今回は一応
次の章に入る前にまた閑話を入れるつもりではあります。
それでは第12話、どうぞ。
霧嶺が目を開けると、そこは病院の一室だった。
病院特有の薬品の匂いで、霧嶺は完全に目を覚ました。
カーテンの隙間から光が差し込んでいるあたり、恐らくは朝方なのだろう。
全て終わった。
自分がここに居るということは、つまり、そういう事だろう。
頭の中で整理を行い体を起こす、その際にかなりの痛みが回ってきた。
麻酔はもう切れているのだろう。
身体中の痛み、特に左腕と腹部だ。
確認してみれば、左腕は固定され、腹部も湿布と包帯だらけである。
よくここまでボロボロになったな、と霧嶺は呆れた。
「目が覚めていたのですね、とミサカはあなたの回復の早さに驚きます」
ゆっくりと開いた病室のドアから、
「……オマエ」
傷は大丈夫なのか、と霧嶺は聞こうとしたがよく見れば目の前の
「ミサカの
「そうかよ。アイツ、10032号の方は平気なのか?」
「問題ありません。あなたとあの人のお陰で軽傷です。今はあの人の病室へ行っています、とミサカは自分の心配をしろよという本音を隠します」
「隠せてねーぞ」
『あの人』、その言葉に霧嶺はツンツン頭の少年を思い出す。
大丈夫ならいい、と霧嶺は痛む体を動かしてベッドから立ち上がる。
「あなたはまだ万全ではありません。寝ていなければいけないのでは、とミサカは正論を口にします」
「喉が乾いたんだよ、内臓は問題ねーんだから好きなモン飲ませろ。それに足は無事なんだ、多少動き回っても平気だろ」
「手伝いますよ、とミサカは気遣い出来るアピールをします」
「ダダ漏れだぞ、オマエ」
とはいえ片腕が使えない霧嶺は、強がらずにミサカの気遣いを受け入れた。
◇
霧嶺とミサカは病院内に設置された自販機の前にいた。
自販機が設置されている場所にはベンチがあり、2人はそこで休憩していた。
「ほらよ」
霧嶺は『ヤシの実サイダー』をベンチで座っているミサカに投げる。
「ありがとうございます、とミサカは炭酸飲料を投げるあなたに呆れながら感謝を述べます」
「うるせぇ」
そう言って霧嶺は買ったおしるこを片手にミサカの隣に座る。
「手伝いましょうか、とミサカは再度気遣い出来るアピールをします」
「いらねーよ」
霧嶺は器用に片手で缶を開ける。
実際の所は能力を使ったのだが。
「つまらないです、とミサカは頬を膨らませます」
「何してんだ、オマエ」
ミサカの不満を他所に、おしるこを口に流し込む。
「で、なんでオマエがここにいるわけ」
霧嶺はミサカが病室に入ってきた時からの疑問を投げかける。
「調整です、とミサカは簡単に答えます」
「調整?」
「はい、ミサカは元々が短命な体細胞クローンですから。そしてそこに様々な薬品を投与した為さらに短命になっています。それをある程度回復するための調整です、とミサカは事細かに説明します」
「なるほど、ホルモンバランスを整えて、細胞核の分裂速度の調整か」
「その通りです、やはりあなたはあの人よりも理解が早いのですね、とミサカは感心します」
「どっかの研究施設に移されんのか?」
「はい、しかし残った全ての『
「なるほどな、あのカエル医者も随分と挑戦的なモンだな」
霧嶺は飲み終えた缶を捨てて自販機に向き合う。
「まだ飲むのですか?」
「部屋に持って行くんだよ、それくらい構わねーだろ」
そう言いながらお金を入れた所で、商品の中に懐かしいものを見た。
「これは……」
「おや、そのブラックコーヒーが何か?」
「別に、ブラックは好きじゃねーって思っただけだ」
霧嶺は気を取り直しておしるこのボタンを押そうとして、
「あ!!見つけた!!」
いきなりの大声に先程見ていたブラックコーヒーのボタンを間違えて押してしまった。
「「あ」」
霧嶺とミサカの声が重なる。
ビビリという訳ではないが、いきなり大声を出されれば驚きもする。
「嫌いなものを飲むとは変わっていますね、とミサカは笑いを堪えます」
「黙ってろ」
ミサカの頭にチョップを入れながら、声のした方向を見る。
「探しましたよ霧嶺さん!起きたのはいい事ですが勝手に出歩くのは感心しません!さ、病室に戻りますよ」
恐らく霧嶺の担当をしている看護師だろう、かなり焦った表情で霧嶺の腕を掴んで引きずって行く。
それもそうだろう、ずっと寝ていた患者がいきなり部屋から居なくなるなど焦るのも無理はない。
「あとミサカさんも、あまり無理はしちゃダメよ」
「ミサカはこの人に無理やり、とミサカは泣き真似をします」
「おい……てかオマエ、引きずんな!俺は病人だろ!」
「ダメですよ、また勝手にどっか行かれたら困りますからね」
「ぷぷぷ、とミサカは引きずられるあなたを見ながら笑いを堪えます」
「オマエ、後で覚えとけよ」
◇
看護師に引きずられベッドに突っ込まれた霧嶺は大人しく座っていた。
「私は少し席を外します、とミサカはお辞儀をします」
「おう」
そのままミサカは部屋を出ていく。
「やあ、調子はどうだい?」
そのミサカの入れ替わりるようにカエル顔の医者が入ってきた。
「問題ねーよ。痛みはあるがな」
「そりゃそうだ。外傷は少ないけど君の方が彼よりも酷いんだからね?」
ふざけた語尾上がりの口調にウンザリしながら、『彼』に思いを巡らせる。
「あのウニ頭か」
「まあ彼はウチの常連だからね?今更驚かないよ。それよりも僕は君が運ばれた事の方が驚きだね?一体何をしでかしたんだい?」
「関係ねーだろ」
「そうかい。分かってるとは思うけど左腕は骨折、と言ってもヒビの延長みたいなものだね?どちらかと言えば酷いのは体の方だね?全身打撲、肋骨にはヒビが入っていたよ。背骨は何とか無事だね?」
「そうかよ」
「ああそれと、彼はまだ起きてないんだね?恐らく受けた傷はそれ程でもないんだけどね?たぶん相当傷、というか痛みに耐性がないんだね?」
何があったか分かってんじゃねーか、という言葉を抑えて霧嶺は窓の外を眺める。
「それじゃあ僕はもう行くんだね?患者は君だけじゃないんだ」
「わかってるよ、早く行け」
「いいのかい?彼は────」
「いい、いらねーよそんな気遣い」
「そうかい。ああそうだ、君の担当の子。新人だからあまり困らせないで欲しいんだね?さっきなんてパニック状態だったんだからね?」
「はいはい」
「それじゃあ、安静にしているんだね?」
「ああ────ちょっと待て」
「うん?何かあったかい?」
呼び止めたカエル顔に向かって先程買ったコーヒーを投げる。
「俺はブラックなんて眠気覚まし程度にしか飲まねーからな」
「……友達思いなんだね?」
「そんなんじゃねーよ。アイツはただの腐れ縁だっての」
◇
医者が出ていった後、仮眠を取っていた霧嶺は30分程して目を覚ました。
そこで右腕が不自然に伸びていることに気がつく。さらに言えば何か柔らかいものを触っている感覚。
顔を右に動かすと、
「あ、目が覚めましたか、とミサカは軽く挨拶をします」
ミサカが座りながら、霧嶺の右手を自身の胸に当てていた。
「何してんだオマエ」
霧嶺は別段麻酔が効いている訳でもないので、手の平から柔らかい感触がダイレクトに伝わる。
「生体電気を介して、あなたの脳波と心拍数を計測しています、とミサカは10032号の真似をします」
「残念ながら、俺はその程度じゃ動じないからな」
「それはつまらないですね、とミサカはそれでも続けます」
「やっぱオマエ変だわ」
と霧嶺は呆れながら体を起こす。
そこで病院のドアが開く音がした。
「起きてるー?」
「おいビリビリ、寝てたらどうす」
入ってきたのは御坂美琴とあのツンツン頭の少年だった。
しかし、入ってきた2人は固まっている。
主に霧嶺の右手を見ながら。
「?」
「ちょ、あ、アンタ、それ何してっ」
「…………」
顔を赤くして戸惑う美琴と、同じく顔を赤くしながら顔を逸らすツンツン頭。
「あ、お姉様」
「どうしたんだオマエら」
「あ、アンタっ、う、腕っ」
そう言われて自身の右手を見る霧嶺。
特に変なところは無いはずだ、
ミサカの胸に手の平が当たっている以外は。
なるほど、と霧嶺は美琴の言っている意味を理解して美琴を見る。
「な、何よ」
「ガキだな」
「っっっっ!?」
羞恥に塗れた美琴の体から電気が漏れだした。
それもそうだろう、クローンということは自分と全く同じ体、つまり自分の胸を触られているのと同じなのだから。
◇
病院にも関わらず電撃を放とうとした美琴を鎮めるのに5分ほど費やし、上条との自己紹介も済ませ、霧嶺達は向かい合った。
ミサカは説得して、席を外させた。
「そ、それで、あんた……」
「なんだよ、まだ怒ってんのか?安心しろって、胸触るくらい大したことないだろ」
「あるわ!」
「ま、まあまあ」
「ふぅ……それであんた、もう平気なの?」
「まあ一応はな、左腕は当分使えねーが」
まあ俺は、と霧嶺はツンツン頭の少年、上条当麻を見る。
「オマエの事が気になるがな」
う、と上条当麻は目をそらす。
「てことでオマエは少し席外せ」
「……分かったわよ」
不機嫌そうにしながらも美琴は言う通り病室を出ていく。
さてと、と霧嶺は体勢を変える。
「で、オマエは何なんだ?」
「何なんだと申しますと」
「正確にはオマエの右手か」
「………」
「言いたくないならいい────」
その言葉に上条は安堵、
「────とでも言うと思ったか」
出来なかった。
「まあ安心しろよ、
「何でそれを」
「深い部分に色々と関わってるからな。まあ安心しろ、無駄なことは好きじゃない」
それはつまり、口外する気は無いという事だと、上条でも理解できた。
「まあ俺も助けられたわけだしな、恩を仇で返すのもこっちとしても後味が悪いからな」
「そ、そうか、ありがとな」
「おい、もういいぞ」
ドアの近くにいるであろう美琴に向けて呼びかける。
予想通り近くに居たようで、美琴はすぐに入ってきた。
「聞いてないから」
「分かってるよ」
「あ、そうだ。はいこれ、お見舞いのクッキー」
「へー。まあ俺は和菓子の方が好きだがな」
「アンタも文句か!」
も、という事は上条も何か言ったのだろう。
一瞬だけ上条に目を向けると、バツが悪そうに目をそらされた。
「別にそんなんじゃねーよ。菓子は全般好きだから安心しろ」
「……ありがとう」
「あ?」
「アンタもあの子達を助けてくれたでしょ」
「……俺はただ
「それでもよ、結果的にあの子達は救われた」
それに、と美琴は付け加える。
「アンタ、前にもあの子達を助けてくれたんだって?」
(あのカエル野郎、余計な事言いやがって)
予想以上に口の軽いカエル顔の医者に霧嶺は顔を顰めた。
「ただの気まぐれだよ」
「まあ最終的にはコイツが全部持ってっちゃったけどね」
「黙ってろ」
そのまま霧嶺はベッドに寝転がった。
「ったく、話は終わりだろ?俺は寝るぞ」
「はいはい。ほら行くわよ」
「あ、ああ」
◇
「おや、目が覚めたんだね?」
耳につく語尾上がりの声に振り向く。
丁度カエル顔の医者がカルテを持って病室に入ってきていた。
「何の用だ」
「患者の様子を確かめるのも僕の仕事だからね?」
チッ、と
「起きたばかりで悪いけど君の状態を教えておくよ。とはいえ、顔を殴られた影響で軽く脳震盪が起きているという程度だけどね?ただ、君は随分とそういうものに慣れていないそうだからかなりのダメージになっているみたいだ」
しかし医者の言葉で、昨日のことを思い出していた。
つまり、
自分は負けた、あの2人の少年に。そして、実験は恐らく中止だろう。
負けた、という事実は胸糞悪いが、実験が中止という事には何も思うところは無い。
むしろ、心のどこかで安堵している自分がいる。
(そういう事かよ、つまり俺は)
誰かに止めて欲しかったのだ。
馬鹿げた事をしている自分を、あのクソみたいな実験を。
「ああそれと」
カエル顔のその言葉に
「これを預かっているんだね?まあ本来ならダメと言いたい所だけど、君の状態は酷いわけではないし今回は特別なんだね?」
そう言って、カエル顔の医者は白衣のポケットから霧嶺から預かったコーヒーの缶を
「これは……」
それは、研究所にいた頃毎日のように
「何か思うところでもあるのかい?」
「……別に」
「いい友達なんだね?」
「ンな高尚なモンじゃねェよ」
その言葉に、カエル顔の医者が聞き返すまでもなく。
「アイツとは、ただの腐れ縁だ」
と、言葉とは裏腹に綻んだ表情で学園都市最強の能力者は吐き捨てた。
その言葉を聞き。そうかい、とカエル顔の医者はそれだけ零して病室を後にした。
「全く、最近の子は随分とひねくれているんだね?」
病室を出た医者は、ため息を吐きながらそう呟くと次の病室へ足を運んだ。
◇
霧嶺が入院してから5日が経過するとギプスは外れ、左腕に関しては安静にしていれば問題ないとの事。
この圧倒的な回復力は十中八九あのカエル顔の医者のおかげだろう。
そう思うとあの医者の技術は卓越している。
何かヤバい薬でも使われているのか、と不安になることもあったがそもそも学園都市の時点で普通ではないので早々に霧嶺は諦めた。
退院について聞くと、
もう動けるなら構わない、とカエル顔の医者は快くとはいかないが了承してくれた。
退院後のことを考えながら、霧嶺は重要な事を思い出した。
「仕事……」
今回の件は『アイテム』の人間には誰一人として教えていない。
つまり霧嶺は5日間仕事を無断でサボっているのである。
「はぁ……やべーな……」
絶対怒ってる、と確信しながら恐る恐るスマホの通知を見る。
案の定、
300件程来ていた。
主に麦野沈利から。
他の3人からも数件来ていたが、麦野は圧倒的な数を誇っていた。
スパムかよ、と霧嶺は心の中で若干引きながら呟いた。
とはいえ、麦野も他の3人も送ってきた内容は似たようなものだった。
何があった、とか。
サボるな、とか。
最終的に麦野のメールが殺害予告のようになっていたのには少々肝を冷やしたが。
「はぁ……どうすっかなぁ」
霧嶺はベッドの上で頭を抱えた。
麦野以外は何とか出来るが、麦野は恐らく不可能だろう。
お詫びどころか、こちらの話を聞き入れることすらしない気がする。
とりあえず患者衣から私服に着替えて病院を出る。
そして決意する。
もう考えるのはやめよう、と。
◇
病院を出た霧嶺は、『アイテム』の隠れ家の中で最も使用頻度が高い第三学区の個室サロンに来ていた。
念の為お詫び用の和菓子を持って。
仕方ない、と霧嶺は意を決していつもの部屋に入る。
中にはいつも通り『アイテム』の面々が好き放題していた。
そして、
「きーりーみーねぇ」
ゾッ、と一瞬で背筋が凍った。
麦野は霧嶺を認識した途端、というかその前から既に機嫌が悪かった所に霧嶺が来たという方が正しいだろう。
どちらにしても、麦野が本気で怒っていることには変わりない。
「あ、えっと……よ、よお」
ピキッ、と麦野が持っていたグラスにヒビが入った。
ダメだこりゃ、と霧嶺は考えることを放棄した。
やはり今の麦野には何を言っても意味が無い。
心の中でそう断定した霧嶺はとりあえず素直に謝ることにした。
「いや、その、悪かった……」
麦野の鋭い眼光は緩む兆しを見せない。
能力は使っていないはずなのに、体を貫かれている気分になる。
「私は別に超サボったことに関してはあまり気にしてはいませんが、超何があったんですか?」
「そうそう、結局仕事に来なかった理由が知りたい訳よ」
「まあ簡単に言うと……入院してた」
「はあ……超入院ですか」
「なになに?戦闘でもあった訳?」
「まあそんなとこだ、軽く第一位と喧嘩してきた」
「うわー超無謀」
「霧嶺って実はアホだった訳?」
「そんなんじゃねーよ。まあそんな訳だ、今回の件はこれで終わりってことにしてくれ」
ほらお詫びだ、と霧嶺は持っていたビニールをフレンダに渡す。
それとほぼ同時に麦野が、舌打ちした。
だが射殺すような眼光は無くなったので、納得はしたのだろう。
「ってこれ、サバ缶ないんだけど」
「当たり前だろ。逆に何で入ってると思った」
「え、これ私にじゃないの?」
「お前ら全員分だよ、アホ」
「なんで退院早々辛辣な訳!?」
何とか平和的に解決できたので、霧嶺は既に満足だった。
後日、『アイテム』全員で行った焼肉を全額支払うことになった以外は。
◇
霧嶺の退院から2日。
学園都市第一位の少年、
病院を出る前にコーヒーでも買うか、と自販機に寄ると、
気づけば彼は、目に入っただけのそれを迷わず買っていた。
「クソッタレが」
舌打ちをして、悪態をつきながらも、気づけば表情は緩んでいた。
らしくねェな、と
缶コーヒーを手の中で弄びながら、学園都市最強は歩き出す。
いつもは鬱陶しく感じるような日差しも、今だけは何故か心地よかった。
これにて妹達編は終了となります。
この後は軽く閑話を挟んでから次の章、という感じにするつもりです。
とりあえず次の章は少し飛ぶことになりますが恐らく大覇星祭編になると思います。
というのも、原作やその他外伝を含めてもストーリー的に暗部が関わるようなものが少ないんですよね。
あるとすればとある科学の一方通行の方になるますかね。
まあそこは多少気分が入ることになりますが。
感想、評価よろしくお願いします。
あと良ければ活動報告の方もよろしくお願いします。
ではまた。