とある科学の力学支配(オーバーフロー)   作:甘党もどき

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大変お久しぶりです。
甘党です、生きてます。
毎回の如く更新が亀の様なスピードで本当に申し訳ないです。
続きを読んで欲しいし書きたいという気持ちはかなり強いので打ち切ったりとかするつもりは無いのでご安心ください。

世間は色々大変ですが皆さんが無事であることを願ってます。

という訳で大覇星祭編2話目です。
楽しんでくれると嬉しいです。


大覇星祭

 

大覇星祭の開会式は無事とは言いきれない終わり方をしたものの、特にそれを気にすることもなく競技は始められた。

学校に通っていない霧嶺にとっては大覇星祭の為に出ている屋台を歩いて見回る程度しか関係のないイベントだが。

 

そこで、

普段とは違う学園都市の姿の中に見慣れた店を見つけた。

霧嶺がいつも買い物をする和菓子屋の暖簾が上がっていたのだ。暖簾に引き寄せられ、気づけば屋台の前で足を止めていた。

 

「お!霧嶺君じゃないか」

 

屋台の中にいる男が霧嶺に気づき声を掛ける。

声に対して視線を動かすとそこには見慣れた顔があった。霧嶺行きつけの和菓子屋『(なごみ)』の店主、干生 和一(かんせい かずひと)だ。

 

「どーも」

 

「いらっしゃい!よく見つけたね、いつも通り地味な見た目だってのに」

 

「暖簾が相変わらずだからな」

 

霧嶺がそう言うと、『確かに』と干生は笑い声を上げる。

 

「店長〜、どうしまし……って霧嶺君!来てたんだ!」

 

「……まあ」

 

奥から出てきたのは祠堂庵那(しどうあんな)。学園都市内の大学に通う女子大生である。大覇星祭は基本的に中高生メインのイベントだが、期間中は大学も休みで、相も変わらずバイトをしている。

 

「あ、そうだ祠堂ちゃん。店から足りないもの持ってきてくれるかい?」

 

「わかりましたー!じゃあ、行こ?」

 

「は?」

 

「途中まででいいからさ!暇でしょ?」

 

「暇じゃねぇよ。待ち合わせがある」

 

「じゃあ途中までね!」

 

まるで人の話を聞いていないような返答。

そして強引に腕を引かれそのまま2人は出店周辺の雑踏を抜けていった。

 

 

 

 

「そういえばさ、霧嶺君は大覇星祭に出ないの?」

 

「出ない」

 

「なんで?実は高校生じゃなかったり?」

 

「どうかな」

 

『めんどくせぇ』と内心思いつつ言葉を返す。

どうやらそれがお気に召さなかったようで、

 

「素っ気ない男の子は嫌われちゃうぞー」

 

「余計なお世話だな」

 

ひどーい!!と隣で騒ぐ庵那を無視して歩く霧嶺の目に大型モニターの映像が映る。そこにはどこかで見たツンツン頭の少年とビリビリ少女がゴールテープを駆け抜けている姿があった。少年の方は半ば引き摺られていたが。

 

「何やってんだアイツら」

 

「知り合い?」

 

「……まあ少しな」

 

明後日の方に視線を飛ばしながら間を開けて返した。

返答をしてから何となく庵那が怒るような気がしたがそんなことはなく、意外と落ち着きながら

 

「霧嶺君って友達居たんだ」

 

と一言。

そして流れるように庵那の頭に霧嶺の手刀が落ちた。

 

「痛った!?女の子に暴力とか有り得ないんですけどぉ!」

 

「自業自得だろ」

 

スタスタと足早に歩いていく霧嶺を頭をさすりながら庵那が追いかける。

 

 

結局、『今度なんか奢ってくれないと許さないからね!』という庵那の言葉を適当に聞き流しながら2人は解散することになった。

そして霧嶺は『ある人物』との待ち合わせ場所に向かっていた。

そう『いた』のだ。ついさっきまでは。

そんな彼の目の前で、

 

上条当麻が全力でスライディング土下座を披露していた。

 

 

 

 

 

 

大覇星祭1日目。上条達1年7組の面々は何時になく高い団結力とやる気に満ち溢れていた。

担任である小萌の涙を見た彼らの心は皆で行く店を決める時よりも繋がっていた。

その勢いで棒倒し一回戦を勝ち抜いた彼らを、正確に言えばクラスの中でも随一のガタイを持つ青髪ピアスを悲劇が襲った。

 

それは偶然だった。

なんてことはない日常の一幕。大覇星祭期間だからこそあちらこちらで見ることのできる他校の女子生徒の姿にうつつを抜かし『うひょー!やっぱり体育着の裾から見える生脚は最高やわぁ』などと語っていた青髪。

 

その股間を────

 

ズドンと、棒倒し用の棒が思い切り直撃した。

たった一撃、されど一撃。たかだか棒1本によって青髪は人生で1度もした事のない表情を作りながら一瞬の内にダウンした。

まあ男にとってこの上ない弱点を突かれたのだから無理もないが。

そしてそれを隣で目撃していた上条当麻と土御門元春は思わず自分の股間を押さえた。何故かは分からないが。

 

「あ、青髪ィィィィッ!?」

 

「こ、これはやばい一撃だにゃー……」

 

大覇星祭の運営委員であろう女子生徒が必死に頭を下げている。

ギリギリでその姿を見た青髪は何とか笑顔を作ってそのまま気を失ったのだった。

ちなみにこの時の表情を見た上条と土御門は『苦しさと幸せを同時に表現したせいで絶妙に気持ち悪かった』と語る。

 

 

しかしこれによって問題が1つ発生した。

元々高位の能力者が居ない上条のクラスは棒倒しにおいてなかなか不利なクラスだった。

それを何とか青髪と土御門のガタイ、そして上条の喧嘩慣れからくる身体能力とクラスメイトの根性と執念で補っていたのだ。

つまるところ、青髪が抜けた穴は大きかった。ただでさえ2回戦の相手も能力者揃いだと言うのにこのままでは負け筋しか見えない。

小萌の為にという思い、そしてついでに上条は美琴との賭けがある。ここで敗北して小萌に悲しい思いを、そして美琴の1日奴隷になるなど上条のプライドが許さなかった。

 

ちょうどその時だった、

いつもの不幸ルートまっしぐらだった上条に珍しく希望が舞い降りたのは。

 

 

 

 

 

ついさっきまで土下座をしていた上条はやけに早口で霧嶺に経緯を説明していた。

 

「で、そこに俺が居たと」

 

「まあそういう訳でございます、はい……頼む霧嶺!アイツの代わりにこっそり出てくれ!」

 

「断る」

 

「頼む!」

 

「断る」

 

「たの────」

 

「断る」

 

「なんでだよ!?」

 

「逆になんで許可下りると思ったのか聞きてぇよ」

 

そう言うと上条は『やっぱだめかー』と頭を抱えて唸り始める。

それを後目に辺りを見渡すと、近くの広場にそびえ立つ時計が目に入る。

時間を確認すれば待ち合わせまではまだまだ時間があるようだ。

数秒の思考の後、霧嶺は

 

「────いや、いいぜ。出てやるよ」

 

と、先程までの拒絶が嘘のような手のひら返しを見せる。

 

「えっ!?なんで!?何故でごさいませうか!?」

 

「気にすんな」

 

霧嶺からすればかつての借りをこれでチャラに出来るなら儲けもの程度でしかないが、そもそも相手に貸しを作ったという認識がないのでその考えも結局は無意味である。

上条当麻がそういう男なのはよく理解している。

 

 

 

思いがけない承諾によってテンションが上がったのか、そこからはトントン拍子に話が進んで行った。

上条は霧嶺を保健室まで引き摺っては予備の体操着を持ち出して霧嶺に押し付ける。

その勢いに若干引きながら霧嶺はサッサと着替えて保健室を出る。

そして保健室を出る時に霧嶺が代理で出ている事をバレないようにする為の注意を上条が言い渡した。

 

一つ『能力は極力使わないこと』

一つ『能力を使う時はバレないようにすること』

一つ『髪色を変えて帽子を深く被ること』

一つ『声の高さを青髪に合わせること』

 

そして、

『似非関西弁を使う事』

と。

 

それを聞いた霧嶺は思わず頭を抱えた。

他の4つはまだどうにかなる。どれも霧嶺の能力で上手く切り抜けられる程度の項目だからだ。

しかし最後の『似非関西弁を使う事』に関してはそうはいかない。

もしこれが外国語を使えなどだったら何も問題はなかった。超能力者(レベル5)である霧嶺の頭脳にはその知識は無駄だと思うほどに入っている。

だが残念な事に霧嶺は関西弁などほとんど聞いたことが無いし、『似非関西弁』など以ての外だ。

一応上条からは青髪ピアスという少年の音声は聞かせて貰えたので声に関しては何も問題は無い。

が。

似非関西弁の方はどう考えても無理だろう。

とはいえここで『やっぱ無理』と言うのは霧嶺自身のプライド的に許せない。そういう訳で霧嶺は『任せろ』と随分な間を空けて返事をした。

 

 

 

吹寄制理はここ数分少しばかりイラついていた。

というのももうすぐ競技がスタートするからとクラスを集めていたのに、クラス内の問題児である三馬鹿が姿を表さないからだ。

いつも問題行動ばかり起こす3人が相も変わらず輪を乱すのではと考えると、実行委員としてもかなり腹立たしい。

とりあえずあの3人には拳を1発ずつ喰らわせようと考えていると、悩みの種である3人がやっと表れた。

のだが。

何となく青髪の様子に違和感を覚える。確か先程までは帽子なんて被っていなかったはずだ。

 

「青髪、どうかした?」

 

当の青髪(霧嶺)は声を掛けられると肩が一瞬跳ね上がり、目元から鼻までを隠すように帽子を深く被る。

 

「……何もないで」

 

「そ、そうだぞ吹寄!見ての通り青髪は元気だぞー」

 

「……そう。まあいいわ。じゃあ皆、これから入場だからしっかりするように!」

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。と帽子を深く被りながら霧嶺は心の中で後悔していた。人数に対して広すぎるグラウンドを見渡すと能力が飛び交い、時折敵か味方か分からない人影が舞う。それを眺めながら『ああ、そういえば自業自得だったな』と自虐的に笑う。

グラウンド上では炎や水、風など多種多様な能力が飛び交う。今は別人を演じている霧嶺は飛んでくる攻撃に対して体を捻る。

本来なら避ける必要などどこにもないが、今回ばかりはそうもいかない。

人目がある所で下手に使えば誰にバレるか分かったものでは無い。『たかが競技に本気になるのもなァ』、と空を仰ぐ。

と、

 

「きり────青髪危ねぇ!」

 

 

 

 

「────あ?」

 

ここ数十分で飽きるほど聞いた声が聞こえた。

だがその声は今まで全くと言っていいほど聞いた覚えのない名前で、それが自分を呼んでいるということを理解するのに少し時間がかかった。

気づけば上条が声を放った原因であろう光弾が今まさに腹部へ吸い込まれる所だった。

 

ドン!!と光は真っ直ぐに着弾し、衝撃波で土煙が霧嶺の担当であった棒すらも包んでいた。

そして当の霧嶺は土煙の中でくの字に転がっていた。

上条が慌てて駆け寄ろうとした瞬間、まるで何も無かったかのように霧嶺は立ち上がった。

 

実際光弾は霧嶺に当たっていた。

エネルギーの膜は変わらず張っているままということもあり、野球ボール以上銃弾以下の速度であれば霧嶺が目で認識出来る時点で防御力を取り戻すことができる。

とはいえ霧嶺の防御力が回復したことで、光弾は防御膜に接触し弾けた。それにより吹き飛んだだけなので彼自身にダメージはほとんど無い。

そんな事を知ることもないが、元々色々な意味で心配していた上条は心の底から安堵していた。

 

「無事だったか!よかっ────」

 

「そうだよなァ。これは競技だ。手を抜くのも申し訳ねーよなァ!」

 

声は変わらず青髪ピアスと変わらない。しかし聞こえた言動があまりにも不穏だった。

似非関西弁をさらに物真似した、恐らく本場の人間が聞けば卒倒する言葉遣いなどどこかに放り投げられていた。

霧嶺の頭の中では最早いつかの借りをチャラにする事など記憶の奥底に仕舞われている。短時間の内に味わった屈辱やら鬱憤やらを吐き出す事しか考えていない。せいぜいその理由を上辺でも取り繕おうとしているくらいだ。

 

「舐めやがってこの────三下ァ!」

 

ドバァ!と瞬間的に音が吹き飛ぶ。

ついでか本命か、相手校の選手と棒もまるで台風でもあったかのように軽々とそこら中を転がった。自校の選手も何人か巻き込まれて目を回していたが。

その様子を上条は終始冷や汗とよく分からない汁のような物をダラダラと流しながら眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

最終的に棒倒しは上条達の高校が勝利した。

競技として色々と問題がありそうな終わり方ではあった気はするが、勝ちは勝ちである。

ちなみに競技後に無事回復して戻ってきた青髪は何故か(・・・)女子にモテたので、『ボクにも春が来たんやなー』と今度は喜びの涙を流していたらしい。

 

 

現在は12時35分。ちょうど昼食を摂る人で街がごった返す頃だ。

つい1時間ほど前まで最早鬱憤晴らしともいえる棒倒しに参加していた霧嶺だが、街中に置かれた時計台に体重を乗せて立っていた。

そこに1人分の人影が近づく。

 

「お待たせしました、とミサカは既に貴方がいることに感心します」

 

「ああ、5分待った」

 

「む。そこは『今来た所だ』と言うべきです、とミサカは雑誌で得た知識をここぞとばかりに披露します」

 

常盤台中学の制服に身を包み、腰に手を当ててぷんぷんという擬音が似合いそうな風体を見せるのはミサカ19999号────霧嶺はミサカと呼んでいる────だ。

『じゃんけんで勝ったのでお出かけしましょう』という謎の進言により霧嶺は残りの半日を彼女に振り回されなければいけないらしい。

 

「行くぞ。腹減ってんだ」

 

「ミサカはやはり屋台を物色したいです、とミサカは己の欲望に忠実に従います」

 

そうかよ、と腕を引っ張るミサカに従い屋台が立ち並ぶ大通りに飛び出た。

たこ焼きや焼きそば、りんご飴といった『外』でもよく見られるであろう屋台に限らず、ケバブ風パインやら『本場!いちごおでん』などという内部の人間でも理解し難い屋台が散在しているのを見て目を逸らす。

安全志向の霧嶺は取り敢えず唐揚げにたこ焼きを1パックのつもりだったが、ミサカが左腕にくっついているからなのか『お、ラブラブだねぇ!』とどちらの屋台の店主からもおまけという形でもう1パック追加されたのだった。

 

 

霧嶺とミサカが公園に設置された席にたどり着く頃には焼きそばと芋餅が追加され、霧嶺の両手が塞がる程になっていた。

 

「随分オマケされたな」

 

「はい。驚きました。やはりカップル(・・・・)とはいい物ですね、カップル(・・・・)はとミサカは大事な部分を強調します。しかし焼きそばはオマケされませんでしたね、とミサカは少ししょんぼりします」

 

「まァ普通はオマケしねーからな。利益が無ぇ。ただお前何で睨まれてたんだ?あの女店主の知り合いか?」

 

ミサカの言っていることを半分程無視して霧嶺は少し前の光景を頭に浮かべる。

 

「いえ、初対面でしたよ。ただそうですね……気をつけなければ、とミサカは人生計画を見直します」

 

『やはり30代は大変なのでしょうか』などとブツブツ呟いているミサカを後目に霧嶺は手早くプラスチック容器の蓋を開けていく。

先程の競技もあってか、意外にも彼の腹は鳴き続けているのだ。

ほらよ、とミサカの分も渡して2人で食べ始めた。

 

 

 

 

 

「これが芋餅ですか。もちもちでありながらホクホクとした芋の食感を残し、甘辛いタレが絡まっていて美味しいです、とミサカは絶賛します」

 

「そーかい。そりゃ良かったな」

 

先に食べ終えた霧嶺は欠伸をしながらミサカの説明口調な言葉を適当に聞き流す。

 

「ご馳走様でした、とミサカはこっそり喉が乾いたアピールをします」

 

「お前なぁ……はァ、買ってくるから待ってろ。何がいい?」

 

ではヤシの実サイダーで、という言葉を背にしながら霧嶺は気だるそうな足取りで自販機へ向かっていった。

ミサカは実の所自販機まで着いて行こうと思っていたが、それを言う前に霧嶺が歩いて行ってしまったので手持ち無沙汰になってしまっていた。

『どうしたものか』と辺りをキョロキョロ見渡しているミサカの足元に、にゃーんという小さな声が聞こえた。

小さいながらもハッキリと聞こえた声の主は足元にいた。

ミサカはその小さな塊を拾い上げる。

 

「おやあなたは確か、『保留』でしたか」

 

別個体である10032号が付け、結局再考される機会もなく名前かどうかも怪しそうなネーミングとなってしまったとか。

 

「どうしたのですか?とミサカは首の下をこちょこちょこちょこちょ」

 

嫌がっているのかじゃれているのか、子猫は鳴きながらミサカの指をペシペシと弾いていた。

 

「あ、御坂さま!こんな所にいらっしゃたのですね!」

 

1分ほど弄り回していた所にいきなり声を掛けられた。

振り返れば常盤台の体操着に身を包んだ少女が不思議な物を見たような顔で立っていた。

 

「あら?御坂さん、なぜ制服をお召に────」

 

 

 

 

 

「体操服がない!?」

 

湾内絹保はウェーブの掛けられたライトブラウンの髪を大きく揺らした。

もう10分もしない内に競技が始まるというのに集合するどころか体操服ないという相手には驚くのも無理はないだろう。

 

「でしたら私の体操服をお貸ししますから、とにかくこちらに────!」

 

あれよあれよという間にミサカは腕を引かれて連れていかれてしまった。子猫は大事に片腕で抱きとめながら。

 

 

 

 

自販機へ向かってから5分程してからようやく霧嶺は戻ってきた。

随分と苛立ちを見せながらではあるが。

 

(クソッタレ。どーりで誰も並ばねぇ訳だ。ふざけやがってあのクソ自販機が)

 

霧嶺が利用した自販機は他の自販機や売店と違い誰も並んでいなかった。

これはいい、とその自販機にお金を────ただし財布に小銭が無かったので仕方なく万札を入れた。

入れたはいいが、自販機は入れる前と変わらずただ静かにその場で佇むだけだった。

簡単に言えば金を飲まれたのだ。万札にビビり散らしたのか、元からそういう目的で作られたのかは分からないがとにかく飲まれた。

結局能力で無理やり目的の飲み物を吐かせ、空気を震わせかけた警報も黙らせてなんとか戻ってきたということだ。

 

「あァ?」

 

しかし帰って来てみればどうだろう。

人にパシリをさせたにも関わらず、当のミサカは忽然と姿を消していた。

 

「どこ行きやがった、アイツ」

 

トイレにでも行ったか、と考えたが恐らくそれは無いだろう。

いくらミサカでも、平気な顔で人を振り回し、人の家に土足で上がるどころか靴の汚れを落とすためだけに人の家に上がりそうな彼女でも自発的に席を離れるなら食べ終えた容器くらいは片付けるはずだ。

しかしテーブルの上のプラスチックパック達は霧嶺が席を離れた時同様に食べ終えたままの状態を保っていた。

 

つまりミサカは自らの意思で姿を消した訳では無い。何らかの外的要因(トラブル)によって離れざるを得なくなったか、もしくは何者かに無理やり席から引き剥がされたか。

どちらにせよ、彼女が巻き込まれる可能性の高い要素は2つ。

常盤台の制服を着たミサカを御坂美琴(オリジナル)と勘違いした常盤台生徒によるもの。もしくは、クローンであるミサカの知っている人物によるもの。

前者ならば大した問題ではない。御坂美琴が現れるか、用事が済むだけで終わる。

では後者ならば?

 

「クソッタレが────!」

 

散乱していた容器を適当に袋へ詰め込み、ゴミ箱へ放り投げる。

出来れば前者に関わっていることを願いつつ、霧嶺は人混みを掻き分けて走り出した。

 

 

 

 

 

ミサカは常盤台生に紛れていた。

先程までとは違い制服ではなく体操服に身を包んでいるが。

 

「サイズきつくないですか?」

 

「運動には支障ありません」

 

むしろ胸部には余裕があります、とミサカは尻すぼみに言う。

ミサカは彼女のオリジナルである御坂美琴と全く同じ肉体である。つまり中学2年生相当の肉体で、一歳とはいえ年下の少女に負けたのだ。

決して何がとは言わないが。

 

少しばかりのジェラシーを感じながら、子猫を隣にいた泡浮万彬に半ば取り上げられた。

とはいえ、競技に猫を連れていく訳にもいかないので特に抵抗する必要もない。当の子猫は彼女の腕の中で暴れ回り、『お、落ち着いてくださいませ!』とどう見ても慣れない手つきで慌てている。

 

そしてあっという間に競技が開始された。

 

開始前に物陰で似た電磁波を感じたが、きっと気の所為だろう。

 

 

 

 

 

 

「何やってんだアイツ……」

 

結論だけ言えばミサカは見つかった。

ただし競技場の外に取り付けられた大型モニターの中にだが。

常盤台の体操服を着て、頭に紙風船を乗せて軽快に動き回っている。

確かバルーンハンターとかいう競技だったはずだ。頭に付けた紙風船を指定の玉で割り合うらしい。

ミサカはその競技に御坂美琴として参加していた。

事情を知らない人間からすればどこからどう見ても御坂美琴だ なのだ、常盤台の生徒が見間違えるのも無理はないだろう。

 

「ったく……ま、当のアイツがイイなら問題ねーか」

 

霧嶺はため息を吐きながら呟く。

割と本気で安心しているなんてことを認める気は無いし、誰に言う気もしないが。

 

とりあえず競技終了までどう時間を潰すかが一番の悩みになりそうだった。夜にはパレードもあるのでいちいち家に帰るのも面倒に感じる。

喫茶店にでも行くか、とまた人混みに紛れようと歩き出して────

 

どんっ、と。

看板の様な荷物を持った女性が霧嶺の背中にぶつかってきた。

振り返れば地味な作業服を着た18か9歳くらいの女性だった。金髪と青い瞳は地毛のようで、恐らく日本人ではないだろう。

当の女性はバツが悪そうに霧嶺に目を向けていた。

その彼女の後ろから、

 

「霧嶺────ッ!?」

 

「あァ?」

 

ツンツン頭の少年、上条当麻(トラブルの渦中)が焦った顔で迫ってきている。

何してる、という言葉は続かなかった。

ぶつかってきた女性が血相を変えて霧嶺に対峙していたからだ。その手には単語帳を持ち、口元には単語帳から引きちぎったであろう紙切れを咥えている。

 

そう認識した瞬間、

霧嶺の視界は光に包まれた────。

 

 




という訳で大覇星祭編2話でした。
通称ミサカ回とも言えるかも?
霧嶺は魔術と交差するのか否か、どうなるんでしょうね。

実は今回、作品の平均文字数をそれなりに上回っていたんですよね。なので今後はストーリーによっては文字数を増やしたりしようかなって考えてたりします。増えてもたぶん1万字前後だとは思いますが。
皆さんは1話の文字数ってどれくらいが読みやすいですか?感想などで教えていただけると参考になります。

就活やら何やらで忙しいのでまた遅い投稿になるかもしれませんが気長に待ってくれるとありがたいです。
次話もまた頑張って書きます。

というわけで、今回も読んでいただきありがとうございました。
また次回も読んでいただけることを祈ります。

ではまた次回に。

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