逢魔ヶ時に鬼魔は来る。   作:庵パン

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――庵パン的言葉にして叫びたい日本語――

1位「アルルカぁン!!」
2位「レザマシオウ!」
3位「戦いのアート!」

当方、からくりサーカスに嵌っております。
日本語が少ないのは大目に見てください。
3位が2位の日本語訳とか、そこも目を瞑って下さい。




1話


枯れ枝が散在し、木の葉の絨毯が敷かれた上。

目前に広がる巨大な森。人工物らしきものは、すぐ右手に見えるツリーハウスただ1つ。

一磨はそんな場所で目を覚ました。

地獄から戻される時、閻魔王からは魂が肉体に戻った時のことを伝えられ、それと共に元から有った才覚を伸ばす神通力を授かった。

また、悪魔ないし妖怪の種類によっては人の心の隙間に入り込み、支配する者がいるという。母もそうした悪魔の一体に敗れたのだ。

そして三途の川を渡る前に取られたトレンチコートと、そのポケットに入る記録張のような物を渡された。

地獄には十二人の審判がいるのだが、仏教徒全ての死後を彼等で裁くのは時間が掛かるようだ。

それで現世の内から一部だけでも裁判の参考にすべく渡された閻魔の小手帳とでも言うべき代物なのだが、それなりに生きてる相応の事柄と苦痛を知る一磨でも人を裁くほど人間の法に精通してるわけではない。

何せ中卒である。

というか、ただの人間なのだから他人の一面しか見ることが出来ないし、偏見を持つこともある。

なので、モノノ怪や妖怪に関わる事案だけを日記のように書くことになった。

問題は一磨以外の者が勝手に手帳を使った時の対策だが、閻魔王はその対策は既に取ってあるという。

その調子で三途の川もICカードで渡らせてくれれば、こうも苦労することは無かったのに。

気付けは胸を貫かれた傷も、斬り落とされた腕も元に戻っている。

何処の誰が治してくれたのかは解らないが、新井似のラスが来たことから新井のマスが関係してるのかも知れない。

「っていうか……」

ここが何処なのかが分からない。渋谷駅にいた筈だが、一軒のツリーハウスが有る以外は木で覆われた森の中だ。ここまで自分を運んだとすれば櫻井が思い付くが、彼は居ない。

というか人影1つない。だが誰かに見られている気配は感じる。地獄で閻魔王に拡大された才覚は、人間は無い者を感じ取る才覚だ。近くに妖怪でもいるのか、或はただの動物か。

知りたいことは未だある。地獄ではどんな理不尽でも撥ね飛ばせる力があったが、今はどの程度にまでなっているのか。

気になる一磨は近くの樹木を手刀で斬ってみることにした。余り細い枝葉は勢いそのもので折れそうだから、それなりに太い幹が良い。

見回してみると家の柱に使えそうな太さの木がある。これを手刀で斬ってみよう。

想像の中では表皮から4~5cmめり込んでくれれば大したものだ。怪気象では人に害成す妖怪や悪魔を相手にするのだから、それくらい出来ないと困る。

一磨は何の気構えも無しに手刀を作り、相応に太い木をブッ叩いた。

「ガっ………!?」

まるでめり込むことなく手が弾かれる。地獄ではバッサバッサ亡者連中を斬り捨てていたのに……。

(なんだこれ……)

痛みで少し涙目になりながらも、閻魔王から授かった力は霊や妖怪を感じ取るだけの力なのかと理解した。この力のまま怪気象の原因を追わなければならないのか。

その時だ。

「おぉ、店長さん元気になったのか!」

アライ………マスさんの方だ。ラスそっくりだが刺々しさがない。だが何か慌てているようだ。

「新井さん? ここに連れて来て俺を生き返してくれたのって新井さんなの?」

「店長さんは元々死んでないのだ。死んだのが生き帰ったら怖いのだ。蘇生してくれたのはお(ばば)様なのだ」

新井が知ってる人物に「お婆様」と呼ばれる者が居るようだ。近くに居るなら礼を言わなければならない。いや、礼だけではない謝礼金なり形として謝意を顕す必要がある。あのままだったら一磨は死んでいたのだ。

「その“お婆様”って何処に居るの? ちゃんとお礼しないと」

しかし新井は慌てた様子のまま、次の言葉を言う。

「それより大変なのだ! サクライが大変なのだ!」

「た、大変ってどういうこと?」

一磨は何が有ったのか、事情を新井から説明されながら森を出て人の街へ向かった。

 

 

*  *                             *  *

 

1月の正月付近という時節柄か、渋谷の緊急病院は駅の近くに存在したが、そこに運ばれた櫻井の姿は既にその場所に無く、この時季でも運営されている東京の基幹病院である広尾病院に移されていた。

本来なら面会謝絶とのことだが、彼の両親が彼の病床の傍らにいる。

「本当なら面会謝絶って……」

病室から出ていた彼の主治医は言う。

「櫻井さんのご家族の方ですか?」

「いえ、バイト先の店長と同僚の従業員ですが……」

すると急かして病室に入って会ってやれと言う。

これで一磨は分かった。新井は既に知っていたから、一磨にあれほど急げと言っていたのだろう。

一磨と新井は看護師に言われ少しでも「時間を」稼げるよう、白い無菌衣を着せられる。

「時間って」

良くない考えが過るが、間もなく答えは解った。

通された無菌室の病床に横たわっていたのは、両腕と下腿を失い、腹の破かれて血で染まったガーゼを腹に当てた櫻井・幹夫。

自力で呼吸出来ないのか、ベッド横にはドラマで見るような立てかけ式ボンベのような酸素呼吸器がある。

「さ、櫻井!」

歩みだそうとするが、彼の両親を押し退けてまで行けない。

もう、最後の時が近付いてきているのだ。一家を割って入ることなど出来ない。

しかし両親は秋山と新井に気付いた。

「あぁ、秋山さん……。この度は息子の為に有難う御座います」

そう言ってから、父親が身体を開くように幹夫までの道を開ける。命の灯が消えようと言うのに、彼は必死に目を動かしていた。

言葉が出ないでも、意志を伝える方法は幾つかある。大き目の紙に50音を書き、その音を聞き手が示していき伝え手が瞬きなどの合図で示して行けばよいのだ。

幹夫はそうして一磨の身を案じ、呼ぶことが出来たのだろう。

しかし幹夫は呼吸器を付けながらだが、ゆっくりと一磨に言う。

「こ‥こわ、い。相手…が。死ぬ‥の…は…」

それはそうだ。幹夫は覚悟を固めた公務員、警察官やそれに類する人間ではなく、バイトしながら定職を探していた一般人である。四半世紀も生きてないのに、知る事のできなかった理不尽で命を奪われようとしている。

幹夫の両親が居るが、一磨は敢えて答える。

「大丈夫。大丈夫だ、幹夫。続きはちゃんと用意されている。あの世はあるんだよ。お前なら大丈夫だ」

魂の存在は科学的に証明されていない。だから人間は死ぬとただの有機体の塊になるという者が居る。しかし一磨自身、そうでない事を今さっき実践してきたばかりである。

一磨や新井と違い、幹夫はごく普通の人間だ。「気」というか、何の妖力も感じさせないから復活は無理だろう。

その場合でも地獄に行くとは思えない。幹夫は同僚に気を遣うこともある青年だし、なによりこの事件の被害者なのだ。

「あと、ちゃんと仇も取ってやる。そいつは地獄行きだろうが、お前は直ぐに輪廻の輪に乗れる。眠ったら、また何処かで目が覚めるさ」

「そしたら……また会いに来て良いですか?」

幹夫の言葉は弱々しかったが、最後の一言には力が込められていた。それは「祈り」を込めた言葉だったからだ。

「ちゃんとご両親の元にも会いに行けよ」

それを聞いたのか、幹夫は黙って目を瞑る

櫻井・幹夫はそれから目を開くことは永遠に無かった。

 

 

*  *                             *  *

 

 

両親に取っては掛代えの無い一人息子、そして一磨と新井にとっては現在唯一同僚の最後を看取り、四人は言葉も無く瞑目する。

医師は死亡確認してから看護師と共に気を遣い、病室を出ていった。

今の今までは医師や看護師を入れてば8人だったのだ。それが急に半分以下の人数になったことに、皆は大きな悲しみを感じる。

しかし幹夫の存在が消えた訳ではない。手垢にまみれた表現をすれば心に生きてるともいうし、今にも幹夫が目を覚ましそうな気がするのだ。

その日の内に幹夫の遺体は実家に移されるべく霊安室に行くという。

後になって聞いたのだが、世の中には腕や足を失った故人の為に義手や義足を作る技術者が居るそうだ。人間と言うのは人の死に至る細部まで生産活動の糸口にするのだなと一磨は思うが、確かに両腕と下体部を失った幹夫をそのまま冥送するのは生きてる者の責任としては味気ないし、故人が可哀想である。

幹夫の家は一磨の母方の父母と同じカトリック系キリスト教徒だが、幹夫本人は洗礼を受けていない。

だから地獄行きというのはキリスト教の勝手な思い込みなのでははなかろうか? 櫻井家は盆暮れ正月祝ってクリスマスにケーキを食す典型的日本人だ。

秋山の家では、母が嫁入りした時からこのような典型例にある日本人家族の形になった。

父と祖母は今一納得してなかったが、妻としても母としても出来る女であった恭代の宗教的儀礼を受け入れて来たのである。

それを考えても、一磨は父が母を想ってなかったとは思えない。

ともあれ、死後の人間の魂は最も心を寄る冥府に逝くのではなかろうか?

日蓮宗系の神仏習合に新たに神を一柱加えた一磨は、否定していた地獄という冥府に行った。否定するということは存在を認めることと同義語なのであろうか?

信ずる冥府の中で神道が一番強ければ、一磨の魂は肉体を離れた後、徐々に人格を失って神子孫を見守るか世を呪う神になるという話だ。

専門家でもないが、死後の世界への興味を隠し切れずに自身で調べて知ったことである。

幹夫の魂も仏道の冥府に行くのではなかろうか? 一磨が見た中では1人のみ地獄に落とされたが、死ぬ前の一磨はは全員が地獄行きだと思っていた。

一磨は池沼の影響からか性悪説で人間を見る。

幹夫の葬儀の際には……いや、葬儀の前にでも彼の亡骸に冥銭を捧げると良いかも知れない。此岸だけではなく、冥府でも金で苦労するのは酷だ。

ただ、此処は沖縄でも台湾でもなく東京だ。捧げるのは紙幣による現金になるだろう。

 

 

*  *                             *  *

 

 

幹夫の遺体が霊安室に運ばれる際は、両親は勿論一磨や新井も付添う。

家族だけの時間が必要かと思った一磨だが、幹夫は以前から店の店長である一磨を両親に話をしていたせいか評価が高く信頼が厚かった。そして新井は非正社員としては唯一の同僚という仲だ。

高校まで行った一磨だが、中卒という最終学歴を知る人間は少い。その中の一人が幹夫だった。

霊安室に向かう最中、幹夫は一磨が大学を卒業した自分より遥かに物事を知っていると両親に話していたという話を聞く。

実際は池沼を陥れる為に蓄えたワキの知識なのだが、大卒である彼より様々な事象に詳しいし、年の分だけ経験もある。

それを幹夫は「尊敬」という形で見ていたらしい。

MHWは一磨側の通信状況のせいで協力プレイは出来なかったが、幹夫にとって一磨は良い兄貴だったようだ。

実際、一磨の故郷には6歳下の弟がいるのだ。バイトではあったが、年の離れた弟分のような感じはしていた。

霊安室に行く途中、一人の眼鏡を掛けた男が彼等の前に現れた。

スーツは黒いが喪服とも思えぬ色柄のシャツを着て、櫻井の両親に「この度は御愁傷様」ですと、よやく聴こえるような小さな声で言う。

そうして看護師と、両親身らが霊安室の前まで幹夫が眠っている寝台が霊安室の前まで来る。

霊安室の中は屋外以上に寒いので少ししか居れないが、彼を安置した時になって両親は涙を隠さず息子が眠っている寝台に泣き付いた。

その感情が伝播したのか、新井も泣いている。一磨はと言うと、今一現実感を感じられなくて涙一つ零さなかった。

もしかしたら、母が死んだときの父の心境も同じようなものだったのかも知れない。

霊安室にすっといると涙も凍ってしまいそうな冷えた世界だ。何時までも生きている人間はいられない。

「お風邪を召しますので……」

同じような光景を見慣れているであろう看護師だが、そう話して櫻井両親を引き戻そうとする彼女の目にも涙があった。

悲しみは伝播するものなのか、元々彼女が人の痛みを知る人間だからだろう。

病院という場所には死が付ものだが、死を免れるために来るところでもある。

霊安室を出て、櫻井の父親が様々な手続きを経ている時に先程の眼鏡の男が再び現れた。

「あぁ、どうも。池黒さん」

池黒とは池沼に似た名前だ。縁者という訳ではないのだろうが、一磨は余り良い気がしない。

「櫻井さん、お渡しする請求額です」

そういって数字が書かれた紙を渡す男の背には、決してこの世の居てはいけない影が憑いている。

この男のモノではない。それは人が持って居て良いモノではない。

――この男に憑いている――

独りごちる一磨の前で、櫻井の父親の顔色が変わった。

「こんな……! 払える訳が!」

「息子の為なら何でもするって言ったじゃないですか」

「払うにも無い袖は振れないでしょ」

やはりそのテの男だ。断言は出来ないが、一人息子の為に老後の蓄えに治療に必要な金が必要になったと思われる。

それで、手早く借りれる相手がこの堅気とは思えない池黒だったという訳か。

「まぁ、それなら、ちょっと私たちの手伝いをして頂くだけで良いんですけどね」

「何を……!」

「それは後日お話します」

池黒はそれだけを言うと、さっさと病院から出て行った。

「櫻井さん、一体何が……」

一磨が櫻井の父親が受け取った紙を見ると、やはり借金の明細証だ。月毎に多額の利子が付く借金をしたらしい。

「あの、失礼ですがお幾らを借りたんです?」

「3000万‥‥程です」

数学が得意ではなかった一磨だから、直ぐに利率の計算が出来ない。

明らかに法定金利違反だ。インテリを装っているが法定金利という言葉すら知らない男なのだろうか。

すると、あの男が背負ってるのは人の怨みか?

「あ、あの。櫻井さん。何か御座いましたら何時でもご連絡して下さい」

このまま櫻井夫妻を放っておけば、一人息子を失い多額の借金を持ってしまった彼らは入水心中でもし兼ねない。

一磨の周辺で自殺者が出るのは、一人の人間としても閻魔王に仕事を任された者としても見過ごせない。

人の知性とは学び続けることにある。そう思ってる一磨だが、数学だけは出来ない。根からの文系男である一磨だ。

そしてある事実を忘れていた。

 

 

*  *                             *  *

 

 

帰りに寄ったコンビニで売られている100円おにぎりを手に持って賞味期限を見る。

通りすがりの人に「今日は何月何日か」と聞くのは怪訝な顔をされるし、答えて貰えるかも判らない。

だから賞味期限と製造年月日を見て今が何時なのか知るのだ。

1月の初旬らしいということは解っているのだが、年の始めの雰囲気は暫く持続するものだ。

一磨はあの世で1週間ばかり旅をしてる。

池沼からPHSに電話が来ないのは喜ばしいことだが、渋谷駅の爆発事件に巻き込まれて死んだと思われてるからだろう。

あの男はそれくらいに従業員を使い捨てる男だ。

そこで、はたと一磨は肝心なことに気付く。

池沼から支給されたPHSからは様々な昨日が抜かれ、日付も表示されないがGPS用にと買ったガラケーには日時と時間も表示されてる。

見ると、今が1月4日であることが判る。

1日ばかり無断欠勤してしまったようだが、冥府と此岸では時間の流れが違うようだ。

わざわざコンビニに寄った意味が半減してしまったが、今日は何も食べて無いから寄った意味はある。

今日は仕事を堂々と休んだが、まぁ死んでるか行方不明だと思われてるから文句は言われまい。

明日になって店に顔を出したら烈火の如く怒りそうだが、今夜の内に辞表を書いておこう。

勝手に辞めても良いのだが、一磨は池沼のよう他人の仕事を適当に評価し、従業員の生き死にすら顔を出さない適当な……悪く言えば生を無駄にする生き方が嫌いである。

かつて故郷の自分がそうであったが、人の生き死に……それも自分の会社の従業員の死すら見ようともしない男の生き方を拒絶し、ケジメを付けたいのだ。

一磨はそうして、その日の夜を終えたのである。

 

次の朝、一磨は再びバスと電車で渋谷の店まで向かう。

しかし同じ頃、新宿の一画にある歌舞伎町では何台ものパトカーや警察官が来る騒ぎが起きていた。

何らかの方法で、上半身をミンチ状に潰された人間の死体が見付かったのである。




善治おいちゃんがあっさり退場してしまいました。
いちごゼリーころころの下りが見たかったんですが、色々バッサリとカットされてますね。
まぁ4クール無いから已む無し。原作派になってしまいます。

いちごゼリーレロレロレロレロレロっ

はい、すいません。

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