グランブルーファンタジー 〜伝説の蛇〜 作:JOKER1011
祭壇の方には、まだ人がいるから大丈夫と言ったディアンサだが、結局折れてスネークも付いてくる事となった。
向かった先で喧嘩が起きていた。
「だから大祭壇には巫女タンが来るんだろう?待ってんだァ、俺達ァ。引っ込んでろ!!」
「この祭壇の上にいまちゅかねー?」
「祭壇に登るな!!そこは神聖な場所なんだ!」
「なんだ、テメェ、文句あんのかよ!」
どんどん彼らとイクニア達はヒートアップしていき、一触即発の雰囲気が漂ってくる。
「講演前の祭壇に上がるなんて・・・イクニアさんは絶対こんな事しない。あの人達、よその人?」
「ええ。巡業の時期にお酒を飲んでるので外から来た観光客の可能性が高いです」
スネークとディアンサの近くにいたイクニアがディアンサの質問に答える。彼も遠巻きに事態を見ていた一人だった。
ならず者たちの暴走は止まらない。彼らは遂に松明に使う油を大祭壇の石像に撒き、火をつけてしまった。
「ぎゃーつはっはっは! カッコイイじゃねえか!」
「な・・・・何してるの!せっかくスネークさんとイクニアの人達が設営したのに、燃えちゃう!」
「く・・・・もう我慢ならん!お前達、許さないぞ!」
「あーん?」
「いいか、その祭壇はなぁ!余所者が汚していい場所ではない!」
堪忍袋のきれたのか、大声を上げた
ふと、ならず者の一人が声の聞こえた方に視線を大声を上げたイクニアの近くにいるディアンサを発見する。
「って・・・・あそこの女、巫女ちゃんじゃねえの?」
「おい、おいおいーい!酒につきあえよ巫女ちゃん」
「・・・・・・・・・!」
ディアンサを発見したならず者達が大祭壇からおり、ディアンサの元に向かってくる。
「俺たちとあっそぼうぜぇ〜」と手を伸ばす。
スネークはすぐにディアンサの前に出てその手を掴み、突き飛ばす。
「おいおい、飲みすぎだ。とっとと帰れ。」
「なんだぁ〜てめえ!どきな!」と殴りかかってきたが、スネークはそれを躱しボディに一発入れた。
その拳は的確に鳩尾に刺さり、男は白目をむいて倒れた。
「て、てめぇ――やりやがったな!」
それを見たもう一人が手に持つ銃を構えた。
「きゃあああ!」
それを見ていたディアンサが叫ぶと辺りに妙な気配が満ちた。
突如火の中から出現する魔物
「な・・・・魔物・・・!?」
現れた魔物達は銃を構えたならず者に襲いかかる。
突然の事に一行は呆気にとられる。その中でスネークは冷静にディアンサを抱き寄せると右足のホルスターをからハンドガンを取り出した。
「え・・・・・・・・え?!!」
突然抱きかかえられたディアンサは困惑しているが、スネークはお構いなし。
ハンドガンから放たれる4発の銃弾、その全てがならず者を襲おうとする魔物に吸い込まれるように直撃し魔物を消失させた。
何者かが走ってくる足音が響く。
「これは一体・・・・・!」
いつのまにか祭司が息を切らしながらこの場に到着しており目を見開いていた。
「それが、祭司様!そこのならず者二名が祭壇に火を放って・・・・ディアンサ様が止めに入られて すると火から魔物が・・・」
「な・・・・・!ディアンサ、あなた一体何を?」
「わ、私は何もしていません!ただ、そこに倒れている人が銃を構えたので・・」
スネークが銃をホルスターにしまい、ディアンサを援護する。
「ああ、なんだかよく分からないが、魔物が出てきて俺が倒した。」
「これも、巫女の持つ力・・・・?驚いたわね。・・・なんにせよ無事で何よりです。スネークさんも手間をかけさせてしまい申し訳ありません」
「ああ、問題ない。」
「ス、スネークさん・・・降ろしてください」
「ん?ああ、すまない。」
ディアンサの声で、今もなお抱きかかえていた事実を思い出したスネークは優しく彼女を降ろす。
その後、イクニア達がならず者を縛り上げ、祭壇の被害を確認する。
すると運良く石像が煤だらけなだけで祭壇の被害は少ない事が分かり一同は安堵する。
明日、石像の掃除を祭司からスネークは頼まれそれを了承した。
「よろしくお願いします。・・・ところでリナリアは?」
「み、見ていません、多分ですけどホテルにいると思います・・・・」
「そう。様子を見てきます」
そう言って祭司は、頬を赤くしたディアンサとスネーク達のもとから去っていった。
「俺は便利屋にでもなったのか?まぁいいか。今日は戻るか?ディアンサ。これでは、ろくに練習も出来ないだろう。」
「は、はい!・・・スネークさん待ってください」
祭壇から歩いて離れていくスネークに返事をして彼に追いつこうとディアンサは駆けだした。
誰しもが寝静まった深夜。
「はぁ、はぁ・・・・・・夢、か。怖かった・・・・・」
ディアンサは夜中に目を覚ました。辺りを見渡しても誰もいない・・・ここが自分の部屋だったのを思い出す。
「・・・・練習、しよう」
寝間着のネグリジェから踊りの衣装に着替え、音を立てないよう部屋を出た。
誰しもが寝静まった夜、少女は練習する・・・失敗しないため、自分の不安を解消するために。
汗を流し必死に踊りの確認をするディアンサ・・・・・そんな彼女を影から段ボールを被って見守る男がいた。
こうして夜は更けていく。男は願う、彼女の最後‥突然の宣告を彼女が乗り越える事が出来るようにと・・・
翌日、欠伸をしながら手際よく祭壇の石像を掃除するスネーク。
彼の手で石像は元の綺麗さを取り戻した。
「ああ、スネークさん石像綺麗にしてくれたんですね・・・・・どうしたんですか?そんな欠伸ばっかりして」
「ああ、それが昨日全く眠れなくてな。」
「ダメですよ、夜更かししたら」
ディアンサの忠告を受け取った後、もう一度おおきな欠伸をするスネーク。スネークらの姿を見てディアンサは軽く笑う・・・・。そんな彼らの元に祭司が近づいてくる。
「ありがとうございます。これで遅滞なく公演が行えます。
綺麗になっている石像を確認し、祭司はスネークに一礼した。
夜の公演に向け、巫女達の最後の調整が始まる。スネークの仕事は終わり、観客席の一番後ろで公演が始まるのを昨日届けてもらったマウンテンデューを飲みながら待っていた。
陽が沈み、会場にイクニア達が集まった。
公演が始まる直前、いつものように祭司が登場するが、今回は一言だけではなく……公演前に話しがあると言う。
ディアンサ派のイクニア達はこれが彼女の最後の公演なのだと悲しそうにしている。しかし悲しんでいるだけでは無い、彼らは目を見開きディアンサの最後の公演を目に焼き付けようとしていた。
「嫌な予感がするな。」
スネークは一人呟いた。
ディアンサの事はもちろん信じている。だが彼女の性格から思うに突然告げられては動揺してパニックを起こす。
そうなってしまえば公演は失敗する。
その事を祭司は考えなかったのか?
祭司は突如リナリアに話しをふった。巫女達も知らされていなかったのか皆驚いた顔をする。
リナリアが自信満々に告げた内容・・・それは独立して単独公演をすると言うものだった。
それはスネークも知らなかった。大方ディアンサの話を聞いたリナリアが「自分も!」と言ったのだろう。
イクニア達も突然の発表で驚いたようで、反応は様々である。
巫女とは二年間の巡業で力を蓄え、この島の平和と繁栄を守るもの、そして公演で歌う巫女様は必ず五人組。
昔からの伝統を破ろうとする祭司に批判の声を上げるイクニア達もいれば、応援する声もある。
祭司は語る。この枠組みの影響でかかる労力、そして長年に渡り進行を集めれば強力な力が宿る可能性があると。
「つまり、島の繁栄のため目指すべきは単なる象徴としてではなく真の意味での神格化!島の巫女にまつわる枠組みをまずは人数制限から壊す。リナリアにはその試金石となってもらいます」
だがスネークは祭司の言葉を聞き、一理あると考えていた。
時代により文化や伝統は変わっていく。様々な国を渡り歩き見てきたスネークは知っている。新しいことに挑戦するのは決して悪いことではない。伝統に囚われ続けるだけでは衰退していくだけだと言うことを。
しかし次のリナリアの言葉にイクニア達は更に声があがった。
告げられたのはディアンサも単独公演をするというものだった。
スネークはディアンサに目を向けると、やはり彼女は今の今まで知らされていなかったのだろう、誰からみても彼女が狼狽しているのは明らかだった。
リナリアは知らない、ディアンサが一刻も早く巫女を卒業したいと思っている事を・・・または知っていながらも、ディアンサに負けたままで終わりたくないと起こした行動なのかもしれない。
勝ち逃げを許したく無かったリナリアが、無理矢理ディアンサを巻き込んだのだろうとスネークは推測する。
動揺の収まらない会場。そのざわめきに割って入るように楽師達の演奏が始める。
困惑する四人の巫女。中でもひときわ狼狽していたのは他ならぬディアンサだった。
「マズイ!」
予想が現実になった!
なんとか調子を取り戻していくディアンサ以外の巫女達。しかし、対照的にディアンサのステップは乱れていく。
そして曲の最後を飾るステップで足をもつれさせ、転倒してしまった。
完璧のはずの巫女の失敗に、会場全体が混乱に包まれる。
観客の中で一人を除いた誰もが、信奉する巫女の単独公演の発表に動転してたのかもしれない混乱の渦はどんどん大きくなっていく。
巫女達が場を沈めようと声をかけるが、すでに手遅れ、リナリア派とディアンサ派の喧嘩が始まってしまう。
しかし唐突の地鳴りによって争いは止まる。
一部の人達の声が響く
「石像が・・・・!石像が・・・・!」
地鳴りの発生源・・それは今日スネークが必死に綺麗にした石像が声を上げて涙を流したことによるものだった。
スネークはディアンサ達の元に駆けだした。人の隙間を駆け抜けあっという間に祭壇に到着すると、動き出した石像の目の辺りに銃弾を叩き込んだ。
まるでスポンジのように吹き飛んだ石像は動きを止め、やがて石像から飛び出た何者かが飛び出し忽然と姿を消した。
「何が起きたか私には推し量ることはできません」
舞台袖から祭司が姿を表す。彼女も困惑しているのが見て取れる。
「ただ、あの存在の出現は公演での失敗が引き鉄となったかもしれません」
「・・・・・・!」
ディアンサの表情がどんどん沈んでいく。その目には涙を浮かべ――
「原因として考えられるのはそれだけじゃないだろう。」
ディアンサを庇うようにスネークが祭司の前に立つ。自分の予測を否定され、睨むように祭司がスネークを見る。
「どうして関係ないと言えるんですか、あれが何者なのか祭司の間ですら語られた事のない存在です。それを……部外者の貴方に何が分かるんですか?」
「確かに俺にはアレが何だったのか分からん。」
「なら―――」
「だが、今までの公演と違うのはこの嬢ちゃんの失敗だけじゃない、2年間共に生活して、彼女にこんなサプライズをしたらどうなるか考えなかったお前が原因だって可能性もあるだろう‥な!」
スネークはそう言って、いつの間にか巫女達の背後に向かって来ている魔物に向かって銃を抜き放ち、迫ってきていた魔物を沈黙させる。
「とりあえず話しは後だ、一体逃げるとしようぜ」
スネークの案に皆賛成し一同は祭壇から離れるのだった。