更新のペースが安定してなくてすみません。
間が開き過ぎないように頑張ります。
では第9話どうぞ。
「
「そうだ。俺もオマエも少なからず実験に対して責任がある。最初は俺一人でやっちまおうかと思ったが、それじゃオマエが納得しねーだろ?」
「そ、それはそうだけど……」
霧嶺冬璃は御坂美琴の心を見透かしていた。
人とは追い詰められると意外と行動が単純になってしまう。霧嶺はきっとそこから予想したにすぎないのだろう。
美琴は霧嶺冬璃の目的が測れないでいた。
自分にも責任がある、とも言っていた。
それ故に美琴は一つの可能性を導き出した。
(コイツは、味方なの……?)
そして、霧嶺はその考えすらも分かっていたかのようにハッキリと告げる。
「あぁ、味方だとか思うなよ?俺はただ利害が一致するからオマエと話に来たってだけだからな」
「利害の一致……?」
「オマエは『
その通りだ、と美琴は心の中で頷いた。
幼かった御坂美琴は筋ジストロフィーの患者を救うつもりで、自身のDNAマップを提供した。だがそれは美琴のクローンを作るために使われ、今もこうして実験の為に犠牲になっている。
美琴はそれを何としてでも止める、それが原因を作り出した美琴のせめてもの罪滅ぼしだと思っているからだ。
それならば霧嶺冬璃の言っていることも間違いではない。
しかし、ここで一つ問題が発生する。
美琴は霧嶺冬璃が言う『彼の責任』の意味が分からなかった。
どういうことなのか、
美琴は聞かずにはいられなかった。
「アンタの責任って、何なのよ」
「ん?そうだなぁ、一言で言えば……孤独ってのが正しいかもな。俺はアイツから逃げたのさ」
逃げた。霧嶺のその言葉に嘘はない。
だが、それだけで、その一言だけで満足出来るほど美琴には余裕がない。
そうだな、と美琴の表情を見てから霧嶺は付け足す。
「信用も必要だ。いいぜ、昔話をしてやる」
そう宣言した霧嶺の目は未だに、どこか遠い所を見ていた。
◆
学園都市に数多く存在する研究所、その一つに10歳くらいの少年は連れてこられた。
傍らには白衣を来た20代後半の男性。この研究所に所属する研究員だ。
顔立ちから彼らは親子のようには見えない。実際彼らは親子ではないのだから当然だろう。
少年の顔色はお世辞にも良いとは言えない。ストレスや不安、原因は様々だろうがとにかく、年頃の子供がする表情ではなかった。
さて、と隣にいる研究員が明るい口調で切り出す。
「今日から君にはここで生活してもらうよ。なに、悪いようにはしない。君にはこの街の頂点に立てる可能性があるのだから」
研究員は笑っていた。少年を安心させるように、少年に希望を持たせるように。
「……強く、なれるの?」
少年の声は暗いものだった。それでも視線は研究員に向けて上がっていた。
「ああ、なれるとも。それでまずは君に紹介しておきたい子がいるんだ」
その声に合わせるように、別の少年が通路の前から歩いてきた。
こちらも傍らに研究員を付けて。
「紹介しよう。彼は
少年が受けた印象は白。髪も肌も透き通るほどに白い。赤い瞳と灰色の服がより際立って見える。整った顔立ちだが中性的で女性と見間違えそうになるが、研究員の話によれば男らしい。少しだけ目付きが悪い。
「
こちらも顔立ちは整っており、
「まだ来たばかりだからね、とりあえず検査を受けにいこうか」
そう言って研究員は霧嶺を別の部屋へと連れていった。
検査は10分程で終了した。
身長や体重、血圧などを測り。その後に軽く脳をスキャンしたくらいだった。
霧嶺は別室で検査着から私服に着替えていた。
そこで部屋のドアがノックされ霧嶺の返事を待たずに開かれる。
「おっと着替え中だったか、すまないね」
別段研究員は驚くこともせず淡々と謝罪をした。
研究員はそのまま続けた。
「今日はこれて終わりだよ。せっかくだから
話を聞きながら着替えを終えた霧嶺は、研究員の言葉に頷くとその部屋を後にし生活スペースへ向かった。
その名前。
だが、能力の発現に伴いそれからはずっと能力名である
そして能力。彼はあらゆる
そのために発現した当時の彼は無意識の内に周りのモノを傷つけてしまっていた。
10歳程で周りから化け物と称され、恐れられてしまった
だが今日、
霧嶺冬璃。新しく研究所に来た少年だ。
だが
何となくではない。それは彼の経験から来るものだった。
(どォせ、アイツも同じだ)
霧嶺冬璃もすぐに居なくなるのだろうと。だからこそ彼は期待しないようにした。
そこで
部屋のドアが開き、霧嶺冬璃が入ってきたからだ。
霧嶺は部屋に入ると、
「……」
「……」
どちらも話すことはなく、数分が経過した。
沈黙を破ったのは霧嶺だった。
「あ、あのさ……」
「あ?」
いきなり声を掛けられた
その目を見て霧嶺は少し怯えるが、そのまま続けた。
「
いきなりか、と
普通は軽く自己紹介でもしてからだろう。
もしかしたら目の前の少年は常識が欠けているのでは、と
「違ェよ。能力名だ」
ぶっきらぼうに
別に会話がしたくないという訳ではないが、ついつい会話が途切れるような返答をしてしまった。
だが、意外なことに霧嶺冬璃は会話を続けてきた。
「どんな能力なの?」
「『
「髪とか目の色も能力のせいなの?」
「そォだ」
最早会話というより面接試験のような質疑応答だった。
役は逆にすべきだろうが。
しかし、ここで霧嶺の質問は途切れた。
質問する内容が尽きてしまったのだろう。
ならば、と
「オマエ、能力は?」
「え、えっと……エネルギーの増減……」
「能力名は?」
「
「オマエの髪は能力のせいか?」
「うん」
自分が受けた質問と同じものを聞いただけだが、今
だが、霧嶺が予想外の質問を投げる。
「
「────」
それは
目の前の少年が不安そうな視線を向けているのが見え、悪意は感じなかった。
それならいいか、と
「能力で周りのヤツを傷つけちまうから、俺は独りの方がいいンだよ」
「寂しく、ないの?」
「……別に」
霧嶺から視線を外す。寂しくない、というのは
原因は自身の能力とはいえ、周りから恐怖の対象にされ遠ざけられる。とてもではないがそれは10前後の少年が経験するには重く、辛いものだ。
それでも
自分は独りでなければならない、そう心に言い聞かせる。
「そういうオマエはどォなンだよ」
研究所に来る、ということは
以外にも理由があるのだろう。
それを
「……能力の制御が出来てなくて、皆を傷つけて。でも制御さえ出来れば大丈夫で、
能力によって他人を傷つけ、
「似てるな、俺と」
「うん……あのさ」
霧嶺冬璃は
「友達になろうよ」
「……は?」
今まで彼と関わって来た人間は、研究員を除いてその全てが
目の前の少年は
もしかしたら彼は
それでも期待はしない方がいいと、彼はまたぶっきらぼうに答える。
「……好きにしろ」
その日から、彼の周りは少し騒がしくなった。
◆
霧嶺冬璃が研究所に来てから半年位が経った。
そして霧嶺と
悪い意味ではなく、良い意味で。
お互いが少しずつ心を開いていったのだ。
「はァ……」
検査が終わった
最近はブラックに挑戦しているようだ。
そして缶コーヒーを手にベンチに座りプルタブを開けたところで、
「検査終わりか?」
斜め後ろから声がした。
しかしベンチに座った
そしてそれに慣れてしまった
「そォいうオマエは何してンだ」
「いやー、俺も今さっき検査終わってよ。暇なんだよ」
上下逆さまになり壁に張り付くように胡座をかいて浮かびながら、霧嶺冬璃は
「お前それブラックじゃん。飲めんのかよ」
「当たり前だろォが、俺を誰だと思ってやがる」
そう言って
まずは苦味、そして鼻に抜けるコーヒーの香りの後にまた苦味。
「お味は?」
「悪くねェ」
「本音は?」
「……苦ェ」
「飲めてねーじゃん」
「飲めてはいるだろ。つーかそれならオマエはどォなンだよ」
「無理無理。カフェオレみたいに甘い方が美味いね」
「糖尿になンぞ」
「んな頻繁に飲んでねーよ」
こんな会話をするくらいには彼ら2人の関係は親密なっていた。
2人の様子を見ている人間がいれば、間違いなく友人同士と言うことだろう。
「オマエ、実験の方はどうなンだよ」
「ん?あぁ、もう増減だけじゃなくて操作も出来るようになったし。明日から本格的にやるって」
「……そォか」
どんな実験か、など
彼もその内容については聞いていたからだ。
「俺の対となる
「そうそう。『
本当にそんなことが出来るのか、と
「でもよ、もし俺がそうなった場合って序列どうなるんだろーな。やっぱ俺が第一位?」
「ハッ。な訳ねェだろ、オマエは第二位に決まってる」
「は?」
「あ?」
しかし、霧嶺に対する一種の信頼のようなモノが芽生えていたのだろう。
霧嶺冬璃ならば出来るかもしれない、そう思っていた。
次の日、つまり霧嶺冬璃を対象とした実験が開始される日。
ガラス張りの部屋に設置されたベッドの上で、頭に機械を装着させた霧嶺にガラス越しに研究員が説明を始める。
「いいかい?君が目指すのはあらゆる『
『
研究員は霧嶺へ散々説明を繰り返し、念入りに実験内容を確認させる。
そして一言、
「君は『そこに在るモノ』を掴み取るんだ」
実験は開始された、霧嶺の頭に付けられた装置の電源が入り脳波を調節し、最適化するために電波が送り込まれる。
霧嶺冬璃はそれに合わせて演算を行い周囲を観測し、掴み取る。
そして、
バキン、と。頭の奥で何かが割れる音がした。
脳が割れ、間で火花が散るような刺激を感じた。
直後、霧嶺冬璃の周囲が歪む。
演算が狂い、制御が出来なくなる。
それが意味するのは、
暴走。
「がッ、ァァァァああああああああああああああッ!!」
霧嶺が頭に付けていた装置だけではない、ガラス越しにあったパネルやモニターからも電気が漏れ火花が散る。
研究員達はすぐに対処をしようとする。
「何が起きている!?まずい……実験を中止しろッ!」
「だめですッ!信号が送れません!」
「……
研究員の1人が生活スペースにいるであろう
ズバァ!という音と共に光と熱を伴った光線が研究員に襲いかかる。
そして、研究員は下半身だけを残してこの世から消滅した。
「なッ!?」
残った下半身はバランスを失いボトリと倒れる。その断面から赤が広がっていく。
最早
それを許さないかのように、光線は研究員達の命を刈り取る。
だが、突然光線の雨は止んだ。
霧嶺冬璃が意識を失い倒れ込んだからだ。
その頭には先程まで付けられた装置はなく、彼の足物で粉々になっていた。
理由は施設内に鳴り響いた轟音。
この研究所にいる人間の中でそんな音を鳴らせるのは
初めての友人と言える存在、いつの間にか心を開いていた存在。
その相手に何かが起こっている。
それだけで
モニタールームに着いた
床一面に広がる赤い血、生き残り呆然としている研究員が一人。
そして、
力尽きたように倒れている
「ッ!?」
何が起きたのか
────実験が失敗し、霧嶺冬璃が暴走した。
そんなことはすぐに分かってしまった。この惨状を見れば誰でも分かることだろう。
だが、
「オイ……どォいうことだ……何で────」
その声は震えていた。
辛うじて絞り出したような、今にも消えてしまいそうな心の叫び。
信じていた。だがそれと同時に嫌な予感もしていた。
そしてその嫌な予感は的中してしまった。
今まで霧嶺冬璃は
それは霧嶺が何かをしたのか、
どちらにせよ、霧嶺は
そんな彼が、
「────何でそンな事になってやがる、霧嶺ェ!」
霧嶺冬璃は
ある意味で、
それがどうだろうか、その彼はこうして傷つき倒れている。
だからこそ
「俺が……俺がコイツと居たから────」
────
霧嶺冬璃が意識を取り戻し立ち上がったのだ。
未だに足がフラフラと揺れ、意識が完全にはっきりとしている訳ではない。
それを見ていた、一人生き残ってしまった研究員は叫ぶ。
「何、故だ、何故なんだ!ふざけるな、この失敗作!」
死への恐怖から狂い、挙句の果てに出た言葉は罵倒。自身の研究を破綻に追い込んだことへの怒りを含んでいることだろう。
「一体お前の為にどれだけの費用を費し」
それ以降の言葉は聞けなかった。
霧嶺冬璃が明確な殺意を持って光線を放ったからだ。
人一人分程の光線に巻き込まれた研究員は跡形もなく消し飛ばされた。
そして、
霧嶺は
彼は逃げるように
昨日までの『
ということで今回は過去話でした。
原作を元にさらにオリジナル要素を加えるのがすごく難しいなーって書いてて思いましたね。
初めて叫び声を入れた気がする。
感想、お気に入り、評価待ってます。
良ければ活動報告の方も見てくださいね。
ではまた次回。