先日のパーティーが終わり、母港は何事もなかったかのように戦いと訓練と執務の日常へと戻った。
「指揮官様、昨日はよく眠れましたか?」
指揮官が執務室の椅子に座り、仕事に取り掛かる前に、横に立っていたリアンダーが尋ねた。
「あ、ああ……。」
「お疲れなら、無理をなさらないでくださいね?」
リアンダーは返事の曖昧な指揮官を心配して顔を覗き込むようにして言った。指揮官は顔が近づいたことで赤面した。
「わかってる。大丈夫だ。」
指揮官は気合を入れなおして、心配させないようにそう言った。よく眠れたかというと、実際はしばらく寝る前はリアンダーと踊れたことが幸せでふわふわした気分だったため、寝つきが悪かった。
「指揮官様、今日はアキリーズとエイジャックスと一緒にお茶会をすることになりましたの。」
「それは良かった。仲良くなれたようで何よりだ。」
リアンダーは仲良くなれたことを、指揮官はリアンダーが妹たちと仲良くなれたことと彼女の笑顔を見られたことを嬉しく思った。
「あ、すみません。そんなことよりもお仕事ですよね。」
そう言ってリアンダーも椅子に座り机に向かって、指揮官の執務を手伝い始めた。今日も今まで通りの日常が始まる。
好きな人というのは、視界に入るとつい見てしまうものである。堅物な指揮官も例外ではない。
(あ、あれはリアンダーか。どこに行くのだろう。そう言えばお茶会と言っていたか。)
昼の休憩時間に廊下でリアンダーをちらっと見かけた指揮官は、自然と目で彼女を追い、偶然進行方向が同じだったため、もう少し追いかけると、妹たちと仲睦まじくお茶会をするリアンダーを見た。
(本当に仲良くできているのだな。良かった……。さて私も休憩をして、また仕事に戻ろう。)
指揮官はそう考えて声をかけずに執務室に戻るのだった。
それから、指揮官はリアンダーと少し距離が離れたように感じた。理由はリアンダーが妹たちという一緒にいる相手を見つけた分、指揮官と一緒にいる時間が減ったからなのは指揮官自身もよくわかっていた。
(寂しいな……今でも声はかけてくれるが、やっぱりそれでも寂しい。とはいっても、何も悪いことが起こったわけではない、どうにもできないことだ。1つだけあるとすれば……「告白」だろうか。成功するか?いや、そもそも手を出していいものなのか?)
執務室で手を組みながら、あれこれと考えた結果、指揮官はついにリアンダーに告白することを決意した。
その直後、リアンダーは執務室に入ってきた。
「あらら、指揮官様、もしかしてもう先にお仕事を再開していましたか?」
リアンダーは指揮官が執務室にいるのを見て、既に仕事を再開していて、負担をかけてしまったのではないかと心配した。
「いや、別にそういう訳じゃないよ。」
指揮官は余計な心配をさせないように、即座に否定した。
「ところで……こ、今夜、久しぶりに散歩に行かないか?」
指揮官は震えた声でそう言った。体中から汗が噴き出てくるのを感じた。
「はい、私でよければお付き添いいいたしますわ。」
リアンダーは指揮官が何を考えているかなど知る由もなく、優しく微笑みながら返事をした。
(よし、何とか第1段階は突破した。問題はここからだが……ここまで勇気を出せたのだ。この先もできるはずだ。)
(そう言えば指揮官様との散歩は久しぶりですね。ふふ、色々お話したいこともありますし、楽しみですわ。)
2人の心はすれ違うばかりである。
その夜、指揮官とリアンダーは2人で散歩をする。
母港の海の海岸あたりで指揮官は足を止めた。それに合わせてリアンダーも足を止める。指揮官の心拍数は歩くたびにどんどん上がっていった。
「指揮官様、指揮官様のおかげで姉妹たちと仲が良くなって毎日が楽しいです。」
リアンダーは指揮官が開くように手引きしたパーティーを思い出し、指揮官に感謝しながらそう言った。指揮官はリアンダーが先に話し始めたことで、少しだけ心拍数が落ち着いていった。
「うん……指揮官様はどんなお礼が欲しいですか?」
夜空に浮かぶ星にも負けない、無垢な笑顔でリアンダーは指揮官に尋ねた。
(今このタイミングで告白するのは卑怯だろう。相手の感謝に付け込むことだ。しかし、このチャンスを逃すのも勿体ない。今、やるしかない。)
指揮官は覚悟を決めてリアンダーの方に真っすぐ顔を向き合わせた。
(指揮官様、急に表情が……いったい、どんなお礼を差し上げれば……?)
リアンダーは少しだけ考えたが、今から指揮官が言うことなど全く想定しない。
「リアンダー、ずっと一緒にいてほしい。その……好きです、付き合ってください!」
指揮官は早口になりながら愛の告白をした。
「わかりました。指揮官様には色々とお世話になりましたし、お付き合いいたしましょう。」
「え……?」
指揮官はまさか付き合えるとは思っていなかったため、あまりにもあっさりとした返事に戸惑った。
「い、いいのか?これがお礼だとしたら、あまりにも高価すぎるし……それに、付き合うっていうのは一時的なものという意味ではなくてだな……」
「もう指揮官様、それぐらい私にだってわかりますわよ。」
困惑しつつ、リアンダーが勘違いしているのではないかと思う指揮官に対して、リアンダーは可愛らしく、薄ピンクの頬を少し膨らませた。
その後指揮官とリアンダーは少しぎこちなく、話を再開したのちに、互いの部屋に戻った。
(あまりにもあっさりとしていたが、本当に大丈夫なのだろうか。やっぱり交際というものをよくわかっていないのだろうか。だとすれば、お礼というものに付け込んだだけではなく、騙すようなことをしてしまったような……。しかし付き合うことになったのはいいことだ。)
指揮官は喜び半分、不安半分の複雑な気持ちで眠りについた。
(指揮官様とお付き合いすることになりましたが、具体的にはどのようなことをするのでしょうか。やはりキスなどでしょうか。指揮官様とならまったく嫌ではありませんが……うん、今度他の方に相談してみましょう。)
リアンダーの方がいくらか前向きだった。