シロウなエミヤとセイバーと   作:しぐ

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プロローグと同じく文字数が足りなかったので閑話をと思って書いていたら本文の9割が閑話に。
あくまで閑話ですので読まなくても影響はありません


食堂での一コマ

 最近、エミヤが食堂でご飯を作っている時には必ずセイバーがいて、まるで家族みたいな雰囲気を出しています。

 気分はエミヤご飯を食べに来た友人A。

 

「バリ美味かー」

「そ、それはっ、方言というやつですね先輩!」

「ああ、博多弁って言うんだ」

「先輩は博多の出身だったんですねっ?」

「いいえ、似非なので」

「似非?」

「方言の真似をする事だよ」

 

 あ、エミヤさんちーっす。

 

「セイバーのお代わりを作るからまたすぐキッチンの方に戻らなきゃいけないんだけどな」

「カルデアの備蓄が危機……!!」

 

 まあ、備蓄なんて気にする俺じゃないのでその辺はロマンがなんとかしてくれると信じてる。

 カルデアの地下には巨大な生産施設がある説を提唱してる。真相は闇の中。

 

「やはりシロウのご飯は美味しいです。シロウがご飯を作ってくれて私が食べる。あの日々ような生活がまた出来るとは思っていませんでした」

「セイバーさん食べてるだけで手伝ってなかったって本当?」

 

 あれ? そっぽを向いてどうしたんですかセイバーさん。

 

「まさかっ、本当に……」

「違うんです! 私だってホットケーキを作った事があります!」

「シロウの事を考えて?」

「そうです! シロウの事を……って、何を言わせるんですかマスター!」

「セイバーをからかうのも程々にしてやってくれないか。アレは、うん、とても美味しかったんだ」

 

 惚気ですかそうですか。

 まあ、俺だってこんな存在作ろうと思えば作れるけど? 俺今人理修復しないといけないしそもそも人類滅んでるし? 仕事が忙しくて中々彼女作る暇も時間も無いだけだし? 全く、全然、これっぽっちも悔しくなんかないし?

 

「先輩の顔がすっごく悔しそうです!」

「そんな事ないよ、マシュ……全く悔しくないけどこれからレイシフトだしなんかいっぱい食べて働きたさそうなサーヴァントがいるなと思ってるだけで」

「えっ」

「安心したまえ、エミヤも一緒だ」

 

 いやぁ、アルテラは強敵でしたね。

 

 

 

 

 文字数が足りない事件(自称4コマ小説の宿命)

 

 ──最後のマスターに全てを託した。

 ──ああ、これでボクは消え去る。

 

 それでもいいと、人理修復をずっと支えてきた医者は思いながら。

 最後の宝具を唱えて、消え去った。

 

「──ン! Dr.ロマン!」

「えっ?」

 

 自らが面倒を見ている少女、マシュ・キリエライトの声で目が醒める。

 何故? 消え去ったはずの自分が何故ここにいる?

 

「どうしたんですか? そんな呆けた顔をして」

「ここは、何処かな、マシュ」

「何処って、ドクターの医務室ですよ? まさか、熱でも?」

「いや、何でもないんだ」

 

 周りを見渡してみれば、それは確かに医務室で、まさにいつものマシュのバイタルチェックの時間ではないか。

 

「うん、今日も異常なし」

「はい、ありがとうございました。ドクター」

 

 マシュが医務室から出て行って、ふうと溜め息をつく。

 わけがわからないと頭を抱える。

 

「ボクは終局神殿でゲーティア相手に……それが何でカルデアに?」

 

 夢か、と結論付ける。

 ロマンが過ごした日々の残滓を追体験という形で見ているのだろうと。

 本来はそうなる事はないはずなのだが、何分初めて使う宝具だ。こんな事がないとは言い切れない。

 

「なら、そうだ。楽しまなきゃ損かな」

 

 気持ちを切り替えよう。神という存在がいるならこれが最期の思い出作りの機会を与えてくれたわけだ。

 

「そうだ、藤丸君に会いに行かないとな」

 

 椅子を立って、歩く事が出来ているという事実に少しだけ感動しながらドアを出ると、そこには目的の藤丸がいた。

 

「あ、ドクター。ちょうど良かった。ちょっと手を切っちゃって」

「手を? また何かやらかしたのかい?」

「やらかしたとは失礼な。エミヤに料理を教えてもらおうとして失敗しただけです」

「全く、君に何かあったらそれは人類の敗北を意味するんだからね?」

「わかってますよ」

 

 懲りてないな、と藤丸の治療をしながら肩を竦める。

 これで懲りるような性格であったらそもそも人理修復も出来ていないのだろうとも思う。簡単に処置した傷口をパシッと叩いて治療の完了を告げる。

 

「うん、できた。あんまり無茶はしないでくれよ?」

「前向きに検討させていただきます」

 

 全く信用ならない言葉を吐いて逃げた藤丸を眺めながら、ふと思う。

 

 ──ああ、未練が残りそうだ。

 

 楽しくて、これまで過ごしてきた日常をもう一度体験してしまうと消えてしまいたくないという気持ちが強くなる。

 

「この世界で、ずっと生きる事も出来るけど?」

「ああ、随分な誘いだな。さながら悪魔のようだよ、マーリン」

「親切な提案を悪魔とは、酷い話だ」

「安心しろ。ボクはちゃんと消えるさ。ただもう少し、もう少しだけ──」

 

 この自身に生まれかけた未練が無くなるまで、と言おうとしてマーリンが居なくなっているのに気付く。

 

「タチの悪い幻影ってわけか。あの誘いに乗ってたらどうなってたやら」

 

 もとより誘いに乗るつもりはなかったが、ここにいたいという気持ちにつられて乗っていたらと思うとゾッとする。

 

「考えても仕方ない、か」

 

 マーリンの姿をした幻影の事はもう忘れるべきだろう。マーリンだし、不都合な事はすっぱり忘れてしまうに限る。マーリンだし。

 

 ゆっくりと歩きながら、時折すれ違う職員に挨拶されながらもう2度と見るはずもないと思っていた施設を目に焼き付ける。心に、焼き付ける。

 例え消えてしまっても、いつでも思い出せるように。

 

「ああ、矛盾してるなぁ」

 

 存在を完全消滅した自身がこの夢から醒めたらどうなってしまうのか全くわからない。何もない空間に一人、独りでずっと居続けなきゃいけないのかもしれない。

 

 ──後悔はしていない。していない、筈だ。

 

 臆病者である自身がこんな選択を出来たのは藤丸のおかげだ。だけど、やはり消えてしまうというのは、どうしようもなく怖い。

 考える時間が出来てしまったのが余計にくる(・・)

 

「いや、こんな気持ちになってちゃ駄目だな」

 

 思い出を作ろう。

 例え独りになってしまってもいつまでも思い出せるように。

 記憶に刻もう。

 全ての、カルデアの人達に届くように。

 そうだ。ロマニ・アーキマンは存在していたという痕跡を、少しでも。

 

「まあ、ボクの最期の夢だから痕跡なんて……とは、思うけど」

 

 誰の記憶にも残らなくてもいい。

 自己満足でもいい。

 感謝を、伝えよう。

 藤丸に、マシュに、レオナルドに、カルデアの全ての人に。

 

「よし、行こう」

 

 パン、と軽く頬を叩いて再度気持ちを切り替え、歩き出した。

 

「好調好調」

 

 面白いくらいに職員達と出会う。

 不思議と会話してる時には他の人は現れなくて、会話が終わってちょっと一息ついたところでまた次の人がやってくる。

 なんて都合のいい夢だろうと自分でも思う。

 何はともあれ、これであと残りは3人。

 

「レオナルド」

「やあロマン。あの二人に存在消滅したって聞いたけど」

「ああ、これから消滅するよ。でもその前にみんなに感謝を伝えに来たんだ」

「へえ、そんな事もあるんだね」

 

 普段は見られない、目を見開いた顔だ。何事にも達観しているように見える天才、レオナルド・ダヴィンチがこんな顔をするのも珍しい。少し得意な気持ちになる。

 

「ありがとう。君がいてくれたおかげでボクはここまで来れたよ」

「なんだい改まって。私は私のやりたいようにやっただけだよ」

「うん、最期だからね。伝えたい事は伝えないといけないと思って」

「これからのカルデアは私に任せたまえ。この天才、レオナルド・ダヴィンチが残るんだ。最悪でも藤丸君とマシュの安全は保証しよう」

「──正直、ちょっと不安だった。君が座に還ってしまうんじゃないかって。でもそれを聞いて安心したよ」

 

 還るなんて事は無いとは思ってたけど、それも絶対とは言い切れない。だから──そう、とても安心した。

 

「ありがとうロマン。そして、お疲れ様」

「こちらこそ、レオナルド」

 

 握手、そして抱擁。挨拶代わりの頬に触れるようなキスで締める。

 

 ──あと、二人。

 

「マシュ」

「ドクター……っ!? どうして!?」

「なんだいそのもう会えないと思った人に会ったような顔は。ボクはまだ消えてないよ、何故だかわからないけどね。うん、例えるなら神様がくれたきちんとお別れを言い合う時間って感じかな」

「──私、生き返ったんですよ?」

 

 唐突に、あわあわしていたマシュが放った一言目がこれだった。

 

「え?」

「フォウ君がビーストで、魔力を全部使って私を生き返らせてくれて。私は、ドクターが居なくなってしまったところを見ていないです。全部先輩から教えてもらいました。ドクターが実はサーヴァントで、しかもソロモン王だったなんて」

「……ボクは霊基的にも人間だったしわからないのも無理はないけどね」

 

 何やら特大の爆弾を放り込まれた気分だ。

 あの自身に懐いてはくれなかった犬のような存在が実はビーストだった事にも驚きだが、ビーストが人を生き返らせるとは。

 

「先輩と、同じくらい生きる事ができる身体になったんです」

 

 それは、何よりの朗報だった。

 

「──本当、かい?」

「はい。フォウ君が保証してくれました」

「そっか。……そっかぁ」

 

 マシュが普通の人と同じくらい生きられる、そんな事を知れただけでもこの夢を作り出してくれた存在に感謝しなくてはいけない。

 

「マシュ、君には本当に申し訳ない事をしたと思っている。悔やんでも悔やみきれない」

「いいんです、ドクター。それも含めて全部私で、こんなだったから先輩と出会えて、最後には私も普通に生きられるようになりました! 私はドクターに感謝こそすれ、恨みなんてありませんよ」

「……本当にっ」

「ドクター」

 

 謝罪の言葉を告げようとして、マシュに止められる。

 

「最期の、お別れの言葉なんだからもっと違う事が聞きたいです」

「──それも、そうだね。ありがとう、マシュ。君が藤丸君を支えてくれたおかげで、ボクは少し楽を出来たよ」

「つまりドクターは私をダシに仕事をサボっていたと?」

「い、いやっ、違うんだ! そういう事じゃなくて」

 

 ふふっ、とマシュが笑う。

 してやったりと言いたげな表情を浮かべている。

 

「やられた。ぐだぐだになってしまったけど、君が、普通を体験する事が出来ると思うと父親のような気持ちでボクはとても嬉しい」

「ええ、最期にまた会えて良かったです」

 

 ふっ、と煙に撒かれるようにマシュの姿は消えてしまった。

 

 ──あと、一人。

 

「藤丸君」

「……ドクター」

「君もマシュと同じような顔をするんだね。このボク、ロマニ・アーキマンと話をする最期の機会だよ。どーんと思ってる事全てをぶつけるといいよ」

 

 胸を叩いて頼れる男アピールをする。

 

「軟弱そうな身体でそれをやっても全然頼りになるようには見えませんよ」

「失敬だな君は! ボクだって常日頃考えて生きてるんですー」

「……そう、ですね。とても怖かったんです。普通に暮らして、普通に生きていくと思っていたらこんなところに連れて行かれて。今度は補欠として過ごすのかなと思っていたら今度は俺一人が残っちゃったから、俺が覚悟を決めるしかなかったんですよね」

「強制させちゃったからね。……うん、本当に申し訳ない」

「いえ、謝罪が欲しかったわけじゃないんです! でも、俺じゃないマスターが残っていたとしたら、犠牲になった人はもっと少なかったんじゃないかって、もっと上手くやれていたんじゃないかって」

 

 自信なさげに吐露する少年は、ゲーティアを倒したのだ。それは、間違いなくこの眼前の少年が成し遂げた偉業。

 

「ボクはね、思うんだ」

「……何を、ですか?」

「例えばレフがあそこで邪魔をしなくて予定通りに行っていたとしたら、例えば、君じゃなくてもっと魔術の素養に優れたメンバーが残っていたとしたら。断言しよう。もっと犠牲は増えていただろうし、そもそもゲーティアを倒せなかった」

「……そんな、事」

「君だからこそマシュはあれだけの宝具を使えるに至った。君だからこそあれだけの英霊が助けに来た。君の多くを助けたいという思いが、人を、英霊を動かしてこんな結末になった」

 

 だから、素直に誇るといい。

 俺はこんなに頑張ったんだぞって。

 俺は、他の誰もが成し遂げる事が出来なかった偉業を達成したんだぞって。

 

「……ありがとうございます、ドクター。……でも、そうですね。俺は、貴方に消えて欲しくはなかった」

 

 真っ直ぐな目で見つめられて、思わず視線を逸らしてしまう。

 

「あれは、そうするしかなかったんだ」

「ええ、分かっています。分かってはいるんですけど納得は出来ないってやつです」

「ボクはもう、十分に人間ってやつを堪能できた。改めて考える時間ができちゃったからちょっと──いや、かなり怖くなって来たんだけど。うん、やっぱりボクは何度繰り返してもあの選択をしたと思う」

「怖いんですよね、だったらどうして──」

「ボクは臆病者だし、勝てる戦いにしか出ない。有り体に言うなら、そう、藤丸君やマシュに愛と希望の物語を見続けて欲しかったから、かな」

「二度目、ですよ。その言葉」

 

 ああ、別れが近い。

 藤丸もそれを察しているのだろう。

 

「あ、そうだ! 是非藤丸君にはマギ☆マリのブログとか見てほしいな! ファンになる事間違いなしだと思うけど!?」

「……もうお別れなのにそんな事言うなんて。それ、強制に近いじゃないですか」

「ああ、強制だ! 君はマギ☆マリを見る事を強制する!」

「……はい、わかりました。本物のマギ☆マリが見れるわけですし」

「あっ、いいな。ボクやっぱり未練が」

「──また、会いましょう。その時にいっぱい話してあげます。マギ☆マリの事とか他の事ととか、いっぱい」

「うん、さよならじゃなくてまたねの方が気分は良いかな」

 

 光の粒となって消えていく。

 決定的に違うのは、もう二度と会えないという事だ。しかし、それでも。

 

「またね、ドクター」

「ああ、また。藤丸君」

 

 消えていく自身の身体を感じながらふと、思い出して藤丸の手を見てみる。

 そこには、先程治療したはずの包帯も、傷跡もなかった。

 

 ──この夢は、ボクだけの夢ではな

 

 真理に辿り着きそうになって、今度こそロマニ・アーキマンの存在は消失した。

 

 

 

 不思議な夢を見た。

 消えたはずのドクターが夢に出てきて対話をしたのだ。

 

「えっ、先輩も見たんですか?」

「という事はマシュも?」

 

 聞いたところによると、カルデアの職員達、さらにはダヴィンチちゃんも見たという。

 

「不思議な話もあるんですね」

「……そうだね」

 

 あれは、歴としたドクターのような気がする。消える前に、俺たちの夢に出てきてくれたような。

 

「うん、考えても意味ない事か」

「?」

「マシュ、マギ☆マリ見ようか。ドクターの遺言でね」

「えっ、いやでもドクターの遺言……」

「はーいお一人様連行ー」

「ちょっ、先輩!?」

「おや、君達何をしているのかな?」

「ドクターの遺言通りにマギ☆マリを見に行くところです。ダヴィンチちゃんも一緒にどうですか?」

「ああ、それは行かないとかな?」

 

 ──俺は、あの約束をずっと忘れませんよ、ドクター。




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