったそうだ。
どうやら、あの花見に来ることができなかったプリキュア達は、異変に遭遇せずに済んだ様だ。
四葉ありす
「そろそろ本題に入りませんか?」
菱川六花
「つまり、この日本、大日本帝国を助けて欲しい……という事ですね」
石原
「君達を、このような事に巻き込んでしまい、誠に申し訳ない」
六花
「数日、考える時間を頂けませんか?」
富岡
「無論です。何日でも、皆さんで話し合ってください」
石原
「皆さんが協力を拒まれても、皆さんが70年後の未来に帰れる方法が無いか、物理学者に協力を依頼し研究して貰うつもりだ。万が一、いや、残念ながら、未来へ帰る方法が無いと言う結論が出てしまった場合でも、皆さんの生活が成り立つ様に助力する」
富岡
「それに、まだ100%戦争になるとは限りません。今も、ワシントンで駐米大使が必死に戦争回避の交渉を継続中です。最後の最後で米国人が冷静さを取り戻し、全面戦争を回避できるかもしれません」
石原
「考えがまとまったら、連絡してもらえると助かる」
二人は彼女達が、ゆっくり考える時間を与えようと、立ち去って行った。
旅館の一室で出された茶を飲みながら、彼女達は真剣に語り合った。
いちか
「個人的には助けたい。日本史の授業で東京大空襲とか、広島、長崎の原爆被害とか学んだから、私たちプリキュアの力で助けられるなら助けたい」
白雪ひめ
「私も助けられるなら助けたいけどね。でも痛いの嫌だし、ほらプリキュアの敵って、幹部以外は魔法生物的な奴だから、あんまり抵抗なかったんだよね。スターウォーズのクローントルーパーみたいな感じ。でも合衆国や大英帝国相手だと、生身の人間だから流石に抵抗が……」
花見ことは
「はー、でもここで戦ったら歴史が変わってとんでもない事になるよ」
青木れいか
「ことはさん、じつは、その心配は無いと思います」
ことは
「ほへ?」
ゆかり
「この世界は私たちが生きてきた世界とは別の世界。かなり似てはいるけどね」
十六夜リコ
「平行世界って事ね? 根拠は?」
れいか
「石原大将は、この世界では陸軍参謀総長になってましたはずです。でも、私たちの世界では、参謀総長のような要職には就けなかったはずです。それどころか……昭和17年の今は11月8日ですが、私たちの世界の歴史では、既に軍を追われているんです」
れいかの説明によると、石原将軍は日本の運命を決めたと言われる1931年の満州事変の首謀者で、日中戦争の頃までは有力な出世候補だった。しかし、ライバルの東条英機将軍との出世レースで負けた。
東条英機中将は、満州に駐留していた関東軍副参謀長から陸軍次官へと進み、近衛内閣で陸軍大臣に任命された。そして昭和16年10月に、遂に総理大臣にまでなった。
反対に石原将軍は、その東条英機により閑職に飛ばされた。
やがて、それすらも辞めさせられ民間人になるも、その後も秘密警察の監視を受けたり、終戦まで理不尽な扱いを受けたりすることになるのだった。
いちか
「この世界では二人の立場は逆転しているのかな?」
ひまり
「東条英機さんは、どうなってしまったんでしょう?」
ゆかり
「軍主流を外されたか、怪我とか病気とかで引退を余儀なくされたか、あるいは……」
シエル
「最初から存在していないとか?」
ひめ
(シエルはフランス人形みたいに可愛いのに平然と毒を吐く。そこに痺れるあこがれる)
その後も、深夜まで議論は続いたのだが……
あきら
「この事は本当は、あのお花見の時に言うつもりだったんだけど」
みらい
「まさか、遂にゆかりさんと結婚ですか? わくわくもんだぁー」
あきら
「違うよ! なんでそうなるの」
ゆかり
「私は何時でもOKなんだけどね(ニヤリ)」
あきらは二人に茶化されて、話したいことを言えなかった。
ゆかり
「日本帝国を助ける、もしくは積極的に助けない。どちらを選択するかは、まだ決まってないけど、何方を選ぶにしても、私たちは、この世界で一つ確認する事があるわ」
ゆかりの一言で、今の世界の日本に自分達が、どう関わるのかとの話となり、あきらは伝えたいことを伝える機会を失った。
しかし、この世界の日本をどうしたいのか。という重要な問題を彼女達は真剣に語り合った。後日、彼女達が《プリキュア会議》と呼び、彼女達の貴重な思い出の一コマとなる時間だった。