逢魔ヶ時に鬼魔は来る。   作:庵パン

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久しぶりの投稿です。
ついでに作品タイトルを変えました。
黄昏も逢魔ヶ時も同じ意味なんで……(汗)


2話

形有るものが何時も同じであるものは無い。

「幹夫の命も同じで、また流転して何処かに産まれ落ちるはずなんです」

桜井夫妻には、幹夫の命が絶える前に語り掛けたことをそう説明する。

流転するのは命や形有るものばかりでは無い。運命すら流転すると一磨は信じている。

音もなく不幸がやってくるなら、幸運だって来て良いはず。ただ何もせずに来るのを待つのは心許ないから予兆は有って良い。

苦労や努力と言う名の予兆だ。一磨はその為に居るのだ。

桜井夫妻と別れる時、彼等は言っていた。「秋山さんの元で働けて、息子は幸せでした」

一磨の言った事を彼等なりに心に刻み込んだらしい。

だが一磨はそれだけでは満足しなかった。

家路は新井と一緒になる。

「新井さん、江戸時代の最初頃、キリストの宣教師が日本にやって来ても中々布教出来なかったのって知ってます?」

「それは知らないのだ。新井さんは過去は余り気にしないのだ」

これを嫁取った男がどんな男であるか実に気になるが、それは置いて一磨は話を先に進めた。

「全知全能の神が人間を作ったなら、なんで悪人まで作った……って問いに答えられなかったですよ」

1495年の8月15日に来日した彼のフランシスコ・ザビエルも、日本で宣教する過酷さを訴えている。

全てとは限らないが、多くの日本人が全知全能たるキリストの神の盲点を突いてきたのだ。

「俺ならこう答えますよ」

それはその行為事態が神の教えに背くことだから宣教師は答えることが出来なかったのだろうが、一磨は違う。洋の東西に関わらず坊主でも聖人君子でも何でもない。

「悪人は絞り取られる為に作られた…てね」

 

 

*  *                            *  *

 

 

1月5日の出勤日、池沼は珍しく午前10時になっても正午の時間になっても来なかった。昨日の内に退職届を書いた一磨だが、無断休業したり欠員だった時の大目玉が落ちてくる覚悟だったのに肩透かしも良いところだ。

その代り、一磨より出勤が少し遅い新井から驚くべき話を聞かされた。

シンジュクの「カブキチョー」の路地裏で、上半身が潰された人間の死体が見付かったというのだ。

新井の言う「カブキチョー」は新宿という地名から歌舞伎町と判断してよい。しかし裏路地で上体が潰された死体があるとはどういうことなのか?

現場を見ずに聞くだけでは分からないが、正常な事件ではないのだから帰ったらテレビでも見れば放送しているだろう。まさか、重機が入れないような路地で潰されていたということなのなら人間の仕業とは思えない。

「っていうか池沼、来ないねぇ」

歌舞伎町で見付かった潰死体が池沼の物であると、少し困る。

いっそ死んで消えて欲しい上司であるのだが、一磨の計画が狂ってしまう。今死なれると困る上司でもあるのだ。

しかしその日のは午後十時を過ぎても池沼は現れなかった。

一磨としては事件の詳細を知りたい。テレビやインターネットには猟奇な事件として引っ張りだこだろうが、ダミヤンにはテレビの類いが無い。

パソコンはセントラルキッチンが直通にして唯一の連絡先だから、外部からの情報は一切遮断されている。

情報が知りたければ、店を閉めて家かネットカフェにでも行くしかない。

「もう十時でろーどーきじゅんほう違反なのだ。帰って良いのだ」

「だよねぇ」

だが契約時の書面には午後十一時までが営業時間と書いてあった。これを破って池沼に隙を与える訳にはいかない。

「まぁ新井さん。ちょっとキッチンに」

偽の監視カメラが設置されてる場所で、悪巧みをしようと言うのだ。

結局その日、池沼がダミヤン渋谷店に現れることはなかった。

一磨と新井は客が来ない中、キッチンで、十一時まで○×ゲームで暇を潰したのである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

池沼が店に来たのは次の日の早い内だった。

早い内と言っても新井の直後と言って良い。このオーナーは一磨と違って札束を数える時間も睡眠時間も余る程あるだろう。

しかし、その顔色は決して優れたものでは無かった。悪性腫瘍でも拵えてくれれば一磨としても嬉しいところだが、彼は明確に背後を気にしながら店に来た様子だ。

この調子だと、一磨が無断欠勤した日も別の場所にフケていて欠勤に気付いてない可能性がある。

「どーも、お早う御座います池沼さん」

しかし、一磨は予想を切り替えた。この店舗は新井というマスコット的店員が居るからダミヤン渋谷店は売り上げが多い。金の亡者の池沼がこの店を見ないという可能性は低い。

ところが池沼は、事務所に保管してある昨日の売上金を回収しに来ただけだった。

昨日は無断欠勤しているから、そのことが池沼に発覚すると十分に拙いのであるが、昨夜から一磨も潮時と思っていた。早い話が店を辞めるのである。

割りの良い手駒としか思って無い従業員を池沼はただでは辞めさせないが、これだけ証拠を揃えたなら辞めることは出来るだろう。

「昨日の売り上げは少ないかったんだな」

「正月三日は家で過ごす家族が多いと思うのだ」

池沼の言うことに、一磨ははて?と思う。新井を見ると彼女がサムズアップしているので、彼女が独りで店を回してくれたようだ。

「まぁ池沼さん、俺。この店辞めますね」

池沼に損失の賠償を請求されないように店を回してくれた新井には悪いが、一磨にはやることが出来た。

「ま、待って欲しいのだ店長さん! アライさん独りじゃお店は出来ないのだ!」

最初の抗議は意外にも新井から来た。

「そのことは後で相だ……ん!?」

相談しようと言おうとした一磨は池沼に胸倉を掴まれる。

「秋山! お前今なんと言った!!?」

一磨の胸倉を掴んで、池沼は口角泡を飛ばして怒鳴り散らす。

「桜井と新井だけで、どうやって店を回すつもりなんだ!?」

池沼の言葉を聞いて、一磨は心底呆れた。3日の夕刻の渋谷駅で何が起きたのか、従業員がどのような状況にあるのか、池沼は知らないようだ。

「桜井君は昨日、渋谷駅で事故死しましたよ。知らないアンタは経営者失格なんじゃないですか?」

「また死にやがったか!」

また…と言うのが池沼の経営する会社の状況を如実に物語る。

「まぁ、ともかく俺はこの店辞めます」

「待て! 不満があるなら聞いてやる! 考え直せ!」

渋谷店を預かる一磨が、ダミヤンという中華料理屋で重要な人員であることは理解しているようだが、今の生活を続けても先は見えて来ないだろう。

「その言葉はもっと早く聞きたかったですね。では俺は一月後に暇を頂きますんで」

一磨が譲る気は毛頭無い。だが池沼は胸倉を掴む手を緩めずに言う。

「お前に料理師免許を取らせる為にどれだけ金掛けたと思ってるんだ! 実務経験を積ませるのに幾らかけたと思ってる!?」

そのどちらの金も一磨自身が払い、領収証のコピーは彼の手元にあるのだが、池沼は一磨に払わせた金で一磨を使う手綱にするつもりのようだ。

他店のダミヤン店主が職を辞そうとした時も、彼らをこき使って使い倒し、考える余裕を失わせたのだろう。

だが、一磨は違う。

「無理なものは無理です。最近、身体が言うこと聞かなくて、それでも有給も無いから検査入院も出来ないんですよ」

「お前が病院行くようなタマか!?」

実際、無理のあるライフサイクルでも一磨は病気も無く生きてきた。

蛇神の民の末裔で妖力が肉体の酷使を下支えしてるのか、寝不足が続いても今日まで持ち堪えている。

しかしそれは一磨の推論に過ぎない。余り身体を酷使してると何時か大きなツケを払うことになるかも知れない。

「事前に伝えましたからね。2月の始めに辞めますから」

「ならお前、金を払え。払ってから辞めろ」

「アレはあんたが勝手に受けさせたものでしょう」

「何だと!?だったら裁判だ!根こそぎふんだくってやるから覚悟しろ!」

池沼の顔が怒りで真っ赤に変色する。まるで茹で上がったタコのようだが、真意を悟られまいと一磨は顔を背けて呟く。

「それは困りましねぇ……」

そう口にする一磨だが、困る事など一切ない。裁判費用は池沼が出すだろう。そして裁判費用と一磨が退職するまでの人件費を請求する気でいる筈だ。

池沼が巧く術中に嵌まったことを、ほくそ笑む一磨だった。

 

 

*  *                            *  *

 

東京の地方裁判所は以前、八王子市内にあったが現在は2つ隣の町の立川に存在する。

池沼は集金以外にすることが無いのか、一磨が辞職を口にしたその日に提訴していたようだ。

訴訟提起からおおよそ一ヵ月後、一磨の姿は被告として立川にあった。被告は一回目の期日に限り、答弁書を提出しておけばその場に居る必要はないのだが、池沼からの仕打ちを直接裁判官に訴える為に来たのである。

被告となった一磨の都合など池沼が考える筈はない。

無職になった一磨は職業安定所に行きたかったが、第1回の口頭弁論は被告の都合など考えてはくれないのだ。

だから、収入の予定も無い中、ネットカフェか簡易宿泊に泊まることになる。そして無い金の中から脚代を掛けて立川まで行かなくてはならないのだ。

訴えの対象が140万円以下なら簡易裁判所だが、池沼は一磨の収入を無視するかのように500万円以上の賠償を要求している。

「新井さん、早くしないと裁判始まっちゃうって!」

被告側証人の新井も来ている。池沼の労使状況が如何に酷いか伝えて貰う為だ。また、答弁書で池沼の証言を否定したことからも一磨は一回目の裁判に出る必要があった。

繰り返すようだが、彼に弁護士を雇うような金銭的余裕はないのだ。

「急がなくても裁判所は逃げないのだ」

「いや、開廷時間が迫ってるから」

やはり新井には常人と認識がズレている所がある。今だから解るが、彼女からは人と違う「氣」らしき気配が感じられる。

裁判所まで急がなくてはならないのだが、その人物はその道の途中に居た。

「お、おい! 秋山! 秋山・一磨じゃないか!」

誰かと思うと、そこにはガッシリとした体躯の一磨より些か歳が上であろう男が居る。歳が上であろうと思われるが、健康的で肌の色艶が良い、そして冬でも日焼するような職に就いているであろう男だ。

「えー…っと、どちら様?」

こんな知り合いは一磨には居ない。と言うか、東京に知り合いなど、ごく限られた範囲にしか居ない一磨には誰だか解らない。

一ノ倉(いちのくら)だよ! 一ノ倉・孝則(たかのり)。忘れたか?」

「…って、あぁ、一ノ倉先輩!」

一磨は期せずして、同郷で中学と高校の先輩に当たる人物に出会ったのだ。

一ノ倉とは同じ中学を出て、高校に進学し、偶に男鹿の半島を出て秋田市内の秋田駐屯地祭に行くことが間々あった。

共にサバイバルゲームをやったことは無かったが「そういった方面」で同じような趣味を持っていた。

彼は高校を卒業し、宮崎の航空大学に進学したから空自のパイロットという進路を選んだと思っていたし、今の筋肉質の体躯を見れば正解だろう。

だが、立川には陸自の駐屯地しかなかった筈。空自の基地と言えるベースは無い。

「先輩は今は何処に?」

まさか立川ではないだろうと思っての質問である。空自に入ったなら、ここには用は無い筈だ。

「青森の三沢だ。立川には広報で来てる」

「……航空大に入ったんですよね?」

「あぁ、だから第三飛行隊に配属されてるぞ。新規装備の運用も俺の隊でやるんだ」

話しを聞くに、今の一ノ倉は佐官以上のパイロットのようだ。しかし空自はそんな人材を雑用に割かなければならない程、人が不足してるのだろうか?

勿論、その疑問を言葉は濁しつつ投げかける。

「まぁ装備を賄ってるのは国民の皆様から頂いた税金だし、そこから高い金出して採用した理由を解り易く広く説明しないといけないからな」

新規装備とはステルス性のあるF-35系列の戦闘機を指す。一磨は諸事情で余り興味を持たなかったが、小耳に挟んだ話しでは一機あたりのコストは開発の遅延などがあり、かなり高価になっているという話だ。

一磨なんかは国産機を採用できないのかと考えるのだが、以前にも攻撃機(今は全て戦闘機と呼ぶらしい)を採用する際にアメリカの横槍が入って共同開発となったF-2戦闘機という例があった。

「心神の話はどうなりましたかねぇ?」

一磨が国産機の話を続けようとした時、新井が口を開く。

「店長、裁判に遅れてしまうのだ」

先程はゆっくり向かおうとしていた新井だが、肝心な事を一磨に伝えてきた。

「ああ、そうだった」

「えっ、お前、何かやったの?」

民事で酷い上司に訴えられていることを手短に説明し、携帯アドレスを交換した一磨は急いで裁判所まで向かって行く。

本来なら一磨が池沼を訴えてやりたいところだが、裁判費用は向う持ちだから遅れるという不義理はしたくない。

 

 

*  *                             *  *

 

 

地獄とは違う異界にて、秋山・恭代(かずよ)は冥界の主たる閻魔王に直訴する。

「お願い申し上げます閻魔大王様。今宵、一磨の夢枕に立たせて下さい」

黄泉路に着いている死者は仏教徒だけではない。ヒンデューを信奉する者達も来るのだ。

そんな中、恭代は生前の行いを功績と認められ、閻魔王への謁見を赦されたのである。

彼女の死は自死ではない。名のある悪魔との戦いで敗れたのだ。

「しからば聴く。何の為に夢枕に立つ?」

「鬼魔と戦うことを辞めさせる為です」

恭代の応えは早かった。というより、長男の魂の強さを見ればそれ以外に言う事は無いのだ。

「人の身で鬼魔と戦うことの苛酷さは誰より知ってるつもりです。あの子まで早逝させたくはないのです」

閻魔は静かに聞いていたが、ふっ、と恭代に返す。

「一磨とて鬼魔の類いを相手するのは、一筋縄にはいかぬことくらい心得ておるだろう」

現に、人の心に巣くう強欲という名の魔物と戦ってる最中である。

それでも、彼は少ない手札から最良の選択をして敵にツケを支払わせようとしている。

「お前の息子は悟い。鬼魔との戦いでも闇雲に戦ったりはしないだろう」

強欲との戦いに備え、そのような戦い方を身に付けたのか、元から備わっていたのかは解らない。

しかし、あの男なら人間の限界を見極めた闘いを小悟く立ち回ってくれるであろうことを期待している。

「息子の夢枕に立つことは赦す。しかし一磨が決めた道は一磨自身が選ぶ物であることを忘れるな」

恭代は失念していた。息子を想うが余り、息子が決めた進路を阻もうとしていたことに。

それは一磨の人格を否定することにも繋がる。親にとって子供は何時まで経っても子供だが、恭代は異界から何時も一磨を見守って来たし、彼や子供達、そして夫の魂が平穏であるよう祈ってきた。

祈りは実を結び、今度は長男が次なる生き方を獲ようとしている。

それを邪魔する権利は、恭代にはない。

閻魔王の言葉を聴いた恭代は、静かに頷き、王の言葉に従うことにした。

 

 

*  *                               *  *

 

 

裁判は全面的に原告側が劣勢だった。

一磨はこの日の為に十年を越える月日を備えて来たのだし、その為の用意をしている。これを当然の結果だと彼は考えた。

その次の回も被告側である一磨の主張が裁判官だけでなく傍聴人、延いては池沼が裁判を起こしたことをしった多くの人々のの支持を得ている。

それもそうだろう。池沼グループの企業ではこれ迄に何人もの人間から訴えを起こされて来た事実がある。

企業の犠牲になった人間が非常に多いのだ。一磨に始まった事では無い。

だが多くの場合で被雇用者は多くの職務を長時間に渡って押し付けられ、考える暇と力を失わされていた。

地方裁では一磨の圧倒的勝訴が確定的となったが、ここで池沼は思わぬ手を使って来た。

元アイドルの人寄せ用の従業員で、現在女優業をしている女性を証人に連れて来たのだ。

(何しに来たんだ?)

それが一磨の素直な感想だ。

ちなみに、新井は初回の口頭弁論でダミヤンで自分が置かれた労働環境、そして一磨がどれ程酷使されているであろうことを率直に述べただけである。曰く「アライさんより早くきてアライさんより遅く帰る」と、解り易いものである。

新井の一人称が「アライさん」であることを不思議に思った裁判官、及び傍聴人は沢山居ただろう。しかしその点への質疑は無く、今日まで来てしまっている。

恐らく多分、問題は無いのだろう。

しかし今日はそれどころでは無い。

元アイドルの女優が、あろうことか一磨からセクハラされたと訴え出したのだ。

ダミヤン渋谷店には防犯カメラが設置されている。それを調べて事の真相を糺せば良いのだが、そこに映ってる映像には客足が捌ける昼過ぎの時間帯に彼女と一磨がテーブルに向かい合って会話する姿が映っていた。

確かに、十五年前に他店のダミヤンで自殺者が出てから従業員に対して一磨は悩み事や相談事がないか面接をしてきてる。

ダミヤン渋谷店が同系列の他店より離職率が低いのもその為だ。

しかし、音声が無く映像だけである。一磨が気安く彼女に触る場面など映ってないし、そもそも他の従業員にも面接しているのだ。

勿論、その旨を一磨は訴える。

だが、その部分は削除したのか記録を提出していないのか、池沼は作為的にその場面は映さない。そもそも論点のすり替えだ。

「おかしいでしょコレ」

池沼と言う男は金の力で何でも出来る。何をやっても許されると思ってる男だ。

弁護団だって金に明かせて集めた連中だし、裁判官を買収することだって考えられる。

幸にして裁判官達は買収されている訳ではなかったようで、彼女の訴えを聞き入れることは無かった。

証拠不十分というのでは無く、一磨が被告になっているのは「契約に違反して店を営業しなかった」のが問題とされたからなのだ。

単に池沼の論点ずらしが成功しなかっただけである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

最終的に、第一審では一磨に賠償金の支払いは命じられなかった。

夕刻を迎え、裁判所は闇に包まれている。

(実に無駄な時間を過ごした――)

今からでは職安も閉まっているだろう。

免許も持ってない上に中卒の一磨では再就職も難しいが、このまま生きて行くのに金銭を投尽していくのだけなのは気が重い。

「秋山ァ!」

見れば池沼が顔を茹でタコのように真っ赤にして一磨を睨んでいる。

「オレぁまだ諦めんからな! 何やってでも貴様に500万‥いや、1000万払わせてやる!」

「はあ?」

このオッサンは懲りないらしい。世間的には完全に自分が悪者になってるのに、金銭欲か池沼の生きてきた環境がいけなかったのか裁判を続ける気でいるようだ。

求められた裁判に出廷しなければ、一磨が非を認めたということにされてしまうのが厄介だ。代理人が居れば代わりの出廷を頼めるのだが、東京にそんな暇な知り合いは居ない。

その時、2人の身体の間を特段冷えた風が吹き抜ける。

「きゃぁぁぁぁ!!」

証人の女が叫ぶと同時、一磨は新井とは違う胸糞悪い「氣」を感じた。

この世にあってはならぬ「氣」だ。それは地獄で感じたものである。

風が吹き止むと、そこには下半身が潰れた肉玉のようになり、鋭く長大な爪を持った鬼がいた。角が見られないから鬼という表現が正しいかは解らない。

だが、この世に居てはならない存在であることは明白だった。




いよいよ本番って感じですが、
一磨って此岸ではまだ戦えないんですよね。
どうすんでしょ。俺よ。

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