リアンダーとのデートから数日後、指揮官の怪我はほとんど完治していた。
「指揮官様、もうお怪我の方は大丈夫そうですね。」
「ああ。元々それほどでもなかったからな。」
指揮官は椅子に座っている状態から立ち上がり、腕をぐるぐると回してみせた。それから、リアンダーも安心したようで、2人は仕事に取り掛かった。
すると、扉を叩く音が執務室に響いた。
「指揮官様、よろしいでしょうか。」
それから扉の外からリアンダーとはまた声の違う「指揮官様」という言葉が聞こえた。
「赤城か。入ってくれ。」
指揮官がそう言うと、赤城は扉を開けて部屋に入って扉を丁寧に閉めて、指揮官の机に近づいた。
「ご機嫌よう、指揮官様、リアンダー。」
「ご機嫌よう、赤城さん。」
赤城がやや語調を強めるのに対して、リアンダーは普段通りにふわふわとした雰囲気で挨拶を返した。
「実は今回は指揮官様への直接の話ではなく、リアンダーと少し『お話』をしたいと思ってきましたの。」
「リアンダーと?まあ仕事の方は私がやっておくから、リアンダーが良ければ、話をするといい。」
指揮官はやや不吉な雰囲気を感じながらも、赤城の言葉を受け入れた。
「分かりました。それでどのような用事でしょうか?」
「勝負ですわ。リアンダー。」
リアンダーは相変わらず柔らかな語調を崩さずに尋ねると、赤城はリアンダーを指さし、言い放った。
意外な言葉のため、指揮官とリアンダーは数秒間何も反応を示さなかった。
「演習か?それなら、リアンダーだけに言うよりは、私から他の子に言った方が早いと思うが。」
指揮官が最初に沈黙を破った。
「いいえ、これは私闘です。先日の怪我、そしてニュースを見ました。」
赤城が示しているのは、先日のリアンダーと指揮官のデートの時に、指揮官が怪我をし、それに関係するニュースが報道されたことである。
「指揮官様に怪我をさせてしまうようでは、秘書艦として認める訳にはいきませんわ。勝負です、リアンダー。」
「いや、あれについてはあくまで私の判断であって、リアンダーに責任はない。」
指揮官がリアンダーの返答の前に説明をしようとすると、赤城は指揮官に向かって妖しく微笑んだ。
「しかし……」
「分かりました。」
「リアンダー!」
指揮官は怯まずあくまで自分の責任と言い張ろうするが、赤城が喋る前にリアンダーが勝負を受け入れた。指揮官はそれに対して、驚きから声を荒らげた。
「大丈夫ですわ、指揮官様。赤城さんが、何か危害を加えるはずはありませんもの。」
リアンダーは女神のような笑みで指揮官に向かって言った。
「勝負は3つ。演習、執務、料理ですわ。」
「演習と執務は分かりますが、お料理……ですか?」
リアンダーは酷く困惑した。
「ええ、指揮官様のために必要なことですわ。」
リアンダーの困惑は変わらなかった。
「よくわかりませんが、勝負は受けますわ。」
「それでこそ。それでは私は退出します。日程などは決めておくので、また後で連絡しますわ。」
そうして赤城は指揮官に一礼して背を向け、退出した。指揮官は茫然としてそれを眺めるだけだった。
ややあって、指揮官は心配そうにリアンダーに視線を投げた。
「大丈夫ですよ、指揮官様。赤城さんはとても聡明な方です。意図はわかりませんが、危険なことではないでしょうし。」
リアンダーは繰り返し指揮官に心配ないと言い続けた。ヤンデレ気質については勘づいていないことから、指揮官とリアンダーには認識の相違がある。指揮官は一抹の不安を抱えながら過ごすことになった。