シロウなエミヤとセイバーと   作:しぐ

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今日もいい話を聞けたところで。

 これまでのアーチャーとセイバーの関係から、アーチャーは現代日本に生きていたと言う事がうっすらとわかる。あまりに違和感が無さすぎてマシュに言われるまでその可能性に気付けなかったのは内緒。

 

「つまり尋問するという事だマシュ」

「誰に何をですか?」

「あれ、困惑しないのね?」

「もう突飛な事を言う先輩には慣れました」

 

 まだ4話目にして慣れてしまうとは……。俺の後輩の対応力が高すぎる件について。

 

「エミヤに過去の事を尋問して吐き出させようと思ってな?」

「なるほど、エミヤさんが経験した聖杯戦争について聞こうという事ですね?」

「まあある程度そういう事だな!」

 

 エミヤ、召喚!

 

「……で、俺の過去について聞きたいという事でいいんだな?」

「……はい」

 

 英霊の膂力で殴られたんこぶが出来た頭を摩りながら肯定の意を伝える。

 先に言い訳をしておこう、これは不幸な事故による結果なんだ。

 エミヤを呼び出した時はエミヤはご飯を作っていてそれはチャーハンでそのチャーハンをこうくわっとやっている時でフライパンを持ったエミヤが現れて食堂に残されたご飯はそのままで落下して厨房は大惨事にな、なにを言ってるかわからねー(以下略。

 

「大変、申し訳ございませんでした」

 

 深々と土下座を敢行する。

 食べ物を粗末にしてはいけませんと、みんなに怒られてしまった。

 これは頭が痛いので今日はレイシフト出来そうにない。

 

「うん、わかればよろしい」

「でも俺は、突発的な令呪の使用をやめることは無かった」

 

 頭が割れそうだよ。

 

 

「……マスターと話してると話が進まないじゃないか」

「それは申し訳なく。こういう性格なもので!」

 

 てへぺろとやってみたらエミヤとの距離がちょっとあいた。何故。

 

「俺は、ある程度普通の学生だったと思うんだ。切嗣が参加してた聖杯戦争の影響で街が燃えて孤児になり、切嗣に拾われて、少しだけ魔術を教えてもらって、高校に通っていたら聖杯戦争に巻き込まれてセイバーに会った。無事聖杯戦争に勝ってセイバーと別れた後は世界を巡って、守護者として世界と契約して。と、まあこんな感じかな。ざっくりとだけど」

 

 普通とは何だったのか。

 だれか彼に普通を教えてあげて!?

 

「そもそも英霊になるような奴が普通と言った時点で気付くべきだったか……」

 

 今日もいい事を聞けた。さて寝よう。

 

「あれ?今日から特異点攻略だよ!?」

 

 おやすみなさい。

 

 

 

以下、閑話

 

 

 

 ──犠牲は、大きかった。

 

 マシュも、ロマンもいなくなってしまった。ゲーティアを倒す事は出来たものの、マシュもロマンもいないカルデアの雰囲気は、久方ぶりに晴れた外とは違いどんよりと沈んでいた。

 ダヴィンチちゃんは一年ぶりに動き出した世界から俺たちを守るために一生懸命働いている。

 カルデアの残った職員達も、人理を修復したからってやる事が無くなったわけではない。

 

「……これは、正しい結末だったのかな」

 

 だれに聞かせるわけでもなく、そう独りごちる。

 

「いや、考えるのはよそう」

 

 とはいえ、やる事が全くないのでどうしても何か考えてしまう。もっと上手く出来たことは無いのか、俺は本当に正しい判断を出来たのか。

 変えようもない事がずっとぐるぐると頭の中回って、離れない。

 

「ロマンは、ずっとこんな気持ちを抱えて生きてきた」

 

 そうだ、人理の焼却という変えようのない未来を見て俺より長い年月悩んできた人がいるじゃないか。

 

「マシュは、俺を守って戦ってくれたじゃないか」

 

 戦う事が好きじゃない女の子は、サーヴァントとして立派に戦ってくれたじゃないか。

 

「俺は……」

 

 守られて、守られて、守られて。

 ロクに戦う力もないマスターが見捨てられないと前に出て何度マシュを、俺を助けてくれるサーヴァントを傷つけた?

 何人、救えなかった? 救えるはずの人を、己の無力で何人殺した?

 

「うっ……」

 

 迫り上がってくる吐き気をどうにか堪える。

 ……ああ、どうしようもなく弱い。

 これだけで吐き気を覚えてしまうほどに俺は弱く、脆い。

 ギリギリの綱渡りをクリアしてきて、どうにかこうにかゲーティアを倒す事が出来た。けれど、人理と引き換えに、大切な人が2人もいなくなってしまった。

 

「フォウ?」

「ああ……フォウ君」

 

 トコトコとやってきたフォウ君を抱き上げて、ふとマシュの事を思い出す。

 

『そろそろ、頃合いかな』

 

 え? と、その声の発生源に気を向けるまでもなく。

 視界がくるくると回り、地面についたと思えば、その先に。

 

 ──醜悪な姿の獣を見た。




こういう未来もあったんだろうね

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