とある科学の力学支配(オーバーフロー)   作:甘党もどき

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えー、大変お久しぶりです。甘党もどきです。
生きてます。

半年以上小説の更新をしていませんでした、本当に申し訳ありません。
忙しかったのもありますが、他に小説のアイデアが浮かんだり地の文が上手く書けなかったりでかなり苦労してました。
そんな中で書いた13話です、どうぞ。


2章 喧騒の裏で(Next_LEVEL6)
舞台裏の交渉


大覇星祭。

9月19日から25日までの7日間に渡って学園都市で開催される行事で、所謂運動会のようなものだ。街に存在する学校が合同で行う体育祭で、総人口230万人弱の内の約8割ほぼ全員が参加するのだから、そのスケールは一般的なのものに比べれば相当な規模になる。

さらには開催期間中は参加者の父兄達が多く入り、その様子もテレビ局によって全世界に配信される。

学園都市が一般公開される数少ない特別な日であり、一般的な競技内容がSF映画に出てくるような超能力を使用して行われるのだ、学園都市外部の人からすれば相当な刺激と魅力があるようだ。

 

今日は8月14日、つまり大覇星祭まで残り5日である。

大覇星祭の運営委員の生徒達が交通整理の計画や会場準備などに奔走している姿を、霧嶺冬璃は第七学区にある行きつけの和菓子カフェで眺めていた。

 

「大覇星祭……もうそんな時期か」

 

そう呟きながら、抹茶がまぶされたティラミスを口に放り込む。

霧嶺のお気に入りの一つである,(寛容な)霧嶺からすれば、半和菓子判定なのだが、以前『抹茶掛かっててもティラミスってことは結局洋菓子な訳よ』と霧嶺に言い放った人物は脳を揺らされていた。

濃厚な味を堪能し、グラスに入った苦い液体で口をリセットしてからもう一口食べようとした時、

 

「きぃーりぃーみぃーねぇーさぁん♡」

 

肩をつつかれながら掛けられた甘い呼び声に今の今まで安らぎを手に入れていたはずの表情が歪んだ。近頃はあまり聞かなくなっていたからなのか、この先も聞くことは無いだろうと高を括っていたらしい。出来ることなら無視し続けたい霧嶺ではあるが、

 

「無視しないでくださいよぉ。きーりーみーねーさーん?」

 

後ろでいつまでも騒がれるのもそれはそれで困る。

仕方なく振り返れば、そこには常盤台中学の制服に身を包んだ少女がいた。

 

「こんな所で会うなんて運命力強すぎですよねぇ」

 

霧嶺と同じく学園都市に8人しかいない超能力者(レベル5)の第五位、食蜂操祈が態とらしく笑いながら立っていた。

彼女は蜂蜜色の長い髪、『中学生とは思えない』スタイルをここぞとばかりにアピールしている。それが意図的かそうでないかは置いておいて、だ。

それに対して、霧嶺は依然顔を歪ませてながら質問をした。

 

「何でここに居んだよオマエ」

 

「だからぁ、これは私と霧嶺さんの運命力が共鳴してぇ」

 

「……オマエってロマンチストだったのか」

 

「そういう訳じゃないけどぉ。そういうの感じないかしらぁ?」

 

「知るか。用がねぇならさっさと帰れよ、俺は今スイートタイムだ」

 

別に霧嶺は食蜂を嫌っているという訳ではない。嫌いではないが何となくこの少女には苦手意識がある。

どことなくペースを乱される感覚が、どこぞのピンク色のジャージを着た少女に近い気がする。

 

「ひどぉい☆せっかく霧嶺さんとお話できると思ってたのにぃ」

 

そう愚痴を零しながら食蜂は霧嶺の目の前の席に座っては店員を呼び、紅茶と霧嶺と同じ抹茶ティラミスを頼む。

それを見た霧嶺はもう一度表情を歪ませる。

 

「オマエなぁ……」

 

「何ですかぁ?」

 

ニヤニヤと、食蜂は霧嶺に対して柔らかな笑顔を向ける。

 

「好きにしろ」

 

大きく息を吐いてから、真っ黒な液体を口に流し込む。

甘いものを食べている時に限ってはブラックも悪くないと結論づけて、空になったグラスを一瞥してから店員にお代わりを頼む。

 

「で、何の用だ」

 

「別に大した用は無いわぁ。『お願い』も無いし」

 

「マジで何なんだよオマエ」

 

霧嶺は頭を抱えて項垂れる。

やはりというか目の前の少女の相手は中々面倒臭い。

 

「あ、でも色々と聞きたいかも。例えば妹達(シスターズ)の事とかぁ?」

 

「上条の事とか?」

 

どこから得たのか分からない情報を聞いて思い出した最近知り合ったツンツン頭の少年の名前を出すと、食蜂の動きが止まる。

 

「どういうことかしらぁ?」

 

「ハッ、図星かよ。オマエって案外自分のことに関しては弱いのな」

 

「……本当。どうやって知ったのかしら?」

 

「偶然だ。ちょっとした戦友ってやつだな」

 

「ふぅん?まあいいわぁ、それについてはまた今度聞くし」

 

そういえば、と食蜂は一呼吸置いて、

 

「大覇星祭の宣誓を超能力者(レベル5)にやらせるみたいな話が上がってるって噂を聞いたわぁ」

 

「何だそりゃ。ンなモン何が面白いんだよ。どいつもこいつも頭のネジがぶっ飛んでる集団だぞ。学園都市の醜態を世に晒す羽目になんだろ」

 

それ以前に第三位の御坂美琴ならばまだしも、他は誰も受けようとしないだろう。超能力者(レベル5)とは、ある意味で人格破綻者の集まりでもある。一般人にはとても見せられるものではない気がする。

そうでなくても霧嶺の知る限りでは、超能力者(レベル5)の一部は学園都市の闇に足を突っ込んでいる筈だ、表に出るべきではないのが普通だろう。

 

「さぁ?運営委員会の考えてる事なんてそこまで興味力湧かないしぃ、デモンストレーションのついで見たいな感じじゃなぁい?」

 

「まぁ仮にその話が本当だとしても俺は受けないがな。そもそも参加者でもねぇ奴にやらせるモンじゃないしな」

 

「まあ私もやるつもりは無いけど。どぉせ御坂さん辺りがやるだろうしぃ」

 

「御坂……?あぁオリジナルか」

 

「……本当、最近会えないと思ったら急に私の周囲について詳しくなってるのね。もしかして外堀から埋めようとしてる?まあ霧嶺さんなら、私の事を任せてもいいけどぉ♡あ、それとも体目当てかしらぁ?もう霧嶺さんたら、意外と大胆なんだゾ☆」

 

「おーおー。とうとう能力が暴走でもしたか?それならそのアホみてぇな発言も頷ける」

 

「もぉーーっ!その反応は酷くなぁい!?」

 

と、珍しく声色を強くして食蜂は抗議する。

ここで身を乗り出したりしない辺り、流石はお嬢様といったところか。

そして精神操作系能力者の頂点に立ち、年相応ではないスタイルを持ちながらも頬を赤く染めているのは、心はまだまだ年相応ということなのだろう。

 

「恥ずかしがるならやらなきゃいいだろ。それにそういうのは愛しのヒーロー様に向けるモンだろ。オマエだって言ってたじゃねぇか……あー、何だっけな。彼は私の王子様だー、とか何とか」

 

「何なのその微妙な覚え方はぁ……まあ間違ってはないけど。確かに彼には大きな恩があるし。でも貴方にだってそれなりに感謝はしてるのよぉ」

 

「やめろ。っつーかそうだとしてもオマエはアレだ。他はまだしも中身が危険過ぎる。気が気じゃねぇ」

 

「はぁ……本当貴方ってなんというか、面倒ねぇ。でも他はまだしもってことは、そういう事に興味あるってことかしらぁ?」

 

「はいはい。ならそういう事にしとけ。他に用がねぇなら俺は行くぞ」

 

「あら。なら今度会う時はもっと面白い話をしましょう」

 

「………気が向いたらな」

 

そう言って霧嶺は席を立つ。

二人分の代金をテーブルに置いたのは、霧嶺なりの優しさだろう。

霧嶺とすれ違いで同じ常盤台中学の制服を着た縦ロールの少女が通りかかる。彼女は食蜂の隣にすらりと立つ。

 

「女王、今のは……?」

 

「ふふ。そうねぇ……特別なお友達(・・・)って所かしらぁ?」

 

 

 

 

その日、大覇星祭運営委員は混乱していた。

発足してからあまり長い付き合いではないが、それでも委員会のメンバー全員が心の中に同じ思いを抱くくらいに。

 

「本当に例の案が通ってしまったのか……」

 

「全世界に配信されるのだからデモンストレーションも兼ねてやらせろと上層部が……」

 

「隠しても隠しきれない人格破綻者の集まりだぞ!」

 

と、手元の資料とホワイトボードの写真を見ながら苦言を漏らす。

それを坊主頭の委員会格である少年が鎮める。

 

「やめるんだ。方針が決まった以上我々はそれに従う他ない」

 

そして彼はホワイトボードを背に眼鏡を光らせ、

 

「それが我々に課せられた任務なのだから」

 

ここに大覇星祭運営委員の大いなる戦いが始まった────ッ!

 

 

 

食蜂操祈と偶然出会った日の翌日。大覇星祭は4日後に迫っていた。

霧嶺はといえば、いつも通り麦野からの招集が掛かったのでいつものファミレス、ではなく麦野が借りているプライベートプールに来ていた。

 

「なんで俺まで……」

 

「みんな行きたがってたから仕方ないよ」

 

しかし室内ながらベンチが並べられたプールサイドにいるのは、シンプルな水着とパーカーを着た霧嶺と遊びに来たはずなのに競泳水着をチョイスした滝壺の2人だけだった。

 

「っつーか、他の3人はどこ行きやがった」

 

「3人ともまだ着替えてるよ。フレンダは特に時間掛かるかも」

 

「トラブルでもあったのか?」

 

「ううん。きりみねには内緒」

 

「何だそれ」

 

「それが分からないきりみねは応援できない」

 

「?」

 

今のところ目の前の少女の言っていることがよく分からないということが分かった。

と、ため息を吐きつつ残りの3人を待つ。

 

「ねぇ」

 

「何だよ」

 

「きりみねはこれ、どう思う?」

 

どう、というのは水着の事だろうか。

とはいえ競泳水着相手では大した感想も出てこないのが普通だろう。

強いて言うならば、胸元が大分強調されている事くらいだ。

本人は意識していない、というより元々競泳水着はそういう目的で作られてはいないはずなので本来はそれほど目立つ事はないはずだが。

 

「 」

 

「どうしたの、きりみね?」

 

「いや、何でもねぇ。悪くねーよ」

 

逃げるようにベンチへ腰掛ける。やはり滝壺理后には苦手意識があるらしい。食蜂操祈とはまた違うベクトルではあるが。

 

「超お待たせしました。フレンダが水着を着るのに超苦戦してまして」

 

「そうかよ」

 

どうやら滝壺の言っていた通りだったらしい。

 

「ところで霧嶺、どうですか私の超ナイスな水着は」

 

と、自分の体をアピールしつつ、霧嶺に目線を向ける絹旗を見やる。

霧嶺自身変態になるつもりはないので、そこまでまじまじと見ることはしない。

全体を眺めた限りでは、水着のセンスは悪くないだろう。

ただ最初に見た相手が悪かった。

次いでに言えば、オフだからと気が抜けていた霧嶺が悪かった。

 

「水着は良いが、絶壁じゃァなー」

 

普段は表情筋を動かすことの無い滝壺ですら『あ』と言いながら口を開けるくらいには事件だった。

 

「ぜっぺき……?絶、壁?ふ、ふ、ふふ。ふふふふふふふふふふふ」

 

「あ?」

 

「相変わらず言ってはいけない事を易々と言いますね霧嶺は。超殺されたいンですかァ!?」

 

「……今のは、悪い」

 

流石に罪悪感を感じた霧嶺は、珍しく謝ってしまった。

残念ながらその程度で治まる怒りではないらしいが。

 

「超殺すッ!!!」

 

と、大能力者(レベル4)の癖に随分とIQの下がった突進をしてくる絹旗を片手で押さえる。

 

「何やってんのよアンタ達」

 

「む、麦野〜……置いてかないでよぉ」

 

「うっさいわね。そんな程度で恥ずかしがってんじゃないわよ。第一、その水着自分で選んだやつだろ」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「ほら。わかったらシャキッとしろ!ついでにに感想でも貰ってこい」

 

「ちょっ、押さないでっ!?」

 

と、麦野に背中を押されて無理やり霧嶺の目の前に立たされたフレンダ。

霧嶺と絹旗の視線がフレンダに注がれるも、本人は視線を逸らして息を飲む。

 

「ど、どうかな……」

 

そんな顔をされても困る、という表情で霧嶺は目を逸らす。

傍から見ている滝壺だけは『ふれんだ、頑張って』と言った雰囲気が漂ってくる。

 

「あー……まあいいんじゃねぇの」

 

その他3人が呆れたため息を吐いたことに霧嶺は気づかなかった。

だがフレンダは『ま、まあね!結局、私は何着ても似合っちゃう訳よ!』と上機嫌だったので結果オーライなのかもしれない。

 

 

 

 

霧嶺冬璃にとってプールというものは今まで大した興味を持つ対象ではなかった。

行く機会など無いし、あったとしても行くことはなかっただろう。

現に今回が初めてのプールなのだ。とはいえ今の所そこまで悪い気分ではない。

何より、

 

「うめェな」

 

そう。

この施設と提携している店舗のおかげなのか、和テイストのドリンクや和菓子が美味いのだ。それこそ普段霧嶺が好んで食べる店と並ぶ位には。

というか霧嶺行きつけの店がスポンサーについているらしい。

つまり霧嶺はプールに胃袋を捕まれ堕落しかけていた。

他のメンバーは、霧嶺と同じく椅子に腰掛けて休憩している麦野とフレンダ。スイムボードを使って泳ぐ絹旗。

そして、

 

「何やってんだ、アイツ」

 

水面から背中と後頭部だけを出し、プールにぷかぷかと漂っている姿。

そう、滝壺理后である。

彼女曰く『楽しいよ』との事であるが、流石の霧嶺にもその楽しみ方は理解し難いものだった。

そう思いながら1人呑気に欠伸を漏らしていると麦野の怒号が響いた。

流石に驚いた霧嶺は視線を右に向ける。プールに入っていた絹旗や滝壺も視線を動かしていた。

当の麦野はと言えば。

 

『って話が来てんだけど、どーする?』

 

「どーするじゃねぇだろ。私らの仕事で面割れて何のメリットがあるんだよ」

 

『そうかしら?悪くないと思うけど。表の顔は皆のアイドル、裏の顔は闇の狩人。アンタ顔だけはいいんだし♪』

 

あからさまに馬鹿にした雰囲気で電話の女は話す。

案の定、煽りに耐性のない麦野にはよく効いたらしい。

周りから見れば額に青筋を浮かべている姿しか見えないが。

と、それを傍らで聞いていたフレンダが、

 

「はいはーい!じゃあ私が代わりにやる!」

 

その言葉で麦野の中でプツリと何かが切れた。

フレンダの頭を掴み、

 

「お!ま!え!も!暗部の人間だろォがああああ!!」

 

自身の怒号をかき消す程の音を立てながらフレンダの頭をテーブルに叩きつける。

麦野が何に切れているのかを置いておき、流石の霧嶺でもその光景には若干引いた。

絹旗と滝壺も『またか』といった具合で直ぐに興味を逸らした。

それを見ていたウエイトレスは『お客様!?』と、ごくごく一般的な反応を見せてくれていた。

 

『はぁ……まあいいわ。じゃあそこの第八位さんに代わってくれるかしら?』

 

「意味ねぇだろ」

 

『いいから』

 

麦野は舌打ちしてから霧嶺にスマホを投げ渡す。

 

「何だ」

 

『大覇星祭の選手宣誓とか興味────』

 

「ない」

 

『もう少し考えてくれてもいいんじゃない?』

 

「逆にそんな面倒臭ぇことを俺がやると思うか?」

 

「だーかーら!私がやるって訳よ!」

 

何故か無性にイラッとした霧嶺は、後ろから顔を出したフレンダの顔面を反射的に掴んでプールに投げ込んでいた。

 

「なんでぇぇぇぇ!?!?」

 

「とりあえず俺はやらねぇ。他の奴に回すんだな」

 

『はぁ……アンタらって本当面白みないわー』

 

そう吐き捨てて、電話の女はプツリと呆気なく通話を切った。

スマホを麦野に返し、ベンチの上で寝ようかと思い立ち、目を閉じる。

次に感じたのは微睡みに落ちる感覚ではなく、

 

バシャリ、と顔面に掛けられた生温い水の温度だった。

顔の水を拭き取りながら目を開けると、

フレンダが勝ち誇った笑みでプールの中から見上げていた。

霧嶺は『そうか』と一言零してプールに触れる。

次の瞬間には、プールの水が一気にフレンダへ襲いかかった。

当然の如くフレンダは勢いに流され、その後ろにいた滝壺と絹旗も水の勢いに押された。

 

「ちょっと!今の威力は可笑しいでしょ!!」

 

「巻き込まれたんですが!!??」

 

「知るか!人の眠りを邪魔したことを後悔しやがれ!」

 

反撃に怒るフレンダと、巻き添いに怒る絹旗。そしてとりあえずムカついた霧嶺による世紀の水掛バトルが今始まる────!!

 

「アホなのかしら」

 

「うわー」

 

麦野は呆れて頭を抑え、

滝壺は呑気な声を上げながら心底心地よさそうに流され続けていた。

 

 




やっと大覇星祭編に入りました。
実は大分前に話自体は出来ていたんですけどね、何となく地の文の書き方が気に入らなくてずっと手直しをしていたんですよねー
ただ一方通行のアニメ化や超電磁砲Tの放送も相まって、ちゃんとしなきゃということで今回投稿に踏み切りました。
ちょうど超電磁砲Tと内容的には同じなので追いやすいとは思います。
またこれからも不定期ですが更新していくのでよろしくお願いします。

感想と評価も是非お願いします。

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