リアンダーと赤城の壮絶な演習から数時間後、2人はどちらがより事務処理能力が高いかということで、指揮官の仕事を使って競うために、指揮官の執務室に集まった。
今回の戦いでは、その内容上、観客はおらず、そもそも誰も興味を示さなかった。
リアンダーと赤城の目の前に、指揮官は書類を分配した。
(よく考えたら結局私がチェックするから、手間は増えてるんだよな……まあ赤城の気を静めるためならやむを得ないか。)
指揮官はそんなことを考えながら、開始の合図をした。時間は1時間である。リアンダーと赤城は書類を手に取り、目を通し始めた。
少しすると、リアンダーが手を挙げて指揮官を呼んだ。
「指揮官様、この案件はどうしましょうか?」
「これは一度、私が自分で調べにいかないとだめだな。横に置いておいてくれ。」
指揮官がそう指示をすると、リアンダーはその書類を邪魔にならないところにどかした。
(ふふふ……愚かですわね、リアンダー。私は指揮官様の考えを完璧に把握していますわ~。)
赤城は心の中で勝ち誇った。事実、その書類の点検のポイントは指揮官の普段している通りだった。
「赤城も何か悩む点があったら言ってくれ。別に減点はしないから。」
「ええ、赤城にお任せください。」
赤城は指揮官の言葉に肯定とも否定とも判断しにくい返答をした。
開始から50分経った。2人とも熱心に取り組み、もう仕事はなかった。指揮官は、その様子を確認して、2人に許可を取ってから試合の終了を宣言した。
「私が中身はチェックしておく。2人は訓練に戻ってくれ。疲れたなら休んでいてもいい。」
「赤城はこのくらいで疲れたりなんてしませんわ~。」
「でもやっぱり、指揮官様のお仕事は大変ですね。いつもお疲れ様です。」
赤城はその通り、勝ち誇った様子で執務室を後にした。リアンダーはやや疲れた様子で部屋から出た。
そして指揮官は2人の成果である書類を点検した。2人ともよく仕事に取り組んでいて、大きなミスはなかった。赤城はやはり、指揮官の判断と同一のことが書いてある。一方リアンダーは、そういう類のものは指揮官に尋ねてから判断をしていた。指揮官はこの勝負をどちらの勝ちとも言えなかった。
(私の考えに近いものを、確認もとらずに遂行した赤城の手腕は素晴らしい。しかしだからといってリアンダーがダメな訳ではない。むしろ、都度私と相談しようとする姿勢は評価されるべきだ。言うなれば、私の代理を任せるならば赤城で、秘書艦としてはリアンダーといったところか。さて、どちらの勝ちとすべきか。)
1時間後、指揮官は改めて、赤城とリアンダーを執務室に呼び戻した。2人とも穏やかに、ゆっくりと部屋に入った。
「さて、この勝負だが、秘書艦としてはリアンダーの勝利だと思う。しかし、単純に執務の能力としては赤城の方が優れている。ゆえに、私としては引き分けとしたい。」
赤城もリアンダーも驚いた。
「しかし、執務能力で赤城さんが勝っているのならば、赤城さんの勝ちではなくて?」
リアンダーはそう言った。赤城はひとまず、その言葉を静観した。
「確かにそうとも言えるが、私の秘書艦としては、私と共に歩むことが要求される。君の私と相談して決めいこうという姿勢はとても大事だ。特に前例のないことなどではな。」
リアンダーは納得したようで、しかし引き分けというのは、やや手心が加えられているのではないかと疑った。
「さっきも言った通り、赤城も優れている。仕事のスピードはリアンダーよりも上だ。私の代理を任せるなら君が適任だろう。」
赤城はやや納得がいかないという表情だった。
「リアンダー、こうなったら料理で決着をつけましょう。」
赤城は少し考えてから、リアンダーの方へ向き直って言った。リアンダーもそれに頷いた。
「それなら、今日はもうだいぶ時間が過ぎたから、明日にしよう。いいか?」
これにはリアンダーも赤城も異論はなかった。