指揮官とリアンダーは、鳴り響いた声を異常事態だと思い、手に持っていたクレープをベンチに置いて、声の聞こえてきたベンチの裏側へ向かった。クレープ屋の人たちは少し離れていたため聞こえていない。
2人が木々の間を縫って進むと、木がない空き地のような場所があった。そこには、無精ひげを生やしたみすぼらしい恰好の男が1人と、ぴったりとしたズボンにTシャツを着た、町をよく歩いているような男たち3人がいた。みすぼらしい恰好の男は地面に四つん這いになっていて、それを囲むように3人の男たちがいた。
「汚ねぇ!お前さ、皆の公園を汚すなよ。」
3人のうちの1人が言った。すると、みすぼらしい恰好の男は小さな声で「すみません」と呟くと、額を地面にこすりつけた。
「指揮官様、これは……放っておけません。」
リアンダーは小声で指揮官に向かって呟いた。
「ああ。リアンダー、警察を呼んでくれ。私は一応止めに入ってみる。」
「それなら、私が止めに入った方がいいのではないでしょうか。」
「確かに君は私より強いだろう。しかし君はKANSENだ。人とは違う。君が民間人を傷つけたとなれば、どんな処分があるかわからない。」
指揮官は息を吐いてから、改まって言った。
「わかりました……。それでは警察を呼んできますね。お気をつけて。」
リアンダーは林から抜け出していった。
指揮官は黙って空き地の方へ歩いていき、みすぼらしい恰好の男の前に立った。他の男たちは、この男をいじめるのに集中していたせいか、近寄るまで気づかれなかった。
「君たち、何をしているんだ?彼が君たちに何かをしたのか?いや……何かをしたにせよ、リンチなどは許されることではない。」
指揮官は静かに、しかし力強く言った。
「やだなぁ、公園を汚しているのを見たから、出て行ってもらおうとしたんですよ。」
指揮官は、3人の男たちと話をしている隙にみすぼらしい恰好の男に逃げるように伝えた。すると男はすぐに逃げていった。追いかけようとした男もいたが、指揮官はその男の前に立ちふさがった。
「そうか。それならもう彼は行ったようだから、君たちが動く必要はないんじゃないか?」
「さっきからうるさいな。お前には関係ないだろ!」
指揮官の右にいた男が急に殴りかかってきた。指揮官はそれを避けた。
(やはりこういうタイプの輩か。さて、リアンダーにはKANSENが人を傷つけるのは不味いとは言ったが、私も正当防衛とはいえ軍人だ。下手に反撃をする訳に行かない。)
あとの2人もしかけた。1人は指揮官の背後に回って腋に腕を伸ばして、指揮官を捕まえた。残りの2人は指揮官の顔を好き勝手に殴っている。
(とりあえず作戦は成功だ。しかし、これは反撃をしたいと思ったとしてもできないな。)
殴られる角度を変えて、ダメージを最小限に抑えているが、そんなのものは無意味である。
「折角だから金でもとっておこうぜ。」
指揮官を殴っていた男の1人が、荷物に手を出した。指揮官は余力を使って、自分で財布を取り出して地面に落とした。3人の男たちはその姿が面白かったのか、笑い出した。指揮官は自分を捕縛していた者の力が弱まった隙を狙って抜け出した。そして木の背にするように陣取った。3人の男たちもすぐに向かってきて、体中を殴り始めた。指揮官はひたすらガードをしている。
「まだ持ってないか確認するか。」
そう言って、1人の男は殴るのを止め、先ほどの財布を拾ってから、再び指揮官に近づいた。
足音が2つ聞こえてきた。
「こら、何をしている!」
リアンダーと警察官のものである。2人は木々を縫って、素早く空き地に来た。
「指揮官様!」
リアンダーは指揮官の様子を確認して叫んだ。それと同じぐらいのタイミングで、3人の男たちは逃げ始めた。
「待て!くっ……あなたはその人を連れて、治療を。」
警察官はそう言って、男たち3人を追いかけた。
リアンダーは倒れている指揮官に駆け寄った。
「指揮官様!指揮官様!大丈夫ですか!?」
指揮官はその声で、目を薄く開けた。「ああ」と呟いた。
「立てますか?」
黙って指揮官は立ち上がった。リアンダーは指揮官の腕を自分の肩に回した。
「大丈夫。歩くぐらいなら。」
指揮官は腕をリアンダーから離した。リアンダーはそれを信用したのか、それ以上何も言わずに、2人は再びベンチに戻った。
指揮官は、確かな足取りでベンチに一度座ったかと思うと、思い出したように水飲み場に向かった。血や土の付いた顔や手を洗うためだ。
それからベンチに戻った。
「指揮官様……」
「とりあえず、リアンダー、君はクレープを食べきってくれ。」
リアンダーは少し困惑した表情をしたが、クレープを手早く口に放った。
「まずは近くの病院に行きましょう。そこが治療をしてからですわ。」
2人は近くの病院へ向かうことにした。